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雷霆使いの欠陥魔術師  作者: 樹齢二千年
第一章 開幕篇
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17話『ナーガ討伐戦』

 大蛇に相対するは、矮小なヒト二人。

 弱肉強食の理に当て嵌めていうのなら確実に「弱者」だが、矮小であっても非力では無い。

 人智を超えた領域の異形にも立ち向かえる程の力を。──神の権能を人間の手で再現させる程には強い種として生存してきた。

 その術を、二人同時に紡ぐ。


「────いきます」


 クロノの合図と共に、魔術を行使する。

 全身が熱を帯び、五感がどこまでも冴え渡る感覚。人体の限界に迫る膂力を扱う事を可能にする「強化」だ。

 変化に気づいたのか、多頭のナーガが動き出す。

 五つある頭のうち、二つ。それぞれが図体からは想像できない程のスピードで迫る。


「っ────!」


 強化した脚力を以て大きく飛び退く。

 開戦した以上、以後はこの魔獣を仕留める事だけに全神経を捧げる。

 横目でクロノの無事を確認すると、再び身を低くし、二撃目に備える。 


「デカい図体の割に速いなコイツ……!」


 アウラはじわり、と汗を滲ませる。

 単体であれば躱す事など造作も無い。だが、ナーガの方が数に分がある。

 標的がアウラとクロノの二者に分かれている以上、中心の頭を除く二つの頭での攻撃を常に想定しながら動く事が求められる。

 図体も数も劣っている以上、無闇な突撃は死に直結する。


(でも────長期戦だけは避けないと)


 アウラにとって、長期戦になる事は魔力切れのリスクを冒す事になる。

 魔術が作用している間に、僅か数秒の間でも、攻撃に転ずるしかない。であれば、深追いはせずに、ヒットアンドアウェイの戦法を取る事になる。


(次の攻撃からだ。一瞬でも良い、反撃できるタイミングを見逃すな……)


 己に言い聞かせ、ヴァジュラを構える。

 異様にも、ヴァジュラがいつになく軽く感じる。強化された膂力を以て振るっているのもあるだろうが、何処までも五感が冴え渡っている感覚すら覚える。

 無論、恐怖はある。攻撃を受ければ死は確定ルートだ。

 しかし同時に、自身に授けられた武器がこの武具だった事に、得体の知れぬ安心感を感じている自分もいた。


「── ── ── ── !!」


 二撃目。次に襲い来るのは二つの蛇頭。

 互いに時間差で交差するように、アウラ目掛けて堅い大地を滑走する。

 取るべき行動は頭では無く本能で判断する────これは、カレンとの打ち合いの中で身に付けた能力だ。

 最もシンプルにして根幹。相手の攻撃を読み、いなし、間を置かずにカウンターを叩き込む。

 

 地が衝撃で抉れる程に跳躍し、一つ目の大顎をやり過ごす。しかし呼吸する暇すら与えず、方向転換しながら二つ目の蛇頭が迫った。


「来た────!」


 アウラは後方へと大きく飛び、地下の壁面に回避する。足が接する面を魔力で固定し、蜘蛛のように壁に張り付いた。

 簡単な魔力操作の応用だ。


「ぶっつけ本番でも、案外やってみるもんだな……っ!」


 壁面を蹴り、ヴァジュラを振りかぶる。

 狙いは蛇頭。相手方の戦力を少しでも削り、戦況を有利に傾ける。

 

 並の武器では傷を付ける事すら適わない、鉄の如き鱗に刃を振り下ろす。

 それはさながら、罪人の首を無慈悲に切断するギロチンに等しかった。


(まずは一つ……!)


 刀身が、蛇の首に触れる。

 鱗を貫き、内側にある肉に食い込み、蛇の身体を構成する骨を一気に断つ。

 落下のスピードも加わり、数ある頭の内一つを見事に斬り落とした。


 同時に迸る蛇の血液。

 胴体から離れた頭部は即座に動かなくなり、全ての機能を失った。しかし喜ぶ暇はなく、即座に体勢を立て直してナーガの動きに意識を向ける。

 アウラの感覚は好調、という他無かった。


 この調子のまま、トップスピードを維持したまま押し切ればそこまで苦戦せずに討伐が出来ると、淡い希望を抱くが、


「……?」


 距離を取りつつ、アウラは目を見張った。

 視線の先にあったのは切断された蛇の頭。既に活動する事の無くなった蛇頭は首の方から少しづつ黒く変色していき、果てには


「灰になった……?」


 風に吹かれた砂のように、跡形も無く霧散していった。斬った際の生臭い血でさえも消失している有様だ。

 続くように、今度は胴体の方に変化が起こる。

 断面から、恐ろしいスピードで新たに骨格と、それを覆う筋肉が形成されていく。目のまえで起きている状況が何であるか、理解に時間は要さない。

 

「ただでさえ直撃は死ぬレベルだってのに、再生まですんのか……!?」


 元通りになったナーガの頭部を見て歯を軋ませる。

 いくら叩き切ろうが、再生されてしまえば全て無かった事になる。流石、蛇は再生と循環のシンボルだと言われているだけある。

 加えて、ナーガの性質を理解した以上、己との相性の悪さを突き付けられる。

 今の光景をクロノも見ていたのか、一層表情を険しくする。


「アウラさん! 前!」


 クロノの呼び声が彼の鼓膜を叩く。再生したナーガの首がアウラに迫り、間一髪の所で飛び退いた。

 戦況は好転する事は無く、寧ろ悪化した。

 単純に力で渡り合うだけではジリ貧になる一方。戦いながら知恵を絞り、この魔獣を殺す手段を見つけねば、討伐するのは不可能だ。


 体内で練り上げられたオドの残量はまだある。

 アウラが魔力切れを起こすまで。それが二人に残されたタイムリミットであり、仮にそれを迎えた場合、もう為す術は無い。


 二人は再び顔を合わせ、この怪物を殺す方法を模索する事をミッションに加える。


 僅かに間を置いて、ナーガは再び攻撃を開始する。 

 単体では仕留めきれない事を理解したのか、今度は片方に首を二つ以上割く方式に切り替えた。魔獣にあるのは理性では無く、もっと深い部分にある生物としての本能だ。今まで自分が獲物として殺してきた人間とは規格が違うと()()()()のだ。


 アウラに二頭、クロノに中心を含めた三頭が襲い掛かる。

 

「……っ!」


 地下空間を疾駆する藍色の髪。

 次々と襲い来る蛇頭を躱し、勢いをそのままにその巨体に飛び乗り、携えた大鎌をナーガの表皮に突き立てて駆け抜けた。

 裂傷を与えた箇所から、噴水のように血が溢れ出る。


 幸い、マナの濃度の濃いこの空間では魔力の代替品は幾らでもある。

 彼女とて経験を積んだ冒険者、竜種を相手取ろうとも怖気付く事は無かった。

 しかし、

 

(ダメ、修復が速すぎる……!)


 ナーガは怯むような素振りすら見えない。アウラが渾身の一撃で首を叩き切った時より、再生にかかる時間が圧倒的に速かった。

 この程度の裂傷では意味が無い。かといって首を斬り落としても即座に再生されてしまう。 

 ナーガの攻撃は止まらず、彼らに息つく暇を与えない。


 正に防戦一方だが──魔術が機能し、身体が動く限り、彼らも止まることは無い。


(アウラさんがまだ動けるうちに、打開策を見つけないと……)


 再生する能力を備えたこの魔獣を、如何にして殺し切るか。彼らに必要な情報はその一点に帰結する。

 クロノは継戦能力、アウラは瞬間火力に長け、ナーガ相手でも十分に通用する力量は備えている。それぞれの役割を互いに理解しなければ勝ち筋を見出す事は難しい。

 

「……アウラさん、自分の魔力の残量は把握できてますか」


 ナーガの突撃を躱し、後退してきたアウラに問う。視線は合わせず、変わらず怪物に向いたままだ。

 

「なんとなく、だけどな。……大体、あと20分位保つか保たないかってとこだと思う。どうして?」


「私には、さっきのアウラさんみたいに頭一つ叩き切る程の膂力がありません……だから、貴方にはアレを仕留める役をお願いしたいんです」


「構わないけど、何か策はあるのか?」


「アレは欠損箇所を新たに修復するだけで、不死ではありません。不死の魔獣なんて怪物は人間如きに召喚できるはずが無いので、確実に弱点があります。──私がそれを絶対に見つけるので、それまで死なないでいてくれれば、大丈夫です」


 確信に満ちた言葉。己では決定力に欠けるという事をクロノは理解しているが故の頼みだった。

 アウラにそれを断る理由は無く、「絶対に」と言い切った彼女を信用するしかない。

 眼前の脅威を排除し、生きて帰る為には、彼女が弱点を見つけ出すのに賭ける。


「了解した。……全力で被弾しないようにするから、頼んだぞ」


「頼まれました──では、始めます」


 その言葉を以て、会話は打ち切られた。

 アウラの方も、それ以上言葉を掛ける事は無い。

 時が来るまでは、互いにすべき事を為すのみ。アウラが全力を注ぐべきことは、クロノを信じて待ち続け、生き続ける事。


 次に言葉を交わす事があるとすれば──この魔獣を討ち取れると確信した時だ。

ここまで読んで頂きありがとうございます。


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