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 朝。

 目を覚ますと昼前だった。

 思った以上にぐっすり眠れた。

 隣ではプラミーが安らかな寝息を立てていた。

 ほっぺをつつくと、柔らかく指が沈む。

 極めてよい。

 頭を撫でると、銀色の髪がさらりとこぼれる。これもよい。

 母に内緒でコンディショナーを拝借した成果だろう。


 さて。

 まずは状況確認だ。

 カーテンの隙間から外を覗く。

 アリのお化けが畑を闊歩している。

 電話、テレビ、ラジオのチェック。

 うんともすんとも言わない。


 状況は昨日から変化なし。

 あるとすれば、プラミーが増えたくらいか。

 プラミーについてはいろいろ聞かないとな。

 一番古い記憶は何なのか、とか。


「ふぁわわわ……、おはようなのです」

「おはよう」


 プラミーが起きた。

 ぐぅうう、とお腹を鳴らしている。


「い、今のは僕ではないのです……」


 俺でもない。

 座敷わらしかよ。

 なんにせよ、まずは朝食だ。



 朝食後はプラミーを質問攻めにした。

 目ぼしい情報は何も出てこない。

 しかし、面白い話は聞けた。

 プラミーは護身術が使えるという。

 僕は超強いのです、と言い出したので手合わせを願うことにした。


 プラミーと向かい合って立つ。

 身長差がありすぎて組手にもならない。

 プラミーは掴みかかろうとする俺の腕に手を添え、


「ここで手を持って、こうするのです」

「うひょ」


 俺は簡単に体勢を崩した。

 力を入れたようには見えなかった。

 なのに膝をつかされた。まさか本当に護身術が使えたとは。


「すごいな……」

「こんなの大したことないのです。もっとすごい人はたくさんいるのですよ?」


 ぐぬぬ。

 なんか悔しい。


「俺にだってできるぞ」

「ではやってみるのです」


 プラミーは余裕の表情だ。

 この俺を本気にさせたな。


 俺は頭の中でコントローラをイメージする。

 十分に具体化したところで、ボタンを押す。


「にゃうー!」


 体が勝手に動き、プラミーが吹っ飛んだ。

 飛んだ先に運良くソファがあり、ぼふっと収まった。

 危ないところだった……。

 調整ができないってのは、若干不便だ。


「だ、大丈夫か? ごめん、つい」

「びっくりしたのです……」

「すまん、大人気なかった」

「完璧な動きだったのです。源太は天才なのです?」

「いやぁ、そうかな? プラミーの教え方がうまいからじゃないかな?」

「うぅうぅ、照れるです~」


 プラミーは顔を赤くしていた。

 かわいいな。


 にしても、このスキル。

 空手以外にも技が出るようだ。

 同じボタンを押しても、思い描く技によって出力が違う。

 予め型を見るだけで同じ動きができるので、あらゆる格闘技をサクサク覚えられるだろう。

 尻にコントローラを差していた頃とは大違いだ。

 何事も極めれば強い。


「面白いのでもっと技を教えてやるのです」

「はは、ありがとうございます。師匠」


 プラミーに師事し、俺は更に技を習った。

 オリジナル格闘技らしく、キワモノがたくさんあった。

 蔦状植物をハメ殺す技、幻術を使う獣を絞める技などなど。

 一番気に入ったのは、竜人の股関節を外す固め技だった。



 日が暮れた。

 アリのお化けがいなくなり、村はまた静かになった。

 二日経っても両親は帰らなかった。

 不安だが、職業柄仕方ないとも思った。

 町で洪水があったときも、二人は一週間帰らなかった。

 そういう仕事だ。


 夕飯を食べたところで、プラミーが風呂に入りたいと言い出した。

 昨日は勢いで一緒に入ったが、俺も冷静になっていた。

 相手は女の子なのだ。

 いつまでも男と二人きりでは気が休まらないだろう。

 とすると、神社が適切だ。

 珠美もいるし、彼女の姉もいる。

 もしかしたら避難所になっているかもしれない。


「プラミー、少し話がある」


 期せずして、父と同じ切り出し方になった。


「何なのです?」

「これから神社に行こうと思う」

「何をしに行くのです?」

「プラミーにはそっちで寝泊まりしてもらおうと思ってな」

「えっ。……僕は捨てられるのです?」

「違うって」


 俺は神社の利点を説明した。

 あっちには女の子もいるし、広い部屋もあるし、人がたくさんいる。

 安全だし、情報も入ってくる。

 けれど、プラミーは不安げだった。

 やはり外に出るのは怖いのだろう。


「ゲーム機はあるのです……?」


 そっちかよ。



 夜が更けるのを待って、家を出た。

 外に何もいないことをしつこく確認した。

 アリはいないかもしれないが、夜は毛虫がうろついている。

 鉢合わせでもしたらシャレにならない。


「なんでコソコソするのです? 源太は泥棒なのです?」

「モンスターが出るからだよ。昼間に見せてやったろ?」

「あのでかいアリなのです?」

「そうだよ。前足がカマになってるんだ。あんなのでやられたら真っ二つになるぞ……」


 腹を切られた老人を思い出す。

 背筋が寒くなる。


「でも、あいつらの数字は源太より小さいのです」

「数字?」

「力とか魔力とかあるのです」


 その話を聞いて、俺は三つのことを思った。

 プラミーは他人のパラメータが見えるのか?

 アリってパラメータがあるのか?

 俺より小さいってことは、大した強さではないのか?

 一つずつ解決しよう。


「俺のパラメータが見えるのか?」

「見えるのです。変な数字が浮かんでるのです」


 基本的に自分のパラメータは自分にしか見えない。

 村では全員がそうだった。

 他人のパラメータを見るスキルだろうか。

 てことは、プラミーもレベル3?

 そうは見えない。

 ……そもそもレベル3でスキルを覚えたのは、俺であって他の全員がそうだとも限らない。

 最初から使えることだってあるかもしれない。


 二つめ。


「アリにもパラメータがあるのか?」

「あるのですよ」

「犬とか猫は?」

「ないのです。人と化け物だけなのです」


 不思議だ。両者には何らかの関係があるのだろうか。

 まぁ考えてもわからん。


 三つめ。

 アリより俺の方が数字が上という話。

 さすがに、はいそうですか、と飲み込めない。

 昨日だってギリギリだった。

 どう考えても人間の敵う相手じゃない。

 これに関しては、プラミーの見間違いだろう。



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