自己紹介
レベル1
HP9 力4 魔力0 速さ3 防御3 幸運5
朝起きたら鏡にパラメータが映っていた。
半透明のウィンドウが顔の横に浮かび、各種数字が記されている。
試しに半歩動いてみると、ウィンドウも合わせて少し動いた。
つまり、俺のパラメータだ。
低いな。
スライムにも勝てなさそう。
いや、そうじゃなくて。
ここはどこか? 日本だ。
俺は誰だ? 日本人だ(ちなみに職業は中学生だ)。
魔法的な要素は何もない。
パラメータが見えていいはずがない。
どうしたんだ急に? バグ? 世界がバグった?
寝ぼけた頭で思考を巡らす。
――――そういうことか。
そして、一つの結論に至った。
俺の頭がおかしくなったのだ……。
ゲームをやりすぎるあまり、俺の脳は現実とゲームの区別をつけられなくなったのだ……。
ゲーム脳は事実だった。
バグっていたのは、世界ではなく俺の脳なのだ。
なんてことだ……。
まばたきしてもくっきり見えるパラメータは、俺の狂気のバロメータってか。
やばい。言ってて悲しくなった。
テレビ局が来る。報道されてしまう。
とにかく、なんとかしないと……。
俺は混乱していた。
パラメータウィンドウを片付ければ、大丈夫だとわけもなく思った。
顔の横に浮かぶパラメータウィンドウ。
そいつを恐る恐る触ってみる。
手がすり抜ける。
宙に浮かぶ半透明な板は、よく見れば、美しい意匠が施してあり、SFで見るホログラム的なものと、ファンタジーの世界観を足したようなものだった。
俺は洗面台の前で四苦八苦した。
「何してるの?」
すると、母がやって来た。
変な目で俺を見ていた。
何もない空間で手を振り回していたら、そりゃあ奇異に映るだろう。
まずい。
パラメータが見えるなんて言ったら泣かれてしまう。
「もしかして源太も変な数字が見えてるの?」
想像の斜め上な一言だった。
源太も?
「実はお母さんとお父さんも見えてるのよ。お父さんも鏡の前で同じことしてたわ」
「そうなの……?」
「みんなして疲れたのかもね、アハハ」
母は笑いながら洗面所を出て行った。
あの人はアレだな。
ゴジ◯とか来ても、同じことを言うんだろうな。
†
俺の名前は鈴木源太。
ごく普通の中学三年生だ。学力やや高め、運動やや苦手。
友達いない(ここは少し平均からはずれる)。
家族は父と母。
生まれは某山岳地帯の豊木村(ここが最も普通ではない)。
豊木村は人口千人強の小さな村だ。
周囲を山に囲まれ、見渡す限り田畑が広がる。
スーパーもゲーセンも本屋もない。
買い物は車で十キロ離れた町に行く。
ちなみに一本道なので、土砂崩れが起こると閉じ込められる。
なので、台風の時期は村人総出で買い置きをする。
学校は村に一つ。小学生から中学生がまとめて一クラスだ。
当然、授業なんてものはない。
個々人が教科書を読み、わからないところを先生に質問するスタイルだ。
先生だって小学校から中学校の内容を網羅できているわけではなく、自分で考えようね、なんて言うこともある。
俺は疑問に思わなかったが、よそではないことらしい。
学校が終わるとちびっ子たちは山へ遊びに行く。
一方、俺は家に帰る。
ちょっと前までは混ざっていたが、最近は距離を置いていた。
ガキ大将って歳でもないしな。
部活動?
あるわけないだろ。弊校は部活なし、宿題なしのホワイトな職場だぞ。
町に遊びに行けばいいのでは、と考えたこともある。
だが、片道十キロ、山あり谷ありだ。
自転車ではつらすぎる。
しかも、夜になると、猿、鹿、猪が山から降りてくる。
危険が危ない。
そんなわけで俺はインドア派にシフトした。
家ではもっぱらマンガとゲームだ。
風の噂によると、昨今はスマホっていうの? (よくわかってない)、そういう携帯ゲーム機があるらしいが俺には無縁だ。
あとインターネットゲームと深夜アニメもここにはない(家にインターネット回線はなく、深夜アニメは局がない)。
マンガも母親の検閲が入るので、ジャンプだけ買って、あとは立ち読みだ(主にヤンジャンとスクエア)。
同情したか? 同情したな?
同情したならネットをくれ!
俺は娯楽が欲しいんだーーーー!!
……ふぅ。
何もないんだ。ここには。
だから、俺は高校に進学する予定だ。
隣町に通うことになれば、文化が手に入る。
俺は文化人になるのだ。
せめて人並みの生活をしたいのだ。
「お母さんとお父さんは先に行くわよー。戸締まりよろしくねー」
イジイジしていると、玄関から母の声が聞こえた。
登校しないと間に合わない時間だった。
……行くか。
俺は気持ちを切り替え、学校へ向かった。