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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

変わっているのはどちら?

作者: 月下美人


 とある日の放課後いつも通り友達と帰ろうとしていたが校門前でふと教室に忘れ物をしたことに私は気がついた。それは明日提出の宿題だったためそのまま放置しておくわけにもいかず、友達に先に帰っていていいよと告げ、教室へと踵を返す。

 教室の前につくと誰もいないはずの放課後の教室に人の気配を感じる。まだ帰ってない人でもいるのかな?と思いつつ、万が一不良でもいたらいやだなーとドアの窓から中を覗いてみる。

 

 そこにあった光景は夕日の差すオレンジ色の教室の中、指先から滴る赤い血液を舌に垂らして恍惚とした表情を浮かべる安城美梨亜の姿だった。安城美梨亜は長い黒髪に長いまつ毛に縁取られた切れ長な瞳をもつ妖しげな美少女だが人と関わらないことで有名だった。

 普通なら気持ちの悪い光景なのだろうが何故だろう安城美梨亜の美しさがなせるものか指先から垂れる血液、それを受け止める赤い舌、ぼんやりとしたオレンジ色の光全てが神聖なものに感じ思わず目が話せなかった。

 だが、私は忘れ物をとらなければならない。しかしこの光景を見た事が安城美梨亜に悟られてしまうのはまずいのではと思い何も見ていないふりをして安城美梨亜が帰り支度を始めた辺りで教室の中に入る。

「安城さんまだいたんだ。」

「ええ、でももう帰るわ。さようなら。」

 安城美梨亜は慌てるわけでもなく、そんな他人行儀な言葉を交わし教室から出ていった。どうやら私が覗いていることには気がついていなかったのだろう。安心して私も忘れた宿題を鞄にしまい帰路へつく。

 家に着きいつも通りの日常を過ごしながらもあの神聖な光景が目から離れない。

 安城美梨亜、もともと美しいとは思ってはいたが普通に友達もいた私は必要以上に関わることはなかった。恐らく安城美梨亜には友達と呼べる人もいないだろう。決していじめられているわけではないが他人を寄せ付けない空気があるからだ。それほどまでに美しい同級生の秘密を私は知ってしまった。ずっと平凡なそこそこ幸せな人生を送ってきた私にとってそれはとても大きな出来事だった。

 

 翌日から普通に過ごしていても視界の端につい安城美梨亜の姿を捉えてしまう、普段の安城美梨亜は普通に授業を受け、休み時間には何やら小説を読んでいるようだ。喧しい教室の中にありながらも安城美梨亜の周りの空気だけは何故か澄んだものに感じる。そう思うのは私だけなのだろうか?あれだけの美貌をもちながらも人から注目を浴びるわけではない、不思議な存在。私は安城美梨亜のことが知りたくて知りたくてたまらなかった。

 その日から私は普通に過ごしているように見せながらも理由をつけて友達と帰るのをたまにやめてあの夕方の光景を覗き見したり、たまに安城美梨亜が席を外すと同じタイミングで席を外してあとをつけたりまるでストーカーのような行動をとるようになった。幸い私も安城美梨亜とは違った意味でそれほど注目を集めるタイプではないため友達にさえ怪しまれないよう気をつけていればストーカー行為に誰かが気がつくことはなかっ

た。

 

 だが、いつものように夕方の教室を覗いていたある日。

「ねぇ、いつまでのぞいているつもりなのかしら」

安城美梨亜の方から声をかけてきた。まさか、最初からバレていたの?私は一瞬頭がパニックになるがよくよく考えてみるとどちらかといえばこの件が明らかになった時困るのは安城美梨亜だろう。そう開き直り口を開く。

「なんだバレてんだー。」

思っていたよりもするりと言葉は出てきた。私は案外肝がすわっているのかもしれない。

「ええ、最初からね。面倒だから放っておいたけどこう何日も付け回されるとさすがに鬱陶しいわ。何が目的?」

目的?なんだろう。私はただ安城美梨亜のあの恍惚とした、表情が見たい。安城美梨亜の秘密を知れているのが嬉しい。自然と目で追って、体が動いてしまう。目的と聞かれると困るな。

 強いていえば安城美梨亜を見ていたい。それが目的になるのだろうか? 思考を巡らせてみるが何故私がここまで安城美梨亜に魅了されているのかはわからない。とりあえず思いついたことを口にしよう。

「目的ってほどじゃないけど、なんか安城さんが血を飲んでる?姿が美してつい見たくなっちゃうんだよねー」

 私の答えを聞いた安城美梨亜は特に表情は変えることはなかったが、少しだけ不思議そうに眉が動いたような気がした。

「変わってるのね。」

平凡な毎日を過ごしてきた私には初めて言われた言葉だった。あの安城美梨亜に変わってるって言われるなんて。普通じゃない安城美梨亜だから普通な私が変わって見えるのだろうか?

「そんなこと初めて言われた!私って何もかも平均だし平凡だから。あ、そうだ。もうバレちゃったんだし、これからは覗くんじゃなくて堂々と見ていいかな?安城さんが血を飲む?のって大体放課後の教室が多いよね。たまに屋上とか保健室の時もあるみたいだけど。家でも飲むのかな?血って美味しいの?」

するすると私の口から零れでる言葉、今まで疑問に思っていたことや欲望が安城美梨亜の前では何故か素直に口に出来てしまう。これも彼女の魅力なのだろうか?

「随分と質問が多いのね。覗かれるよりは堂々とされる方がまだいいわ。放っておいてくれるのが一番だけれど。後者については答える義務はないわ。あなたの好きに想像したら?」

突き放すような彼女の言葉。普段の友達に言われたら傷付くのだろうけれど何故か彼女に言われる分にはなんとも思わなかった。寧ろ反応が帰ってきただけで嬉しさすら覚える。

「じゃあこれからは堂々と見させてもらうね!私も友達付き合いとかあるから毎回見れるわけじゃないのは残念だけど。答えてもらえなかった質問についてはいずれ安城さんと親しくなって教えてもらうよ!」

「私は親しくするつもりなどないのだけれど、今日はもう帰るわ。あなたと話していると疲れるの」

 冷たく言葉をつむぎ彼女はそのまま帰って行った。やはり彼女の冷たい言葉に傷付くことはなく寧ろ会話ができあの神聖な光景を見る赦しを貰えたことの喜びの方が大きかった。私は満足してうきうきと帰路につく。きっと明日からはもっと楽しい毎日になるだろう。平凡な私に訪れた異変。わくわくが止まらなかった。

 

 それから何日間も私は安城美梨亜の神聖な光景を見つつ冷たい返答が返ってくるとわかっていながらもらいろいろな質問を投げかけた。最初は彼女も冷たかったが徐々に心を開いてくれたのが少しずつ質問に答えてくれるようになってきた。

 

「血って美味しいの?」

「美味しいわけではないわ。落ち着くだけ」

「家でも飲んでるの?」

「寧ろ家でのほうが飲んでるわ」

「それって何かの病気?飲まなきゃ死んじゃうの?」

「病気かもね。死にはしないわ。吸血鬼ではないのだから」

「普通の食事はとるの?」

「死なない程度にはね。人間なんだから栄養は必要よ」

「なんで友達つくらないの?」

「面倒臭いから。それに普通の人なら血を飲む女なんて関わりたくないでしょう?」

「そうかなー。私は安城さん好きだけど。血を飲む姿も美しいし。あ、美梨亜って呼んでもいい?私の事も遥って呼んで!」

「好きにしたらいいわ。呼び名に意味なんてないもの。それにしてもやっぱりあなたって変わってるわね」

「私は普通だよー。変わってるのは美梨亜の方!」

「あなたが普通なら世の中の人達が変わっているのかしら」

 そう言った美梨亜の口元は少し微笑みを浮かべているようにも見えた。美梨亜の言っていることはたまにわからないこともあるが少しずつでも仲良くなれているのが嬉しい。他の友達との付き合いは今まで通り続けているが私の中の一番は美梨亜だと思う。この感情になんて名前をつけたらいいのかはわからないが美梨亜のためなら何だってできる。それほどまでに美梨亜の美しさ、神聖さは私を魅了していった。

 

 ある日、いつものように放課後の教室で美梨亜に質問を投げかけてみた。

「ねー、血って人によって味が違うの?」

「どうかしら。自分のしか飲んだことがないからわからないわ」

「そうなの?じゃあ飲み比べてみてよ!」

 私は自分の鞄の中から裁縫セットを取り出し指に思い切り指して血が滴る指を美梨亜の口元に差し出した。美梨亜にしては珍しく驚きを隠せない表情を浮かべながらも本能なのだろうか私の指を口に含む。私の血が美梨亜の体内に流れていく、私の血を飲んで美梨亜が恍惚とした表情を浮かべている。今までの人生でこれほどまでに嬉しいことは幸せなことはあっただろうか。美梨亜ほ私の指から血が出なくなるまで血を飲んでいた。

「ねー?どう?美味しい?」

血を飲み終わり恍惚とした表情を浮かべている美梨亜に問いかける。

 「なぜかしら。あなたの血はとても美味しかったわ。あなたにも良いところってあるのね。」

皮肉めいた言葉ではあるが私の血を美梨亜が美味しいと言ってくれたことが何よりも嬉しくて仕方がない。これで私は美梨亜に必要な人間になれるだろうか。

「じゃあ、今度から私の血を飲んでよ!美梨亜ってそんなにいっぱい飲むわけじゃないし、それに私痛みに強い方だから。どうせ飲むなら美味しい方がいいでしょ?」

「やっぱりあなたって変わってるわ。」


 いつものように私が変わってると話を締めくくりながらも、美梨亜にしては珍しい程の笑みを浮かべていたため今後は恐らく私の血を飲んでくれるのだろう。美梨亜の一部になれる。美梨亜が、私を必要としてくれる。私はかつてないほどの幸福感に満ちていた。

 

 それから美梨亜が放課後私の血を飲む生活がはじまった。私が友達と帰ることもあるので毎日とは言わないが美梨亜と連絡先の交換もしたためどうしても美梨亜が飲みたい時には自転車で駆けつけたりもした。徐々に美梨亜が飲む血の量は増えているきがしたが私は構わなかった。美梨亜が必要としてくれるのが嬉しいからだ。普通な私に異常な美梨亜が執着するようなってきた。この幸福感?をなんてあらわせば良いのだろうか。

 

 そんな日々が続いていたある日のこと美梨亜からスマートフォンにメッセージが届いた。

 『今夜九時にいつもの公園にきて』

 短いメッセージ、また血が飲みたくなったのだろうか?いつもの公園とは学校で血が飲めなかった日に美梨亜に呼び出されて会う人気のない公園のことだ。人気がないので血を飲むのに最適なためいつもその、公園を、利用していた。

 

 約束の時間に公園に着いた私。目の前にある光景は予想外だが美しいものだった。そこにあったのは胸から血を流して息絶えた美梨亜の姿。恐らく自分で刺したのだろう。近くに遥へと書かれた手紙が置いてあった。

 

『遥へ。

 この手紙を読む頃、私の命は尽きているでしょう。他の人に先に発見されていないことを願います。安心して自宅にはそれらしい遺書を遺してきたので、あなたが疑われることは無いわ。

 あなたは変わった人でしたね。血を飲む私を気持ち悪いと思わず、むしろ血を差し出してきた。そんな変わってるところに私は少しずつ心を開き始めてしまっていたわ。このままの関係が続けばいいと思っていた。でもね、気がついてしまったの。私はあなたに、いえ、あなたの血液に恋をしてしまっている。いずれその全てが欲しくなるでしょう。それはつまりあなたを殺害してしまうということ。悩んだわ。あなたを、殺害したくはない。だって初めてできた友人だもの。本当はずっと友達が欲しかったわ。でも自分が異常であることに気がついていたから、あえて他人を寄せつけなかった。そこにあなたが現れた。出会わなければ、あの日あなたが教室に現れなければ、私が声をかけなければこんなことにはならなかったのかしら?

 いえ、いずれ私は気がついてしまったでしょう。好意を抱いた相手の血液ほど美味しく感じてしまうことに。それがたまたまあなただった。ここまで、私を狂わせるなんてやっぱりあなたは変わっているわ。

 安城美梨亜』

 

 手紙にはそう綴られていた。

 不思議と私に哀しみはなかった。そこにあったのは残念だという気持ちだけ。異常だと思っていた美梨亜、でもそんなことくらいでら悩んでいたなんて本当は普通だったのかな?友達が欲しかったなんて私の知っている美梨亜ではない。これは本当に美梨亜?そうだとしたら今までのは何だったの?思っていたよりも普通の人間だったってことか。幸い遺書を別に書いているみたいだし私のことがバレることはないだろう。

 さようなら、私の美梨亜。

 いえ、安城さん。

 

 あーあ、どこかに本当に変わった人っていないのかな。

 

 

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