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第零話 白翼の幼女



――くそっ、平日の昼間なら人目もあるから大丈夫かと思ったんだが……。


 昼下がり、帝国のとある裏路地で、リディ=トルクレアは追われていた。身に纏った鎧がガチャガチャと音を立てる度に、その重さが煩わしく感じる。これさえ無ければ逃げ切れるかと言われればそういうわけでもないが、別に魔物を相手取っているわけでもなし、こんな硬くて動きを阻害する鎧など脱ぎ捨ててしまいたいと思ってしまうのは仕方がない。


 追ってきているのは服装を見る限り一般人だ。顔を見れば、まだ学生ではなかろうかという程に若い。平日の昼間から出歩いている所を見ると、不良というやつだろうか。

 十六という若さで冒険者をしているリディからすれば普通のことではあるし、冒険者達の中には他にも若者はいるから一概に言えたことではないが、仮に彼らが冒険者なのであればあまりにも貧弱過ぎるというものだ。


 魔法を得意とするほど頭が切れるようにも見えないし、そもそもそれなら最初から魔法を使って追い詰めればいい話だ。徒歩でのこのこと追いかけてきている時点で、その線は無い。

 そんなことを考えているうち、リディの足はもう少しで大通りに出るといった所まで迫っていた。しかし


「あとちょっと――なっ!?」


「いらっしゃーい、リーディさぁん」


 脇道から姿を見せたのは、新手であった。数は二。背後から迫る者達と同じ、戦いの心得がある者とはとても思えないほどに細っこいが、一人は多少知的な印象を与える見た目だ。メガネがワンポイント。とりあえずメガネかけとけば知的に見えるっていう風潮はメガネかけずに頑張ってる奴が可哀想だから消えればいいと思いながら、リディは腰の剣に手を掛ける。


「それ以上近寄るな!!」


 冒険者としてそれなりの実力を持つリディがその気になれば、このような輩を打ちのめすのは容易だ。これまでそれをしなかったのは、しなくとも逃げ切れると思っていたからであり、それが不可となった現状、実力行使は致し方ない。


 チラリと背後を見やれば、不良達はいつでも飛びかかれる位置を保ちながらも、メガネの青年の言葉を待つように、しかしこちらを逃がさないように、両手を横に広げていた。恐らくこのメガネの青年が主犯格なのだろう。


――やるしか、ないか。


 退路は断たれた。ならばと剣を引き抜こうとした瞬間、


「おっとぉ、いいんですかぁ? そんなことをして」


メガネをかけた青年がその顏を嫌らしい笑みに歪めた。


「……どういう、意味だ」


 問うたものの、リディはその言葉の意味を理解していた。理解した上で、尋ねたのだ。万が一といった低い可能性ではあるが、それがリディの脳内で今描ける最悪の事態を指していないことを願いながら。


「僕ね、普段はとぉーっても善良な一般市民なんですよ。品行方正、成績優秀、友達も多い。そんな僕に対して、魔物憑きとして皆から忌み嫌われているあなたが害を加えたとしましょう。……はてさて、皆はどちらの証言を信じるでしょうねぇ?」


「っ……下衆が……」


 が、希望的観測とは得てして外れるものだ。リディが予想していた通りの言葉を、頭の中をなぞっているかのように、メガネの青年は口にした。


 彼の言う通り、彼女はとある理由からこの街の人間にあまり好かれていない。故に彼女が今剣を抜き、暴力によってこの場を切り抜けた場合、青年たちはそれを“あのリディ=トルクレアにいきなり襲われた”と吹聴できる。そうなれば最悪、職を失うことだってあるかもしれない――否、そうなってしまうだろう。彼女の所属する組織はそういった不祥事には敏感だ。


 故に彼女は、柄を握った手をそれ以上動かせなかった。それを見て彼女が抵抗できなくなったことを確信した青年たちは、下卑た薄笑いを浮かべながら彼女の体に手を伸ばす。

 その手が肩に触れると、リディは反射的にその手を振り払う。


「離せ!! 触るな!!」


「無駄な抵抗はやめた方がいいですよ。今のがもし彼の頬を打ち付けていたら、もし傷がついていたら、もうあなたは終わりなんですから。分かってます? 自分の置かれてる状況。あなたはもう、僕達の言いなりになるしかないんですよ。あなたが抵抗することはそれ即ち、あなたの危険性を世間様に知らしめるってことなんだからさぁ!」


 メガネの青年の手がリディの胸部に伸びる。鎧を付けているから別に触った所で感じられるのは鉄の感触だろうが、荒い息を吐き出す青年達に対して、生理的な嫌悪感がリディの全身を駆け巡る。だが、ダメだ。彼の言った通り、抵抗は無意味。むしろどんどん自分の立場を悪くするだけだ。


――ならばもういっそ、諦めてしまった方が……。


「へへっ、分かればいいんですよぉ」


 目を伏せ、柄を握る手を緩めたリディに、メガネの青年が手が触れるか否か――その刹那だった。


「なら俺がてめぇらをぶちのめせば何の問題もねぇわけだよなぁ?」


 可愛らしい、しかしドスの効いた声が頭上から降り注ぐと同時、リディとメガネの間に白翼の天使が舞い降りた。小さな体に大きな翼。可愛らしいフリフリのついた謎の黒い服を纏ったその幼女は、その長い黒髪を手で払いながらゆっくりとその身を起こす。立ち上がると同時に翼が弾け飛び、無数の羽が宙を舞った次の瞬間、


「っらぁ!!!!!」


 幼女は眼前のメガネ、その腹部に向けて、鋭い後ろ回し蹴りを放ったのだった。




どうも、メガネをかけてる人って賢そうと思う煮込みうどんです。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

余談ですが、私の弟はメガネをかけていますが馬鹿です。

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