第1話 『勇者の意味』
俺は身体に伝わる感触の違いから目を覚ました。
あれから、何分経ったのだろうか。
いつの間にか馬車の揺れも無くなっており、身体に感じるのは硬い床と湿った空気だった。
「暗い、それに何だかカビ臭いな。」
起きてから数分程経ったおかげなのか、目がこの暗さに慣れてきて辺りの物が
うっすらとだが、認識できるようになっていた。
目の前には苔らしきものが生えた石の壁。俺が今座っているところは多分ベットか何かだろう。
そして後ろには・・・
「鉄格子・・・鉄格子?これってこの場所ってもしかしなくても牢屋ってやつか!?」
何故だ、何故勇者として召喚された俺が、こんな汚い牢屋に入れられてるんだ。
そんな風に考えてくると鉄格子の向こうから複数の足音が聞こえてきた。
「やぁやぁ、やっと目が覚めたんだね。えっと君、名前は?」
「知らないでこんなところに連れてきたのかよ。てか、こういうのってまずそちらさん方から言うもんじゃねぇの?」
「おっと、これは失礼。私はここローヴェルト王国にある騎士団の1人。シュタレイ・ヴェルクです。そんでこっちのデカいのが」
「同じ騎士団のアーガルテ・ネーグルだ。」
隣りにいるデカブツに目を向ける。
かなりでかい。身長はだいたい180から190といったところか?
などと考えを頭の中で考えてるとヴェルクが口を開いた。
「それで、君の名前は?」
あぁ、そういやそんな話だったっけな。
これは自己紹介みたいなものだよな。RPGでいうところのキャラメイキング的なイベントか。
そうならば、ここは慎重にいかないとな。
「俺の名前は、早瀬靖。年齢は16で今年の11月で17になる。」
「ふむ、ハヤセ・ヤスシか。聞いたことない名前だね。」
それもそうだ。なんてったって異世界召喚されて来たんだしな。
というか、俺を召喚した美少女様に早く合わせて欲しいんだが。
「んで、勇者様をこんなところに閉じ込めて何のつもりだ?」
「ユウシャ?それは何だ、君の名前の一部か?」
「いやいや、勇者は勇者だって。魔王倒したりドラゴン倒したりって」
「申し訳ないが、マオウ?って人もいないしドラゴンだって神話の生物でこの世界には存在しないよ。」
・・・どういうことだ。俺は勇者としてこの異世界に飛ばされたんじゃないのか?
わからん。わからなすぎる。というか俺が勇者じゃないとしたら俺は何の為にこの世界に召喚されたんだ。
というか、そもそも
「なんで俺が牢屋に入れられてるんだ。って言いたいのかな。」
「何で、わかんだよ。超能力者か?魔法使いか?」
いやそもそも現実世界には・・・ここ異世界だったっけな。
「小僧・・・ハヤセと言ったな。何故牢屋にブチ込まれているか本当にわからんのか」
「小僧って・・・いやまぁ、分からないんですがね、ハイ。」
「いやぁ、見た事の無い服装に珍しい髪の色。そして街中で訳のわからない事叫んで。こんなに怪しさ満点の人物が捕まらないって方がおかしいって。」
なるほど。この世界では黒髪は珍しいのか。
そういやこいつらも髪の色は赤とか緑色だな。ここじゃコレが普通なのか。
とはいえ、それだけで牢屋入りは厳しすぎるだろ。
「えーっと。そのくらいの事で牢屋入りってのは厳しすぎやしませんかね?」
「あ、それはね。君が馬車の中で眠りこけてたから起きるまでの客室代わりにココに入れといたわけよ。納得してくれたかな?」
「いや、納得できる訳ねぇだろ!!」
「取りあえず落ち着け小僧。なにもここから出さんと言ったわけでもないだろう。」
と言いながら鉄格子の鍵を開けるネーグル。それを横で見ながら退屈そうに欠伸をするヴェルク。
・・・こいつらが王国の騎士で大丈夫なのか?とか頭の中で議論をしている間に俺は牢屋から解放された。