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【4・うるさい怪我人】

   【4・うるさい怪我人】


「ちくしょう、あいつがここに泊まっているなんて」

 ベッドの上でテートリアが身悶えた。一人用の客室。備え付けのベッドに小さなテーブルという簡単なものだ。椅子もないので、ベルダネウスとルーラは壁際に立っている。

「確かに。襲われてからの時間を考えれば、可能性はかなり高かったですね」

「今度こそ。絶対に逃がさない」

 しつこいというか、なおも立ち上がろうとするテートリアを、ベルダネウスは突き飛ばすようにベッドに押し戻した。

「いい加減にしてください。あなたがここで何かをしでかそうとすると、私たちに迷惑がかかるんです。それでもすると言うんですか?」

「……そうです。手伝ってください。僕を助けたんですから、とことん付き合うぐらいしてくださいよ」

 その答えにルーラは呆れかえった。ベルダネウスも同じ気持ちだったのか、

「そうですか。ならば私たちもこれ以上あなたを助けるつもりはない」

 強く言い放ち、窓を開けた。

 鶏小屋と犬小屋のある裏庭の向こうには月と星々に照らされた畑と、煌めく流れがある。川面が月の光を受けて、淡い光の流れを創り出しているのだ。

 鶏たちを守っている番犬が、ベルダネウスの姿を見て警戒の姿勢をとる。その姿にベルダネウスは肩をすくめて窓を閉めた。

「ちょうどいい川がある。ルーラ手伝え、こいつをそこに放り込む」

 大まじめな口調に、テートリアがたまらず

「あ、あなたはそれでも人間ですか。僕は怪我人なんですよ。ひどい、ひどすぎる」

「知りませんでしたか。気に入らない相手に対して、思いっきりひどいことができるのが人間なんです。それともう一つ。今のあなたが彼、レイソンさんですか。彼に勝てるんですか。万全の状態でも勝てなかったのに」

 そう言われて、テートリアが唇を噛んだ。

「何も聞かされずに都合良くあなたに使われるのはごめんです。事情ぐらい聞かせてくれても良いでしょう。もしかしたら気が変わってあなたを助ける気になるかも知れません」

 ベルダネウスたちに見据えられ、さすがにテートリアは観念したように重い口を開いた。

「あいつ……レイソンは僕の友人から金を奪ったんです。しかし証拠がない。だから僕は取り返そうとしたんですよ。はたからは強盗にしか見えないから、気が引けました。しかし、友達はそのおかげで危機に陥っているんです。1日でも早く取り戻さないと」

「奪われたのはいくらです?」

「200万ディル」

「それは大金です。衛視には訴え出ましたか?」

「もちろん。ですけど、さっきも言った通り証拠がないんです。あいつがあそこまで平気でいられるのもそのせいです」

「取り返すと言いましたが、彼は今でも200万ディルを持っているんですか?」

「おそらく。友達から奪ってその足でここまで来たんですし」

「200万ディルは金貨で? それとも宝石? 教会の発行した紙幣?」

「紙幣です。友達が商売用の取引の費用として用立てていたのをそのまま持って行かれたんです」

 その時だ。ベルダネウスが眉をひそめ、扉を見た。

「どうしたの?」

 ルーラの問いに答えず、ベルダネウスは素早く扉に歩み寄り、開けた。それとほぼ同時に、彼女の耳に扉を閉める音が聞こえた。

(誰か盗み聞きしていた?)

 彼女はベルダネウスを押しのけ通路に出た。誰の姿もない。並ぶ他の部屋の扉はみんな閉まっている。

 念のため階段に駆け寄る。階下の食堂になっている広間には、誰の姿もない。みんな帰ってしまったのだろう。

(やっぱり、他の部屋の誰か)

 歩み寄ってきたベルダネウスに、彼女は首を横に振って魅せた。

「レイソンさんかな」

「可能性はある。自分を狙っている男だ、例え足を怪我してろくに動けないとは言え、気になるだろう」

 宿の主人にレイソンさんの部屋を聞こうか。ルーラがそう言いかけた途端、激しい馬の鳴き声が聞こえた。ベルダネウスたちの馬車を引く馬・グラッシェの叫びだ。

 ルーラは階段を駆け下りた。あの声はグラッシェが異変を知らせているのだ。



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