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ⅩⅩⅢ アクロバティック無自覚

きゅむろニンバス!(挨拶)

いや、抗原検査の精度がイマイチなせいでえらい目に遭いました。

夏風邪の薬、なんか全然効かないなあと思ったらやっぱコロナだったっぽいです。

おかげで会社の同僚や家族にウイルス蒔いちゃったかもしれん。 本当にごめんなさい。



「ラフ&スムース 第三章」





「うっ……うっ……」


「もう、そんなに泣かないでよみゆきちゃん!

お姉ちゃんなんでしょ~?」


「だ、だって、鈴音ぇ……」


まあ、わかる。

ただの痛みじゃないんだよね、こういうのは。


でようとした相手に敵意を向けられて攻撃されたという事実。


痛いのは身体じゃない、心の方なんだ。


「……ごめんね。 ずっとケージに閉じ込めてたから機嫌悪かったみたい。

もう少し私がこの子の機嫌を取ってから連れてきたら良かったんだけど……」


悪くなった空気を挽回しようとして

事を急ぎすぎた。


”急いては事を仕損ずる”


ということわざ通りの失態をしてしまった。 猛省。



あれから

みゆきちゃんの指に嚙みつき宙づりになったままのクーちゃんを

そお~っとそお~っと床に降ろしてもらいつつ

その間に食後のデザートに買ってあった苺を用意した。


床に着地した瞬間、鼻先に苺を持って行ってやると

とたんに咥えていたみゆきちゃんの指から牙を外し

苺に飛びつきむしゃぶりついた。


なんでかこいつ、苺とかメロンとかスイカとか桃とか梨とか

甘い果物が大好物なんだよね。


猫は甘みを感じる味蕾が殆ど進化してないっていうけれど

こいつは特殊に進化した個体なんだろうか?


まあ、べつに良いけどね食べても身体に悪くさえなければ。

そのおかげで大事には至らなかったし、結果オーライだ。


「うう……」


「だだ、大丈夫? あっ!」


涙目のみゆきちゃんが人差し指を差したままの状態で固まっている。

その指から、じわりと血が滲んで滴り落ちようとしていた。


ほぼ、無意識だった。


咄嗟に私はみゆきちゃんの手を取り

その指を咥えていた。


「あっ!」

「あっ!」


二人、みゆきちゃんと日影先生が同時に声を上げた。


「だ、駄目だよ鈴音! そんな汚い……」


「……あ、ごめん。 そ、そうだよねっ!

私の唾なんか付けたら、そりゃ汚いよね……」


何気にちょっとショックだった。


「ち、違う! そうじゃなくて私の血なんか舐めたら駄目だって言ってるの!」


あ、ああ……そういうこと。 そういうことなら……

ほっ……良かった。


「別に汚くなんて無いよ、だってみゆきちゃんだもん」


「す、鈴音……」


なんか、顔を赤らめて喜んでくれている。

あれ? もしかしてこういうプレイもアリだったりするのかな?


「…………あんた、こういうことするタイプだったんだ?」


「……え?」


日影先生が怪訝そうな顔をして私に向かってそう言った。


「あ…………」


そういえば、なんでだろう?


世代が古いはずの前世でもこういうことはあまりした覚えはない。

それに、どちらかと言えばこういう行為は昔の人の感覚だ。


現代では口の中に多量の雑菌があることもわかっているし

他人の血を少量でも摂取すれば感染症の危険があることなんかもわかっている。

つまり、この行為は消毒代わりなんかには成りえない。


じゃあ、なんで?


そういえば、昔、なんかあった、ような……?

それは、どっちの記憶、だったんだろう? 

よく、思い出せない。


「…………わ、わかりません。 なんか、咄嗟に……

そ、その……ごめんなさ……い?」


「い、いや別に責めてる訳じゃ……ないんだけど……」


「あー! いいのいいの! 日向先生!

私にとってはこれはご褒美以外の何物でもないから!

ねっ! 鈴音っ!♡」


「う、うん…………それは、良かった……の、かなぁ?」


なんかもうニッコニコだった。

ついさっきまで涙目だったのに。


「…………」


なんだか日影先生は微妙に納得していないような顔をしている。

責めてる訳じゃないのなら、いったいなんなんだろう?


「……まあ、いいわ。 

当人達が納得済みなら口を挟むつもりは無いから。

ただ、山桃。 誰でも彼でもやっちゃ駄目よ、こういうのは。

理由は、もちろんわかってるわよね?」


「は、はい! わかってます!

以後、気を付けます!」


「鈴音ぇー、絆創膏ある? あ、包帯! 包帯も!」


包帯はちょっと大げさな気もするんだけど。


「もちろん、あるよ。

あ、先にちょっと傷口洗ってきて。

その間に出しておくかr」

「やだ!」(フンス!)


「…………」

「…………」


即座に先生と二人して顔を見合わせ説得は諦めた。

なんかめっちゃ決意固そうな顔してるし。



あれからクーちゃんは

餌を腹いっぱいになるまで食べて満足したのか

ソファーの上で仰向けになって寝転がっている。


さっきまでの不機嫌さは何処へやらだ。


「か、かわ、かわいいい……」


みゆきちゃんが懲りもせずまた近づいている。


「みゆきちゃん、それ、罠だから」


「え!?」


こいつは寝たふりをしているだけである。

見知らぬ人間が二人もいる中

警戒を解くとは到底思えない。 

近づいてはならない。 絶対。


「さあさ、こっちもいい加減ご飯にしましょう!

折角の料理が冷めちゃうわよ」


「「はあい!」」






「…………」


冷めるも何も、冷やし素麺だった。


なんか、新たな食の世界を魅せてやるとかなんとか

言ってたような気もするのだが。


う~ん…………これが新たな食の世界かあ……


「…………」


ひょっとして、私、相当女子力無いと思われてるような気がしたりする?

コンビニ弁当ばかりで一切自炊してないとか思われてたりするのかな?

 

まあ、素麺自体は嫌いじゃないけれど。 なんだかなあ……


美味しかったからよしとするか、うん。

味付けも、只の市販の麺つゆだったけれども。


……おのれ、次の家庭科の時間は見ておれ。

必ず職員室の話題全てかっさらって席巻してやる。







「……さて、いくつか山桃に質問させて欲しいんだけど」


「……!」


「な、なに日向先生? 急に改まって」


急に真顔になった日影先生の態度に

みゆきちゃんも若干驚いているようだ。

無論、私もだけど。


「な、なんでしょう……か?」


おそるおそる訊き返してみる。

内容は、ちょっと見当もつかない。


いや、察するに今日の試合のこと……とかかな?


「……ああ、その前に、まだ礼を言ってなかったわね。

パソコン直してくれてありがとう。

ホント助かったわ。 これで今晩からでも仕事を進められる」


「い、いえ、そんなに手間でも無かったですし」


直したのは孝志OSだけどね。


「いったい、何が駄目だったの?」


「……え、え~……と……」


理由は、もちろん知っている。

直したのは孝志OSだけれども。


「? なんか言いにくいこと?」


「いえ、べつに……ただ……」


「ただ?」


「もしかしたら、また、なるかもしれません」


「ええっ!? 完全に直ったわけじゃないの!?」


「い、いえ……そういう、訳じゃ……ごにょごにょ……」


「なによーハッキリしないわね! 直ったの? 直ってないの?」


「直ってます! 今晩のお仕事にはおそらくまったく支障は無いです!」


「そうなの? はあ~、良かった。

……で、原因は?」


あう! や、やっぱ言わなきゃ駄目?


「ぶ、部品同士の、せ、接触不良……ですね。 たぶん……」


「……なに? それほんとに直ってるの?

配線繋ぎなおしたとか、そんなことやってたっけ?」


「いえ、やってません」


半田付けとかそういうことは普通PC修理では滅多にしないらしいけどね。

無いわけではないけども。

マザーボードの修理とか電源の修理とか。


これは破損個所をピンポイントで特定して

電気街でパーツ揃えてからする必要があるから、

もはや完全にマニアの域だけども。


「し、しばらく、その……安静が、必要ですっ!」


「…………それは、つまり、動かしたら駄目ってこと?」


「そ、そうとも言います」


「何時まで?」


「え、と……」



永遠とわに! 



……とは言えないよなあ……。


「なに鈴音? 機械なのに治るのに時間かかったりするの? 

なんだか生き物みたいー」


みゆきちゃんがケタケタ笑いながら突っ込んできた。


「いや、その……」


「あー! わかったー!」


あ、わかっちゃいましたかみゆきちゃん。

まあ親戚だし何度か経験したことあるんだろうね。 ご愁傷様。


なら…………みゆきちゃん、お願いします。

私の口からは、ちょっと言いにくいです。

ここは親戚のよしみで、というか気安さで。


「ん? なんでみゆきがわかったの? どういうこと?」


「犯人は……」


「犯人は……? って、犯人おるんかい!」


みゆきちゃんは包帯でぐるぐる巻きになった人差し指を

ビシッと、ある人物に向けた。


「…………ん? どういうことかな?」


そこでみゆきちゃんは大きく息を吸い込み

ひと際大きな声で


「やーい! 運転下手くそ丸ぅ~!」


と、言い放った。 えええー?


「なっ! なんだとおう!?」


「み、みゆきちゃん!?」


ちょ! いくら何でもストレートすぎるよ!

もしかしてこれ、喧嘩売ってる!?


「聞き捨てならねえなあ~みゆき!

こちとらこれでも無事故無違反ゴールド通り越して

もはやダイアモンドかオリハルコンか? ってレベルなんだけどお!?」


「それ単に今までけーさつ屋さんに見つかってないだけでしょう?

しかも物損にすらならない単独での事故はカウントされないし!」


よくご存じで。

確かに運良く取り締まりに遭わずに

事故だって相手さえいなければ

いくらぶつけようとも無事故無違反だからねえ……

あくまで書類上では。


「なにおー!? これでも私は過去・現在・未来において

ただの一度も車を塗装や板金修理に出したことは無いんだぞー!

それでも何時でもいつまでもピカピカだいっ!」


えっへんとふんぞり返る日影先生。

とても自慢げだ。


「…………いや、先生……」


そこで私はジト目で日影先生を見つめた。


「なによう? 山桃? なんか言いたいことあんの!?」


過去と未来はともかく、現在においてはそうでもないと思うんですけど。


「…………」


じ~~~~~~~~……


「な、なに……………………あ!」


どうやら私の無言の訴えにようやく気が付いたようだ。

ていうか、忘れられると困るんですけど!


「あ、あれは…………山桃が悪いんだぞっ!

こっちに来いって誘導するから……」


「え、どういうこと?」


みゆきちゃんは事の経緯を知らないからね。 そりゃそういう反応になるよね。


でも……ぐう、痛いところを……

いや、待って! ……確か、孝志の記憶に……


「……た、確かに誘導ミスがあったことは否めません。

しかし! それでも残念ですが

それでも運転手の過失割合の方が高いのがこの国の法律なんです。

例え何にも見てなくて携帯いじりながら適当に

はいバックバック~って言ってても

せいぜい誘導員の過失は3割まで!

ということで、ほぼ運転手の責任です。 諦めてください」


ふふふ、どうですか? 論破してやりましたわ。


「あ! なるほどそういうこと?」


みゆきちゃんもなんとなく事情がわかったようだ。


「ぐ、ぐぬう……こ、こいつ、開き直りやがったな……」


「う……」


しまった! なんか上手く言い返せたはいいけど

良く考えたらこれ相手の神経逆なでしてるよね。

どうも性格悪い奴みたいな感じになっちゃったな……

いかんいかん。 自重しなけれ……


「いいぞ鈴音~、もっとやれ~!」


ありゃ、なんか応援してくれてる。

なら。


「そ、そもそも、日影せんせいの運転がげんいんじゃないですかあ~!

自転車が壊れたのも、パソコンが壊れたのも~っ!」


ちょっと逆切れ気味になってしまった。


でも仕方ないじゃん!

こっちにもいくらかは非があるとはいえ

確実に主犯で実行犯は日影先生なんだから!



「いやっ! 今話してるのは自転車の件であって

パソコンは関係ないでしょ~!?」


ふるふると私は首を横に振った。


「……んえ? もしかして、これもそうなの?」


私はコクリと頷く。


「自転車はともかく、パソコンも?」


コクリ


いや、自転車はともかく、じゃないよ! ともかくすんな!


「だって、ぶつけたのほんのついさっきだよ?」


「あの運転が先生のデフォの運転なら

車はぶつけてなくても、車内でパソコンが壊れた可能性は十分にあります」


「え、なんで? 車はどこも壊れてないよ? 自転車ぶつけたとこ以外は」


「あのね、自動車は、元々外で運用される為に作られているんですよ。

それこそ雨が降ろうが槍が降ろうが悪天候・悪路にも対応できるように」


槍はたぶん無理だと思うが。


「うん、だからその中に入れておけば安全でしょ?

雷雨とかの時も自動車の中にいれば安心っていうし」


うん、ここは”精密機器”という物の取り扱いについて

少し話しておいた方が良いのかもしれないね。


「先生はニトログリセリンっていう物質を知っていますか?」


「馬鹿にしないで! これでも理科の先生よ!」


「もし、あれの瓶詰めした原液を先生の車に乗せたとします。

先生はそれを学校まで届けないといけません。 さあどうしますか?」


「もちろん! 私の華麗なハンドルさばきで無事故無違反運転でばっちりよ!」


ふんす!

めっちゃドヤ顔だった。


「…………」


駄目だった。 例えが悪かったのだろうか?

日影先生の車が吹っ飛ぶ爆発オチが鮮明に目に浮かんできた。


みゆきちゃんも呆れた半笑い顔で両掌を上に向けた。

私も項垂れ目を瞑り首を左右に振った。


「……な、なによう! 

なんか、なんかわかんないけどおまえたち

なんかむかつくう~っ!!」


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