番外編 「検索」
なんか、深夜のノリだけで書いてしまいました。
「ラフ&スムース」
草木も眠る丑三つ時。
私はこっそり起きてきて自室でPCと睨めっこをしていた。
「……あれ? 丑三つ時って何時ごろだったっけ?
確か、二時くらいだったと……?」
ポチ、ポチ……
「あ、二時から二時半なんだ。 良かった。
大体合ってたね……ええと、なになに?」
朧げに、丑三つ時だけは時間を覚えていたんだけど。
――昔は24時間を十二支で分割しており
午前1時から3時までの二時間を丑の刻としていた……と。
そして、その二時間を更に四等分して
その三番目の時間帯が午前二時から二時半ということになる……んだそうだ。
ちなみに始まり? である子の刻は午前0時を中心とした
午後11時から午前1時を指すそうな。
このような時刻の表し方を辰刻法という。 だって。
更にちなみに、江戸時代の武士は辰刻法(十二時辰とも言う)を使っていたが
なぜか庶民は時刻を数で表していたらしい。 だって。
……ん? なんで?
現代とは違い、明け方と夕暮れを「六つ」とし
それぞれを「明け六つ」「暮れ六つ」と呼称。
そこを基準にしていたため夏と冬では一刻の時間の長さが変わるんだとか。
へえ、こんな時代からサマータイムもどきみたいなのってあったんだなあ……。
使われた数字は何故か1からがスタートではなく、9から逆順なんだって。
つまり「9」が子の刻となる。
「9」という数字が縁起がいいから使ったって、
なんかえらいごり押し気味な強引な取り決めだったんですね。
まあ、今でもネットスラングとか、流行語とかが流行って
それが定着しちゃうのもあるし、今も昔もそんなものなのかもねぇ……。
で、それを午後11時からスタートさせて午前と午後でそれぞれ
987654(子丑寅卯辰巳)・987654(午未申酉戌亥)と
二分割して同じ数字を使うって、
今の常識からしたら逆にややこしすぎるよ。
こんなのもし日常会話で
「ねえ鈴音、今何時?」
って聞かれて朝10時30分を
「ええと、今は四つどきで正確には巳四つだよ」
なんて言っても絶対
「え? なんて!?」
って、間違いなく聞き返されちゃうよね……
しかも最初の四つと後ろの四つは意味が違うから余計混乱するし。
……あ! 三時の「おやつ」の時間の語源もここなんだ。
この「昼八つ どき」から来てるんだね、へえ~。
「でも……おお! 流石にここまで詳しくは知らなかったよ。
今は調べれば何でもわかる、本当に便利な時代になったもんだねえ……」
しみじみ。
ネットの無い時代は調べものって本当に大変だったんだよね。
人に訊いてわからなければ辞書引いたり本屋で専門書を買ったり
図書室や図書館行ったりで、それでもわからないこともあったし
途中でめんどくさくなって諦めることも結構多かった。
今じゃ当たり前になっているこの情報過多の世界。
便利すぎて、逆になんだかちょっと怖いような気もするけれど。
……おっと、こんなことをやってる場合じゃないんだった!
ポチ……
「う~~ん……………」
ポチ……
「うう~~ん……………」
ポチ……
「う、う~~ん……?」
ポチ……ポチ……
「う、う~ん? う~……」
ポチ……
「う~……あ~~……」
ポチ、ポチ、ポチ、ポチ……
「……ぅあ~~っ! もうっ! わかんないようう~~っ!!」
先刻から私はいったい何をやっているのか?
こんなのべつに適当で良いのではないだろうか?
先方にも素直にそう言えばいいだけだ。
さらっと。
そう、素直に自然な感じでさらっと言えばいいだけのこと。
「…………」
いや!
それが簡単にできる私ならこんな苦労はないのである。
もし、もしも途中で台詞につまずいて
どもりだしでもしたら
途端に血液が逆流してまともな会話ができなくなるかもしれないからだ。
怪しさ全開で手に持っている荷物を渡して消えるように立ち去ろうものなら
どんなことを想像されたとしてもおかしくはないのだ。
だから、品選びも慎重に慎重を重ねてしなければならないし
台詞の予行演習も寝言で言えるくらいに完璧にマスターしなければならない。
「…………」
と、とにかく!
まずは品選びだ。
ここで失敗するのとしないのとでは雲泥の差。
短距離走のスタートでずっこけるようなものなのだ。
「…………いや!」
そもそもなんで私が選ばなければならないのか!?
こんなの孝志がすればいいじゃない!
「…………」
いや! いやいや! やっぱ駄目だ! 渡す時に孝志OSがするとは限らないのだ。
私にお鉢が回ってくるかもしれないのだ。
やはり、ここは石橋を叩いてでも私が選んだ方が良い。
万一以前のおふざけで取った
クレーンゲームの景品のようなものを選んで買われた日にゃ
私は恥ずかしくて学校に行けなくなる可能性までもある。
まあ、陽キャならおふざけで笑い飛ばしながら華麗に躱すんだろうけど
それは私には難易度が高すぎる。
う、うん。 真面目に考えよう。
「う~…………」
……やっぱ、ちゃんと今の私と同じサイズで買うべきなんだろうか?
「や、やっぱり、そう、なるよね……?」
デザインとかブランドとかはともかく
新品とはいえ一応は私が持ってる下着
という体で行くのなら、そうなっちゃうよ、ね……
下はまあ、MとかSとか割と曖昧なサイズが多いからいいとしても
「も、問題は、上、だよね……」
B60とかC65とか結構きっちり表記されてるから
おおまかな体型がばれてしまう。
それはちょっと、やだなあ……
「う~………… あっ! そうだ!」
スポブラとかでも良いのかな?
あれならサイズ表記は割といい加減だ。
それか、キャミソールやブラトップとかで誤魔化すか?
「あ、でもキャミはブラの上に着けるものだし、ちょっと違うかぁ……」
なら、選択肢はブラかブラトップに限られてくる。
「あ、でもキャミとブラとパンツのセットならアリなのかな?」
下着三点セット。
「…………そ、そこまで必要!?」
ふと疑問に思う。
必要……必要と言えば、よく考えれば一体何に必要なんだっけ?
「…………」
思い出してみる。
――その技術と根性にあやかりたい!
確か、そんなことを言っていたよう……な?
だったら、別に下着である必要はないような気がするんですけど。
「なんで下着なんかなあ? あうあ~~っ……!」
ごん!
頭を抱え込んで机に突っ伏した。
「…………」
カチコチカチコチ……
数分が経過した。
がばっと体を起こす。
「…………いかん! 現実逃避してる場合じゃない!
真面目に考えないと!」
ちなみに今、穿いてるのは、確か……
姿見の方を向き
少しだけ部屋着のズボンを下にずらす。
にゃ~ん♪
「…………」
これは封印、と。
なんか、あんまり子供っぽいのも馬鹿にされそう。
かといってセクシーなのもなんか身の丈に合ってないし違うよね。
普通に学生用の上下セットが無難なのかな?
「そ、そうだよね。 普通に考えたらそれが一番……」
……いや、マテ!
よく考えたらお金は私が出すわけじゃないんだ。
個人差はあるだろうけど
皆それぞれコツコツと大切に貯めた
少ないお小遣いから出す者もきっといるはずだ。
私立の学校だからと言って皆が皆お金持ちの家の子とは限らない。
それなのに、そんな当たり障りのない
どこでも買えるようなものを手渡されて果たして本当に嬉しいのだろうか?
「…………」
今まで私は私の都合でしか考えてなかった。
だけどそれじゃ駄目なんだ。
相手の気持ちになって
最大限、皆のニーズに、応えなくてはっ!!
今まで、ブレブレだった私の心。
でも今、指針ははっきり決まった。
”相手の立場になって考える”
これだ!
恥ずかしがってる場合じゃない。
だって私のお金で私が買う訳じゃないんだから!
皆のお金を預かって、私が責任をもって皆を満足させてあげなければっ!
「そうと決まれば、中学生男子が好きそうな下着を……」
――中学生男子 好み 下着
ぽち、ぽち、ぽち……
「…………ぐあ!」
検索、間違えた。
男の子の半裸とブリーフだのボクサーパンツだのが大量に出てきた。
いや、べつにこんなの、前世で見慣れてるはずだし
なんか顔が赤くなってるのは単なる気のせいなんだからねっ!
と思いつつも、両手で顔を覆っている自分がいたりする。
「…………(ちらり)
…………くっ! き、気のせい、気のせい!」
気を取り直して、次だ。
――中学生男子 好みの下着 女子
こ、これでどうだっ!?
「…………」
う、うん。 出るには出たけど……
「男子の好みは……」
アンケート結果。
白! 白かあ……
まあ、そうだよね。
大人ならまた違うかもだけど
私らの年代ならこれが正解だと思う。
「ピンクも悪くないと思うけど……」
女性側からしたら白は一番人気じゃないんだよね。
人気なのは赤とかピンク・ベージュ・紫とか黒とからしい。
確かに白は、新品なら綺麗なんだけどね……。
……はっ! そうだ!
相手の気持ちになるんだった!
「いかんいかん! 色は、白と……」
あとは……デザインと……せくしいさ!?
いや、私らまだ子供だよ!?
せくしいさは要らないでしょ?
……要るの、かな?
よくよく思い返してみる。 前世を。
「…………要るの、かも、しれない……」
せくしい?
改めてもう一度姿見を横目で見る。
「…………」
おもむろに椅子から立ち上がり。 なんとなくポーズを取る。
「せ、せくしいって、こ……こんな感じ……かな?
……って、何をやってるんだ、わたしゃ!?」
すごすごと、座る。
「う~……本体がこれじゃ、せくしいもクソもないような……?」
まだまだこれからなお子様体型に
そんなものを求められても正直困る。
この辺は年相応ということで
諦めてもらうほかないような……
ぽち、ぽち……
「……う~ん、色以外が、なかなか決まらない……」
そこで急に視界が真っ暗になった。
!!? え? ブラックアウト!? 停電!? いや、違う!
「な~にやってるのかな~? 鈴音ちゃん?」
「っ!!」
背後から、甘い声。
し、しまったああ! 部屋の鍵をかけ忘れていた!
「み、みゆき、ちゃん!?」
そう、音も無く背後から気配を殺して近づいてきた人物に
両手で視界を奪われただけだったのだ。
……ていうか、何時から居たの?
そこがちょっと、というか、かなり問題だったりするんだけど。
「もう~、起きたら隣で寝てた筈の鈴音はいなくなってるし
喉乾いたから水飲んで待ってたんだけど全然帰ってこないしで
トイレにしてもちょっと長いから心配して来てみたら……
こそこそと、いったい何やってるのかなって?」
「い、いやっ!
ちょっと、これはっ!」
「ん~? 下着の通販サイト?」
みゆきちゃんの右手が、私の右手に覆いかぶさってきた。
つまり、マウスの主導権を握られてしまったのだ。
ま、まずい!
そ、そこはまだともかく!
よくよく考えてみたら
男性の好みだのアンケート結果だのせくしい下着だののタブも開いたままだ!
流石にこんなページ閲覧してたの見られたら
何をどう勘違いされてもおかしくない。
なんとしても、それを見られるのだけは阻止しなければっ!
しかし、右手は既に拘束されているも同然。
強引に振りほどけば余計に怪しまれる。
ああ、ブラウザの閉じるボタン「×」はすぐそこなのに……
「ふ~ん……、私がこの前、下着屋さんに一緒に行こって言ったのに
鈴音はそれを断ってこんな味気ない買い方してたんだあ」
「い、いやっ! あの時はっ!」
確か、孝志OSだったからいつもより余計に恥ずかしくてつい……
どっちみち、断ったかもしれないけれど。
スススと勝手にマウスが移動していく。
そして遂にスクロールボタンは完全に占拠されてしまった。
あああ、閲覧したページが見られていく……
「んん? ……なんか、いつもの鈴音の好みじゃないよう、な……?」
なんでそんなに勘が鋭いかな? このお姉さんは!
そうですよ! だって私の好みで選んでませんからっ!
ま、まずいまずいまずい!
このままじゃ他のタブまで見られてしまう!
どうにか、残された左手だけでこの事態に対処しなければ!
確か、ブラウザを閉じるショートカットは……?
孝志の記憶を必死に探る。
確か、エロサイト閲覧時に何時母が部屋に入ってきても
瞬時に消す技を身に付けていた筈だ。
それを、思い出せ!
「!」
そうだ! 確か!
「Ctrl+W」
これだっ!
ぽぽち。
「「あ……!」」
二人同時に声が出た。
タブが消えたのは、たった一つだった。
今現在、閲覧していたページのみだ。
「ひえっ!?」
声にならない声がちょっと出た。
ま、まずい!
このページの前に見ていたページが、露わにっ!
「あーもう! なんで消すのよ鈴音。
今のページ、まだ全部見てなかったのに……
あ、まだ違うページもあったんだ……どれどれ?」
か、神様あっ!
「ふーん、女性の好みの下着アンケート、ねえ……」
せ、せーっふうううう! ひっひっふううううぅ……!
「はあ、はあ、はあ……」
「なるほどお、こんなの見て選んでたんだ。
どーりでいつもの鈴音の好みと違う筈だあ」
「え、えへへ……
ちょっと、いつもと違うのも、たまにはいいかなって」
おざなりな応答をしながら頭の中はそれどころではなかった。
えええ、「Ctrl+W」じゃないのお!?
……あ、これって、タブが一つだけの場合の消し方だった。
確か、複数のタブを一気に消す方法は……
「他には、どんなの見てたのかなあ……?」
「あ、そこは! ちょっと……!」
――中学生男子 好み 下着
――中学生男子 好みの下着 女子
――セクシー下着
このページだけは! このページだけはあっ!!
あああ、み、右手が、右手が勝手に画面上部に移動していくようう!!
はやく! はやく思い出すんだあああああっ!
きゅぴーん!(フレクサトーンの効果音)
――――「Alt+F4」だっ!!
神の啓示、いや、これは、孝志OSの心の叫びだ!
Alt! プラス! F4んんんっ!!!
ぽぽちっ!
「あっ!」
「…………はあ、はあ、はあ……」
ふ、ふふふ……
消えた。 消してやったぜ!
うっしゃああああ!
「もう、なんで消すかなあ?
まあいいや、閲覧履歴っと」
あああああああああああああああああああああああああっっ!!!
おわり。
パソコン治りました!
電源が古くなって出力が不安定になっていたようです。
でも交換後の電源も中古なので今後どこまで保つのやら。
Win11移行まではこれで凌ぎます。 頑張れ剛力!
ところで剛力タンは何でケーブルが全部取り付け式なんですかね?
外す時に固くて力入り過ぎて「ふんっ!」ってやったら
電源の角がモニターに激突しちゃったんですけど!(泣)
不幸中の幸いでモニターの液晶割れまでは行かなかったですが、傷が……ああああ!




