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ⅩⅧ わたし、酔っちゃったみたい……




「ラフ&スムース 第三章」




ヴォンッ! ヴォンッ!


ヴォオオオオオオオン!!


ギャキャキャキャヴォンッ!



「ああああ……あ、あのさあああ”~」


「え~な~に~?」


「もも、……もしかして、ぱぱぱパソコン動かなくなる前に、

いいい一度車で、いいい移動させたりした?」


「え~なんで~? したけど~?」


「……うっぷ!」


酔いそう……というか、ほぼ酔っていた。



ヴォンッ! ヴォンッ! ヴォオオオオオン!!

ギャキャキャキャキキキオオオオオオオオオオン!!!



鈴音はそこまで乗り物に弱いわけではないのだが

やはり若い子の三半規管はそれなりにデリケートなわけで。


流石にここまでシェイクされたら……

これに耐えられるの

フィギュアスケート選手とかベーリング海のカニ漁師くらいじゃないの?


たぶん、外から見たらまるでCMのズイスポそのものの動きくらいしてないかこれ?

(興味ある人は、ユー○ューブででも見てね、ワンオク32の方ね)


しかも、もちろんこれは意図してやっているわけじゃないというのが味噌で

つまり、いつ○んでもおかしくないというか……

死ぬ! タヒぬじゃなくて、死ぬ!


「……おお、お願いします。 と、停めてください」


「え~どうしたの~? もうすぐ着くわよお~」


「……とと、停めてください。 おおおお願いします」


効果が無かったのでもう一度呪文を唱えてみた。 前後逆にアレンジして。









「…………」


「ちょっと! なに壁際で固まってんの?

ショッピングモール着いたから

ちゃちゃっと買い物済ませるわよ」


「…………」


「ほら、しゃきしゃき動く!」


背中をぐいぐい押され強引に歩かされる。


「あっ……ちょっと、もうちょっと、まっ……うぷ!」


本気でリバースしそうだった。


「もう! 情けないわね!

この程度の距離ドライブしただけで酔っちゃうなんて

鍛え方が足りないわよ!」


「…………」


いや、実は僕、鈴音の人生で酔ったのって

たぶん今回が初体験なんですが……


今、僕は孝志OSに切り替わっていた。

相変わらず切っ掛けのようなものは何も無かったのだが

制服に着替え終わって日影の車に乗り込んで

しばらくしたら何時の間にか変わっていたのだ。


「仕方ないわね~、ちょっとここ座って待ってなさい。

5分で帰ってくるから」


「は……はい……」


そう言って、日陰のベンチに置き去りにされた。

まあ、今は動きたくないし人の相手もしたくなかったので助かるけど。


「…………あ……いい風……」


そよそよと、建物の間に設置された日陰のベンチに

丁度良い感じの風が吹き抜けていった。


こてん。


そのままベンチに倒れるように横になる。


「……ふ~~…………」


……ああ……横になってそよ風に当たっていると

なんだか大分楽になってきた……。


しかしまさか、日影の運転があそこまで酷いとは思わなかった。

あれなら僕が運転した方がなんぼかマシだったんじゃないか?

でも免許無い、免許無いよ~だけど。


「あっ! あんもう! だらしないわね!

しんどいからって無造作に横になってるから

パンツ丸見えになってるじゃない! 貴女!」


「……え?」


……あ、しまった!

さっきの試合であまりに汗だくだったからか

制服に着替えた時にブルマも脱いでいたんだった。


「女の子がベンチで気分悪そうに

パンツ見せながら横たわっていたら

ナンパ男に目を付けられるわよ」


「いや、それはないと思うけど……」


こんな子供に言い寄ってきたら事案で通報されるのがオチだと思うけど。


「もう、馬鹿っ!」


ぺちんとおでこを軽く手のひらではたかれた。


「あうっ!」


「つい今さっき、私があんたに向かってた男3人組を追っ払ったところよ」


「え?」


そ、そうなの?


「もうちょっとでパンツ盗撮されるところだったんだからね! 感謝しなさい」


「…………んぐ?」


かああああああ……


なんか、一気に恥ずかしくなってきたので起き上がって座りなおした。

ついでにスカートの裾を持って折れや皺を伸ばす。


そ、そうか~、

僕……というか鈴音って

やっぱそういう対象で見られてたりすることもあるんだなぁ……


ぴと。


「あうっ!?」


追撃で、今度は冷たいものがほっぺに当たる。


「はい、とりあえず、スポドリと酔い止め薬。

急いでこれだけ買ってきただけだから買い物はこれからよ。

あんたはこれ飲んでちょっと休憩したら、車内で待ってなさい」


「……あ、ありがとう……」


日影、一応気配りとか

ちゃんと心配はしてくれてるんだな。


言い方はきついけどやっぱちゃんと先生してるんだ。


「まったくもう、うちのひなのちゃんといい

女の子の自覚が薄い子ばっかりで世話が焼けるわね」


「う……」


ひなの部長はともかく、

僕はまだ女の子の自分を自覚して間もないから仕方ないんだよ。


でも、鈴音として生きていくんなら

その辺やっぱちゃんとしていかないとまずいよな。


さっきも男子部の先輩たち相手に鈴音を困らせてしまったようだし

もしも僕のせいで泣かれでもしたら流石に寝覚めが悪い。


「…………」


あ、でも試合後のギャン泣きは不可抗力だよ?

まさかあそこでOSチェンジするとは思わなかったし。


…………


……いや、ごめんなさい。

あれもやっぱ僕が原因だし、

仮に僕が試合やってたとしてもたぶん結果は変わらなかっただろうし。


「……少しは良くなった?」


「……はい、だいぶ落ち着いてきました」


「そっか、じゃああんたは車で座って待機ね」


「い、いえ、大丈夫です。 一緒に行きましょう」


「ホントに大丈夫なの?」


「はい、おかげさまでだいぶ楽になりましたし

100均で簡単な工具とか揃えたいですし」


「え……今まではどうしてたの?」


あっ


「い、いえその、今までは工具とか借り物だったんで

ちゃんと自分でも揃えたいなあって

丁度思ってたところだったんですよ! あはははは!」


「ふ~ん、なのに100均の工具ねえ……」


「じゅ、十分使えますって!

100均だからって何も100円の物ばかりじゃないですし

それなりのいいものは数百円とかで売ってますから」


「ふふ……お嬢様なくせに節約家なのね、あんた」


「も、目的に応じてですよ。

車やバイク、精密機械とかにはやっぱ

ちゃんとしたメーカーの良い工具を揃えたほうが絶対いいですし」


「…………それって誰かの受け売り?

普通、中一女子で精密機械だの車やバイクの整備だの

会話に出てこないわよ」


「えっ!? ああ、そうそう!

親戚のおじさんに色々教えてもらったんですよ! あはははは……は!」


うう……罪悪感。

だんだん嘘を重ねるのが辛くなってきた。


「ふうん……面倒見がいいおじさんなのね。

なんだかその親戚のおじさんに

一度会ってみたい気がするわねえ」


「あ、い、いやっ! 只のどこにでもいるおっさんですよ!

結婚もしてないし子供もいないし、

モテない冴えないただのしょぼいおじさんです!」


そもそも今は面会謝絶で記憶も飛んでるし

あんな情けない姿を見せるわけにはいかないし。


「こら!」


ぺちん!


「いて!」


「色々教えてくれる面倒見のいいおじさんに

そんな失礼なこと言わないの!

あんたがかわいくて構ってくれてるんだから、

ちゃんと感謝しなくちゃバチが当たるわよ」


「…………す、すみません」


構ってるのは僕の方だったりするんだけど

それは言わないでおこう。


ああ、でもこれよく考えたら

今日はお見舞いという名の様子見に行けそうにないなあ……。


「じゃあ私は食品売り場の方寄ってからそっち行くから

もし先に買い物終わったら店先のベンチで待ってなさい」


「あ、でも僕の方はすぐ終わりますよ」


「んー、そうね……

じゃあ、ついでに私の買い物も頼んでおくから

それも探しておいて」


「100均でですか? まあいいですけど」


そうして僕たちは一旦別れて各々の買い物を済ませた。







「~♪」


うん、なんか知らんが満足じゃ。


結局割とたくさん工具を買ってしまった。

色々見てたらなんだか楽しくなってきて

結局日影の方が100均店内に迎えに来てくれるまでずっと漁ってたんだよなあ。


今回のパソコンいじりだけならおそらく

プラスドライバー1本あれば事足りるのかもしれん。


相当いじり倒すのを前提としても

短いドライバーと精密ドライバーセットを買えば大体はそれで済む。


なのになんだろ


追加で

ラジオペンチ・ペンチ・モンキー・メガネレンチ・スパナ・六角レンチ・

ニッパー・カッター・はさみ・ヤスリ・メジャー・ステンレススケール・

ゴムプラハンマー・プライヤー・ホビーノギスなどなど……


ついでに半田ゴテに圧着工具やワイヤーストリッパーまで

安いので買ってしまった。


ホントは六角レンチはボールポイントが付いてる方が断然使いやすいんだけどね。

まあ流石に100均でそれを求めるのは酷か……


あとはラチェットレンチとパイプレンチがあれば

単純な機械なら大体はいじれそうだなあ……


欲を言えばネジザウルスやリューターなんかも欲しいところだけれど……


「…………」


いや!


いったい何に使う気で買ったんだ? 僕?


なんで買った!?


……ま、まあいいや

これだけあればもし何かあった時、どうとでも対応できるだろうし

持ってて困ることは無いだろう……


「またいっぱい買い込んだわねえ、貴女……

パソコンってそんなに工具が要るの?」


「いや、いりません」


「え? なにそれ?」


「…………」


つい嬉しくなって買ってしまったというのは内緒だ。

だって、安かったんだもん。


「ひか……日向先生もなにげにいっぱい買いましたよね。

僕達二人だけかもしれないのにそんなに要らなかったのでは?

なんならコンビニ弁当でも良かったんですよ?」


「馬鹿ね! そんなのばっか食べてたら若い内は良くても

そのうち身体にガタがきて駄目になっていくわよ!

ちゃんとバランスよく体に良いものを食べないと

若さも保てないし、お肌にもよくないわよ」


「そ、そういうものですか?」


「そうよ~、それにもし貴女のお父さんが帰ってたらどうすんのよ?

私達コンビニ弁当で済ませたから、

お父さんは適当に食べてねって、言える?」


「う……確かに」


「教師としても人としても駄目でしょそれは!

なんだこの図々しい女? って思われちゃうじゃない。

何よりも女子力無えなこいつって思われるのが嫌!」


あ~……

まあ、うん。

確かに同年代の男にそういう目で見られるのは屈辱なのかも知れないなあ……


「……うん、じゃあ夕食

期待してるね、日影せんせえ!」


「おう! 任しとけ!」




キュルルルルッヴォンッ! ヴォンッ!


日影の車のエンジンに火が灯った。


「……え~と……、こっからは僕、徒歩で帰ってもいいですか?」


助手席のドアを開け、買い物した荷物だけを座席に置く。


「馬鹿、日が暮れるわよそんなことしたら」


「え、だってまた……」


「もう薬も効いてるでしょ? 大丈夫だって」


「い、いやまだちょっと……」


後遺症というか、トラウマが


「はいさっさと乗る!」


腕を掴まれ座席に引きずり込まれる。


「い、い~や~だ~っ!」


バンッ!


車のドアを閉める音が無情に車内に響いた。


「さあ! 山桃家に、しゅっぱあ~っつ!」



ヴォオオオオオオオン!!


ギャキャキャキャキキキオオオオオオオオオオン!!!


ヴオン! ヴオオオオオオオオオオオオオッ!!!


キャキャキャッ! 


ヴオンッ! おーーーんっ!!……おおーーーーんっ!!……おおおーーーーーーんっ!!



「ああああああぁ~~んっ…………っ!」









「……うぷ……」


「ホント、情けないわねえ……まったく」


はい、また酔いました。

薬飲んでるから、さっきよりはちょっとだけマシだけど。


僕は青い顔のままで、庭の車庫に誘導しようとした。


「うぷ……親の車もあるから、狭いから気をつけ……」


ごん!


「「……あ!」」


がしゃああん!


「あああっ! 僕のν伊達じゃない号があああっ!!」


目が回っていたので僕は愛車の存在をすっかり忘れていたのだ。

そういえばパパさんの車の横に置いていたんだった。


「…………」


「…………」


「……ご、ごめんね? てへ!」





後日、愛車の修理に

早速買い込んだ工具が役に立ってしまったというのはまた別のお話である。





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