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風刃の儀(エピローグ1)

お久しぶりすぎてごめんなさいです。

最近ようやっとぽつぽつと執筆を再開し始めました。



「ラフ&スムース」






周りはあわただしく動いてはいたが

私にはそのままの状態で待機と命じられていた。

風刃との契約直後に加え覚醒も一足飛びで成ってしまったため

興奮状態にある私は落ち着くまで動いてはならん! 

と大婆様に釘を刺されていたからだ。


ほどなくして、師範代が道場に戻ってきた。


「……やれやれ、睦月が倒れたかと思ったら今度は深雪が倒れるとはな。

忙しいったらありゃしない」


「師範代! 姉さんは……」


「まあ、心配はない。

意識は未だ戻ってはいないが、命には別条ない。

ただ、多量のエナジーを風刃に奪われたせいで

しばらくは安静が必要だが」


「そ、そうですか……」


私は安堵し、ほうと息を吐いた。


良かった。 


相当な苦しみようだった姉が

転じて意識を失い、まるで動かなくなった様を見て

どうにかなったんじゃないだろうかと気が気でなかったのだ。


あのあと師範代はすぐさま姉さんを抱え込み

そのまま母屋にある昔使用していた姉さんの部屋に連れて行ってくれたようだ。

総本家の方の付き人も同行し手伝ってくれて

今は一緒にいてくれているらしい。


「……さて、正式……とは言い難いですが、

確かに風刃は貴女を主と認めたようですね」


「む……」


総本家の女性がそう言うと

大婆様は少ししかめっ面をした。


「大婆様、どうやらこれは、もう決まっていたことのようです。

風刃は最初から、睦月さん以外を主にする気は無かった。

私にはそう感じ取れました。

実は、私には他者の意志を感じ取れる能力が備わっています」


「なんと! 先ほどの人払いといいその能力、もしやとは思うたが

貴女様は既に、生涯の伴侶と……!?」


「……あ! いえ! いえいえいえ~っ!

そっそんな人、まだいませんよう~っ!」


総本家の女性は顔を赤らめ

両手を前に突き出しヒラヒラさせながら慌てて否定する。


「こ、これは一族特有の能力じゃあありません!

”ヒト”にも極稀に、そういった能力を持った者が現れるんですよ。

その因子がたまたま私に発現したのでしょう。

ただ、きっかけは、この”血”のせいなのかも知れませんが……」


「むう……そうであったか……

なら、わしは余計なことをしてしまったのかもしれんの……

深雪には、酷なことをしてしまった……」


「いえ、そんなことはありませんよ。

もしあのまま睦月さんに”風刃の儀”を執り行えば

深雪さんは絶対に納得しなかったと思いますし

その方が彼女にとってはもっと酷だったかもしれません。

だけど……」


そこまで言って言葉を濁す。


「そう、じゃな……これで、深雪は溜め込んでいた

覚醒の為の起動爆発に必要なエナジーを

根こそぎ風刃に奪われてしもうた。

おそらくこの先数年は力に目覚めることは無いだろうて……

ある意味、覚醒前で良かったとも言えるがの」


「そうですね……

今なら、只の人間として生活ができる。

それはそれで良いのかもしれません」


「しかしまさか、睦月が第二段階まで覚醒するとはな。

深雪のエナジー内包量はそれほどのものだったということか」


「そうですね、それもありますが……」


ちらりと総本家の女性は私の方を見る。


「…………」


私は沈黙を決め込んだ。


「……どうなされた? まだ、何か理由が……?」


「い、いえ! そうですね! 

実は深雪ちゃん、もし覚醒してたら

凄いことになってたかもしれませんね~ってことで!」


「……? そ、そうかえ?

それはまあ、ある意味、数年後が楽しみではあるが……」


どうやら、私の沈黙の意図を理解してくれたようだ。

彼女の能力の賜物だとは思うが。


水無月が風刃を勝手に持ち出して仮契約をしていたなんて

今のこの場では口が裂けても言えない。

おそらく契約時のことを考え

エナジーを少しずつ溜め込んでいたのだろうけど。


「エナジー箪笥預金……ぷっ……」


総本家の女性はぼそりと独り言を呟き

小刻みに震えながら笑いを必死にこらえている。

何かがツボに嵌ったようだ。


意外とフランクな性格なのかもしれない。


「……ふむ……そうじゃな……

なら……睦月!」


「は、はい!」


今まで静観をしていたのだが

ついに会話の矛先がこちらにまわってきた。


「度重なるアクシデントの結果、正式な手順を踏むことはできなんだが

まあ、アレに関しては緊急時じゃったからな

不可抗力ということにしてやっても良い」


「…………」


「確かに、ここに”風刃の儀”は成った。 

なんにせよ”風刃の儀”はこれにて終了じゃ。

ご苦労であった」


「はい……ありがとう、ございます」


紆余曲折はあったが、これで、ようやく……


「しかしじゃ」


「お、大婆様!?」


総本家の女性が何かを感じ取ったのだろう

少し慌てふためいた様子が見て取れる。


「深山宗家当主の座は、未だ未定とする!」


「!」


「今まで通り、しばらくはわしが代行するという形にさせてもらう」


「! ……そ、それはっ!

私が、当主にふさわしくないという意味なのですか!?」


流石にこれは予想外だった。

深山宗家に代々伝わる宝刀である風刃。


風刃に認められ

その主となった人物が当主になれない。


そのような事態が起こりえるとは思いもよらなかった。


「大婆様っ!」


私は、縋るように大婆様に駆け寄る。

これでは今までの努力の意味が無い。


「睦月! 今は大婆様が当主の代行をなされている!

そのご判断なのだ! だいたい、風刃に関してもだなお前は……!」


「師範代、まあよい。 睦月の言いたいこともわかるでの」


「お、大婆様……」


「睦月よ、べつにおぬしが駄目だと言うとるわけではない」


「で、でも……し、しかしっ!」


確かに、風刃の主となった者が当主になると明言されているわけではない。


”深山宗家当主の最有力候補となる”


と言われているのみである。


つまり、過去には風刃の主以外が当主になった例もあったということなのだろうか?


しかし、だとしてもこれは納得がいかない。


「おぬしは試合中、追い詰められ辛くも覚醒し、深雪の竹刀を弾き飛ばした。

まあ、それはええ」


「……! まさか……姉さんの、覚醒を待つ、ということですか?」


「すまんな。 どうにも今のわしにはまだ判断がつきかねるのじゃ。

無論、睦月が当主にふさわしくないと言っておる訳ではない。

ただの……」


「……ただ?

私の……病の、ことですか? 母と、同じ……」


ほぼ無意識に、掌が胸を押さえていた。


「む……それもあるが、そうではない。

それに関しては、わしも責任を感じておる故な……

あまり、強くは言えんわい」


「…………」


大婆様は、私の曾祖母にあたる。

つまり、私の母は大婆様の孫なのだ。

母の病は、大婆様が関与していると……そういうことなのか……?


「わしが、わしの娘達の婿選びをしたのじゃ。

おぬしの祖母もその中の一人であった。

今までになく適合率が高かったのに舞い上がってしまっての……

適合率のみに目が眩んで婿を取らせてしまった。

七人いた娘達の末っ子でもあったせいか、

無意識に少々婿選びが雑になってしもうたのかもしれん。

そのせいで、孫であるあの娘には辛い思いをさせてしまった……」


「…………」


つまり、縁談の際、血縁者の病歴にまで気が回らなかったと

そう言うことなのだろうか。


どうにも複雑な心境だ。

一方では

「もう、そんなこと今更過ぎたことだ」

と思う自分と

「そのせいで、どれだけ真歩が辛い目に遭ったかわかっているのか!?」

と叫ぶ自分もいる。


母であり、妹でもある彼女。


どちらにしても大切な人間だ。


憤慨する気持ちも分からなくもないが

わざとやったのならともかく、そうではないのだから

これもまた運命と割り切るしかない。


今更覆ることはけっして無いのだから。


「……気にしてない……とは言い切れないですが……

もう、過ぎたことです」


「……そうか、そう言うてくれるか……」


幸い、姉にはその因子は引き継がれてはいないようだ。

それが無ければ、今も恨み言の一つも飛び出していたであろう。


それが私にとって救いとなっているし、希望となっている。

だからなおさら、こんな不幸は私だけで終わらせたいのだ。


「深山宗家当主の責任も、この身体も、私だけが背負って行きます。

だからどうか……」


「しかしじゃ!」


「!」


「それとは別に、おぬしはどこか、危うさを持ち合わせておる。

そんな気がしてならんのじゃ」


「あ、危うさ……ですか?」


まさか……!?

水無月の存在に、薄々気が付いている!?


「あくまでただの勘みたいなものじゃがな。

まあそれで今まで生き残ってこれたと言うのもあるからの

あながち勘も馬鹿にはできん。

それに、その方が公平じゃろ?

ただの一般人の力しか持たぬ者と覚醒後の深山の人間では

技はともかく、単純な力量があまりに違いすぎる」


「そ、それはっ!」


私も、まさかあの時点で”力”を出せるとは思っていなかった。

べつに卑怯な手を使いたかった訳ではない。

言い訳ではあるが、”勝手に出て”しまったのだ。


「無論、風刃はおぬしのものじゃ。

そこに異論はない。 

歴代の持ち主の意志をも宿しているその刀身自身が決めたことじゃ。

まあ、異論を唱えたところで

こればかりはわしにはどうすることもできんがの」


「…………」


「そしておぬしが当主の最有力候補だと言うのは今も変わりはない。

ただ、しばらく保留にさせて欲しいと言うとるのじゃよ」


「…………」


「かつては、そういうこともあったのじゃよ」


「大婆……様?」


「当主には妖刀を扱えるだけの力量は無かった。 が、しかし

司令塔としての判断力、指示力、カリスマ性などには優れ

妖刀の主はただ指示にのみ従っていれば安心して前線で戦えたという……」


「…………」


「案ずるな。 まだ決めかねておるだけじゃと言うたであろう?

お互いに、まだ成長期の只中、伸びしろは十分にある」


「……いえ、わかりました。 そこまでおっしゃるなら

判断は、大婆様にお任せします」


本当に前線に出ないのなら、それもまたアリなのかもしれない。

……けれど、姉さんは力量が無いわけじゃない。

きっと状況によりけりで必ず危険な場所にも首を突っ込んでくる。

そもそもの目的として私は姉に深山家の事情を深く知られたくはないのだ。


やはり、その選択はできない。


けど、今は引き下がるしかないようだ。


「わかってくれたか?」


「もちろん……諦めたわけじゃありません。

これからも姉さん以上の成長をして見せます。

どうかお見届けください」


「……うむ、双方とも期待しておるぞ」


そう言い残し、大婆様と師範代は道場を後にし母屋に戻って行った。





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[一言] お久しぶりです おかえりなさい
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