5話 変化
『ラフ&スムース』
「・・・あっ!・・・そ、それはっ・・・」
「あったわ、鈴音ちゃん! 中学校の制服!」
「・・・・・・」
「鈴音ちゃんの学校の服とはちょっと違うけど、ちゃんとしたセーラー服よ!」
「・・・あっあっ・・・そこはっ・・・」
「あっ! やだ懐かしい! ブルマよブルマ! 今の子も穿いてるのかしら?」
「・・・う・・・だ、だめ・・・」
「上も発見だわ、体操服! エンジ色のふち取りの! すごく鈴音ちゃんに似合いそう!」
「・・・ああっ・・・そ・・・そこ、ら、らめえ~・・・」
「スクール水着! 昔のタイプね! 孝志の同級生が確かこんなんだったわ!」
「・・・・・・」
モウヤメテ! ワタシノナカノ孝志ノライフハゼロヨ・・・
「・・・ソ、ソレハ・・・オソラク資料トシテ買ッテタノデハナイデショウカ?」
「・・・資料って、何の? 孝志はべつにアパレル業界の仕事には就いてないよ?」
「イヤソノ・・・絵トカ、描クノニネ?」
「・・・そういえばあの子、時々モエ? 萌え絵っていうの、描いてたわねえ・・・
ふ~ん・・・鈴音ちゃん、詳しいのねえ・・・・」
「ソリャモウ・・・アハハハ・・・ハ・・・」
「なんだ、全部着替えあるじゃないの! よし! 一緒に入ろう!」
「ア・・・ハア・・・」
呆然としている間に
ずるずると、なすがままにお風呂場に連れ込まれる私
「・・・・・・はっ!」
我に帰った。
「あっ! じゃじゃじゃじゃあスク水! スクール水着を着て入ってもいいですか? お、お背中お流ししますからっ!」
「え~べつに女同士、裸の付き合いで構わないでしょう?」
「ごご、ごめんなさい! わたし、こういうの、駄目なんですっ! ・・・その・・・慣れて・・・なくて・・・ごにょごにょ」
学校の修学旅行や林間学校とかでも、いつも時間ずらして人の少ない時に入ったりしてたし、
それも隅っこの方で必死に気配を殺してたし
「う~ん・・・ま、あんまり無理強いするのも悪いねえ・・・よし、それで行きましょう、鈴音ちゃん」
「・・・ご、ごめんなさい・・・お母さんが、嫌とかじゃ・・・ないんです」
「わかってるわよ!・・・鈴音ちゃん、貴女がわたしを嫌ってないってことぐらいは、わかるわ
・・・うん、先に入ってるから」
あ、なんか・・・ちょっときゅんと、来ちゃった。
「・・・ありがとう、お母さん」
「・・・じゃあ、先に出て用意してるから、ゆっくり出てきなよ~」
「あ、は~い!」
母の背中を流し終え、母が出て行ったあと
最後にスクール水着を脱いで、ざぶんと風呂桶に浸かった。
「・・・ふ~・・・」
落ち着く、この感じ
「・・・まさか、生まれ変わってまで我が家のお風呂に入るなんて・・・思わなかったな・・・」
なんか複雑な気分、でも、悪くない
「・・・はっ! いけない、早く出ないと」
感慨に浸るのはやめて、手早く身体を洗い流した。
そして、お風呂から上がって・・・
「・・・うっ、そうだった・・・これを・・・着ないと・・・」
どうあがいても、選択肢はそれしかなかった。
パンツだけはなぜかいっぱいあるんだけど・・・
派手目なのが多いが、できるだけ地味目なのを選んだ。
「・・・わ! これ、スケスケだ・・・あわわ! これなんか、穴があいてるじゃん!」
際どいのが殆どで、布面積が異常に少ないのもあったが、嬉しいことに清純派っぽいのもあったので助かった。
人の趣味は様々だからなあ・・・ちゃんとしたのも中には入ってるんだろう
仕方なく、彼の、コレクションに身を包む
しかも、あつらえたようにぴったりだったりする。
「・・・まさか、生まれ変わってこれ着るとか、思わなかったな~・・・」
なんか複雑な気分・・・でも、ちょっと、落ち込んだ。
唯一の救いは、買うときXLとかにしなかったことかな・・・
「もうっ! あの、ど助平めっ! まったく・・・!」
自分で自分に悪態をつく・・・自己嫌悪とはちょっと違う気がするけど
「・・・・・・でも、これもなあ・・・よく見ると、けっこうあざといかも?」
スカートをたくしあげて、洗面台の鏡を見つめる・・・
やっぱ若干アダルト感があったので装甲を一枚追加、ブルマも装着した。
普段のが子供っぽ過ぎるのかもしれないのだけれど・・・
結局、制服の下は体操服フル装備だ。
ブラも汗だくで気持ち悪くて外しちゃったから、生身で上セーラー服だけではちょっとこころもとなかったし
がらら・・・
「あっ、お待たせしましたっ!」
「あ~、まだ用意終わってないからゆっくりで良かったのに・・・って、やっぱりかわいいわねえ!
セーラー服も、すごく似合ってるわよ~もうっ! 鈴音ちゃんこのままうちの子になっちゃってよう~」
ぱしゃっ! ぱしゃっ!
なんかいっぱい写メ撮られてるし・・・は、恥ずかしい・・・
「いやあ、はは・・・またこの服も洗って返しますから」
彼的には洗わない方がいいのだろうか? と、一瞬ふと思ってしまったが、今の私は到底そんな気分にはなれない。
思いっきり、完璧なまでに新品のように洗って返してやろう、と心に固く決めました。
母を待ってる間
クーちゃんはもう余裕の態度で
私の目の前でコロコロ転がってたので腹を撫でまくってやってた。
しかしいざ猫用のキャリーケースにクーちゃんを入れるのには苦労した。
決して目の前にケースを見せてはならないのは分かってはいたのだが
あやつめ、雰囲気で察して逃げ出しやがった。
結局ひっ捕まえて強引に入れることになったのだが
ケース入口で手足を踏ん張られてなかなかに手こずらせてくれました。
・・・まあ気持ちはわかるよ
大抵キャリーケースに入れられるときはロクなことがないからねえ・・・
予防接種とか病気した時に手術されるとか、
大勢に取り囲まれて、きっとショッカーに改造される仮面ライダー1号のような気分なんだろうなあ・・・
それでもなんとか強引に押し込み観念してタクシーで運ばれて行った。
私も急いでタクシーを追いかけ・・・ようとしたのだが
猫の餌は前かごに・・・猫のトイレは荷台に載せてくくりつけたんだけど
これがまた機動性がガタ落ちで
「よっこいしょ!」
足を大きく開けて跨いだのだが・・・
がす!
「あわわ!」
またがる時、トイレを足に引っ掛けてコケそうになった。
「んぎぎ!・・・ふう~・・・・・・っ!?」
なんとか踏ん張って立て直したんだけど
視線を感じたので振り返ると通行人さん(男の二人組)がこっちを見ていた。
で私と目が合ったあと、両人に速攻目を逸らされた。
「・・・あ、あはは・・・どぅもお~・・・」
愛想笑いで誤魔化してはみたが・・・先ほどの一連の流れを振り返ってみると・・・
・・・もしかして、もしかしたらパンツ見えたかもしれない・・・?
いや、ブルマ穿いていたからギリギリセーフ?
まあ、サービスということで?・・・気にしない・・・でおこう・・・うう・・・
「・・・・・・YES! エンジ色ブルマ」
「らっき!」
聞こえちゃったYO! もっと小声で言ってよ!
半分涙目で自宅まで自転車を漕いで
自宅からは歩いて病院まで行った。
病院の前までクーちゃんの入ったキャリーケースとケージを取りに行った。
そのまま猫を病院内に持ち込むワケにもいかなかったから。
本当は母の荷物運びを手伝いたかったんだけど、断念。
またすぐ来ますとだけ言って別れた。
そして、我が自室に到着
これでとりあえずは納車・・・もとい、納猫完了!
思わずニンマリしてしまいました。
「クーちゃんっ!」
がしっ!
抱きしめて頬ずり
彼女(この子はメス)はそのまま肩によじ登って来て
肩乗り猫になった。
「ユパさまっ この子私にくださいなっ」
冗談を言いながら両手を広げてくるくる回ってみた。
クーちゃんは景色が回るのを首を動かしながら見続けていた。
降ろしたら、ふらついてコケた。 私も目が回った。・・・調子に乗りましたごめんなさい。
しかし相変わらず可愛すぎる・・・
この子は日本猫とチンチラシルバーとのハーフ母と
チンチラシルバー父とを親に持つ子供で、つまりはチンチラシルバー75%猫なのです。
短毛ではあるものの灰色の細かく柔らかい毛並みと
ペルシャ独特の潰れ顔をちょっぴり継承してて
しかも手足は短くちっこくて、パッと見アメショーにも見えるけど模様はトラ猫で・・・
とにかく、すごく可愛いのである。 どストライクバッターアウトなのです。
「あ、そういえば、実は私もクオーターなんだよ? ヲタじゃあなくて」
嘘だった。 後ろの方が
とりあえず、クーちゃん奪還作戦は成功しました。
「さて・・・母さんにちゃんと挨拶だけはしに行っておこう」
部屋に猫を残して病院へ戻ることにした。
めずらしそうに部屋を探索していたから、しばらくは放っておいても構わないだろう
・・・破壊活動さえされなければ、だが・・・
嬉しそうに笑顔で玄関を出ると・・・
春菜と、バッタリ会ってしまった。
『あっ・・・』
二人、同時に声を出す。
そうか、ちょうど下校時間だったのか・・・
しかしこんな・・・ちょうど玄関先で出くわすなんて
『・・・・・・』
気まずい、空気・・・
先に声を出したのは、春菜の方だった。
「・・・ご機嫌ですね、どこ行くの?」
・・・しまった。
「・・・・・・えと、病院の、方に・・・」
「・・・・・・今、クラブでどういう状況か、わかってる・・・よね?」
「・・・・・・うん」
流石に、はしゃいで出てきた所を、今の春菜には見られたくなかった、な・・・
「べ、べつにボクはええんやけどな・・・いや・・・
・・・・・・・・・やっぱり、良うないっ!」
「・・・春菜ちゃん」
「鈴音が、なんで辞退しようとしとんのかボクにはようわからんっ! 話してくれへんし・・・
けれど鈴音のことやからなんかどうしようもない事情があると思うてた。
先輩たちの怒りを買うてまでもせないかん事情が・・・それやのになんやの?
その嬉しそうなはしゃぎようは?」
「え、えと、これはっ・・・」
困った、この後の言い訳が、出てこない
「二年の・・・ある先輩に、言われたんよ」
「・・・えっ?」
「鈴音なんかにはもうやらせへん、あいつはもう三年になるまでずっと補欠だ!って・・・
そんで、ボクに鈴音の代わりをやれって・・・」
「・・・・・・そう、なんだ・・・」
思ったよりも先輩たちとの亀裂・・・軋轢は深刻だったみたいだ。
たぶん、そもそも大抜擢された時点で一部の人達から疎まれていたんだろう・・・
それなのに、更に神経を逆なでるようなことをしたから
「えへへ・・・仕方ないね・・・」
どうしようもなかった。 とりあえず笑顔で取り繕おうとしてしまった。
「なによっ!それはっ!?」
ビクッと身体が強ばってしまった。
春菜の大きい声、それにいつもと・・・違う
「ボクはっ鈴音が代役とはいえレギュラーになったのが嬉しかったのにっ!
ボクと一緒じゃなかったのは、そりゃ残念だったけど・・・でも!
絶対その経験は生きるから・・・三年生が引退したら
ボクら一年でも、鈴音と一緒に頑張ったら絶対にレギュラー取れると思って・・・
なのに・・・二年生に嫌われたら・・・もう、駄目じゃんか!」
春菜・・・そんなに、真剣に考えながら取り組んでいたのか・・・
なんだか凄く申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「あ、でも・・・春菜ちゃんはそしたら試合に出れるし
それに、今後も私と組みさえしなければチャンスは・・・」
「ふざけんなっ!」
「ふえっ!?」
なんか泣きそうになってきた・・・なんで?
「ボクは!・・・鈴音と一緒だから入部したんだっ!
なんでそんな・・・こと・・・言うんだ・・・よ」
・・・!
「は、春菜ちゃ・・・あ!」
ダッ! と春菜は駆けていった。
今度は、春菜を泣かせてしまった・・・
目にいっぱい涙を溜めていた。
みゆき先輩に引き続き・・・
「・・・・・・・・・なん、で?」
なんでこう裏目裏目に出てしまうのか・・・
私が悪いのかな・・・運が悪いだけなのかな・・・
なんとかしようと最善を模索してるつもりなのに・・・
なんで?
ぽたぽたと地面に苦い水滴が落ちていた。
昨日から、いったい何回泣いてるんだろうか?
春菜も・・・みゆき先輩も・・・部長も・・・
私のことを気にかけてくれてたのに・・・
その結果がこれなんて・・・
もうやだよ・・・こんなの・・・
「あ・・・病院・・・行かなきゃ・・・」
とにかく、母さんに会おう・・・
そして挨拶だけ済ませて、もう今日はすぐ寝よう
明日からは、しっかりしよう・・・
もう部活のことはしばらく忘れて
彼のお見舞いと、あとは医師になるための勉強をがんばろう・・・
今の私には、これくらいしか思いつかなかった。
とにかく、今は・・・病院に着くまでに、泣きやもう・・・
じりりりりりりりりりりりりりりりりり
「・・・・・・・」
りりりりりりりりりりりりりりりりりり
「・・・・・・う~ん・・・」
りりりりりりりりりりりりりりりりりり
「・・・う~・・・・・・」
りりりりりりりりりりりりりりりりりり
「・・・うっさい!」
りりりカチッ!・・・りんっ・・・・・・
聞き慣れない、煩わしい音の発信源を止めてやった。
まあ、ただの目覚ましなんだろうけど
「・・・あれ? ・・・ここは・・・?」
天井を見た。
知らない・・・天井・・・ではないな
記憶にある、確かに知ってる・・・自分の部屋の天井だ。
「・・・よな?」
でも、なんだろうか? この違和感は
「デジャブ・・・じゃないよなあ・・・」
「・・・ん?」
今度もまた違和感
自分の声だけど、自分の声じゃない気がした。
「・・・???」
よくわからなかった。
自分の手を見た。
細くて瑞々しくて、なんだか華奢だ。
両手を握ってすりすりしてみる
まるで、女の子のような・・・?
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・うわっ!」
そうだった、僕は・・・
慌てて起き上がって姿見を覗き込む。
「・・・・・・・・・・・・僕は・・・女の子に、生まれ変わっていたんだ!」
「・・・って、あれ?」
しかし、そんなことは一昨日から分かっていたことだ。
今更なんでこれほどの違和感を感じているのだろうか?
再び鏡をじっと見つめる
・・・確かに、
今までもまったく意識してなかったこともないんだけど、
改めてじっくり見ると・・・
「これは、かわいい・・・かも」
「・・・そっかあ、こんな未来のカタチも、あるんだ・・・」
自分で自分を見ながら顔が赤くなった。
「う・・・な、なんなんだ、この感覚は?」
身体がふわふわする、軽い・・・
動くたびに髪の毛が顔にまとわりつくけど、
サラサラしててぜんぜん嫌じゃない
むしろなんか、良い匂いがして心地よかった。
・・・いや、マテ!
「ちょ、ちょっと落ち着こうか!」
鏡を見ながらそう自分に言い聞かせた。
「僕は・・・山桃 鈴音、中学一年生の12歳、今年で13歳になる予定の女の子」
「ウチで経営してる山桃総合病院の院長の娘、だ」
何も間違ってないと思う
べつに自分が彼になってしまったワケじゃない
鈴音の記憶はちゃんとしっかり残ってる・・・
「・・・あれっ?」
鏡を見ていて気がついた。
確かに小さい頃は、そうだったんだが・・・
大きくなるにつれてあまり目立たなくなっていたのに・・・
「瞳が・・・ちょっと、青みがかって・・・戻ってきてる?」
僕の母は外人さんとのハーフだった。
母は見事な金髪碧眼で、自慢じゃないけれど凄く綺麗な人だった。
普通は白人の方が劣性遺伝で特徴としては出にくいはずなのに
どうやら日本のDNAに打ち勝ってしまったようだった。 さすがメリケン?
その遺伝子を僕も多少受け継いでいる
だから子供の頃は青い目をしてたんだけど
メラニン色素の沈着がどうのこうので年と共に色濃くなって来てたんだ・・・けど
まあ、じっと見ないとわからないレベルだし、これくらいなら問題はないだろう
「若返った・・・ワケでもなさそう・・・だけど?」
身体を見渡してみる、背が縮んだ様子はない。 もともと小っこいんだけど
「・・・!っ」
「まさかっ、もしかして・・・しぼんではないだろうかっ?」
気になって、パジャマの前ボタンを外し・・・
手で触れながら・・・胸を・・・見た。
・・・ふにゅっ
「・・・・・う、わわわわっ!!」
慌てて仕舞った。
どきどきどきどきどきどき・・・
動悸が、収まらない
顔が真っ赤だ。
「・・・・・・動悸がドキドキ、どうきドキ!(はあと)」
「・・・・・・こほん!」
・・・いや、こんなつまらない駄洒落を言ってる場合じゃない。
・・・・・・いちおう、見た・・・限り
しぼんではいなかった・・・と、思う・・・
たぶん、その辺りは問題なく・・・順調・・・いや、
むしろ近年は快進撃と言っても過言ではない。
しかし、この手に残ってる感触・・・
と同時に、触られた感覚が・・・胸に・・・も
・・・まだ、少しドキドキしている
「どうしちゃったんだ・・・僕は」
・・・?
「・・・あれ?・・・・・・僕?」
なんだか、おかしい
自分の身体を見て、なんでこんなにドキドキしてるんだろうか?
小さい頃から見慣れているハズなのに
「そういえば・・・確か、彼は・・・中学生の頃は・・・
”俺”じゃなく、”僕”って・・・言ってた・・・ような?」
つづく