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Ⅶ 亡念への一糸





「ラフ&スムース 第三章」





「それじゃあ、姉さん」


「だっ、駄目っ! 行っちゃ駄目だ! 水無月っ!」


「………………


…………もうっ! 

心配性だね、姉さんは。

大丈夫だって! ……えへへ! 

これでもわたし、天才剣士って言われて”風刃”にも認められたんだよ。

大婆様にだって、”先代を超えた”って褒めてもらえたし……

だから、ちょちょいのちょいで片付けて

ピューっと行ってピューっと帰ってくるだけだってば!」


「貴女はっ! …………貴女は、

私を護る為にいるんでしょ!?

だったら! 私から……離れちゃ……駄目だっ!」


「…………姉さん。

わたしはね……姉さんはもちろん、

姉さんや真歩を含む

みんなを護る為に、今から行くんだよ。

ここでただ指をくわえて見ていたら

きっと、それができなくなる。

……だから……」


「わ……わたしが、不甲斐ないばっかりに……」


「それは、違う。

だって姉さんは今、”深山日影”なんだから。

責任を負う必要はまったく無いんだよ」


「でもっ! でもそれは今までの話で!」


「……まだ、わたし

やり残したことが、あるから!」


「……水無月?」


「だから、必ず帰ってくるよ!」


「……ぐすっ……

だ、だから、それは駄目だって……前から言ってるじゃない……」


「えー? ……そこは私のモチベーションを

一気に爆上げする為に例え嘘でも


”じゃあ、帰って来たら、許すー!”


ってくらい言うべきところじゃないのかなあ?」


「……………………わかった。

じゃあ、……じゃあ必ず! 帰って来なさい!

けっして誤魔化したりしない! 嘘なんかじゃないから!

それまでは真歩の暴走も抑えておいてあげるから!」


「ほ、ホント!?

なんか、俄然やる気出てきちゃったなあ~!

……あっ! もちろん、真歩だけじゃなく

姉さんも自粛するんだよー?」


「あ、当たり前でしょ!?


……………………二言は、ないわ。

次期、日向家当主”日向日影”の名にかけて!


だから……!」


「…………うん。 

待ってて!


――――お姉ちゃんっ!」


「み、水無月……?」


「えへへ、一度こう呼んでみたかったんだ。

今度会うときは、もう、呼べなくなるから……」


「そ、そんなことはっ!」


「……お姉ちゃん。

お姉ちゃんの妹として居られたこの数年間、

本当に楽しかったよ。


――じゃあ、行ってくるね」








◇◆








「…………嘘つき……」








み……深山……が……!?




「…………」


「ど、どうして!? 深……み、水無月さん……は、

なんで? どうして亡くなったんですか!?」


「…………」


「せんせえっ!」


「…………ごめん、なさい。

何の関係も無い貴女に過去のことで辛く当たるなんて、

まだまだ私も人間ができてなかったわね」


「いやっ! そういうことじゃなくてっ!」


「貴女は何も悪くないわ。

単に私が我侭言っただけよ。

顧問なのに、生徒の面倒も見ずにずっと放置なんかして、

あまつさえこんな恥ずかしいところまで見せちゃって、

ホント、情けない……」


「…………」


「ごめんなさい……すぐに、戻るから……

ちょっとだけ、今は一人にしておいて……くれる?」


「……あ……う……

……………………はい……わかり……ました」


僕は、握り締めていた両拳を力なく落とす。


……今の、この現状、

僕が「山桃鈴音」という

あいつにとっては単なる一生徒にすぎない人間の立場上では

これ以上の詮索はおそらく……無理だ。


悔しいが、ここは一旦引き下がるしかないみたいだ。


でも


「…………せんせえ」


「…………なに?」


「……それでも、それでも彼女にとっては

かけがえのない大切な思い出になっていたと、僕は……信じてます!

あなたと共に、一緒に過ごした日々は……

彼女にとって一生の宝物になったと!」


「…………!」


「それでは、コートで待ってます」


そう言い残し、ぺこりとお辞儀をしその場を立ち去ろうとしたとき。


「待って!」


「…………」


「……それが、それがもし! 彼女の死が、私が原因で……

私のために起こったことだったとしても!?」


……!


どういうこと、なんだろう?

姉である日影のために取った行動が原因、なのか?

なにか、彼女に失敗があってそれを取り繕うためとか、

もしくは何かから彼女を守るため、だったとかか?


「…………」


だとしても。


「……………………貴女が、

自らの意思でそう仕向けたとかではないのでしょう?

彼女が自ら選択して出した答えの、

その行動の結果なのだとしたら……


彼女の意志を、尊重してあげてください」


「……え……?」


「それがきっと、一番の手向けとなる筈です。

彼女を、貴女の一部として

誇りを持って生きてさえいてくれれば

それで充分、供養になると思います。

貴女が後悔し続けることなんか、絶対に望んでいませんよ」


「…………」


そう、彼女、深山なら……きっと……









「……ただいま」


「山桃!」

「鈴音!」

「山桃さんっ! お、お母さんはっ!?」


「……じきに来ると思います。

ただ、今日の練習はおそらくここまでで」


「やーまーもーもーっ!」


……え?


「お母さん!」

「「日向先生!」」


も、もう戻ってきたのか!?

それって殆ど僕の後ろをついて来てたのと変わらないんじゃあ……?


「なあにモタモタしてるのよ!?

さっさとコートに入りなさい!」


「ええっ?」


「ファイナルゲーム形式で、

ワンゲームだけなら付き合ってあげる! 感謝しなさいよね!」


「ええーっ!?」


試合? 試合するのか?

今さっきまでこいつおもくそ半べそかいてなかったか?


「ひなのはこっちの前衛! 

悪いけど、そっちは山桃が後衛やりなさい!

もちろんダブルフォワードで来ても一向に構わないわ」


「ええっ!?」


「なによー? こっちだってかたやブランク持ちと

かたや慣れてない前衛でやるんだから

場合によっちゃ本来のペアで組む貴女達の方が有利でしょ?

なんか文句ある!?」


「……い、いえ!」


確かに、そうだ。

僕らは春菜が前衛、鈴音が後衛として

入部してから今まで練習を積み重ねてきた。


孝志の経験を考慮しないのなら

これがベストの力を発揮できる布陣の筈だ。

だけど、それは今までの鈴音での話だ。


本来、僕がしたいのはそういうことじゃないんだけど。



――いや、でも



「……ふむ、このスタイルで通じるかどうかも、

確かに……興味はある」


なにせ、ひなの部長とは今回限りのペア。


これから先、長く一緒に戦っていくのは春菜とペアを組んでのこととなる。


だったら春菜との組み合わせを

実力者相手に試してみるのもまた一興。


なんならチャンスと見れば前に上がって

ダブルフォワードもどきを実践してみてもいいし

鈴音のストローク力を徹底的に試してみるのもいい。


「……よし! やってみるか春菜!」


「え、やるん!? 本気で? 部長と日向先生相手に!?」


「いいじゃんか、実力者相手にするってのは

それだけで自身のレベルアップに繋がる。

だから勝ち負けは二の次……

なーんてことは言うつもりはない!

もし行けそうなら――


勝つよ! 春菜! ……ちゃん」


そう言ったか見たか

わたしのOSは切り替わっていた。



って、えーっ?



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