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ラフ&スムース  作者: 新田 やすのり
ZERO(第零章)
55/86

ラフ&スムース ZERO  ―深山三姉妹編― 陸話

今回は特に誰視点というわけではないので

ほぼ9割以上が会話形式となっております。


誰が誰だかわからないという方、ごめんなさい。

それはきっと読解力の問題ではなく

たぶん僕の実力不足が原因です。(汗)




「ラフ&スムース ZERO」





夜。


時刻で言うなれば

夜が更けた、というにはまだ少々早いが

普通の中高生ならそろそろ就寝を視野に入れるような、そんな頃合。


場は深山家リビング直下の地下室。

一部の人間以外には開示されていない、秘匿された部屋である。


そこには、三人の姉妹が集っていた。



「それでは、只今より待望の……

特に、水無月と真歩は気になって仕方がなかったと思いますが、

これより実験を開始したいと思います」


「ちょ、ちょっと待って!

姉さんずるい! 気になってたのは姉さんだって一緒でしょお!?」


「あら? 私はべつに何も気にしてませんけどお?

それよりも、気にしてるのは水無月の方でしょ?

貴女は普通にハードルクリアするだけじゃ意味がない。

今現在定められてる数字を更に上回る必要があるのだから」


「そ、それはっ! ……す、数字の多少の誤差なんて……

クリアさえしてれば問題ない!

それよりも大切なのは、モチベーションでっ!」


「……はあ……水無月、前から言っているけど

私たちの意志なんて、無意味よ。

そんなものに囚われていたら、きっと取り返しがつかなくなる」


「…………そ、それは……そう……なのかもしれない……けども……」


「みーねえちゃん。 いいからともかく実験を開始しようよ」


「……真歩」


「こんな問答、結果次第で変わっちゃうことなんだから、意味ないよ」


「……そうね、真歩の言うとおりだわ。

結果、誰の数値が最も高いか……

そもそも適正値をクリアできているのかどうかを見定めてからの話よ」


「……わかった。 誰が最も高くなっても、

お互い恨みっこなしということで。

でも、姉さん。 よくこんな簡単に手に入れることができたね?」


「あら、意外と簡単だったわよ?

あいつをちょっと挑発して

私のシュートボールを止められるか~? って話を持ちかけて

ボレーの練習に引き込むでしょお?

最初はちょい速めのボールを左右に散らせてなかなか取れない球を打って行って

あいつをムキにさせてから徐々にスピードを緩めていくの。


そしてなんとか返せる球で目を慣らせてあいつをドヤらせておいてから

いきなり最速のベストショットを正面、つまり顔面に叩き込んでやったの。

そしたら簡単、鼻血ぶーちゃんの出来上がりよん♪」


「「…………」」


「そしてすかさず、

ご、ごめんねえ~! 大丈夫だった?

って申し訳なさそうに上目遣いで近づいて

ハンカチに隠した採血装置に鼻血を吸い取らせてなんなく無事ゲット!

彼ったら、なんか顔赤くして照れながら私に礼まで言ってくれたわよ?」


「「…………」」


「どう? 簡単でしょ~?」


「「…………」」


「……な、なんか言いなさいよっ! あんたたちっ!」


「……姉さん、それって、ただの自慢話?」


「ひー姉ちゃん、酷い。 タカ先輩がかわいそうです。

先輩はただただお姉ちゃん達を目標に、

それこそ畏敬の念すら込めて日々必死に頑張っているのに……

そんなおちょくるような態度、真歩はちょっと許せません!」


「い、いや! なにあんた達マジになってんのよ!?

今回のはそういうんじゃないでしょお?

あいつの血を採取するのが目的なんだから

多少は大目に見なさいよ!」


「姉さんはナチュラルにそういう行動するから質が悪いですよね」


「真歩たちの気持ちも弄んでいることに気がついていないっていうか……」


「な、なによう! そ、そんなにあたし悪いことしたぁ!?

そ、そりゃあいつに鼻血出させたんだから

良いことではないってのはわかっているけどもっ!」



「「わかってない!!」」



「えぇーーっ!? なにがあぁーっ!?」





◇◆





「……コホン、では気を取り直して。

各自、自分の血液を入れた試験管を検査器にセットしてください」


「うう……」


「みーねえちゃん、顔色悪いよ? 大丈夫?」


「……真歩はよく平気ね……? 

血管にあんな野太い針刺されて……痛いし、

血が、びゅるびゅると抜けていくのよ?」


「えへへ、もうしょっちゅうだから、慣れちゃった。

それに、ひーねえちゃんの注射はぜんぜん痛くないし」


「いや! 痛いでしょ!? 怖いから直視できなかったけど、

めちゃくちゃ痛かったよ!?」


「え、そう?」


「ああ、あれはね、水無月だけ特別限定版の

アクロバティック乱れ打ちをしてあげたからね、超レアだから感謝してね」


「す、するかあーっ!!

……ったく、もう!

……で、でも、なんだかドキドキするね。

いざとなると、結果が知りたいような、知りたくないような……ちょっと怖い」


「それでは、ぽちっとな!」


「真歩、躊躇無いねあんた」


「ここまで来て何言ってるですか? みーねえちゃんは相変わらずヘタレですね」


「く……言わせておけば……」


「みー姉ちゃん、よそ見なんかしてる場合じゃないですよ! 機械が動き出しました!

ああ……真歩の血液が、先輩の血液と交わい混ざって一つになっていってます。

なんか、エッチです……」


「…………真歩、あんたね……」


「ほらほら! みーねえちゃんの血も混ざり合い始めましたよ?

あ! ひーねえちゃんのも! 

センパイ、酒池肉林のハーレムですうにゅう!?」


「こここ、コラ! まま、まったく! 

どどどどこでそんなこと覚えてくるのこの子はっ!」


「ちょ! いくら家だからって

”力”を使ってのアイアンクローはやめなさい水無月! 

真歩の足が浮いてる! 浮いちゃってるからっ!!」


「むえええ! にゃんだかまほわきもちよくにゃってきまひたー

あ、おばあひゃん! おばあひゃんがかわむこうでこっちをてまねきしてみてまぷう~ブクブクブク」


「駄目だって! あ! 真歩が泡! 泡吹いてるからあ~っ!!」









「……………………結果が、出たわ」


「……え、これって……」


「…………」


「全てが、同率……に…………54.……3……%…………!?

そ、そんな……筈は……っ!」


「…………」


「……残念だけど、この場にいる全員が全員、

あまりいい結果にはならなかったということになるわね」


「だ、だけどっ! 姉さん! 少なくとも私の勘はそうは言ってない!

今まで同じくらいの適合率の人と相対してもけっしてこうはならなかった!

そ、それは姉さんだって同じ筈っ!」


「結果が全てよ。 

少なくとも、私は75%以上無ければ予備としても使えないことになる。 

理想値は80以上だしね。

貴女たちでも最低ラインが70と設定されている以上、

彼を候補にするわけにはいかない。

おそらく、今までの付き合いのせいで私的な感情が

私たちの勘を曇らせていたに過ぎないのでしょう。

きっと……始めから、あいつを知らなければ同じように何も感じなかったに違いないわ」


「そ、そんなこと……」


「信じない!」


「「!」」


「真歩は、そんなの信じません! 

だって、先輩は…………

真歩が出会った時から、センパイでした!」


「…………真歩、それは貴方の成長が少し遅れていたから、

ということで説明がつくことだから」


「違うもんっっ!!

真歩に取ってはセンパイは……センパイは!

最初からセンパイだったもん!!


だったら! お姉ちゃん達だけ諦めたらいいよ!

真歩は、ゼッタイ諦めないからっ!!」


ダッと階段を駆け上がり地下室を飛び出していった。


「あっ! 真歩!」


「…………」


「……まあ、いいわ。

元々、そのための私たちなんだし、

真歩は好きに生きればいい。

……だけど、貴女はだめよ、水無月」


「…………姉さん、わ、わたしは……」


「……近く、深山宗家で”風刃の儀”が執り行われる」


「――っ!」


「もちろん、貴女にも受ける権利は与えられるわ。

――いや、義務と言い換えた方がいいのかしら?」


「…………」


「もし、貴女が選ばれた場合のことも、考えておかなければならない。

その場合、貴女は深山家次期当主の最有力候補となる」


「……わ、わたしはもう、宗家とは……関係、ない……

ここで、姉さんや真歩たちと一緒に生きていけたら……それで、いいの」


「それを決めるのは貴女じゃない。 風刃よ。 

私たちの意思なんて、意味がないと言ったでしょう」


「だったら、受けなければいいだけだよ!

宗家の人間達に、好きにさせておけばっ!」

 

「……これは、私の勘だけど

選ばれるのは、おそらく貴女だと思う」


「!? ど、どうしてっ!?

だってわたしは、才能ないって理由で、

追い出されてここに来たっていうのに!」


「そんなの、只の嫉妬だって気がつかなかった?」


「……え?」


「年端もいかない幼かった頃の貴女の剣に

大の大人達は苦戦し、ただ護りを固めて凌いでいただけよ。

余裕で受け流したなんて戯言、そんなわけないでしょ。

だったらとうの昔に貴女から一本取ってるわよ。

結局貴女には誰ひとり一本入れられなかった。

だから、貴女は姉達とは稽古すらさせてもらえなかった」


「……!」


「そりゃそうよね。 

貴女の継母は自分の子達を跡継ぎにしたいもの。

難癖つけて追い出されたのよ、貴女は」


「……だ、だったら!

もう……それでいいじゃない!

わたしはもうここの……真歩や姉さんの姉妹として」


「だから、そんな道理は風刃には通らない。

必ず、相応しい者の手にしか選ばれないの。

それが貴女だと、私は思っている」


「…………」


「だから、立場的には貴女の方が私よりも重要かもしれないわね

私は……単なる”予備”に過ぎないから」


「そ、そんなことあるはず無いでしょう! 

私達は、姉さんを守る為だけに存在する!

姉さんが”深山”を名乗っているのは……!」


「もちろん! 貴女たちと同じ立場だからよ。

それ以上でも、以下でもない」


「……っ!」


「私も、扱いは真歩とそう変わらないわ。

違うとすれば、たまたま受け入れてくれる所があったということだけ」


「姉さん……」


「ま、今回は残念だったわね

でもまあ心配しなくても貴女自身には何も問題はないわ

阿部のことはスッパリ諦めて、明日からまた候補を探せば」


「……姉さんは、それでいいの?」


「…………」


「立場が、真歩と同じというのなら

姉さんだって阿部くんを好きでいたっていいんじゃ……」


「水無月! これはそんなレベルの話じゃないの!」


「姉さん……」


「この話はこれで終わり! じゃあ、私も行くから」



日影も退出し

バタンと重い扉が締まる。


独り取り残された水無月の周りには静寂が訪れる。


俯き、前髪で隠れたその表情は読み取ることができない。

しかし、ほどなくして硬く閉ざされていた口が静かに沈黙を破った。



「…………阿部……君…………

…………なんで? 

……どうして……君じゃ……ないの?」



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[一言] 運命の人だと思ってたらそうじゃなかった!?
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