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ラフ&スムース  作者: 新田 やすのり
ZERO(第零章)
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ラフ&スムース ZERO  ―深山三姉妹編― 肆話



「ラフ&スムース ZERO」





自転車の荷台にまぽりんを乗せ

俺は目的地へとただひたすらにペダルを漕いでいた。


青春もの映画や漫画なんかではよくある荷台に乗せた女の子を

両脚を揃えて横向きに座らせるシチュってのは、

実際にやるには実に不安定極まりなく、正直言って危ないので

彼女には普通に跨いで座ってもらった。


セーラー服なのでスカートがめくれないようにひと工夫する必要はあるが

其の辺は安全には代えられないと思う。


だったら二人乗りなんかするなよ! 

という声が何処かから聞こえてきそうではあるが

今はまだそこまで二人乗りに対して厳しい時代ではなかったのです。


流石におまわりさんの真ん前でやってたなら注意されはするけれど

その程度までのことで、罰則や罰金なんかはまだ無かった頃だからね。

ご了承頂きたい。


「ふ~ふふ~ん♪ ふんふふふ~ん♪」


荷台に乗っかってる荷物ナマモノは何やら上機嫌で

どこかで聞いたような、人気アニメ曲? の鼻歌を口ずさんでいた。


「……んで、本当に身体の方はもう大丈夫なのか?」


「大げさですね~。 もう大丈夫です。

こんなことは日常茶飯事の朝飯前なので、別段気にしなくてもいいですよ~」


ええ……

日常的に頻繁に倒れているのかよこの子……

それはまったく大丈夫ではないのでは?


つか、そんなんで医者の許可って貰えんのか?

なんか心配になってきたな。


ていうか、さっきはいつもより調子悪いって言ってなかったっけ!?

いったいどっちなんだよ!?


俺は心の中で激しくツッコミを入れていたが、とりあえず黙っていた。


まあ体調に関してはこれからの朝連でも常に様子は見られるし

最終的なGOサインはかかりつけ医という専門家が判断するだろうから

俺がそこまで心配する必要はないのだろう……と思う。 たぶん、だけど。


「ところで、先輩」


「なんだー?」


「ひとつ、つかぬことをお伺いしますが」


「……ん? なに?」


テニスについて色々知りたいのだろうか?

これからペアを組んで一緒にやって行くのだ。

そりゃあ語りたいことは山ほどあるだろうな。


いいぜ、何でも聞いてやる。 お兄さんに任せなさい。


どんとこーい!


「真歩が倒れているとき、真歩のパンツ見ましたよね?」


「ぷぶっ!?」


「…………やっぱり!」


「なっ!? い、いや! 見てないぞ!?」


「……スケベ!」


「い、いや! いやいや!! いやいやいや!!! 

ホントの本当に見てないからねっ!?」


「目が泳いでますよ、センパイ」


「荷台に乗ってて何でわかるんですかねっ!?」


「ふふーん、乙女の勘です! ……というのは冗談で、

だって! 声かけられた時、お尻の方から声が、聞こえたし……」


「あ、あれはたまたまそーいうポジションだったってだけで、

なんにも他意は無いですから!」


「……本当ですかあー?」


「ほ、ホントにホント!」


「……で? 色は何でした?」


「白!」


「あーっ! やっぱり見たんだあー!」


希望的観測を言ってみただけだったのだが、見事的中してしまったようだ。


「いや! 見てないぞ!」


「目が泳いでますよ、センパイ」


「…………」


「あ! ついに黙りましたね? 黙秘権を行使しますか? 

カツ丼食べますか? 故郷の家族に申し訳ないと思わないのか? 

お前の親は泣いてるぞ! さあ吐け! 

正直に吐いてすっきりしちまえー!」


後ろから両手で俺の首をぎゅうぎゅう絞めながらノリノリで言うまぽりん。

せめてガクガクと首を揺らすのだけはやめて! 事故るから!

ぐぬぬ! そんなに言うなら吐いてやろうじゃないか。


「ぐえ! ……いや、確かにもうちょっと屈めば見えそうだなーとは一瞬思ったよ?」


「……うぐっ?

……………………」


ありゃ、正直に話したら、なんか黙っちゃった。


「……綺麗な脚だなあとは思ったけど、

あの時はまぽりんって気がついてなかったからな。

それに倒れてる人をどうにかしないとってことで頭が一杯だったし」


「…………き、きれい……」(ぼそっ)


「え?」


「……そ、それって、倒れてるのが真歩だってわかってたら

覗いてたってことですか?」


「いや、それは無い」


「ええっ!? そんなに真歩のパンツには魅力が無いですかあっ!?」


「…………あ、いや、そうじゃなくて、

たぶん……最初からまぽりんだとわかってたら

俺はその場で速攻で抱き起こして介抱してたと思うぞ」


「っ!」


「だって目の前で大切な知り合いが倒れてるんだぜ?

見ず知らずの人間とはやっぱ事の重大さが違うよ。

まあ、見ず知らずの人には悪いんだけど」


「…………た、大切……って、どのくらい……?」


「……え? あ、ああ……もちろん、

何を置いてもくらいには大切だぞ」


「…………それなら、仰向けに倒れていたら、良かったです」


「はは、まあそんな器用に倒れられるなら、次からは頼むよ」


「はい! 頑張ります!」


頑張る方向が微妙におかしい気はするが、まあいいか


「……で、結局、真歩のパンツは見たいんですか? 見たくないんですか?」


「あれっ!? そういう話だったっけ!?」


「ここまで来たら真歩のコカンに関わる話ですから!」


「……それを言うなら”沽券コケン”ですよね、まぽりんさん」


あながち間違ってはいないとは思うが。


「…………」

「…………」


しばし訪れる無言の時間。

運転中で前を向いててよくわからないが

荷台の彼女の表情がみるみる変わっていってるのは想像だに難くなかった。


やな予感。 言わなきゃ良かったかも


「……まあ、その、落ち着け、まぽり「ぎゃあああ~っ!! 心中ですうー!!」」


今度は殺されるかという勢いで首が絞まってきた。


「うおお! やめ、まぽりn! ギブ! ギブー!」



そんなこんなで、どうにかトカプチ食料品店に到着。

無事(?)に大判焼きをGET。


まぽりんにはついて来てくれたお礼も兼ねてたこ焼きを奢った。

感激しながら美味しそうに食べてはくれたけど

結局全部は食べ切れなかったようで

残りは俺が処理させていただくことになった。

やはり普段運動してないから若干食が細いのかもしれない。









復路は割と淡々とペダルを漕ぎ進めることができた。

往路と違い、あまり会話も弾まなくなり

まぽりんの口数も減ってきて

到着間際には二人とも殆ど押し黙っている状況となっていた。


まあ、俺と会話なんかしても

そうそう面白い話題ばかり振れるわけでもなく……

正直飽きてきてしまったのだろう。


基本的に俺、陰キャだし。

どうすれば場を盛り上げれるかなんてイマイチよくわかんねえしな。

テニスの話でもすればまだ少しはマシだったのかもしれんが……

そんなこと後悔しても、今更だ。 


ほどなくして到着。


校門前で一旦停止した。


「着いたぞ、今日はすまなかったな。 しょうもない用事に付き合わせて」


「……センパイ、先、行っててください」


「ん? どした?」


「いいですから。 真歩もすぐ行きます。

あと、ふたり一緒に行って冷やかされるのもアレですし」


「……?」


「女の子には色々あるんですよー」


「あ、ああ……」


まぽりんにしてはめずらしいことを言う。

普段そんなこと気にしないというか

逆に見せびらかすくらいなのに

なんか取ってつけたような言い訳に聞こえた。


……あれ? もしかして……?


「ん……、まあ、そうだな。

……わかった。 じゃあ先行くな」


「はい。 お願いします」


そう言って校門に入った所で自転車を停め

彼女の様子が気になった俺は門柱からそっと覗き込む。


予感的中。

彼女はうずくまっていた。


「ほままやみー、ほままやみー……痛いの痛いの飛んで行けー……」


うずくまったまま、なんだかよくわからない

ヘンテコな呪文のようなものを唱えていた。


「まぽりん!」


「っ! お願い! タカ先輩、こっち来ないでください!」


駆け寄ろうとしたら拒絶されてしまった。

けれど、流石に放ってはおけない。


「だ、大丈夫か!? だっておまえ、顔真っ青だぞ!」


「…………大丈夫です。 ……ちょっと、酔っただけです」


ええ!?

自転車で乗り物酔い?

マジかよ。


「……ちょっと、今日は調子悪かったので……

普段は、こんなことないんですが……」


「やっぱ調子悪かったんじゃないか!

なんで付いて来ようとしたんだよ?」


「だって、どうしても行きたかったんだもん……」


「…………」


べつにペアを組みたいって話なら

無理に買い物なんかに付き合わなくてもできたのに……

なんでわざわざ……


「いいですから、先輩は大判焼きを届けてきてください」


「でも、こんな状態のまぽりんを放っておいて」


「放っておいてください! ……はやく!

真歩の中に封印されし邪悪で強大な魔力が、暴走を始めています!」


「え? 何を言って?」


「あ、もう駄目だ」


「な、何が駄目なんだ!?」


「早く離れて! 今から真歩は真歩最大最強の奥義、

極大破壊魔法を……行使します!」


「……は?」


「ほままやみー、ほままやみー……」


またヘンテコな呪文を唱えだした。


「もう知りませんからね! 離れてくれない先輩が悪いんです!」


「ちょ! 待て! 待つんだまぽりん! いったい何を!?」


何をしようと言うんだ!?


「うっ! もう……止まりません! ひ、必殺う!」

 



『バースト・イントゥ・イラァプションンンンッッ!!』




「…………」

「…………」


「……………………

……あ、あの……まぽりん……さん?」


「……うぷ!」


「うぷ!?」



「ヴおえええええええええ~~っ!!」



「う、うおおおおっ!?」


びちびちびちびちびちびち……


「…………」

「…………」




――――バースト・イントゥ・イラァプション




それは”突然の火山の大噴火”を意味表現するに相応しい。

まさに禁忌とも言えるであろう

悪魔のような極大破壊魔法なのであった。


つまりゲロ。



うん、どう考えても

学校のアイドル的美少女の放つ技じゃねえですよねーこれ。


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