Ⅲ ドッジボレー?
この度、おかげさまで総合評価が200ポイントを突破いたしました。
皆様本当にありがとうございます!
「ラフ&スムース 第三章」
「まあ山桃プロにはその辺はまた今度、特別講演会を開いてもらうとして……」
いやいや、開かねーよ先輩!
男心の解説とか、すればするほど鈴音がビッチ認定されちまうだけじゃねーか!
「……で? 使えるのか? それは」
「……あ、ああそうっすね……まだ見てないのでなんとも……」
じいいいいっと、ちょっとかび臭いラケットカバーのジッパーを開けてみた。
「……あ! TS-6300……REXPLAYか……懐かしいな」
「へえ~…………わかるん? 鈴音?」
「ああ……まあ、これは使ったことは無いけどな……
僕の使ってるセピアロンと同世代のラケットなんだけど
こっちは純粋なウッドラケットなんだよ。
当時もそれなりに使い手は多かったから、
まあそんなに珍しいってほどじゃあない」
「……まるで体験してきたような言い方をするんだな、山桃」
「あっ! ああいやいや!
親戚のおじさんにちょうどこの年代の人がいるんで
僕が軟式テニス部に所属してるって言ったら、
いろいろと教えてくれたんですよっ!」
とっさに考えたが……どうだ? ツッコミどころも無い完璧な言い訳だろう?
「…………”軟式”って……おまえ……
そこまで親戚のおっさんに染め上げられているのか?」
し、しまったあああああっ!
「……や、やだなあ先輩、おじさんが軟式軟式言うから、
ちょっとうつっちゃっただけですようっ!」
そう、今や”ソフトテニス”が正式名称であって”軟式テニス”なんて言ってたのは
もはや遥か昔の話なのである。
「とっ、とにかく! ……これなら確かに若干の打球感の違いはあるだろうけど
製造年代もメーカーも同じだからそう差異は無いはず……見た目は結構ボロいけど……
見た感じフレームそのものは曲がってはいないようだし……いけるんじゃないかな?
ちょっと太くて重いけど……たぶんこれ、別注だな」
「ふむ…………だとすると、以前の持ち主は、前衛かな?」
羽曳野先輩が話について来てくれた。
「まあいいじゃないか、前衛向きのラケットでも。
今回おまえは部長のペアなんだからな
オールラウンドプレーヤーの部長だけど、メインは後衛だからな
みゆきも身長がそこそこあるし反射神経いいから前衛主体でやってたし……
…………ん? そういやお前はかなりチビっこいな、反射神経はともかくとして」
「う……ま、まだ成長期なんです!
……たぶん、これから竹の子のようにビュンビュンと……」
「それはともかくとして」
あっさり流された。
まあそりゃそうか、いくら今から成長したとしても
試合には間に合わないしな、本当に竹の子のように伸びたら話は別だけど。
「おまえ、前衛はいけるのか? 確かにスマッシュは威力ありそうだったけど」
「あ、はい……たぶん、ですけど」
「そういや鈴音の前衛って今まで見たことないけど、大丈夫なん?
普段の練習じゃボクが前衛で鈴音が後衛のスタイルでやってたけど……」
「ま、なんとかなるでしょ」
春菜は知らないだろうが
一応、孝志は前衛が主なポジションだったからね。
ファーストサーブは速いが入る確率はそれほど高かったわけでもなく
フットワークがいまいちだった為だろう
正直、スピード・パワーばかりを重視して
戦略とかコントロールは二の次だったような……気が……?
「……ちょっと、ネット際に立ってみろ」
「……へ?」
「いいから、ほれ!」
「あ、はい」
言われるがままに羽曳野先輩がいるコートの反対側コートのネット際に立ってみた。
「いくぞー!」
「……えっ?」
サービスライン付近に羽曳野先輩
横にはボールがいくつか入った籠があった。
「……ふんっ!」
ばこーーっん!
びゅおっ! (ちゅいんっ!)
「……?」
……今、何かが頬をかすめて……いった、ような?
「なにやってんだー! ほれ、次!」
「……ふんんっ!」
ばこーーーんっ!
びゅおっ!
今度は、目の前に、真っ白な……?
「う、うおおっ!?」
びしゅーーーーん!(ちゅいんっ!)
「あわわっ」
どてっ!
コートに尻餅をついてしまった僕。
「…………」
見上げると、先刻までそこに僕の顔があったはずのその空間には
はらはらと、数本の髪の毛が滞空していた。
頬にかかる自分の髪の毛をつまんでみる
「…………」
長さ的に、僕のと一緒っぽい
「……ちっ」
今、「ちっ」って言った? 「ちっ」って言ったよね?
「あのなあ山桃、ドッジボールじゃないんだから、
躱してりゃいいんじゃないんだぞ? ほら、ちゃんと構えろよ」
「……あっ、そうか!」
……なるほど今の「ちっ」は行動の趣旨を理解してなかった僕が悪いんだよな
羽曳野先輩は早く僕を部の戦力にしようと気を使ってくれ……って?
「ふんんんっ!!」
ばこおーーーーーーん!
「わああ~っ!!」
びしゅいいいーーーーーん!!(ちゅいーーん!)
まだ構えてないですうう~もうちょっとゆとりが欲しいですううせんぱいいいい!!
「……ちっ、今のは……惜しかったな」
「…………」
……やっぱぶち当てる気満々だったんじゃん!
いじめっこめ
◇
パコーン!
「やっ!」
パン!
パコーーーン!
「はっ!」
パン!
パコーーーーン!!
「うりゃっ!」
パンッ!
パコーーーーーーン!!
「たありゃっ!」
パンッ!
「…………なんだ、結構前衛もいけるじゃないか、山桃」
「にへへ、そうでしょう?」
あれから、ちゃんとラケットを構えてからは
僕は羽曳野先輩のショットをことごとく撃ち落としていた。
まあほぼほぼ正面に近いものばかりだったからやりやすかったんだけどね。
つか先輩、僕の顔面狙いすぎ!
「む、むう~……、鈴音、もしかしてボクよりもボレー上手いことない?
なんか、ちょっとショックやわ~……」
「あ、いや、たまたま上手く行っただけだって!
そんなに難しいコースとかやってなかったろ?
春菜も日ごとにどんどん上達してるからこれくらいすぐ追い越せるって」
前世でやってたから年季が違う……とは言えないしな。
それに言ってることもまんざら嘘でもない
春菜はセンスは十分に持ち合わせているから
本当にこれくらいなら近いうちに余裕でできるようになるだろうなと思う
「……ちっ! なんか面白くねーな。 調子もよくねーし」
いや、ちゃんと返せたんだから
そこはちょっと褒めてあげてよ!
褒めると伸びる子なんだからさ僕はっ
「まあ、そろそろ来る頃とは思ってたんだけどな……」
先輩はお腹に手を当てて呟いた。
「……?」
「あ! そういや山桃、お前ロキS○ニン持ってないか?
医者の娘なんだから、それくらい簡単に手に入るだろ?」
「……? いえ……持ってませんけど? ……先輩、どこか痛めてるんですか?」
でも確かアレって15歳以下には推奨されてなかったはずだけど?
「腹が痛えんだよ…………ち、しゃーねえな、市販薬で我慢するか」
「……? お腹痛いんでしたら、痛み止めよりもトイレ行くなり、胃腸薬の方が、いいんじゃ……?」
「あー、…………なんだ、山桃はまだおこちゃまだったか、いや、わりいわりい!」
「…………?」
……………………
………………
…………
……
あっ!
「あ! その…………すみませんっ! 察しが悪くて!」
「いや、いーよいーよ、そんなに重い方でもないし」
腹って、そっちの方だったか
そういや、鈴音はまだだったな……
「…………」
なんとなく、首を下に向け自身の身体を見下ろしてみた。
……胸の方はもう結構膨らんできてるから、
そろそろこっちの方も、いつなってもおかしくない時期ではある、のか……
…………って、僕が……生理!?
なんか、想像つかないんですけど!
でも、一応今世では女の子だしなあ……
来ないなら無いで、逆に色々まずいんだろうしなあ……う~ん……
下腹部に手を当て、ちょっとだけ物思いにふける。
そうか、今世ではこの中で子供を作ることが可能になっちゃうのか……
そういう器官がこの中には入ってるんだよな……
なんだか、不思議な感じがする。
とはいえ、どのみち相手がいないと作ることができないのは
男も女も同じなわけだが……
「…………」
……って、相手!?
やっぱ……この場合、相手は男になるん、だよな?
まあ、そりゃそうだよな
余計に想像つかんな……
なんせ、元男だった記憶があるんだ。
ホモじゃん!
いや、身体は女だから、精神的にってことなんだけどさ!
「…………」
ぶるるっ!
考えただけで、なんかちょっと寒気がした。
しかし、孝志もそうだが、鈴音も一人っ子だから
やはりというか、当然跡取りは必要になってくるのか……
僕がずっと独り身でいたらやっぱ、パパさん悲しむんだろうかなあ?
それはそれで、ちょっと困るなあ……
「…………」
…………ん? 孝志?
そういや……あいつも独り身か……
で、やっぱあっちの母さんも、孫の顔が見たい…………と……
「……………………」
い、いや! いやいや! ないない!
確かに見知らぬ男とかよりかはなんぼかマシかもしれんが、やっぱそれは無いわ!
……ま、まあいい! 深く考えるのは今はやめておこう
とりあえず、生理に関しての対応は鈴音OSの方に任せよう!
僕の時に、ならなきゃいいんだけなんだけどな!
今のところ、二分の一の確率だけど。
「まあ、そういうわけだからスマンがあたしはちょっと抜けて休憩させてもらうわ
日向部長もまだ姿が見えないし、適当に春菜とでも練習しててくれ」
「あ、はい! ありがとうございました!」
プップーッ!
不意に、後方から自動車のクラクション音が聞こえてきた。
「やほーい! 山桃~! それじゃあ行くわよ~!」
真っ黄色の車体。
ちゃんと手入れされてるのか、そのボディはピカピカと輝いていて
空の景色も写り込むほどに綺麗で、なかなかにカッコ良かった。
まあ、そんなに高級な車でもないのだが
でも僕は結構好きだなあ、このSUSUKIのコンパクトスポーツカー
ズイフト・スポーツ
(お、いっこ前のノンターボモデルの方か……なかなか通だな)
もちろん、運転席に乗車していたのは日影だった。
ちなみに学校の教員用駐車場は校舎の裏側にある。
学校入り口からそこまでは、テニスコートの横を道が通っているので
車で通勤するなら必ずここを通る必要があるわけだ。
コートの金網越しに彼女は車を停車させエンジンを切り、
窓から顔を出してこっちに来いと促していた。
「鈴音~! 日向先生が呼んどるよ~!」
フェンス側にいた春菜がネットまで駆け寄ってきて、そう言った。
「ああ、うんわかってるよ……さんきゅ、春菜」
僕は他の部員にコートを明け渡し
フェンスに寄って行った。
それに気づいた彼女は、フェンスに設置されてる出入り口からコート側に入ってきた。
「……おいおい、まだ部活終わってないのに……あんたはもう帰り支度済んでるのかよ?
ホントに生徒に投げっぱなしだな……事故とか怪我とかしたらどうするんだよ? まったく……」
「ぶー! また口が悪くなってるよ山桃ちゃん! いちおー私せんせーなんだから
せめてTPOくらいはわきまえてよね~」
「いや、なにも間違ったことは言ってないと思いますけど?」
不良な先生にはこれくらいの暴言は許されると思うぞ、たぶん
「もう~、だ~いじょうぶよ~、そろそろ部活も終わりだしウチの部にはしっかり者の
ひなのちゃんだっていることだし、何かあったらすぐ対処してくれるわ」
え…………しっかり者? 誰が……だって?
そもそも未だに姿が見えないんですけど、彼女。
「そもそもせんせえ、荷物とか、用意ができてないでしょ?
そのまま家に来られても、肝心のパソコンが無かったら……」
「あ、パソコンを車に積みっぱなしだったの忘れてたんだわ、テヘペロ!」
「……あ、そう」
「それに一泊分の着替えくらいは学校に置いてあったし、大丈夫だから~」
「……そういうことなら……じゃあ、2時間後にウチの病院前で落ち合いましょうか」
「なに言ってんのよ、そのまま私と乗って行きゃあいいじゃん!」
「いや、だからまだ練習……」
「さあさあ乗って乗って!」
「ちょっ……手を引っ張るな~! まだ荷物も何も持ってないのにっ」
「あ……お母さんが、女児を誘拐しようと……してる?」
「……ん?」
振り返ると、そこには何時の間に来たのか日向ひなの部長の姿があった。




