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ラフ&スムース  作者: 新田 やすのり
ZERO(第零章)
44/86

ラフ&スムース ゼロ  01話

はい、こちらは以前言ってた「ZERO」の01(レイワン)話の方になります。

深山姉妹編とはまた時代が違う、もうひとつの「ZEROゼロ」です。


ややこしいのでこちらは表記を「ゼロ」としました。



「ラフ&スムース ゼロ」






「はああ~~~~~…………」


俺は、深い溜息を吐いていた。


場所はとある近所の公園。

たまたまブランコが空いていたので

そこに腰掛け、前後にぶらぶらしながらぼーっとしていた。


正直、ほとほと疲れたのだ。


来る日も来る日も仕事しごとシゴトshigoto!


俺も何時の間にか会社組織の中では中堅的存在になっていた。

別段欲しくもなかったのだが、なんか下っ端役職をもらってしまい

同時に色んな責任を課せられるようになった。


今までの通常業務に加え

同じ部署の後輩や平社員の面倒を見たり

それらに何かあった時は自分自身がやったことでなくとも

上役に怒られたりするのもなんか俺の仕事のうちらしい。


正直、役職なんて要らなかった。

そもそも俺は独りで黙々と仕事をこなすのが性に合っていたのだ。

だから自分自身は割と真面目にきっちりとやり遂げる。


だけど、他人の仕事ぶりまでは関与したくなかった。


やる気のない人間やいい加減な人間がちょっと注意した程度で変わるわけがない。

要領の悪い人間とか、変なこだわりやプライドを持ってる人間なんかは特にどうしようもない。

一から十まで教えても素直には従わないし

言ってもすぐに忘れるし、ワケわからん言い訳をしてやらなかったりする。


それに、俺自身は特に変わったつもりもないのだが

何故かいきなり攻撃的な態度を取る連中も出てくる。

ちょっとしたモノの言い方や仕事のやり方が気に入らなかったりするのだろう


上から目線で見られてるような被害妄想でも働いているのだろうか?

それとも妬みか嫉みなのか、よくわからないが……


偉そうに怒りまくれる人間なら無理やりにでも言う事をきかせるんだろうが

俺はそんな性分じゃない。

二度三度言って聞かないなら、もう関わりたくない。


注意する方だって相当なエネルギーを使うのだ。


なんでわざわざ嫌われる役をしなくちゃならないのか?


しょっちゅう偉そうに怒ってる人はたぶんそれが自身に合ってるのだろう

出世欲もあからさまにかなりあるし、常に他人を見下し馬鹿にしまくっている。


人間性の面からすれば

そんなパワハラ人間に本当は権力を持たしてはいけないんだろうが

組織の中ではこういった輩の方が出世する率は高い。

”会社のために”を表面上理由付けしてやっているのだから

それがしっかり上役にはアピールになっているからだ。


「出世したい奴だけすればいいんだよ…………俺は、そんなのやりたくねえ……」


できることなら偉そうにしたい奴にこんな役職

熨斗のしつけてくれてやりたい。


一度付いた役職は、出世しなくても役職定年が来るまでこのままだ。

平社員に戻ろうと思えば大失態をするか、大病でも患うしかない。


しかしそれはどちらも諸刃の剣。

下手すればそのまま辞めなきゃならないところまで行ってしまうかもしれんからだ。


このまま、行くしかないのである。


「はあ~~…………」


俯いたまま、何度目かの溜息をあげたとき

目の前が若干暗くなったような気がした。

何かが地面に影を落とした…………のか?


気になって、ふと、顔を上げる。


「…………ん?」


そこには



――――天使がいた。




「う、うおっ!?」


気配を全く感じなかった。

いくらちょっとぼ~っとしてたからって

こんな間近に迫るまで何も気づかなかったとは……

俺は、実は自分が思ってるよりも相当神経が参ってるのかもしれない。


周りには他に誰もいない。

この寂れた公園に、俺たちは完全に二人きりだった。


じい~~っとこちらを睨みつけたまま黙ってつっ立っている。 ……なんで?


しかし、この子……


雪のような白い肌。

それでいてキメ細かくも瑞々しい。


とても柔らかそうな、ややオレンジがかった

綺麗なライトブラウンの髪の毛は

透明感があり艶々のサラサラで、

それが腰付近にまでまるで流れるように伸びている。


碧みがかった、どこか憂いを帯びた輝く大きな瞳。

桃色で薄めだがプルンとした潤いのあるとても可愛らしい唇。


もしかして、絶世とはこういうのを言うのだろうか?

顔立ちそのものは日本人寄りではあるのだが

どこか異国を匂わせる、まるで人形のようなその風貌の女の子は

頬と耳を仄かに朱に染めあげながら

こちらを上目遣いでじっと伺っていた。


「…………」

「…………」


お互い、無言のまま見つめ合っている。


近いよ、近い近い!


ただ一緒にいるだけでも事案が発生するこの世の中。

こんな可愛らしい女の子といるのが

もし保護者とかに見られて通報でもされようものなら……


終わってしまう。

俺の人生が。


「…………」

「…………」


声をかけるのもまずいんだってば!

しかし、俺はブランコに腰掛けている。

しかも既にかなり後ろに引いているためこれ以上はもう下がることができない。

殆ど立っているのと同じ状態だ。

距離は正面から完全に詰められている。

つまり、脱出は非常に困難だ。


「…………」

「…………」


お互い睨み合いが続く。

このままでは、俺、なんにもしていないのに事案が発生してしまう。


冤罪だ! 冤罪なんですよ!

誰か……助けて!



もふっ!



「え………………………………っ!!!」


ぎ、ぎゃああああああーーーーーーっ!!


だっ、抱きつかれたあああああ!!

幼女に……美幼女にっ!!

な、なんで!? どうして!?

なんか凄い甘いいい匂いがするんですけどっ!

それに全体的にもふもふしててすごく柔らかい!

い、いや感触はすごく良いので思わず抱きしめたくはなるんだけどっ!


だ、駄目だマジどうしていいかわかんねー!


なんでこの子、俺に抱きついてくんの?

俺なんかした!? 新手の美人局か!?


「……あの……あのね…………パパが……いないの」


「……えっ?」


「…………さっきまで、いっしょだったのに……」


「…………」


…………もしかして、この子、迷子……なのか?


「とらっくがね……来てね……ひとが、とんでったの」


トラック?

人が飛んでった?


……事故……か?


「……そしたらね、パパはすぐにその人を見に行ってね……

わたしは……そこにいるのがどうしても嫌で……

……怖くて…………走って逃げたの……」


「…………」


目にいっぱい涙を溜めながら

俺に今の状況を訴える少女。


どうやら事故を目の当たりにして

怖くなって逃げ出したようだ。


「血が……血がいっぱい、出てた……

わたし、わたし……う、ううう~~……」


「…………」


俺は、遂に観念した。

話しかけるのも御法度なこの世知辛い時代だが

流石にこれは、俺の道徳観に抵触する。


「はあ~…………わかったよ。 そのパパとやらを探せばいいんだな」


もう抱きつかれてるから同じことだ。

俺は、彼女の頭にポンと手を乗せ優しく撫でてやった。


「…………ホント?」


今泣いてた虫がもう治まっていた。


「えへへ……ありがとう!」


「……っ!!」


な、なんつーか、破壊力抜群だな! この娘。

まだ涙の残ってる瞳をキラキラさせて

赤いほっぺしたまま満面の笑顔を魅せやがって!

こりゃ本当に相手がやばい奴なら確実にお持ち帰りされてるぞ……


「お、おほん! だ、だけどな、これだけは覚えておけ!

これから、もし困ったことがあったとしても、知らない人にはできるだけ話はするな。

もし、どうしてもとなっても、せめて女の人にしておけ」


「……? うん! わかった!

でも……おじちゃんは知ってる人だよ!」


「……うん? そうか?」


いや、俺はたぶんこんな娘には初めて会った筈だが……

誰かと勘違いしてるんだろうか?





「…………で? 一応聞くけど、親父さんって何してる人?」


俺たちはとりあえず公園を出て

この幼女がやってきたであろうと思われる道を遡って歩いていた。


ぎゅ~っ!


なんか、めっちゃ腕に絡みついてるんだけど。


おそらくこの娘にとってはほぼ全力に近いくらいの強い力で

しがみついたまま、到底離してくれそうにない感じだった。


あ、歩きづらい……



「…………あ、あのね! ……パパは……おいしゃさん、なの」


「あ、そっかあ、なるほど~……お医者さんかあ~」


…………って! ガチの専門家じゃねえか!

野次馬とか、ボランティア精神で関わっただけの一般市民じゃねーじゃん!


じゃあもう現場に行ってもいないかもしれないな

救急車に乗り込んで一緒に行ってしまったかもしれん。


「あー…………ちなみに、お嬢ちゃん、お名前は?」


「わたし? ……えーっとね!」


「あ、できたら、フルネーム……つまり、苗字の方も、聞きたいんだけど」


「すずね! わたしのなまえはね……やまももすずね、っていうんだよ!」



彼女は、その名の通りの

本当に鈴の音のような綺麗な澄んだ声で

そう、名乗った。




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