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ラフ&スムース  作者: 新田 やすのり
ZERO(第零章)
43/86

ラフ&スムース ZERO  ―深山三姉妹編― 壱話

はい、前回に続きまして「ZERO 深山姉妹編」の壱話です。




「ラフ&スムース ZERO」








「じゃあ、お返しに真歩まほもこれからはセンパイのこと、

タカくんって言ってあげますね!」


「え……」


一瞬で想像してみた。


『まぽりーん!』

『タカくーん!』


……駄目だ。 完全にバカップルみたいじゃん!


「それはやめて!」


「えー、タカくんかわいいのにい……」


心底残念そうにしているまぽりん。



ここでちょっと紹介しておこう。

彼女は我が赤石中学ソフトテニス部のマネージャーで

名は深山真歩みやままほ


今年入ってきた新入生で、背も小さく身体も華奢で、

ぱっと見は元気いっぱいそうに見えるのだが実際は少々身体が弱いらしい。


激しい運動は控えるようにと医者からも言われているらしく

なら文化部、という選択肢もあったのだが

彼女はそれでも運動が好きだと言い張り

ソフトテニス部に入部してきた。


しかし残念ながら選手としては顧問に認めてもらえず

マネージャーとして今は在籍している。


正式には、女子ソフトテニス部のみのマネージャーなのだが

色々と雑でだらしない男子部の惨状を見かねて

彼女は何時の間にかこっちの面倒も見てくれるようになっていたのだ。


ありがたい話ではあるのだが


「ちょっと! 阿部くんっ!」


…………来たよ。 小姑が


「あ、みー姉ちゃん!」


「や、やあ! 今日も元気そうでなによりだな、前衛の方の深山」


そう言ったかみたか

彼女の顔はみるみるふくれっ面になっていった。


「……なによそれ? じゃあわたしが後衛になったら

今度は”後衛の方の深山”とでも呼ぶつもり?」


「い、いや、後衛の方の深山はすでにいるから、それは、無いな……」


「だよねー? だって後衛の方はちゃんと下の名前で呼んでるもんねー?」


うっ! また言われた。


「なんだ、お前もなんか愛称で呼んで欲しいのか?」


「ちなみに、わたしは今から”まぽりん”だよー!」


「っ!! ……………………」


一瞬、目を丸くして言葉を無くす前衛の方の深山。


「はい、先輩、せーの!」


「…………」


「はい先輩っ! せーのっ!」


ええい! ままよ!


「ま、まぽりーん!」


「はーい、よくできまちたねえ~」


なんでか頭をなでなでされる俺。 やめて!


「なっ!? あ、あなたたち! ま、まままままさか! つ、つきつきつきつきちゅきあってっ!?」


「……ほらな? 勘違いされるだろ?」


「今日から真歩は”妹”から”まぽりん”にレベルアップされました。

それにより、スキル”手をつなぐ”、”一緒に帰る”が追加されましたよ~」


「いや、追加されてないから!」


「えっ、されてないですか? ……ちぇっ!」


「…………はは、なんかこうなっちまった」


どういうわけか、前衛の方の深山はぷるぷると身体が震えだしていた。


「べ、べつに愛称なんかで呼んで欲しくないわよ! 

じゃあこれで姉さんは名前呼びだし、真歩はまぽりんだから

これからは私のことは普通に”深山”って呼んでもぜんぜん問題ないよねっ!」


「お、おう……まあ、確かにそうだな…………じゃあ、深山」


「……っ!!」


なんか、益々ふくれっ面が酷くなって顔真っ赤っかで

もはやほっぺが破裂寸前になっている気がするんだが……

俺、なんか気に障るようなこと言ったか?


「そ、それはそうと!

真歩は身体弱いんだから、男子部でこき使うのやめてよね!

真歩が厚意でやってくれてるのをいいことにつけ込んで

ちょっと配慮が欠けてるんじゃないのかな? 

これだから、男子は!」


「あ、ああ……それは、すまん」


「みー姉ちゃん! これは真歩が勝手にやってることだから!」


「そんなことはわかってるわよ!

でもどうせ男子のことだから、「ついでにこれも頼むな」とか

デレデレしながら言って用事増やしてるんじゃないの?」


「そ、それも想定の範囲内だから、だ、大丈夫だよ!」


た、確かに心当たりは……ある。


「う……すまん」


「先輩、謝らないでください! 真歩は先輩のお世話ができて幸せですから!」


「ちょっ! な、なによ今の意味深な台詞! やっぱり

あ、あんたたち! つ、つきつきつきつきちゅきあってっ!?」


「い、いや、ないない! それは無いから!」


「……べつにあってもいいんですよ~? 先輩」


「は、話を混ぜるんじゃない! まぽりん!」


「はーい!」  


舌を出しウインクをしながらいたずらっ子のように返事をするまぽりん。

やっぱ確信犯かよ!


あんま男心をかき乱すような発言はちょっと控えて欲しいわ

こちとら思春期真っ只中の難しい年頃なんだからな。


しかも見てくれはそこらの女子とどころか、

アイドルなんかと比べても遜色ないほど可愛いときてる。

うちの男子部員も勘違いしてる奴らが何人もいるみたいだし

そのうちちょっと釘を刺しておいた方がいいかもしれん。


「……はあ……まあいいわ

それはそうと阿部くん、今日はどうするの?

いちおー準備はできてるわよ、もちろん、後衛の方も」


「……! もちろん、やるさ! 今日こそは、見てろよ」


「が、がんばって! 真歩はタカ先輩を応援しますから!」


「お、おう! 任せとけ!」


何時の間にか呼び方が”タカ先輩”になってる?

どうやらこっちの呼び方も知らん間にレベルが上がってしまったようだ。


…………ん?

なんか、ジト目で口をへの字にした奴がじっとこちらを睨みつけてるんだが?


「……………………む…………無駄無駄無駄無駄あ~ああ!」


「……深山……おまえ、完全に悪役キャラになってしまってるぞ……」






◇◆







「ゲームセット! ゲームカウント4-3で、勝者、深山・深山組! れーい!」


両者、一斉にぺこりとお辞儀をする。


「「…………」」

「「…………」」


「…………ぷっ! くすくすくすっ!」


「…………ち、ちくしょうーっ! また負けたあー!」


「はい、ひかげ達の勝ちぃー! 今日も阿部達の奢りね! ごっちゃんでーす!

いやあー、惜しかったねえー、残念だったねえー

あ、今日はトカプチの大判焼きでいいですから♪」


「遠いわ! チャリ漕いでどんだけかかると思ってんだよ!

買って戻ってくるまでに日が暮れちまうぞ!」


「阿部はダッシュ力が足りないからねん、

これもトレーニングトレーニング♪

あ! もしかしたら、この筋トレで次は勝てるかもしんないよー?

ちゃんと待っててあげるからね、ほいスタート!」


ぱんっ! と両手を叩き鳴らし

発進を促す。 


彼女の名は深山みやま日影ひかげと言う。


「つ、次は覚えていやがれーっ!」


そう言い残し、俺はチャリに跨りペダルを踏み込んだ。


「あっ! 待って阿部くんっ! 私も荷物持ちで……つ、付いて行くからっ!」


慌てた表情でそう言う彼女は、先ほどまぽりんの所まで迎えに来てくれてた子だ。

深山日影のダブルスパートナーの前衛を務めている。

こちらも苗字は同じでまったくややこしいこと極まりないのだが、

名は深山みやま水無月みなづきと言う。


この二人、一応は姉妹という設定……じゃなくて!

戸籍上そういうことにはなってはいるが

同学年だし、だからと言って双子という訳でもない。


たまに年子で同学年というパターンもあるにはあるらしいが

(例えば四月生まれと三月生まれとかで)そういう訳でもないようだ。


腹違いの姉妹?

う~ん、確かにそれなら同学年も可能ではあるが……


まあそこら辺は他人のお家事情なので詳しくは聞いてはいないし、

特に聞くつもりも無いのだが

ただ、同じ部活でしかもペアを組んでるとなると、

呼ぶ時なんかにはちょっと困ってしまう。


この二人は今現在、

我が公立赤石中学校の名物「超MMコンビ」として近隣学校に名を馳せている。


何がって? そりゃあ、軟式テニスでですよ!

……おっと! 今は「ソフトテニス」が正式名称ですな。

まだ周りで軟式と言う方達が多いので、たまに言い間違えてしまう。

ま、どっちでもいいんだろうけど。


それはそうと、彼女たちは女子ソフトテニス界ではとても有名で

県大会出場は常連で当たり前。

更にはそこで優勝したこともあるという、めっちゃ強い選手達なのである。


おまけに二人共、タイプは違えどどちらも見栄えがとても良かったりするのだ。

おそらく学校内では両者ともにトップ3に入っているほどであるという。

俺は参加してないのでよく知らんかったのだが、校内アンケートでそう結果が出たと

クラスメートの悪友からこっそりと聞かされていた。


ちなみにトップ3の内のもう一人はどうやらまぽりんらしい

つまり深山三姉妹でこの学校のトップランキングは既に埋まってしまっているのである。


なので何故か他校からも結構見学だのなんだのと

よく理由をつけて見に来られてたりしてる。


残念なことにこの二人、諸事情で全国には行ってはいないんだけれど

もし行ってたらそれもかなりいいセンまで残ってたと思う。


実際、代わりに出場した超MMコンビに負けたペアが

全国でベスト8とかに入ってたりするし、

もしかしたらこいつらは実力的には既に全国トップレベルなのかもしれない。


まあ、とにかく強い。


一応、俺も男子部ではレギュラー張ってて

この夏から副部長とやらの任も賜ってはいるのだが、

実はまだ一度も勝てたことがないのだ。


今日の試合ではなかなかに肉薄できたようには思うんだが

若干遊ばれてた感もあったので(主に日影に)、

実はやっぱりまだ遠い存在なのかもしれない。


「……えーと、前衛の方の深山。 あのな、お前が付いて来て一緒に筋トレしたら

結局俺はお前らにいつまで経っても追いつけないじゃないか! 

待機待機! 待機だ! お前はここに残ってろ!」


「え……でも……」


そうおどおどと言いながら、それでも付いて行きたそうにしている深山(前衛)。


普段の学校生活では、ただの引っ込み思案のおとなしい子に見えるんだが

試合ではなかなかどうして! 負けず嫌いなのか凄く勇猛果敢に攻めてくる。

まあそれはあくまでも試合での話であって、

コートの外ではいつもこんな調子で

普段は言いたいことも言えない、例えるなら深窓の美少女……といった感じなのだ。


え、さっきとキャラがなんか違うって?


そうなんだよ。


普段の深山は本来こういうキャラの筈なんだけど……

どうも最近俺にだけ強く当たってくることが時たまあるんだよな。


主にまぽりんと一緒にいるときなんだが……

情緒不安定なんだろうか?


それとも、妹の前だからってカッコつけたがってるのかな?

でも、あんな態度は他のやつにしてるの見たことないけどなあ……

う~んよくわからん。


「えっと……その…………」


しばし何か考え込んでいる様子だったが、その答えを待っている時間も無かったので


「気持ちだけもらっておくよ! サンキューな、深山」


そう言い残し、俺は加速を開始した。


「あっ…………うん! 気をつけて、い、いってらっしゃい!」


どうやら諦めてくれたのか、彼女は少し残念そうにしながらも

その場に留まり、俺を送り出す言葉を紡いでくれた。







なんかタカくんモテてますねw

まあ嫁無し子無しの中年おっさんの現在の状況を鑑みるに

結果はわかっていることではあるのですが

こんな甘酸っぱい時期もありましたよ、ということで


ちなみに「ZERO」はこれからはランダム投稿になると思います。

今後本編の合間に差し挟んでいくスタイルになるかと思いますが

どうかよろしくお願いします。

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