表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/86

睦月と千里 最終話・中編Ⅳ

ごめんなさい。平成中に間に合いませんでした!

こんな私ですが、どうか何卒

令和でもよろしくお願いします。



「ラフ&スムース 第二章」






「深山睦月。 貴女は、あたしに勝てない」


「……どうして、そう言い切れるの?」


「ふふ……単純に、実力で、と言ってもいいんだけどね……」


そう言いながら彼女はちらりとコンクリートの壁面を見た。


「…………?」


!!


まさか!?


「そう! 貴女は……この投擲物を、必ず! 阻止しなければ……ならない!」


口端を歪み釣り上げながら手に持った新たな得物(包丁)をちらつかせる。


迂闊だった! 

何故私はこういった可能性の存在を考慮に入れてなかったんだろう!?

手段を選ばず勝ちに来るなら、当然有り得る策の筈なのに!!


「……くっ!」


間髪いれず、私は全力でダッシュした。


「ははっ! 果たして、間に合うかしら!?」


ビュッ!


と、包丁を投げた――――その先は!


「千里っ!!」


ギィンッ!


「…………」


カラカラと、床を滑りながら回転していく包丁。


「…………はい、チェックメイト」


「…………う……」


辛うじて、彼女の投げた包丁は眠っている千里に到達する前に、

すんでの所で弾き落とすことには成功した。 が……


それには、大きな代償が伴っていた。


彼女が最後に一本だけ取ってあったダーツの矢を……

この身に、受けてしまったのだ。


「くく……あはははっ!

結局、そいつの行いは全くの無駄だったようだな!

それどころか、やはりおまえの足を引っ張るだけになった!

テニスの試合でもきっとそうなってたさ!

まあどのみち、お前たちはここで終わるから、次の試合なんて無いけどな!」


「…………まだ、まだ終わっていない!」


「ふふ、無駄だ! ……さて、あとは貴女に打ち込んだ薬が効き出すまでの僅かな間、

貴女の攻撃をあたしはただ守りを固めて凌ぎきるだけで良いわけだ!

そして、弱って来たところを、じっくりたっぷりと痛めつけてやる!

せいぜい眠気と戦いながら頑張るのね! あっはっは!」


睦月は竹刀を上段に構え直し、相手の間合いに踏み込んでいく。

最早、短期決戦しかない!


「はあっ!」



ギイイイン!!



「「なっ!?」」


お互いがその金属音に驚いていた。


睦月は、まさか彼女がまだもう一本得物(包丁)を隠し持っているとは思っていなかったから。

そして、北山は


「…………貴様! ……やはりそれは、只の竹刀じゃ……ないな!?」


最初見たときに感じた違和感。

それが今の打ち合いで確信に変わる。


先ほど脇腹に食らった突きも、非常に重くて硬い感触だった。

つまり、何かが竹刀の中に入っている。 そう彼女は結論づけた。


「くっ!」


バレた!


せめて、素手で来てくれるなら、こちらにもまだ勝機はあった。

この「剣」なら、今のこの状態でも

彼女の手足をへし折ることくらいはできたからだ。


そして、そのダメージは例え今の彼女の回復能力をもってしても

すぐには回復することはできない筈……だった。


つまり、生かしたまま捕らえることも可能……だったのに!


キイン!

ガキイン!


互いの得物が数度となくぶつかり合う。


力やスピードでは北山が睦月を完全に凌駕りょうがしていた。

睦月は長年の剣術の修練により

技術面でそれらをどうにかカバーする。


しかし徐々に均衡は崩れて行った。


いや、最初から劣勢だったのは明白だった。

それをなんとか受けに回って受け流し、互角に見せかけてはいたが

相手はこの応酬にも慣れてきたのか

それとも私の身体に薬が回ってきたのか

どんどんと差し込まれるようになっていく。


旗色が、悪くなっていく。


「ははっ! そろそろ薬も効いて来たんじゃないか!?

残念だったな! 笹倉が目を覚ました時

どんな顔をするか、お前は見ることはできない!

代わりにあたしが見届けてやるよ! 絶望に打ちひしがれてる様をな!

そして後を追わせてやる!

あの世でダブルスでも組むんだな! あはは!」


「そ、そんなこと、させない!」


しかし、そうは言うが

このままでは…………保たない!



…………仕方がない! イチかバチか……

もう、方法は、これしか……………………でないと!





どくん!





!!





――――しまった!





まずい!!






ギイイィンン!!




「……なにっ!?」




あれほど激しかった北山の猛攻が…………止まった。


彼女の、包丁を持っている手が、天を向いて跳ね上がっていたからだ。


そして、こちらも同じくして……動きを止めた。


「…………なんだ!? 今の……重い一撃は……?」


「…………」


見ると、包丁を持つ彼女の手は痺れ震えていた。


何時の間にか、彼女の表情から笑みが消えている。


「……まだこれだけの力を、隠し持ってやがったのか!?」


そこで私はポツリと呟く。


「…………逃げて……」


「……は? 貴様……今、何を言ったんだ?」


「…………馬鹿っ! 早く! 逃げてって言ってるのに!

でないと、私……は……貴女を…………うっ!!」





どくんっ!!





「はっ……あ……」


駄目! 抑え、られない…………もう…………


胸を掻き毟るように抑え、俯いてうずくまる。


「…………なんだ、薬が効いて動けなくなったのか…… 

ち! つまんねーな……あっけない幕切れだけど

仕方ない、今、トドメをくれて……うっ!?」


バッ!


様子に違和感を覚えたのか

彼女は私に近づいてくるのをやめ、咄嗟にその場から飛び退いた。


私が、俯いたままうっすらと笑みを浮かべていたからだ。


「……なんだ? なにがおかしい!? 

この期に及んで気でも触れたか?」


「……………………へーえ?……なかなか、いい勘してるじゃない」


「……!?」


「そのまま、迂闊に近づいて来ようものなら、あんた……

胴体に、風穴開いてたわよ……」


だらりと、両手を降ろしたまま、

私はゆっくりと立ち上がった。


「な……なんだ? 今までと、明らかに、雰囲気が……!?」


北山は、戸惑いを隠せずあらわにしていた。


「……………………あ~あ……まったく……見てらんないわね!

どれだけやれるかずっと静観してやろうかと思ってたけど

……ったく、本当に睦月は甘ちゃんなんだから

これじゃあまだまだ、深山流は継がせられないわ!

もう”あんた”は”そこ”で大人しくしてな!

後はあたしがやるから! 今回は、後学のため見学してなさい!」


……なっ!? 


「……なにを、貴様……独りで……ブツブツとっ!」


「ふふ…………要約して、言ってあげようか?」


私は、まるで先程までの北山茉莉のように

口端を釣り上げながらそう言った。


「……!!」


明らかに、今までと声のトーンも変わっている。

北山の動揺も当然のことだろう。


「……あんた程度の相手に、いったいいつまで手間取っているのか……

あまりにも自分自身が情けなさすぎて、

もういっそ死んでしまいたいなって思ってた所なのよ」


「……な、なん……だとっ!?」


戸惑いを見せていた北山だったが

今の私の言を受け、ワナワナと震えだした。


それはそうだろう

今まで終始押していたのは明らかに北山の方だった。

こんな上から目線で言われるような覚えはまったくもってないはずだ。


「格下の分際で! ほざいたなぁっ!」


シャッ!


「!」


まだ、矢が残ってる!?

しまった! 後から回収した分を計算に入れてなかった!


「ちっ!」


顔面に飛んで来た矢をすんでのところで躱す。

元居た空間には切り離された毛髪が幾本か滞空した。


彼女は、そのまま次いでサーブ&ダッシュの要領で包丁を突き出し突進して来る。

それは明らかに、今までで最速。 

まだ本気ではなかったということか!?


「……だけどね!」


私は、冷静に剣を構えなおす。


ズドッ!


「…………」


「…………か、はっ!?」


私の眼前数センチの所で、包丁の切っ先は止まり

震えながら手からこぼれ落ちる。


カラーン!


そして、こちらの竹刀での突きが、彼女の肩に見事に入っていた。


「……馬鹿ね、さっきのような近接戦闘ならともかく

いくら速くても互いに突き同士なら

リーチで包丁が竹刀に勝てるはずないでしょう?

怒りに任せて突っ込んでくるなんて、愚策もいいところよ

ま……とはいえ、やはり、相当疾いわね…………結構紙一重だったわ」


「ぐ……き、貴様…………何故、薬が効いてこない?

いくらなんでも、効果が出るのが…………遅すぎる……」


「……ああ、あれね! あんなのが私に効くわけないでしょ!

そもそも、今の貴女にだって効かないはずだけど?」


「なんだと? それはいったいどういう……?」


「…………ふん、回復のための時間稼ぎがしたいならべつに構わないわよ

なんなら得物も今のうちに回収しなさいな」


「!!」


「もっとガツンと来てくれないかなあ? じゃないと折角出てきた意味ないわ」


「……貴様……貴様は……いったい?」


「……………………あんまりもたもたしてたら……すぐに…………殺すわよ?」


「……っ!!」


ゾクリ……と、背筋が凍るような表情で放たれた暗く、冷たく、重い言に

一瞬北山は気圧されていた。


しかし、それでも北山の身体能力の優位性は変わっていない。

先ほどの突きの応酬も相手が短剣だったからこそ打ち勝てたというだけで

実際には常にこちらは後手に回っている。


現状では、相当分が悪い。


この余裕の見せ方……やはり、使う気なのだろうか?



「ふふ……なら、こっちもお言葉に甘えて……全力で、殺ってやるわ!!」


ジャキッ!


!!


まだ、これほどの数の矢を隠し持っていたと言うの!?


ジャッ!


彼女は両手いっぱいのダーツの矢を、こちらに向け

一斉射出した。


そしてその直後、一本目の包丁をも渾身の力を持って投げつける。

更にもう一本の包丁を手にしたまま、

ほぼ遅れを取らず投擲した包丁に並走するように全力ダッシュで

こちらに向かって突進して来た。


なるほど、これなら先程のような突きの応酬にはなりえない。


「へえ、最後の打ち上げ花火かよ? 

なら、こっちももう、遊びは、ここまでね」


回避運動を取りつつも私は、そう呟き

手に持っている得物に力を込め、

そして……言霊を放つと同時に一気に前進に反転した。


やはり、使うのか!




「――――――――風刃ふうじん!」




ピシピシッ! バキイイイイイイィィンッ!



竹刀に偽装していた外殻に亀裂が走る

その隙間から光のようなオーラが放たれると

一気に外装が綺麗に吹き飛ばされた。


ヒュヒュッ


瞬の間の、ニアミス。

互いの身体の位置が入れ替わる。


「…………」


「…………」


僅かな、沈黙。


にたりと笑う口角、そして


「――――さよなら」


そう呟いたのは、私の身体だった。





――――――――水無月みなづき





私の、前世の名。



先代の深山流剣術、当主。

そして妖刀『風刃ふうじん』の使い手。


しかし、彼女の人格は……既に…………壊れていた。


「くく……くはははははははっ!」


どすっ!


「……ッ!?」


鈍い音が床に響く。


そこには、彼女が持っていた包丁が、突き刺さっていた。



――――彼女の、右手首と共に。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ