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睦月と千里 最終話・中編Ⅲ

なんか、どんどん最終話が細切れに……すまん!


「ラフ&スムース 第二章」




さて、困った。


颯爽と登場してはみたものの

正直、もはや何も無い。


さっきの一投が全てだった。


だって、睦月がやられそうだったんだもん!


あそこで指をくわえて見てて、

もしそれで、取り返しがつかないことが起こってたら……


私は自分自身を許すことができず、

たぶんもう二度と立ち直ることができなかっただろう


だから、後悔はしていない。

むしろよく動けたと自身を褒めてやっても良いくらいだ。


後悔は、していないんだけれど……でも、

さっきから、ずっと震えが止まらない。


対峙してみると本当によくわかる。

この、もの凄い重圧プレッシャー


動物園以外では出会ったことはないけれど、

もし人を襲うような獰猛な熊とか虎とかライオンとかと

夜の街中なんかでバッタリ遭遇してしまったりすると

きっとこうなんだろうなと思った。



――――ああ、本当にもう、北山部長は人間じゃなくなってるんだ。




彼女は私を睨みつけたまま


ドカッ! 


と壁に拳を叩きつける。


「!」


その衝撃で、一瞬、建物全体が震えあがった。


パラパラと、何かが崩れ落ちる音がする。


見ると、コンクリート製の壁面には穴がぽっかりと空いていた。


「…………貴女から、血祭りに上げてやろうかしら?」


「……っ!」


こんなの相手に、よく戦いを挑む気になったね睦月。

私、もう既に死にそうなんですけど。


「立ち止まらないで! 逃げて! 千里!」


北山部長の背後でなんとか竹刀を杖にし立ち上がる睦月。

しかし足元は若干ふらついていた。


「……そ、そんにゃこと言われてみょ……あ、足がすくんで……う、動けにゃい……よー」


噛みまくりだった。


「……ふん、余計な抵抗さえしなければ、

あいつに再起不能程度で済ませてもらえてたってのに……馬鹿なやつだ」


まだ睦月がまともに動けないことをわかっているんだろう

ゆっくりと、私の方へと近づいてくる。


「千里っ! ……!!」


シャッ!


パシっと、今度は簡単に彼女の手によって受け止められた。

睦月が自身で回収していた矢を彼女に向かって投げたのだ。


「……二度も同じ手にやられるわけないでしょう?

しかも、あたしの方が疾い、と言わなかったっけ?

もう、貴女とは……立場が逆転しているのよ」


「……っ! 約束が違うわ! 千里には手を出さないで!」


「……………………約束? 何のことだ?

あの試合での条件は、ただレギュラーの一番手を譲ることと、

あたしが部長の座を降りることだけだった筈だが?」


「…………く!」


確かにそうだけど

普通の一般学校生活で、殺す殺さないの約束する人って、あんましいないよね?


「やるなら、私からやりなさい! 先に貴女と勝負してたのは私なんだから!」


「…………それでもいいんだけど、今はコイツの方がピンピンしてるしね

逃げられると少々めんどくさい。 

……なにより、さっきの一発で、今結構……ムカついてるんだわ!」


シャッ! ドスッ!


「ぅぐっ!?」


一瞬空気を引き裂いたような音がしたかと思ったら

私のお腹に、鈍い衝撃が走った。


「……な……なんで?」


北山部長はまだ、ここまで来てない……


「千里っ!!」


自身の腹部を見下ろすと、そこにはダーツの矢が突き刺さっていた。


「……う、嘘……ぜ、ぜんぜん……見えなかっ……」


「まずは、お返し。 そして……これでもう貴女は薬のせいで、遠くには逃げられない」


「ひう!?」


まるで瞬間移動でもして来たかのように、私の眼前に彼女はいた。

そして、ふわっと私の両脚が地面から離れていく。


「あ……あっ!」


片手で胸ぐらを掴まれ、そのまま持ち上げられていたのだ。


「でも薬はすぐには効かない。 

……そうね、とりあえず足の一本でもへし折っておきましょうか?

貴女には、次に目覚めた時、

深山睦月の転がった死体を拝んでもらわないといけないからね」


ニタリと笑いながらとんでもないことを口にする。


「……な、なにを……こ、このっ……」


苦しい! 更に首が締め上がっていく……

私は必死にバタバタともがいているけれど、

身体が宙に浮いてしまってて何もできない!


「ひとしきり絶望を味わってから、じっくりと殺してあげるわ! あははは」



キンッッ!!



「「!!」」



耳鳴りが、する


キイイイイイイイイイイイィィィィン


「……なんだ? この、耳をつんざくような……音は……っ!?」


北山部長の手が止まり、力が緩んだ。


「…………いいかげんに、しなさいよ……」


俯いたまま、ぼそりと呟く睦月。


ドスッ!


床に突き立てた竹刀が、震えていた。

ズズッと床を擦り音を立て、切っ先が地から離れる。


そして今まで攻守一体の正眼の構えを取っていた彼女は、

更に攻撃的な上段の構えにシフトする。


「………………へえ、もう回復したんだ。

結構ダメージ与えたと思ってたんだけどなあ……

他のやつらなら、もう立てなくなってても不思議じゃないくらいなのに」


「…………その手を、離せ……」


「…………嫌だ、と言ったら?」


「…………」

「…………」


「……………………そう……残念ね……

……………………本当に…………」


ズドッ!


「っ!!」


…………え?


「……………………ぐはっ!?」


竹刀の切っ先が、北山部長の脇腹にめり込んでいた。


一瞬の間の出来事だった。


双方は距離にしてテニスコートで言うなら

サービスライン後方からネット際くらいは離れていたと思う。

 

つまり、6~7メートル以上。


彼女は、その距離を一気に……跳躍した!?


私は、持ち上げられていた手から開放され

ドサリと床に尻餅をついた。


「あうっ!?」


そして、北山部長もまた、片膝をつき、崩れ落ちる。


「ぐ……うう……」


そして、涎を垂らしながら、言葉もなくうずくまる。


「……千里……ここから、逃げなさい。

薬が効いてくるまでは、まだ少しある。

せめて、商店街の誰かに、助けてもらって」


「で、でもっ! 睦月が……」


「私は大丈夫。 こんな……貴女を利用してたようなクズを、

心配なんかする必要は……無いわ」


「……!」


「聞いてたんでしょ? 私達の、会話を」


「…………」


言葉が出なかった。

しかしそれは、肯定を意味するものであった。


「さあ、早く! この程度の攻撃では一瞬しか止められない。 今のうち」


睦月の言葉を最後まで聞く前に

私の視界は一気に流れた。


ドカアッ!


「げふっ!?」


「千里っ!」


私は、コンクリートの壁面まで飛ばされ叩きつけられていた。

どうやら北山部長に突き飛ばされたようだ。


「……逃がしは、しない」


うずくまったままの彼女だが、それでも私を飛ばすくらいの余力は充分あったようだ。


私はとっさに立ち上がろうとしたが

今の衝撃も相まってか、薬も効いてきて立ち上がろうにも身体に力が入らなかった。


「…………!!」


そして、どうやら立てない理由はそれだけではなかったようだ。


「千里っ! 大丈夫!?」


「……!! 睦月っ!!」


「!」


私は、駆け寄って来ようとした睦月に向け

俯いたまま咄嗟に右手の平を前に突き出し静止を促す。


「……私のことは、いいからっ! 今は自分のことだけを考えて!

貴女が追ってきた者は、今この目の前にいるんでしょ!

だったら、目的を果たして! 

私は…………大丈夫だからーっ!」


「千里……」


「……どうせもう、薬が効いてきて寝ちゃいそうだし……

でも……これだけは、今言っておくね」


「……?」


「睦月……睦月は……自分が思ってるほど嫌な奴なんかじゃないよ!

それどころか、とってもやさしいいい子だよ。

まだ私、付き合いは浅いけど、それくらいは、わかるからー」


「……い、いきなり……何を? 千里……?」


「確かに、聞いてたよ……睦月が、私を利用してたってこと……」


「あ……」


「でも、それはもう過去の話だよ 

……今は、違うでしょ!

だって、私達、パートナーなんだから 

…………もう…………と、友達……だからっ!」


「……!」


「だから! 助けるのは当然なんだよ! 

睦月だって、私をいっぱい助けてくれた」


「それは、だって、私が調査に、貴女を巻き込んだから……」


私は、ふるふると首を振る。


「違うよ……睦月はそんな理由で私を助けたんじゃない」


「え?」


「それが、睦月の性分だから……助けたいと思う、優しい心があるから、だよ」


「そ、そんなの、只の……買い被りだわ」


「自分じゃ気づいてないだけだよ……

だから私も、それに応えたいと……思ったんだよ……」


「…………」


「でも、……ごめん、ぜんぜん役に……立てなかった……けれど……」


「そ、そんなことない!

さっきの一投が無ければ、私は今頃どうなってたか、わからないから……

正直、助かったと思う」


「ふふ……そう? 

なら……良かった……私……少しは役に、立てたんだ……

…………じゃあ……あとは、任せても、いいかな? ……相棒……」


「…………うん……わかった。 貴女は、安心して寝てて」


「信じてる……よ………………勝って……ね……むつ……き…………」


そう言い残し、彼女は眠りについた。


「…………千里……」


「……………………今生の別れは、済んだか?」


「…………」


何時の間にか、北山茉莉は立ち上がっていた。

そして、手には、ダーツではない。

得物を「包丁」という名の武器に持ち替え、赤く鋭い眼光で睨みつけていた。


つまり、もう探り合いは終わったということ。

今度は確実に、殺すつもりでいるようだ。


「……やはり、とことんまで行くしかない、ということかしら」


「何を今更? 最初からあたしは貴女達を生かして返す気はないわ」


「…………なら、私も容赦はしない」



再び両者は対峙する。


今度はどちらも引く気は無い。

本気の戦いが幕を開けようとしていた。




「…………」



がんばれ! 睦月……


きっと勝つって、私は、信じてる……から……





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