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睦月と千里 最終話・中編Ⅰ


「ラフ&スムース 第二章」





私が身体に違和感を覚えたのは何時だったか……


中学に入り、二次性徴を迎えた頃だったのだろうか?

……いや、正確には特定の異性に身体が反応しだした頃……か……


それも、自分が幼い頃、

抱いていた憧れの異性なんかとは全く似ても似つかない

かけ離れたあきらかにタイプの違う者、

年齢も、近い歳の者も居れば

どう見ても定年間近のくたびれたおじさんなんかにも

何故か反応することが、あった。


この身に一体何が起きているのか

正直、理解できなかった。


自身に対する嫌悪感で頭がおかしくなりそうだった。

それでも必死に自分を押さえ込み、平静を装っていた。


そんなある日、私は――――暴漢に襲われた。


どうやら不法滞在している外国人労働者だったらしい。

逃げようと思った。 抵抗しようと思った。

しかし、できなかった。 


いや、しなかったのだ。


何故なら彼からは私の反応する「何か」を感じてしまったから。


理性で拒んでも、本能がそれを許さなかった。

本当は襲われたのではなく、無意識のうちに私の方が彼を魅了していたのかもしれない。


そして、彼を受け入れた後、私は変わった。


心情が……ではない。


自分でもわかる



――――私は、違う生き物に、なってしまったのだ。



その後、私を蹂躙した彼は……姿を、消した。


まあ、消えたところで何も問題はない。

元々この国に居てはいけなかった存在だ。


消えたからといって、誰かが探すこともないだろう


そうして後、私は欲求を満たすため

そのような輩や警察にはまずお世話になることのないであろうヤクザ者、

果ては浮浪者などといった者にまで手を出すようになってしまっていた。


そうした中、今の彼とはウチの店で出会った。


今までにない強い「何か」を感じ取った。

彼なら、この欲求もしばらくは満たしてくれるだろうと思い

私の方からアプローチしたのだ。


父に頼み込み、旧店舗に住み込みで働かせてあげれるようにもした。

彼は、私の言うことに従順に従ってくれていた。



だから、”生かしてあげて”いたのに――――




カタン……


「!」


薄暗い、闇の中に

一人の人影が、見えた。


「誰だっ!?」


食事を、ほぼ終えたとはいえ

今のこのタイミングだと、見られていた可能性も十分ある。


だったら……こいつも”始末”しないと。


「……やはり、もう、手遅れだったみたいね……

自ら選んで喰った男の味は、どうだったのかしら?」


……!?


こいつ! まるで事情を知っているかのようなことを言う……?


「なんだ貴様!? 私がやっていること、まるで今までも見てきたようなことを言うな!」


「…………いいえ、「私」は初めて見るわ」


「……!!」


この、口ぶり……まさか!?


北山茉莉はある人物を脳裏に思い起こし、緊張を高める。

警戒した北山のその瞳は、対峙した彼女の目には異形のモノとして映っていた。


「……瞳の色は……赤、か…………典型的な、パワー・スピード強化型……

どうやら、完全に覚醒してしまったようね」


カツ……

カツ、カツ、カツ、カツ……


歩み寄り、明るみに出てきたその顔は、まさに知った顔だった。


「……深山、睦月……やはり、お前か!」


彼女は昼間見た時と同じく、学校の制服に身を包んでいた。

ただ一点、違うところがあるとすれば

それは手にしている物であった。


ラケットではない。


これは……竹刀?


確かに見た目は竹刀そのもの……

しかし、今の私の鋭利になった感覚が、どこか違和感を覚えた。


「……何しに、来た?」


一応、問いただしてみる

この後の対応は、どのみち変わりはしないが


「……”その男”から貴女の匂いを辿り、ここまで来たの」


「!」


深山睦月は、もう既にいるはずのない男を指し示し、そう言い放つ。


「……”本体”の方は対峙してみないと、

実際にそうなのかはよく解らない……だけど、

”従者”は別…………魅了され、マーキングされた者は、

ある種の匂いのようなものを発するわ……」


……やはり、見ていたのか! 


「なら、やり方は至って簡単。 従者を泳がせ、ねぐらを掴み、

あとは本体が近づいてくるのを待つだけ……」


「あえて、あいつ……笹倉が襲われるのを、見逃していた……と?

ふ……ふふ…………なんだ、あんたも結構な悪じゃないか!」


「私の……本意ではなかったわ」


「本意だろうがなんだろうが、実際にそうやったんでしょうが! 

なにを正当化しようとしてるのよ!」


「…………その通りよ。 私はあの時、知っていながら千里をあえて囮にした。

この罪はもう、けっして消えない。 だから……」


「はっ! だからパートナーになって罪滅しか? 

中学生活全部費やして? バカじゃないのか?」


「そうしないと、第二、第三の犠牲者が、出るから」


「…………そのせいで、私は部を追われた……」 


「…………貴女は、やりすぎた。

その男は半分自業自得の……ある意味、貴女にお似合いのクズだったから、仕方ないけれど……

もう少しで、千里に一生消えない傷を負わせるところだった……」


「……ふん! それがどうした?

結局おまえが阻止したんだろう?

だから、私はその失敗の償いを”こいつ”にしてもらったんだ!」


そう、自身を親指で指しながら言う


「貴女……やはり、もう既に……」


「ふふ、もう殆ど搾りカス同然だったからな

最後の役目さえ果たしてくれりゃ、それで良かったんだけど

どのみちもう末路は同じだったさ」


「…………」


「……知ってるか? 私の母も、ここで男を貪っていたんだ……

父の愛人を半殺しにしたのも、ここ。

今なら、どうやったのか、その理由もよくわかる」


「…………貴女のような存在が、『 』としての格を、貶めている」


「!! ……だったら!! 貴様は何だ!? 知ったふうな口をきいて!! 何者だ!?」


「……私は、そういった世を乱す……人ならざるモノたちを、抑制する者」



……そうか、やはりこいつ、わかっているのか!



彼女、深山睦月はどうやら私を「悪」と断定し、裁きに来たということだ。

それも警察などの国家機関や他の第三者には一切頼ろうとはせずに……

自身が乗り込み、直に解決しようとしている。


つまり、何時からかはわからないが

以前からこのような対立構造が在った、ということが容易に想像できる。


彼女はその先鋒なのだろう


ならば、話し合いは無意味だ。


いや、おそらく話し合い自体はできるのだろう。

でなければ既に問答無用で襲いかかって来ていたはず。


けれども、それ(話し合い)をすると言うことはおそらく「降伏」を意味することになるだろう。

少なくとも、どうあってもこちらに有利な条件にはなりえない。


だったら、私は今まで通りにやるしかない。


幸い

今はかつてないほどにこの身体に「力」が漲っている。

まるで、地球上から重力が無くなってしまったのかと思うほど、身の全てが、軽い。

正直、負ける気は全くしなかった……が


一つだけ、懸念材料が、あった。


それは――――


深山睦月は、その美しくも幽遠な眼差しを、

迷いもなく真っ直ぐにこちらへと向けてきていた。


「その……瞳…………その目よ! 貴女に見つめられると肝心な所で力が出せなくなる! 

あの試合だって、本来なら……もっと!」


そう、あの試合の時も私は「力」を使おうとしていた。

しかし、できなかったのだ。


彼女、深山睦月に見つめられると「力」が出せなくなる。

まるで、心の奥まで見透かされているような深い眼差しで……

それに気づいた時にはもう、遅い。

目が離せなくなるのだ。

そして、力が――――失せる。


確認、しなくてはならない。


「……純粋な人間の力なら、私によって阻害されることも、なかった……

ここ最近の貴女は、人ならざる”力”を持って、プレーしていた。 ……違うかしら?」


「!!」


「瞬間的に自らの限界値を引き上げ

貴女は反射速度を上げたり、無理な体勢でも力負けしないようにしたり、

まるでコマ落としのように一瞬でフォームを修正したりしていた」


「…………」


「他人に悟られないようにね……」


「……なるほどな

その確認をするために、あの時、私に喧嘩をふっかけてきた……ということか」


「”成る”前の状態なら、私はある程度抑えることが……できる。

……けれど、成った今はもう、それもできないわ。

…………残念だけど、遅かったようね」


「!!」


あっさりと、隠しもせずに知りたかった答えを晒し出す彼女。

どういう、つもりかはわからない……が


「……ふ……ふふふ…………そう…………

つまり、もう、誰も私を邪魔することはできない……と……

そういうこと…………だね!!」




――――みしり! と

空気が軋み、悲鳴を上げた。







◇◆◇◆







……………………


………………


…………いい、匂いがする。


私、どうなったんだろう?


確か、またあの男の人に襲われかけて……


それから……?


……あれ? 私、もしかして今、誰かにおんぶされてる?


「……むつ……き……?」


朦朧とした意識の中で、私はそう呟いた。


「……千里? 起きたの?」


「…………」


言葉が、出ない。

まだ、何もかもが夢のようでハッキリ定まらない。

でも、安心感だけが私の中で広がっていた。


あ、また意識が遠のいていく……


「……家に届けると貴女の親に色々問い詰められそうだから、

店のウッドデッキのベンチで、我慢してね」


そう言いながら、彼女は私をそっと降ろしてくれた。


「…………ごめんなさい、今回も少し、出遅れてしまって……

もう、二度と……巻き込まないから……

今から、決着をつけてくるわ」


「…………」


返事をしたいけど、何を言ってるのか理解できず

考えも、まとまらなかった。






……………………


………………


…………



「……はっ!」


がばっと、起き上がった。


周りを、見渡す。


おじいちゃんの店のウッドデッキに私はいた。

もう店内は閉店時間を過ぎているのか、薄暗く常夜灯が点いているのみだった。


「……夢じゃ、なかった……」


既に、彼女の姿もどこにもない。


「……睦月は……なんて? …………確か…………っ!!」


そうだ! あの男や、北山部長の所に、乗り込む気……だ!


「……だ、駄目だよ! いくら運動神経が良くったって、

女の子一人で乗り込んだりしたら……!」


いくらなんでも、危ない!

……でも、いったい、何処に……?

彼女の、行きそうな場所……北山部長や、あの男の人の居そうな所…………


――――こっちの街にも閉めた店がまだ残ってたからの、

そこの住所を使って赤石中学校の方に入学して来たってわけじゃよ


「……あっ!」


私は、店の中に駆け込み

今は店で独りで暮らしている祖父へと詰め寄り、あることを問いただした。




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