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第九話  鈴音と深雪


「ラフ&スムース 第二章」



それは、どこにでもある、何気ない日常のひとつであった。

小等部三、四年の各クラス教室が並ぶ棟。 その廊下の端っこの方。

私は3人の男の子に囲まれ、いわれのない怨言を浴びせられていた。

その中のリーダー格である、川谷は言う


「おい山桃っ! おまえなんで隣の席の瀬川のやろーの給食を、昨日も今日も黙って自分のと取り替えたりしたんだよっ?」


「…………だ、だって……」


「……見てたのか? 俺らのやったこと」


「…………」


「まさかっ! 先生にチクったりしたんじゃないだろうなっ!」


「し、してないよっ! そんなこと!」


でも、今後も続くようなら……


「……ふーん、まっ、おまえにそんな度胸があるとは思えないけどな、けど、もしチクったら……どうなるか」


「ひっ! ……で、でも、あんなこと、したら……」


「いいんだよっ! あいつ最近給食費も持って来ねえくせに、いっつも一人前に食ってるんだからな!

少々落っことしたパンくらい、あいつが食う分にまわしたって誰も文句は言わねえだろうが!」


「…………でも……」


違う、あれは落っことしたんじゃない。 ワザと、落としたんだ。


「それを何でおまえが食うんだよ!? 

おまえ、瀬川とよく話ししてるみたいだけど、もしかしてあいつに……き、気があるのかっ?」


「ち、ちがっ」


わたしはただ、いつも聞き手にまわって相槌を打ってただけだ。

それは瀬川くんに限ったことじゃない。

今までの隣の席になった人も、大体同じような感じで


わたしの方から話しかけた事なんて、

「あ、消しゴム落ちたよ」とか

せいぜいそんな程度くらいしかない。


だけど……



――――山桃……俺さ……お前は周りにペラペラ喋ったりしないの、俺知ってるから、おまえにだけ言うんだけどさ……

親が、離婚しそうでさ……たぶん、もうすぐ公立の小学校に転校になるんだわ……



……わたしは彼に、この学校での、最後の生活……嫌な気持ちのまま、終わって欲しくなかった。 ただ、それだけだった。

それに、わたしなら少々不衛生なパンを食べて体調崩したって、すぐに診てもらえるから……


「…………お願いだから、仲良く、してあげて……」


「……っ! けっ! なんで俺があんな奴と! ……いいか! あいつにもう関わるな! 

俺は知ってるんだぜ! あいつの父ちゃんは愛人作って……」


「!! だ、駄目! それ言っちゃ、駄目っ!」


「なんだ、おまえやっぱりあいつのことっ」


「あ~あ、なにやってんだか! 男の子が数人がかりで女の子一人を取り囲んで」


「「!!」」


「男の嫉妬はみっともないわよ、そこのボクちゃんたち」


「な、なんだあんたは!? 関係無いだろ!」


……? シット? 外国語、かな?


けれど、黒髪ロングが似合う綺麗なお姉さんだな……

それに、なんだかかっこいい!

……あの、持ってる長いのは、なんだろ?


「関係? まあ、無いっちゃ無いけどね……ただ……」


「…………? ちっ! 無いんなら、行けよ! 俺は山桃と話を」


「話をするなら一人でしなさいよ! 徒党を組んで、威圧して、まったく情けないわね! 

そういうことしたら余計嫌われるだけだってのが、わかんないの?」


「なっ!? てめー言わせておけばっ……うっ!?」


ビッ!


と瞬時に川谷くんの鼻先に、先ほどの手に持ってる物があてがわれていた。

……もしかしてあれ、袋の中身…………竹刀?


「……一応言っとくけど、あんたの鼻先1ミリで止めたのは、私の優しさだからね。

その気なら、今頃とっくに鼻は折れ曲がって鼻血ドバドバもんよ?」


「……うう」


彼は、切っ先を前に、身動き一つ取れなかった。


ビッ! ビッ!


……と、瞬時に残りの二人の鼻先にも、同じように竹刀の切っ先? があてがわれた。

しかも寸分違わず、1ミリほど残して手前できっかり止めていた。


「「ひえっ!」」


「……どう? よけれる自信があると言うなら、このままやってあげてもいいんだけど? ……やる?」


「や、やばいよ川谷くん! こいつ一学年上の深山みやまだ!」


現在、鼻先に竹刀が来て無い方の川谷くんの仲間の一人がそう言った。(ごめんクラス違うから名前わかんない)


「な、なにっ!? ……こいつが? 剣道では6年生でも適う奴がいないって、噂の?」


深山みやま……さん? 

結構クラスの多いこの学校で、三年の同級生が知ってるってことは

それなりに有名な人、なのかな?

わたしにはわかんないんだけど


「「さん」が抜けてるわよ? えーと、何くんだっけ?」


喋ってる間に、またもやビッ! とその彼の鼻先に切っ先が向けられ……


ゴッ! 「うがっ!」


「「あっ!」」


「…………」


ぽたぽたと、鮮血が彼の足元にしたたり落ちた。


「あー……、いやーごめんごめん! ちょっと呼び捨てでムカついたから手元狂っちゃったわ。

でも心配しないで、かすった程度だから鼻の骨までは折れてな」


「う、うわ! うわーーーっ!」


「「…………」」


3人とも、一目散に逃げてしまっていた。


彼女はふう、と短めのため息を吐き


「……べつに取って食ったりしないわよ。 止血くらいしてから行きゃあいいのに……」


廊下に点々と紅い雫が落ちていた。 追えばすぐ居場所はわかるだろうね、これ


「あ、あの……ありがとうござ」


「あーいいのいいの! ちょっと虫の居所が悪くて、単に気まぐれでやっただけだから!

…………やっぱまだ、片手での精密動作は修行が足りてないか~……」


「は、はあ……」


何気に先ほどの動きは実験だったことを彼女は暴露してますが、

これ、もしまともに当たってたら結構大惨事だったよね?


「で、でも、おかげでたすかりましたっ! ……けど、あの……大丈夫、なんですか?」


「……ん? なにが?」


「えと、その、PTAで問題になったりとか……これが原因で試合出場停止になったりとか……」


「あー、……そうね。……まあ、なったらなったで、いいわ、別に……」


軽っ! 最近のスポーツマンって、

そんな軽いスタンスで皆やっているのかな?

…………いや、違うよね?


「なーんて、べつに私は特にどこのクラブにも所属していないしね。

お咎めあっても私ひとり怒られたら終わりよ。 ……どう? 安心した?」


「あ、はあ……」


いや、でも怒られるのは一緒だよ? それはいいの?


「……それに、私が目指してるのはそんなんじゃないから……

目標は、とっくに決まっているし……」


「……え?」


なんか急にマジ顔になって彼女はなんか喋ったみたいだが、いまいち小声でよく聞こえなかった。


「…………ところで、あんた………」


「は、はいっ……?」


「………ふーん、なるほどねえ……」


彼女は、わたしを上から下までジロジロと眺めてそんなことを呟いた。


「……あ、あの……な、なにか?」


「あーいや! なんでもない! ちょっと納得しただけよ」


何を納得したんだろう? いかにもいじめられやすい顔つきしてるなあ、とか?


「うん、いじめられやすそうね!」


ニッコリと、わたしの心を読んでそう言った彼女!? えー!?


「あんたあんまり友達いないでしょ?」


更にズバッと酷いことをのたまわれました。 た!


「……いくらなんでも、ひどいです」


何気に真実なので、否定はできなかったのが更に悲壮感を増していた。


「あはは、ごめんごめん! でもそれ税金みたいなものだから、ある意味仕方ないよ」


なんで税金?


「コミュ力高けりゃそれも解消されるかもだけどね、君はそういうタイプじゃなさそうだし」


無いよ! コミュ力! それもズバリ当たってますよ!


「うう……」


何も言い返せなかった。


「……そうねえ…………仕方ないから、私が……友達になって、あげようか?」


「…………え?」


うつむいていた顔を上に上げ、彼女を見つめたが、

彼女は何故か横を向いていた。


「…………」


「す、すみません……もう一度言ってもらっても、いいですか?」


「……………………~~~あ~もうっ! だ、だからね!

わたしが、あなたの、遊び相手に、なってあげようか? って、言ってんの!」


照れくさいのか、今度も彼女は顔を真っ赤にしてそっぽを向き、目を合わさずにそう言った。


「遊び相手」……の前、確か「友達」って言ったよね?

聞こえた言葉がどうにも信じられなくて、もう一度問い直したんだけど……

どうやら聞き間違いでは無かったみたいだ……でも


「……わたし、三年生です、よ?」


「知ってる」


「……たぶんきっと、わたし面白いこと何も言えないし、できないです……よ?」


「そんなの関係ない」


「暗いし、口下手だし、泣き虫だし、根性ないし……えと、他にも……」


「そんなのいいから! 要るの? 要らないの? と、友達っ!」


「……そ、そりゃ! ……いたら、いいなあとは……思ってます……けど……」


「だったら丁度いいじゃない! 

ここで会ったのも百年目……じゃない! 何かの縁。

私も、今まで剣道ばっかで遊び方なんて何も知らないし、

それにお互い初心者同士で都合がいいし、

ちょっと息抜きする相手が欲しかったのよ」


「……こんなんでも、いいんですか?」


自分を指差し、恐る恐る問いかける。


「よくなかったら、こっちから言うと、思う?」


「…………」


ふるふる


ちょっと考えてから、わたしは首を左右に振った。

しかし、にわかには信じられなくて更にトンチンカンなことを口に出してしまう。


「オレオレ詐欺……とか?」


「一応、私女のつもりなんだけど?」


「ああっ! ご、ごめんなさい! そういうつもりじゃっ……!」


はあ~っとため息をつく彼女


「ほんとーに、友達いたこと無さそうね、あんた」


「い、いたことだって、あるよっ!」


精一杯の、抵抗。


「あ、そう……」


もっと小さかった頃だけど。


大体はよく遊びに誘われるのは男の子とで

なんでかあまり女の子とは遊んだ記憶がない。


ちっこい頃はそれでもいいと思ってたんだけど

成長につれワイルドな遊びはなんか合わなくなってきて

だんだんと距離を取るようになっちゃったんだよね……


「……で、でも、あ、貴女も、いないから、声をかけてくれたんじゃ……?」


「べつに普通に学校では話する友達はいっぱいいるわよ」


「!!」


がーん!


やっぱりこれ、単にからかわれてるだけなんじゃ……?


「でも……ただ、それだけ。 放課後とか、休日に一緒に出かけたりとか、

そういうのはしたこと無いの、だから……」


「だ、だから……?」


「だから…………そうね…… 

……! 観念、しなさい! ばきゅーん!」


彼女は、笑顔と、銃に見立てた指先を向けて、私にそう言った。




◇◆




「私の名前は、深山みやま 深雪みゆき


「そ、そうね……! あなたには、特別に私のことを「ふかふか」と呼んでも良いことにしてあげるわっ!」


「…………え? ……フカフカ?」


どっかのオラオラ言う幽霊持ってる日本人キャラみたいな略ですね?


「…………」


「…………」


「……じょ、冗談よ! 冗談!」


本気でしたよね?


でもそうか、なんか愛称で呼んで欲しいんだな、

というのはなんとなく伝わってきた。

…………そうだなあ…………あ!


「えと、…………じゃ、じゃあ…………み、みゆきちゃん……で、いい?」


「……ちゃん?」


「あ、あっ! ごご、ごめんなさい! せ、先輩に対して、やっぱり馴れ馴れしすぎますよねっ!」


「…………いや、…………ふむ、……ちゃん……みゆきちゃん……か、……なかなか新鮮な感触だな」


あー、この人、あんまりそういう呼ばれ方されたことない人だったのか……


「……うん、”おねえちゃん”に通ずるものがあるのが、なんか気に入ったわ」(ぼそっ)


「え?」


「あっ! ううん! ……よし! じゃあそれで行こう! ……それであんたは? 山桃……なんてーの?」


「あ、鈴音すずね! 山桃 鈴音です!」


「うーん、そうね……じゃあ……スズちゃん?」


「スズ、ちゃん……」


「じゃあ、スーちゃん?」


「…………」


かあー……


「……ごめんなさい! べ、別に変じゃないですけどっ! やっぱ恥ずかしいから、すずねでお願いします!」


「……うん、ごめん、私もちょっと今のは自分で言って厳しかった」


じゃあ言わないでよっ!


「それじゃあ……みゆき、ちゃん?」


「なに? ……すずね」


「「…………」」


互いに顔を赤らめて見つめ直す。

結局は愛称にならず、単に名前に落ち着いたのだが、

初めて名前を呼び合ったあの時は

二人とも口端を吊り上げ、なんともいえず、むずがゆい

微妙な表情をしていたんだと思う 



……これが、二人の出会いだった。


こんばんは、新田です。


今回は二人の出会いのお話です。

それほど特別なものはなく、割と平凡ですよね


でも鈴音や深雪が「鈴音や深雪だったからこそ」出会った……と、

そのようなお話になっていれば、それでいいかなと思って書いてみました。


この辺りはプロットも何も無かったので

ただ思いつくままに文字を打ち込んでみただけです。

なので面白いのかどうかは自分でもよくわかりませんが(^^;

少しでもほっこりしていただければ幸いだと思います。

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