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第三話  伊達さんはガ○ダム(ν)になれないとアム○は明言してました


「ラフ&スムース 第二章」










「……これは、ウチではお受けできませんね」


「……えっ?」


一瞬耳を疑った。

今、何を言われたんだろうか?


僕たちは数々の苦難みゆきちゃんのわがままを乗り越え、遂に念願のスポーツ店に辿り着いていた。


そこへ入店すると真っ先にこの店員さんに声をかけられたので

そのまま用件を切り出したのだ……が、

最初はニッコニッコニーだった店員さんの表情が

みるみる曇っていって、最終的に出た答えがこれである。


「……木製のフレームラケットはもう何十年も製造されていませんので

今のストリングマシンでできるかどうかわからないんですよ

実際にやったこともございませんし……

それに当時の木製ラケットを知るストリンガーももうウチにはいませんし

何より経年劣化によりフレームを破損させてしまう恐れがあるため

取り扱わないことにしているんです。

どのみち鯨筋のストリングも今ではそうそう手に入りませんしね

誠に申し訳ないのですが……」


「……そう、ですか……」


なんとなく、薄々は感じていたことではあったけど

やはり、そうきたか……

そうだよな、今更こんな昔のラケット使われても店には大したメリットも無いし

新品を売らなきゃ商売にならないしなあ


「ちょっと! それ、どういうことよっ!」


みゆきちゃんが後ろから割り込んできた。


「木製って言ったって同じソフトテニスラケットなんだし、ちゃんとSTAマークだって入ってるのよ! 

ここ! ここにっ! ほらっ!(ズビッ! ズビシッ! と何度も指差して)

日本ソフトテニス連盟の公認ラケットなんだから、何も問題ないじゃない!

なにかってーとこのマークが入ってないとアレも駄目これも駄目とかすぐ言うくせに!

それすら認められないとか言われたらこっちはどうしたらいいのよっ!?

だいたい、もっとフレーム細いバドミントンラケットだって仕事で張ってるじゃない!

これくらいちょっと調べて調整したらできるでしょっ! 

めんどくさがらずにやってあげてよプロなんだからっ!」


怒涛の口撃に店員さんは一瞬固まっていた。


「……はっ! い、いえ、あの、その……え~と、STAの文句をウチの方に言われましても……

あっ! そ、それに今は店長も席外してましてっ……私だけの裁量では、どうにも……」


「だったら、店長に連絡して聞いてみて!」


「ええっ!? いやその、連絡してもたぶんその、駄目かと……ごにょごにょ……」


モンスター化したみゆきちゃんの剣幕に、少々押され気味の店員さんであった。


「ま、まあまあ! みゆきちゃん、店員さんも規則にのっとって仕事してるだけなんだし、

プロだからこその判断ってのもあるんだよ、仕方ないよ……

なんかあった場合のリスクのことも考えて経営していかないと、

この世知辛い世の中生き残っていけないんだよ」


「はは……まあその、仰るとおりで……申し訳ないですが……」


苦笑いしながら店員さんは安堵の表情を見せていた。


「でも! だって鈴音! これが要るんでしょ? 今朝だってこのラケットにすごく拘っていたじゃない!」


……みゆきちゃんは、自分自身の心証を損なうことなんて、

まったくお構いなしに僕の味方になってくれるんだよな…………いつだって……


「……ありがと、みゆきちゃん」


僕はにこりと微笑んで彼女の手を引いた。


「あっ、鈴音……」


とすっ


自力歩行が困難な彼女は、そのまま僕の懐の方にもたれかかって来た。


「大丈夫、まだ他にも……手はあるから」


「え、でもっ……………………そ……う?」


上目遣いでこっちの顔を見たと思ったらすぐ目を伏せて急におとなしくなる彼女

どうやらこの場はおさまったようだ。




「……というわけで、一旦家に帰ろう」


「……えっ? でもまだなにも、できてないよ?」


「うん、まあそうだけど、お茶の約束も予定に入ってるしね」


「そ、そんなのいいわよっ! ……そうだ! 

他のスポーツ店ならやってくれるところあるんじゃ、ないかな?」


「う~ん……そうかもだけど、アテ、あるの?」


「…………ない」


「だろ? ここはいったん作戦会議ということで、さあさ! 行こ行こ!」


「……や! でも家まで帰ったら街から離れちゃうし、今日に間に合わなくなっちゃうよ!」


「大丈夫大丈夫、ラケットならもう一本持ってるから、練習できなくはないから」


「……鈴音、嘘ついてる」


うっ!


「前のラケットを使う気なんか無いくせに……なんか見ててわかる。 

もうこいつしか見えない~って顔、してるし」


ううっ!


「なんか他にあるんでしょ? 考えが」


……う~ん、さすがみゆきちゃん、付き合い長いし簡単に見透かされちゃうなあ……


「……ま、あるにはあるんだけど、いまいち確証が無くてねえ……実際に行ってみないと、わかんないんだよ」


「……? それって、他のスポーツ店ってこと?」


「ま、一応そんなところなんだけど」


潰れて無ければだけどな


「じゃあ行こうよ! 今から!」


「うん、だから、帰ろう」


「…………なんで? …………もしかして、鈴音の家の、近く? …………そんな店、あったかなあ??」


鈴音の、というよりも、孝志の家の近くだからな

小学生時代のうちらふたりの遊び圏内テリトリーからは若干外れてるんだよなあ

なんせ孝志の学生時代の行動範囲の中でも結構はじっこの方だったし

社会人になってからあの辺り、通った記憶も無いくらいだからな……


「片田舎のスポーツ店だし、もう十うん年も前に見たきりだし

今はもう、もしかしたら無いかも知れないよ?」


「……そっか~、それだと確かにわかんないよね~……って! 十うん年って、それ、鈴音あんた何歳の頃の記憶よ!?」


「えっと~今が12さいだから、確か、まいなす~二桁は行ってな…………な~んて! そんなわけないでしょ~!」


「…………すずねさん? そこボケは要らないわよ?」


いや、ボケたつもりじゃなくて、この上なくおもいっきり素で言っちゃったんだけどねっ!(汗)


「ホントにあるのかなあ? そんなお店……」


「とにかく、行ってみようよ! もうここにいても仕方ないんだし!」


「……わかった、じゃあまたナビ兼わたしの補助輪よろしくう♪」


ずしり!


「うぐうう~」


子泣きばば……もとい子泣き姉ちゃんが復活した。



「び~~~だっ!」



店舗を出る際、彼女は店員さんにあっかんべーをしていた。

次来る時のこと、考えてんのかな~、この人?


「あっ、ありがとうございましたっ!」


それでも店員さんは苦笑いしながらマニュアルに忠実に仕事している

よくできた店員さんじゃないか。

融通は効かんかも知れんけどな~





がたん……ごとん……きききいいいいいい……いいい……


ぷしゅう~~



「ほい、みゆきちゃん、着いたよ、立てる?」


「あっ、うん、ちょっと待って…って、……わわ!」


僕は席に座ってる彼女に手を差し伸べて引っ張りあげ、すぐに肩を貸してあげた。

なんだかだんだん慣れてきた。


「ほらここ、段差あるから気をつけて」


「う、うん……ありがと」



僕たちは停車した汽車から地元の寂れた無人駅に降り立った。

ここからまた十数分歩いて、とりあえず鈴音の自宅の前までは戻ってきた。


「……とりあえず、休憩する? それとも、お泊りで?」


ちょっとふざけて言ってみたら


「お泊りで!」


即答だった。


いや、あんた自分ちのアパートすぐそこやん! 

うちより駅近の超優良物件じゃん! 

目覚めてそのままベッドから転がり落ちたら駅に着いちゃうくらい近いじゃん!


「うそうそ! とても魅力的な提案だけど、目的が先よ、早く行こ!」


「あ、ちょっと待って! みゆきちゃんも、えと、杖と……財布や携帯以外は一旦ここに置いておこ!」


「そうね! その方が確かに楽だわ」


僕は自宅の庭に入っていって不要な荷物を車庫に全部置き、自家用車ママチャリを押して戻ってきた。


「じゃーん! これ僕の愛車、ちなみに名前はν( にゅー)伊達じゃない号! デス!!(今さっき命名)」


我ながらすばらしいセンスの名前だ。 全国の伊達さんには申し訳ないがな!

ついでにいうと最後の「デス!!」は某松岡さんの真似だったりする


言った後にこれ、流石に鈴音のイメージじゃないなとちょっと後悔したけど

まあみゆきちゃんだし、たぶんわかってないだろうから、いっか!


「…………控えめに言って、イケてないと思うよ鈴音……ネーミングが」


ひどっ! 


「ご、ごほん! とにかくみゆきちゃん、これにまたがって。 そしたら僕が押すから」


「あ、なる……! 確かに肩貸してもらって歩くよりは早いよね」


「でしょ? みゆきちゃんも片足は使えるんだから、

怪我してる方にさえバランス崩さないようにすれば、楽チンで進んでいけるよ」


「う……でもちょっと、怖くない?」


「心配要らないよ、僕がハンドル握って押すから、

みゆきちゃんはただ座ってるだけで……ほら、手を出して?」


僕が手を差し伸べると、ちょっとだけ考え込んだ後、微笑んだみゆきちゃんの天使スマイルがあった。


「そ、そーお? じゃあ、お言葉に甘えて……う、んしょ! っと」


万全のサポートのもと、なんとか乗車は完了した。


「……でも、よく考えたら、鈴音がハンドル握ったら、わたしの掴まる場所がないよね?」


「あっそうか! じゃあやっぱりハンドルはみゆきちゃんが持って。 僕は後ろから押すよ」


僕はハンドルから手を離そうとした。


「う~んそれだとバランス崩したときに怪我してる方に倒れちゃったら怖いし……あ! じゃあ」


ぎゅっ!


「……わっ!」


みゆきちゃんは、僕の手の上に、手のひらを重ね合わせ、満足気に微笑んだ。


「鈴音のお手手、すべすべしててやわこいなあ~」


どきどき……


なんか、変な脂汗出てきてギトギトになりそう!


「じゃあしゅっぱつう~」


「よーし! たかがみゆきちゃんひとつ! ν伊達じゃない号で押し出してやる!」


「……え? ……なにを言ってるのかわからないわ

っていうか、さっきも思ったんだけど、なんか一瞬ちょっとだけオタっぽかったよ? 鈴音……」



「…………」



その台詞の為だけに命名したのに……ぐすん!









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