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第一話  雨上がりの放課後

「ラフ&スムース 第二章」







「あっ、鈴音! こっちこっち!」


正門の方で松葉杖を振り回している少女が、こちらを向いてそう言った。


僕は少女めがけ、足早に駆けていった。


「はあ……はあ……ごめんごめん! 待った? みゆきちゃん」


そう言うと、その少女はふにゃっと顔を緩ませて僕に覆いかぶさるように倒れ込んできた。


「う、うわっ! 危ないっ!」


カラーン!


と松葉杖が倒れる音がしたと同時に

しっかと少女を抱き抱える僕。


しかしそれは罠だった。

そう、僕に受け止めてもらうための


「鈴音……かわいいっ!」


彼女は全身全霊でハグをしながら胸を押し付け頬ずりをしまくってきた。


「ちょっ! み、みゆきちゃ……苦しいし、恥ずかしいよっ!」


「いいよ私は、鈴音さえいればそれでっ、恥ずかしくもなんともないよ」


「い、いや、僕が恥ずかしいんだってばっ!」


彼女は足を怪我しているため、無下に突き飛ばしたりなんかはできない

なんとか穏便に引き離すしかないのだが……これがなかなかに難しい

正直に言うと、良い匂いがするし柔らかな二つの膨らみとプニプニのホッペの感触がとっても気持ちいいので

このままでも良い気もするのだが……

流石に下校時間でなおかつ人通りの多い正門でこの展開はちょっと勘弁して欲しいのだった。


「はいはい、今日は帰りに僕んち寄ってもらって美味しいお茶をご馳走しますから、とりあえず離れましょうね?」


そう言いながら彼女の両肩を掴んで、ゆっくりと引き離した。


「……えっ? 今日、鈴音の家に遊びに行っても良いの?」


「…………」


無言になる僕、もちろんわざとだ。


「……えっ? やっぱり……駄目……なの?」


「…………みゆきちゃん!」


「あっ、な……なに? 鈴音?」


不安そうにこちらを見つめている


「だから、そういう他人行儀はやめようよ! いつでも遊びに来てくれていいんだから!」


「……! 鈴音え~~~~~」


またしても抱きつこうと突っ込んできたのでサッと躱してやった。


「あっ! あああああああ~~」


ガシッ!


コケそうになっている彼女を背後から抱きとめた。


「……まったく、もう」


本当に、これが今朝、毅然とした態度で部を取り仕切ってた副部長さんなんでしょうかね?


放課後になり、雨はようやく上がったものの、それまでは本当に酷かった。

雨がゲリラさんになってあちこちでテロを起こしてたから

グラウンドはびちょびちょのぐちゃぐちゃで、一目見て


「さーて、これから田植えでもすっかー!」


と腕まくりでハッスルしたくなるほどに見事に土がぬかるんで

とてもじゃないがまともに練習など出来る状態では無くなっていた。


なので部のみんなは、予定通り体育館で軽く運動をすることになっている。


僕たちは、それぞれ違う理由で帰宅チームになっているのだが

彼女は僕に一緒についてくると言いだしたのだ。


「鈴音は、これから行くとこ、初めてじゃないのかな?」


「えっと……あ! そういえば、そうかも……」


そう、今朝切れてしまった僕のラケットのガットを張り直す為に放課後、スポーツ店に寄ることになっているのだが

よくよく考えたら僕はスポーツ店に行ったという覚えが無いのだ。


「ソフトテニス部に入るつもり」と父に喋ったら

その翌日には装備一式を完璧に揃えてくれていたのだった。

ラケットのみならず、服もスポブラもアンスコもシューズに至るまで……

サイズまで完璧でしたわ、お父様。


だから僕は部のみんながよく行っているであろうスポーツ店にはまだ一回も行ったことがなかったのだった。


……そういや孝志の地元のスポーツ店ってまだあったんだっけ? 潰れてなければ良いのだが……

確かあそこでこのラケット買ったんだよな~、今となっては何もかも皆懐かしい……


「……でも、鯨筋のガットなんて、もうどこにも置いてないんだろうなあ……」


確かに鯨筋ガットは独特の打撃音と打球感で、打った時の爽快感はなかなかのものではある。

でも、無きゃ無いで自分的にはべつに普通のナイロンガットでも良いのだがな

最新のストリングを張れば、性能的にはそんなに劣ることもないのだろうし……


しかし、なにせこのラケットは借り物なのだ、しかもこっそりと。

多少キズが増えるくらいはおそらくわかりゃしないだろうが、

流石にガットがナイロンに変わってるのはまずいだろう

彼が退院した後、何かの拍子で見られたら怪しまれてしまうかもしれない


…………

……いや、案外僕のことだから


「……あれー? 確か鯨筋張ってたような気がしてたんだけど……単なる気のせいだったんかー? まいっかー!」


で片付けてしまうことも十分に考えられるのだけどもね、アホだから。


……あ! でもこのまま記憶が戻らなければ、それも関係ないのか? 盛大にアホになってるし。 かなりやばいけど!


「……まあ、アイツの物は僕の物、僕の物は僕の物という考え方でもいいんだけどな」


未来のあいつが僕なんだから、それで間違ってないと思う

客観的に見た場合は問題大アリなのが問題ではあるかもしれないが……


「……なにそのジャイアンみたいな考え? ……もしかして、それって借り物なの?」


「……あっ! 口に出てた? ああ、いや気にしなくてもいいよ! 実際僕の物同然なんだし!」


みゆきちゃんの顔が若干険しくなった。

眉が少し釣り上がり、口を尖らせている


「……鈴音ちゃん?」


「……な、なに? みゆきちゃん」


「……いつから、そんな悪い子になっちゃったの?」


あ! やばい! みゆきちゃんが教育お姉さんモードに切り替わってしまった。


「駄目でしょ! そんないい加減なこと言っちゃ! 誰の物かは知らないけど、

借り物ならちゃんと責任もって管理してあげないと! 

返した時に相手に”貸すんじゃなかった”なんて思われないようにするのは最低ラインの条件だよっ!」


「あ、いやだからこれは僕のじゃないけど僕のだからみゆきちゃんが気にするようなことはぜんぜん」


「さあ、早く行くわよ! そのラケット、元通り以上にピカピカにしてあげましょう!」


ガッと肩に手を乗せられ、一気に体重をかけられた。

どうやら今から僕を杖の代わりに使うつもりでいるようだ。


「みゆきちゃん……重い……」


「しっ、失礼ねっ! そんなに……重く、ないもんっ!」


そう言いつつも子泣き爺のようにどんどんのしかかってくる


「うぐお……」


孝志の人生では考えられなかった”女子中学生に好意を持って完全密着されている図”は

本来なら飛んで喜ぶべきところなんだろうけどなあ……

セクハラしまくってやろうかしらん?


通常の半分以下の歩行速度で僕たちはスポーツ店に向かった。

とはいえ、この学園の近所にはいろんな店がひしめき合っており

その中の一店舗なので、そんなに遠い訳ではないんだけど。


「うふふふっ」


「な、なーに? みゆきちゃん……急に笑ったり、して……」


「鈴音と、こーして一緒にどっかいくの、久しぶりだなあって思って……」


「……あー、確かにそうだね」


そういえばそうだ、もしかしたら、一年近く一緒に出歩いていないかもしれない

その間、僕はいったい何してたんだろう? 

もしかして、ずっと引き篭ってた? ……い、いやいや! まさか?



一瞬だけ、脳裏に孤独で暗い小学六年生時代が蘇った



「…………」


ぶるぶる!


い、いかんいかん! 一瞬鈴音がレイプ目になってたような気がするぞ?


顔を振り、その黒歴史は封印しようと意識的に記憶から強制パージした。 ナドレ状態である(意味不明) 

そのせいでちょーっと鈴音ちゃんは一年分アホになっちゃったかもしれないがまあいい、今からまた勉強がんばろう!


「……まあ、とはいえ近場の店でただガット張ってもらいに行くだけなんだけどね~」


「ぶ~~! お姉ちゃんとお出かけ、楽しくないの~?」


「はいはい、楽しいですよ~僕の体重が倍化してなければですけどね~」


「こっ、これは愛の重みだからっ! しっかり受け止めてよねっ! でも一言だけ言わせてもらうと

片足は着いてるんだから、いくらなんでも倍にはなってないわよっ! 

……まあそりゃ確かに、ちっこい鈴音よりは私の方がほんのほ~んのちょびっとだけは重いかも……しんないけど……」


だんだんと小声になっていった。

あんま年頃の女の子に体重ネタでいじっちゃかわいそうか……


「はは……うそうそ、ぜんぜん重くないよ

なんならお姫様だっこしていってあげようか?」


「……なっ!? …………是非、お願いします!」


「……いやごめん、やっぱ無理。」


体重どうこう以前に、そんな恥ずかしい体勢で店に入った日にゃ鈴音OSじゃなくても顔から火が出るわ!

イメージしてみてよ! お姫様だっこで二人笑顔で入店しているところをさあ! 

あまつさえそれ誰かに動画録られてネットにあげられてみ? 終わるから! 人生が! その場で! 死ぬしかないから! 


「もう! うそつき~!」


「いやいや、流石に恥ずかしいでしょ? みゆきちゃんも」


「そりゃ恥ずかしいけど、でも、鈴音だったら許す! 王子様に抱きかかえられるお姫様気分、味わいたいな~(はあと)」


「…………王子?」



僕の妹ポジションは、いったいどこにいった?



「は、あ~~~…………」


そんなことを思いながら、少しだけ伸びをし

ふと、上を見上げると、いつの間にか空はどこまでも蒼く澄み渡り

彼方には鮮やかな大きな虹が架かっていた。


「うわ、すご…………あっ、ほら、みゆきちゃん、見て!」


「わ! すごい! 綺麗だね~」



夏はもうすぐそこまで来ていた。

誰もが迎える新しい夏が


僕たちは、これからそこに飛び込んでいく


「……ここからは……後悔の無い、夏になると……いいな!」


そう願い、僕は仲直りした彼女を支える手に、よりいっそう力を込めた。


「……うん……そうだね! 大丈夫だよ! 鈴音なら、きっと!」


彼女はおそらく自分にとっては最高であろう満面の笑みをつくり

僕に向けてそう言ってくれた。









お久しぶりですこんにちは、新田です。


見事にエタっていましたごめんなさい!


私事ですが、最近ようやくプライベートで少しずつ時間も取れるようになって

そんでもってTS物でかなりの良作に巡り合う機会もありまして

やっとこだんだんとモチベーションが上がってまいりました次第であります。


正直それらの作品は本当にすごくて、とても自分に太刀打ちできるような代物ではないのですが

書く気持ちを蘇らせてくれたことには本当に感謝しております。


どこまでモチベが続くかは、神のみぞ知るというところではありますが

がんばっていきたいと思います。


現在の状況を申し上げますと

一章の時は僕のゲート・オブ・バビロンの武器の貯蔵がある程度あったので

まだなんとかなったのですが、今回は殆ど無い状態からのスタートで書いていってます。


プロットも、なんとなくは頭にあるのですが

まだハッキリとした形にはなっておりません。

なので矛盾とか、気に入らない所とかはどんどん書き換えたり消したりするかもしれません。


そんな感じでかなり不定期な更新になるかもしれませんが

またお付き合いいただけたら幸いだと思っております。


どうか何卒よろしくお願いします。

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