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15話  和解、そして土下座へ

『ラフ&スムース』







「ッキャアアアアッッ!! や、やったね! 鈴音ー!」


「そこ、うるさいです春菜!」


「もう~いけず~、ここは二人ひしっと抱き合って喜び合うところでしょ~?」


そう言いながら、じりじりと近づいてくる春菜

なんとなく、じりじりと後退りをする僕


ぽよんっ!


後ずさりをしていたら、背中に弾力のある柔らかいものが当たってきた。

というか、僕が当てたのか


むにゅう・・・


「・・・うわっ!?」


こ、この重量感あふれる・・・強烈な感触は・・・


「・・・ま、まさかっ!?」


「・・・そうよ、そのまさかよっ!」


なんでか脳内でヒロシの声で再生された。


・・・って、そうじゃなくて! だ、誰だっ!?


「今から、この娘は私のパートナー・・・よろしく」


僕と腕を組んで、身体を密着させてきたのは


「あああっ! ぶ、ぶちょおおおおっ! それ、それボクのおおお~!!」


”それ”って言うな! 僕のこと”それ”って・・・し、しかし、これわっ


むにゅ、むにゅう・・・


「で、でかい!・・・何者なんだ、あんたは・・・」


「・・・ん?・・・私?・・・だから、ひなの・・・だよ? あなたの・・・えと・・・お嫁さん?」


・・・いや、違うだろ! っていうか、空気読めよ!


「いやああああ~~っ!!」


ああ春菜さんが・・・壊れてしまった・・・

たぶん本能的に女として完全敗北を認めてしまったんだな・・・特に、胸の部分で、大幅に・・・かわいそうに


「ふつつかものですが、よろしく」


「あ、ああはい、こちらこそ!」


むにゅにゅ・・・


や、やばい今、僕は鈴音OSじゃないのに・・・こ、これはちょっと・・・


「また珍しいわね・・・ひなのちゃんがそんなに他人に興味持つなんて、滅多にないことよ」


みゆき先輩が目を丸くして驚いている


「・・・そんなことない・・・私、みゆき好きだよ?」


「そりゃ光栄なことで・・・ま、丁度良かったじゃない、相性良さそうで」


「ちょ、それは・・・まあ、ありがたい話なんですが・・・その、む、胸が・・・部長!」


もうそろそろ限界だった。

これ以上挑発されると胸に顔をうずめてペロペロしちまうぞ!


「・・・ん? なにが?」


「・・・あんた、また大きくなったわね、ムネ・・・いったい何でできてるのよ?」


「・・・ああ・・・これ?」


パッ


や、やっと腕を離してくれた・・・ホッ・・・た、助かったあ~・・・


むにゅ、むにゅう、むにゅっ


って、今度は何やってんすか! 部長!?


両手ではまったく収まらないほどの大きさのモノを

下から持ち上げ無造作にプルンプルンとふるわせている

間近で見ると超圧巻だ! ・・・し、しかし・・・一体何の為に!?


「・・・・・・たぶん、ミート100パーセントだと、思います。」


『確かめてたんかいっ!!』


思わず、みゆき先輩とハモってしまった。


「・・・だって、自分でもよく・・・わからなかったから・・・」


なんつー天然無防備な娘なんだ・・・

日影さん、教育者なんだから、もっとちゃんと教育しようよ・・・


「最近、ブラも探すの大変で困ってるの・・・でも、それよりも困るのは、

走るとちょっと、痛いから・・・小回りが効いてよく走る娘、とてもありがたいの・・・」


・・・つまり僕は、彼女のファンネルになるのですね?

まあ、そりゃやれるだけのことはやりますとも、もちろん


気がついたら彼女は、じ~~・・・っと僕の胸部を見ていた。


「・・・・・・要る? これ」


むにゅっと大きい物を持ち上げて言った。


「い、いえ・・・その、お気持ちは大変ありがたいのですが・・・」


いや、そりゃ部のみんなに分け与えれたら

全員がバランス良い素晴らしいプロポーションになれそうだけど、無理だから!

それに僕はこれからだから! 今もちゃんと成長してるし!


「要らんのなら、ボクがもらうよそれー!」


あ、春菜、復活したのか

・・・確かに、春菜は、少しもらった方が、いいかもしんない・・・


「あげるあげる、持ってって~・・・」


両手で春菜の顔を掴んでバフンと自分の胸に埋めこんだ部長・・・いったいどこまで本気なんだ?


「ふ、ふわああ~~~っ! す、凄いよこれ鈴音~っ!」


嬉々として顔をぐりぐりとしている春菜さん

餌の与え過ぎには注意してください部長!

しかも部長もまんざらじゃない顔をしている

う・・・ちょっと、羨ましいかも・・・


「ゴホン! お楽しみ中、申し訳ないですけどっ!」


みゆき先輩が・・・ヤキモチ焼いて入ってきた?


「それじゃあ、私と椛はそろそろもう行くからね・・・あんた達も授業に遅れないように!」


『は~い!』


部長も一緒にお返事・・・

この人って、部長の役割果たしてるの? 甚だ疑問だ。


「今日は午後も雨らしいから・・・放課後は体育館使わせてもらうけど、

他の部活の邪魔になるから筋トレだけだし・・・鈴音はいいからスポーツ店行って

ガットの張り替えして貰ってきなさい」


「・・・はい!」


「・・・・・・それと」


「・・・はい?」


「椛にも、言っとくけど・・・」


「・・・なんだよ? あらたまって・・・みゆき?」


「私が怪我したのは、間違いなく私のせいなんだから、気にしないで頂戴ね!」


「・・・!」


やっぱり、みゆき先輩・・・気がついていたんだ。

僕が責任感じてること・・・・・・そうか・・・付き合い、長いもんな・・・


「みゆき!・・・でも、それは・・・」


羽曳野先輩が、何か言いかけたが即、みゆき先輩が言葉をかぶせてきた。


「椛も、今日でなんとなくわかったでしょ?」


「・・・う・・・・・・」


黙ってしまった。 一体何のことだ?


「鈴音は、確かにまだ荒削りだから、コントロールもそこまで整っていないわ」


みゆき先輩との乱打が・・・怪我の原因なんだよな・・・

僕が・・・無理させるような追いつけない球を出した為に・・・


「でも、違うの・・・あの時は・・・ちょっと球はズレたけど・・・

普通ならけっして取れないコースじゃ無かった。 十分、乱打の範疇だったわ」


「・・・えっ? で、でも先輩! あんなに必死に追いかけていたじゃ・・・!」


「それは鈴音の球足が、新人とは思えないほどに・・・速かったからよ」


「・・・で、でもみゆき先輩は、ちゃんと僕の打ちやすい所に、返してくれてたしっ!

僕だけが、右に左に振り回して・・・!」


「・・・だから・・・”みゆき先輩”じゃ、ないって・・・(ぼそ)」


「・・・えっ? ・・・よく・・・聞こえなかったんですけど・・・?」


「・・・・・・だからっ! ”速く、もっと速く打ちなさい”・・・と、そう言ったのは、私だから!」


「・・・あっ!」


みゆき先輩は確かに、そう言っていた・・・気がする

普段の春菜との練習では、そんな乱打はしないからな

お互いがコントロール重視で、相手に打ちやすいように返していたから・・・


「新人のうちから、縮こまった、入れる”だけ”の打ち方してたら、それが癖になっちゃうから・・・

そう、指示したのは、私だから!」


「・・・・・・」


「・・・だけど・・・予想外に、鈴音の球は強烈だった。

他の選手が同じようなコースで返して来ても、

たぶん追いつくのはそれほど難しく無い筈だったのよ・・・」


「そ、それならそう言ってくれれば! 少しくらい休憩したりしながら・・・」


「・・・そうね・・・なんか私、ムキになっちゃって・・・」


「え?」


「先輩としてのプライドがあったの・・・ううん・・・それよりも、私・・・

鈴音の才能に、嫉妬しちゃったのかもしれないわ・・・初めてすぐに

こんなに私を翻弄するような球を打てるようになって・・・

なんか、”負けられない!”って・・・」


「みゆき・・・先輩・・・・・・嘘だろ? だって小学校の頃はいつも一緒に遊んでて・・・」


本当に、お互い何でも打ち明けて、苦楽を共にしていたのに・・・


「だからっ! 同じ部活に入ってきてくれた時は、凄く嬉しかったの!

私を慕って来てくれたんだって! また一緒に、同じことできるんだなって!・・・・・・それなのに・・・

ずっと妹のように思ってきた貴女に・・・お姉ちゃんらしいことしていたかったのよっ!!」


「・・・!!」


「・・・・・・前みたいに、”みゆきちゃん”って、呼んでよ・・・」


「・・・あ・・・・・・」


言葉が、出てこなくなった・・・

だって・・・僕・・・いや、私は・・・こんなにもずっと・・・大切に想われていた・・・なんて・・・

・・・なのに・・・私は・・・彼女が、遠くなったと・・・錯覚して・・・


「~~~~~・・・みゆき!」


半泣きになっているみゆき先輩に、たまらず羽曳野先輩が入ってきた。


「もう、わかったから! あたしが悪かった・・・ごめん! ごめんな、みゆき!」


「・・・え?」 


どういうことか、理解できなかった。

だって悪いのは、やっぱりどう考えても、私だから・・・


羽曳野先輩は、こっちに向き直って、頭を下げてきた。


「・・・すまん! 山桃! あたしが悪かった!」


「えっ? 羽曳野・・・先輩?」


・・・どういうこと? なんで私が謝られてるの?


「・・・・・・あたしが、おまえに対してずっと意地悪してたのは・・・その・・・

みゆきが怪我したのは、お前のせいだと思い込んでたから・・・なんだ」


「・・・あっ!」


「・・・もちろん、そんなことは逆恨みってわかっちゃいたさ、頭ではな・・・

新人にベテランみたいな乱打とか、そんなこと求める方がおかしいって・・・な」


「・・・・・・い、いえ・・・それは・・・でも」


「けどなっ! みゆきはお前の練習相手をしつつも次の試合にかけて、頑張っていたんだ!

部長と一緒にダブルス組める期間は、もうそんなに長くはない!

みゆきは・・・また県大会を勝ち抜いて、今度は、今度こそは部長を全国で勝たせる・・・

全国で通用するペアになれるよう、実力をつけて挑むつもりだったんだ!

・・・それなのに・・・怪我させた本人が代わりに部長と組むなんて・・・

いくらみゆき本人の希望だからって・・・実力も無いくせにって・・・

納得、できなかった・・・!」


「・・・・・・」


「・・・それでも、まだ我慢してたさ・・・けれど、お前は・・・

どんな事情があったのかは知らないが、それを、無下に断りやがった!」


「・・・!」


・・・私が・・・試合よりも・・・孝志を・・・優先してしまったから・・・


「許せなかった!・・・生半可な気持ちで、みゆきの後釜に入っていたのが・・・」


「やっぱり・・・私の・・・せい・・・ですよ・・・ね?」


やっぱりどう考えても私が悪い

みゆき先輩は、自分の無念を噛み締めて、

苦渋の選択で私を推薦してくれてたのに・・・

その真剣な気持ちを、こんなに軽く考えてたなんて・・・


私は・・・ただきっと、逃げ出したかったんだ・・・

私のせいで、みゆきちゃんは怪我をした・・・

それなのに、私に代わりに入れと言う・・・そんな責任、私は負いたくなかった。

そんな実力もぜんぜん無いのに、ただ晒し者になるのが嫌だったんだ・・・


なんで私なんか選んだのか・・・理解できなかった。

他にもっと上手い人いっぱいいるのに

これはきっと、私に対する嫌がらせか何かかと・・・

たぶん、心の片隅で・・・思ってしまっていたんだ。


「・・・・・・いや・・・あたしの本当の気持ちは・・・実はそんなんじゃ無かったんだ・・・

本当は・・・そう、思い込もうとしていただけだったんだ」


「えっ?」


「今日の試合で・・・やっとわかったよ・・・」


・・・一体、何が? 今日の試合で・・・わかったって・・・?


「本当はさ・・・あたしが、なりたかっただけだったんだ・・・」


「えっ? 一体・・・何に?」


「みゆきの代わりをするのは、あたしがやるしかないって・・・いや、

あたしがやりたいって・・・そう思ってたんだ。」


「・・・・・・椛・・・」


「あたしさ・・・前は、みゆきと、ペアだったんだ」


「・・・! そうだった・・・んですか」


「けれど、部長の前任のペアが卒業していなくなっちゃってさ・・・

他に、部長に見合う実力を持った人間は・・・みゆきしか、いなかったんだよ」


・・・そうか! つまり去年は、その前任の人と一緒に部長は県大会を勝ち抜いたのか、

それで、全国大会で・・・破れた・・・と


「・・・・・・」


部長は無言で聞いている・・・でもなんか、申し訳なさそうな表情だ。


「寂しかったんだなあ・・・あたしも! 決して今のペアの子が嫌ってんじゃないんだ。

だけど、一年の時からみゆきとペア組んで、二人で一緒に頑張っていこうって、

お互い勇気付け合っていたんだよ・・・」


・・・そうか、この人・・・みゆきちゃんのこと・・・


「・・・だから、あたしは代わりに部長と組んで、結果を出したかった。

そうすることで、部の皆にあたしという存在を認めさせることができたなら

今度、みゆきが部長になった時に、あたしは堂々とみゆきのパートナーになれるって・・・」


「せ、先輩! その気持ち、ボクものすごくわかるよっ!」


おっぱい枕に頭を乗せたまま、春菜が割って喋ってきた。


「・・・だけど、みゆきが自分自身の代わりに選んだのは、あたしじゃなかった。

その意味を考えるのが、怖かった。 みゆきは、鈴音を贔屓しているって思った。

・・・聞けば、小学校の時からずっと一緒だったと・・・

妹のように可愛がってるって・・・知った時は・・・

もしかして・・・部長が、引退しても・・・みゆきの横にいるのは・・・あたしじゃないのか!? って!」


「・・・っ!!」


春菜の涙腺が崩壊したみたいだった。

完全に羽曳野先輩とシンクロしちゃってるみたいだ。


「とにかく、山桃をこの状態から外したかった。

だから本当は、試合を断りに来たおまえを見て、ホッとした自分もいたんだよ。

このまま、みゆきと山桃が疎遠になれば・・・って思ってしまった自分もあの時確かに居たんだ!」


「だから、難癖つけて、おまえを悪者に仕立て上げようと行動してしまった。

そして、代役に春菜を立てたら・・・・・・悪い、春菜!

きっと実力不十分ってことで、あたしとポジションが入れ替わるように

みゆきはオーダーを組み直すだろうなって・・・」


ずっがーん!! 


ってショックを受けているのか・・・口あけて固まったな・・・おっぱい星の春菜さん・・・ご愁傷様。

しかし今、さらっと言ったけど・・・オーダーってみゆきちゃんが決めてるのか・・・部長じゃなくて?


「そしたら晴れてあたしは部長とペアになれると思った。

・・・まあ、ついさっきまでは山桃も春菜も、実力は同等だと思ってたんだがな・・・

だから贔屓の山桃さえいなくなれば、みゆきも正気に戻り、まともなオーダーを組むだろうと・・・」


「でもそれが、大きな誤算だったということが、おまえと試合してみてわかったよ。

・・・べつに贔屓とか、そんなものは何にも無かったんだな・・・

みゆきは、ただ純粋に・・・勝つ為だけのオーダーを組んでいたんだ。

自分がいなくても・・・部を勝利に導くため、部長を勝たせるためだけに・・・」


「・・・椛、ごめん・・・私の、説明が足りなかった」


「いや、みゆきはちゃんと言ってたさ、あたしが信じようとしなかっただけでな」


この二人を、食い違えさせた原因・・・それは・・・


「・・・結局、悪いのは私なんだよね・・・」


「鈴音!? 何言ってるの?」


「だって・・・そうでしょう・・・みゆき・・・先輩。」


また・・・”先輩”って付けちゃったな・・・

だって、やっぱりこれが、今の私とみゆき先輩との、距離だから・・・


「私が、みゆき先輩と距離を置いたせいで・・・ちょっとばかりの一年間のブランク程度で・・・

私の人見知りな性格が災いして・・・変によそよそしくしたせいで・・・

みゆき先輩が、無理して私に合わせて構ったりしたせいで・・・こんな、ことに・・・」


今・・・私は”どっち”なんだろう?

鈴音OSなのか・・・それとも孝志OSなのか・・・わかんなくなってきたよ・・・

今は、鈴音の気持ちが溢れ出てきている・・・

だから、鈴音OSなのかな?・・・いや、たぶんOSは変わっていない

でも、この湧き上がってくるものを押し止めることができていないんだ、きっと・・・

まあ、どっちでもいいや・・・この、後悔の気持ちはたぶん・・・共通のものだから


「違うわよ、馬鹿!」


「・・・ふえ?」


「鈴音の性格なんて、私は百も承知だったわよっ! 

きっと、放ったらかしていたら、こうなっちゃうだろうなって・・・ずっと思ってた。」


「・・・・・・ごめんなさい」


「だから! 悪いのは私!」


・・・え?


「部活とか多忙を理由に、鈴音を放っておいた私が悪いの!」


「い・・・いや、それは違っ」


「お姉ちゃんだから!」


「ええっ!?」


「どんなに忙しくても、お姉ちゃんが妹を放ったらかすなんて、本来許されることじゃないの! ありえないの!」


「いやでもそれはものの例えであってで」


「なによ! 私が姉だと気に入らないの!?」


「いや決してそんなことは!」


がばっ!


「・・・!!」


「・・・じゃあ、そういうことでいいじゃない・・・鈴音・・・ゴメンネ」


「・・・・・・」


優しくて、あったかい抱擁・・・まるで、姉というよりも・・・お母さんのような・・・


「・・・うっ」


やばい! 視界が・・・霞んできた。


「うう・・・うっ!」


「・・・まったく、泣き虫なのは相変わらずなのね・・・」


「くっ・・・うう・・・」


く・・・そ・・・駄目だ・・・止まらない・・・よ・・・


「ごめん・・・ねえ・・・みゆき・・・ちゃ・・・ひぐっ!」


「・・・よしよし、いい子いい子」


「うっう・・・う、うわ~ん!」


彼女の胸に抱かれて、頭を撫でられている

久しぶりのこの感覚・・・こんなにも心地よかったのか・・・

私は、忘れかけていたのだろうか?

いや、違う・・・たぶん、鈴音はずっと求めていたのだ。

離れて寂しくて、構ってくれなかったから・・・拗ねていた。

ただ、子供のように・・・


僕にはわかる、同じ魂を持つ者だから・・・

きっと、これからも彼女は味方であり続けてくれるんだろう・・・

鈴音の良き理解者として・・・

ああ、僕にも、肉親以外でこんな人がそばにいてくれるようになったのか・・・本当に、良かった。





やっと泣き止んだ頃には、一時間目の授業はとうの昔に始まっていた。


「・・・完全に、遅刻だな」


羽曳野先輩が、諦め顔でそう言った。


「はは・・・ごめんね、でもべつに私と鈴音だけで放っておいてくれて良かったのに」


「そういうわけには、いかんだろ!

第一、二人っきりにしたらますます・・・っと!」


「・・・ますます・・・なによ?」


「いや・・・なんでもない!」


「そうですよ! 今のこの二人を放っておいたら、ほんまに何が起きても不思議じゃないですよ!」


・・・君たち、いったいこの状況をどういう目で見ていたんだね?

家族愛だろ? 家族愛! それ以外の何があるってんだよ?


「・・・とりあえず、一件落着?」


久しぶりに部長が発言した。

相変わらず、胸の谷間には、春菜の頭が挟まっている。


「・・・まあ、あたしも一通り吐き出せてスッキリしたよ

みんな、ホンット迷惑かけてごめんな!」


羽曳野先輩、清々しい笑顔だな・・・本当に

結構黒いことしていたような気もするんだが・・・自ら勝手に完全に洗い流してやがる


「次の試合、がんばれよ山桃! あたしも全力でサポートするから!

おまえバックが弱いみたいだから、徹底的に鍛えてやるよ!」


「・・・バックが弱いのは、椛もでしょ?」


「あ! そうだったかな? あははは」


そういえば、試合中、追いつける場合は無理にでもフォアに回り込んでいたな・・・

そういうことだったのか! てっきり、威力重視でリスクを背負ってるもんだと・・・


「・・・じゃあ、お互いに、みゆきコーチの元、練習ですね」


「おうっ! よろしくな!」


「ボ、ボクもボクもっ! 仲間に入れてよう~!」


・・・とりあえずお前は、おっぱいから離れろ!


「・・・私も、入れて・・・」


部長・・・この人の実力って、ほんっとに読めないな・・・

まあ、明日から嫌ってほどわかるんだろうけど


「けれど、みゆき・・・本当に最初からあたしに山桃が勝てると踏んでぶつけたのか?

最初、かなりやばかったぞこいつ・・・勝手に自滅しかけてたし」


「う~ん、そうね・・・ま、だから保険として”接戦”でもOKになるようには仕向けたんだけどね」


「てへへ・・・どうしても速いファーストサーブ決めたくて・・・試行錯誤してたから」


「確かにそれは全く違う意味で誤算だったわ・・・鈴音、いつの間にあんなフラットサーブを?」


・・・前世で・・・とは言えんな・・・う~む


「自己研鑽の結果・・・かなー? 秘密特訓ってやつ?」


「・・・・・・鈴音」


「なに? みゆきちゃん」


がばっ!


うわっ! 今度は激しい抱擁・・・ちょっと苦しい


「・・・も一度言って、鈴音」


なんだか照れくさいなあ・・・


「み、みゆきちゃん・・・で、いい?」


「かわいいっ! いい子、いい子!」


凄く溺愛されていると思うけど・・・ちょっと犬猫扱いされてる気もする・・・別にいいけど


「ちょっと変わったよね、鈴音・・・私の知ってる前の鈴音とは・・・」


「・・・んぐっ!!」


ば、バレた!? い、いや、でも僕は・・・


「なんか前よりもちょっと、前向きになった気がする・・・

それに、精神的にも強くなったよね・・・イイ事だよ、凄くっ!」


・・・バレてはない・・・のか・・・?

これは・・・このことは流石に、みゆきちゃんにも言っていいのかどうか、

まだ判断つかないから・・・・・・ゴメンネ、みゆきちゃん・・・


「そうそう、話戻すけど、椛・・・貴女が取られたゲームは、どうだった?」


「どうって・・・あ! そうか!」


「確かに鈴音のあのサーブは私も知らなかったわ

そもそもサーブはアンダー以外、まだまともに教えてなかったしね・・・

でも、貴女が取られたゲームは・・・鈴音がサーブのゲームじゃ、無かったでしょ?」


「・・・つまり、強力なサーブが無くても、接戦くらいなら何とかなると、そう踏んでたのか・・・」


「そう、でも最初は冷や汗出たけどねえ・・・鈴音のラケットはいつもと違うし木製だし、

椛は喧嘩ふっかけて来て鈴音のメンタルやばい!と思ったけど無事に乗り越えてくれたし。

・・・まあ、私も部長にメンタル攻撃メモを渡したから人のこと言えないけど~?」


にやりと思い出し笑いするみゆきちゃん


「あいやーさん・・・今日から愛称に登録・・・する?」


「ぶ、部長! それは・・・勘弁してください!」


「だって苗字、覚えにくいし・・・・・・なんだっけ?」


「は・び・き・の! です!」


「・・・そうそう、それ」


・・・やっぱり覚えてないな、今回も絶対・・・


「ちくしょ! あたしも舐められたもんだね・・・まあ実際やられそうになったから、仕方ないんだけど。

見てなさいよ!みゆき! あたしは必ず実力で、貴女のパートナーに返り咲いてあげるからね!」


「ふふ・・・期待してるわ」


「ボクもボクも! 鈴音のパートナーは、今回は仕方ないけど次からは絶対譲らないんだから~!」


「・・・お?」


「・・・あっ!」


羽曳野先輩と、春菜が見つめ合った。


『同士!!』


がしっ!


二人、手と手を取り合った。

いっそ二人が付き合ったらいいのに・・・


「まあ、あたしの今回の一番の収穫は、みゆきの抱いている感情の正体がわかったことかなー・・・?」


「あら、それってどういうこと?」


「へへーー、ひ・み・つ!」


・・・秘密ってあんた! わかり易すぎるよ、先輩・・・


「家族でも、結ばれる物語はいっぱいあるよね? ね? 鈴音!」


にっこり微笑んで抱きしめられる


「ええっ!? ちょっ! む~・・・もういいだろ、山桃! 泣き止んだんだから、いい加減離れろようっ!」 


「焼き餅は・・・みっともないよ?・・・あいやーさん」


「は・び・き・の・ですっ!」


「そう、それ!」


「鈴音~! ボクは、いつまでも待っとるからな~!」


むにゅむにゅっ


だから、おっぱいに浮気してる奴が世迷言言うなっての!


「おっぱい、最高~! 早く鈴音も大きくなってな~?」


「・・・とりあえず、まず自分で努力しろっ!」


僕のおっぱいは僕のもんだ! わしが育てた! 誰にも渡さん!


「ボクはこれ貰ったから、もういいんよ~」


なんつー身勝手な・・・


「・・・でも・・・私、おすそ分けの仕方・・・知らないよ?」


おっぱいミサイル、出せそうな気がするんだけどな・・・やっぱ無理なのか・・・


「とりあえず、貸しとくから、そのおっぱい・・・ちゃんと取り置きしといてね~」


「・・・えと、もしかして・・・わたし、所有権だけ・・・取られたの・・・かな?」


「大当たり~!」


「・・・・・・はっ!・・・まさか・・・これって・・・今流行りの・・・ボクボク詐欺に、遭ったの?」


「大当たり~!」


ご機嫌で絶好調だな、春菜・・・ずっと天国ってか!



「だ・め・よ・! まだ~・・・所有権は~・・・全て~・・・私に~・・・あるん~だから~!」



『!!』



地響きのような、低く恐ろしい・・・声が・・・聞こえた。


皆は青ざめ固まったまま振り向かない・・・そう、皆すでに悟っているようだった・・・自分の死期を!


おそるおそる、僕は部室出入り口を・・・見た。

そこには・・・紛れもない・・・鬼が・・・いた!


春菜は、地獄を垣間見たようだった。 いきなり堕天使・・・おつかれさんです・・・あ、僕も・・・か


「あ・ん・た・らーーーー・・・授業ぶっちぎって・・・ええ度胸してるやないの~・・・」


逃げられない・・・出入口を完全に塞がれているから。

かくなる上は、最終奥義を使うより手立ては無かった。



『ごご、ごめんなさーーーーーーーーーーいっっ!!』



ごーーーーんんん!!



みんなで一斉に、”じゃぱにーずどげざ”を床に炸裂させた。





続く!


おはこんばんは、新田です。


はい、とりあえずここまでが第一章ということになります。

あとは巻末(?)にちょこっとキャラクター紹介を追加しようと思っとります。


できたらキャラ紹介ついでに落書きも載せていこうかなと思っております。


果たして読者の皆様とイメージの乖離があるのかないのか・・・怖いところではありますが、どうなんでしょうねえ?(^^;

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