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12話  しあい!(1)


『ラフ&スムース』






僕はボールを二個受け取り、ラケット面で少しポンポンと弾ませてみた。

乱打ができなかった分、感覚が戻ってないのが少々心もとなかったのだが

これだけでもある程度・・・気休め程度にはなる


ファーストサーブ


とにかく、全力で・・・


高くトスを上げる

ボールがスピードを失い、地球の重力に負け、落ちかけて来た所を、狙いすませて・・・打つ!


パッ・・・コーン!


どふっ!


「フォールト!」


とにかく打ってみたファーストは、芯を外し、ネットに突き刺さった。


「・・・フッ」


向こうで、なんかニヤついてやがるメスが約一匹・・・くそ!


セカンドは、普通に入れるか、スピンをかけるか・・・どっちにしよう?


コントロールにまだ自信がないから、とにかく、入れるか


パコッ


スピードの無い、山なり気味のボールが、とりあえず相手コートのサービスエリアに入っていった。

よし、まずは第一段階クリアだ。


「!」


羽曳野先輩は既にフォアに回り込み、一番力の乗る体勢を作っていた。

そして、オープンコートに狙いを澄まして


パコーン!


びゅっと白い矢のようなものが反対サイドラインギリギリにバウンドして通り抜けていった。


「イン!」


「・・・・・・!」


・・・なんだ今のは? ・・・え? この学校の女子ソフトテニス部って、こんなにレベル高いの?

一歩も動けなかったぞ・・・た、たまたま・・・か?


「ゼロワン!」


審判が、カウントを読み上げる

ゼロはサーブ側のポイントで、ワンはレシーブ側だ。

先に4ポイント取った方がこのゲームの勝利者である。

それを2ゲーム取った者の勝ち。 

最短だと8回ポイントを決めたらいいだけだ。

気を抜いたら、すぐに終わってしまう


「・・・くっ!」


空高く、ボールを放り上げる

それにラケットの軌道を合わせて、振り抜く!


パコーン!


どふっ!


「フォールト!」


は、入らねえ~!

しかし、セカンドでもへなちょこを入れたら

あっという間にリターンエースを食らってしまう・・・

いったい・・・どうすれば?


・・・とりあえず、スピンをかけてみよう

あまり得意ではないが・・・アンダーサーブで・・・

ボールを上に上げず、ラケットで掬うように面に当て、こすり抜いた。


パシュッ


しゅるるるる・・・


・・・よし、とりあえずは、なんとか入りそうだ。


羽曳野先輩は・・・

うわ! 既に着地地点を予想してリターンの体勢を取っている

けど、ここではスピンがかかってるから通常の跳ね方はしない筈

すこしでもリターンを崩せればチャンスは・・・


パコオッ!


ま迷いねえーっ!

思いっきり振り抜きやがった。


「くっ!」


今度はこちらも反応してボールに飛びつく!

しかし遠いし、バックハンドだ

だけど、とにかく当てなきゃボールは返って行かない


「と、届けえっ!」


精一杯伸ばした腕は、なんとかボールの線を捉えた。


バコッ!


あ、当たった!


しかし、山なりに返ったボールは、相手コートに入ることはなく・・・


「アウト!」


またしてもポイントを失った。


「なんだ、ちょろいねこれは」


相手はますます増長している


「いやあ、シングルスだとオープンコートが狙いやすいなあ・・・

コート自体は狭いけど、人がいないから楽だわあ」


・・・言いたい放題だ。 ちくしょう!


「ゼロツー」


しかしファーストが入らない・・・

何が以前と違うんだ?

まあ、元々コントロールは良い方じゃなかったけど・・・なんか入る気がしない

このままじゃ・・・まずい


ポンポンと地面にボールを打ってみる

鈴音が数ヶ月、練習していたからテニス自体にはそこまで違和感は感じないんだがなあ・・・

ラケットが変わったってだけで・・・


今までのサーブは全部ネットだ。

つまり、もっと上を狙えばいいという事になるんだが・・・


バッ


トスボールを上げる・・・ほんのちょっとだけだが身体の前方に上げるのが僕のやり方だ。

その方が、なんかボールに体重が”乗って”くれるような気がするから。

そして落ちてきた所を、狙いすませて・・・打つ!


パコーン!


おお! ネットを超えた!


「フォールト!」


ぐは! 殆どベースライン近くまで飛んでいってしまった。

もっとネットギリギリを狙わないと・・・ダメか


次はセカンド・・・あいつの反応速度はシャレにならんくらい速い

あっという間にフォアに回り込まれ、力のあるリターンを返される

とにかく、やつのバック方向に打ってみよう


パコッ!


ダッ!


うわ!もう走ってやがる!


ザザアーッ!


えー? ダッシュでフォアに回り込みやがった!


パコーン!


き、来た! しかし、無理やりフォアに回り込んだ分、返球が甘い!

こちらもフォアで打ち返した。


パコーン!


「・・・くっ!」


パコーン!


喰らいつかれた! また返ってくる!


今度はバックだ


パコッ!


ちょっと浮いたが、それでも入る!


・・・あっ!


羽曳野先輩はネット際まで詰めていた。

彼女の目が、こちらを向いている

そして・・・スマッシュ!


バコッ!


「うわ!」


ラケットの反応が間に合わなかった。

身体を狙ったボディショット

ボールは僕の太ももをかすめてコートに突き刺さった。


「ふふ・・・今のはちょっとだけマシだったわね、でも、まだまだ甘い」


ちくしょー、完全にわざと狙いやがったな・・・


「ゼロスリー」


無情にも部長のカウントが響き渡る・・・


こっちのサーブなのにいいとこまるで無しじゃないか!

次、ポイント取られたらこのゲームは終わりだ。


「鈴音ー! がんばー! ボールよく見てー!」


春菜の声援が届く

そうだ、もっとボールをよく見ないと

適当に打ち返しちゃ駄目だ!

相手の動きも見つつ、空いた空間を狙うようにしないと・・・


しかし簡単に言うが、それだけの作業を瞬時にこなすのは相当に難しい

しかしやらねばならない

まず、コートはできるだけ俯瞰で想像して感覚で見るようにして

相手の動きはちらっとだけ見て予測する

後は全て、ボールを目と足で追うことにだけ集中しよう


よし! とにかくファーストサーブだ。

これが決まりさえすれば、後のことはあまり考えなくてもいいんだがなあ・・・


ネットギリギリを狙って


「うりゃ!」


パコーン!


ばっ!


相手コートで土埃が舞った。

今のは・・・どうだ?


「フォールト!」


ええ~? どうしてそうなるの~?

結構ネットギリギリのところ、行ったと思ったのに・・・


仕方ない、とにかくさっき考えた通り

ボールをよく見て、全体を感覚で捉えて


セカンドサーブは、アンダーで


バシュッ!


シュルルルル


よし、イン!


彼女の狙いをちらっと見て・・・こっちだ!


ダッ!


パコーン!


当たり! よし! あっちが空いてる!


「行けえっ!」


パコーン! 


彼女は・・・追いつい・・・て、ない! よし!


「イン!」


「鈴音ええ! ナイスファイトおっ!」


ありがとう、そして、ありがとう! 春菜よ!

君の声援に応えられたよ!


「・・・ち、意外に、速い球打つじゃんか」


やはり、彼女を抑えるには強烈なショットが必要みたいだ。

置きに行くようなぬるいショットじゃ通用しない

けれど、振り抜くショットは当然コントロールが難しい

乱打のように、自分に打ちやすい体勢で来てくれるなら難易度も下がるんだが


「ワンスリー」


とにかく今はファーストサーブだ。

あれこれ考えて打ってはいるが

未だに一球も入っていない

かと言って威力を落とした山なりボールでは簡単にリターンされてしまう

鈴音と・・・孝志の違い・・・


・・・・・・! 高さか!


鈴音は、孝志より身長が低いから高い位置から打つことができない

打点位置は腕の長さやラケットの長さもプラスされるから一概には言えないが

ラケットは以前と同じもの・・・腕の長さも・・・鈴音は別段、特に長い方でもない

だとしたら・・・いったい、どうすれば・・・?


「・・・・・・」


ポンポンと地面にボールを打ちつけながら、考えてみた。


「ちょっと、はやく打ちなさいよ!」


うるせえなこのアマ!

高さを上げるには・・・グリップの位置をもう少し下にズラすという方法が最も簡単ではあるが・・・

元々そんなに短く持っていないから、あんまり下にズラすとグリップエンドを握るようになって感覚的になんか変だ。

それに、鈴音の握力だとすっぽ抜けてしまう可能性もある。

う~ん・・・この方法だと、せいぜい指1~2本分くらいしか下げられないか・・・

・・・となると、あとは・・・・・・


・・・・・・少し、ジャンプして・・・みるか?

インパクトのほんのちょい手前で、つま先にぐっと力を入れて、ふわっと浮き上がるように・・・


ラケットは身体の・・・腕の延長部分、自分の一部と考えるべきだと誰かが言ってたな

そしてラケット面は掌・・・

空に放り投げたボールを・・・掌で届く最高に高いところで、

倒れ込むように体重を乗せつつ・・・”掴む”!

この感覚で・・・


きっ!


狙いは、センターラインギリギリ

最短で、最速のボールを放り込んでやる


バッ


トスを上げる、そしてつま先に力を込めボールめがけて


「!」


しまった! 身体が上に上がった分、打点位置がちょっとズレたか!?


パッ・・・コーン!


「っ!!」


先輩は、動かなかった。


位置的にはセンター付近で土煙が舞ったんだが、はたして・・・どうか?


「・・・え~と・・・・・・・・・・・・フォールト!」


「・・・っがーん!」


は、入らなかったのかあ~!?

やはり、ちょっと打点位置がズレたっぽいのが原因か・・・

感触自体は、悪くなかったんだけどなあ・・・


「・・・・・・す、すずねっ! どどんまいっ!」


・・・なんだよそのどどんまいって、コメか?食えるのか?


「・・・もみじちゃん・・・セカンド・・・行くよ?」


「・・・・・・あ? あ、ああ・・・」


部長と先輩が何か話している

なんかぼ~っとしてたみたいだけど、向こうは向こうで考え事でもしてるのか?

僕相手に戦術とか・・・もしも考えてくれてるんならまあ、光栄ではあるが

できればナメきっててくれる方が隙も生まれやすいし良いんだけどなあ・・・


今のは、感触は、悪くなかった。

もしかしたら、もう一回打てば、入るかもしれない・・・

でも、外したら、このゲームはこれで終わりだ。

けれど、へっぽこなサーブはどのみちリターンエースの餌食だし

・・・どうする?


「ええい! ままよ!」


バッ!


今度は、ジャンプも考慮に入れて・・・


「いっけええ~!!」


パッ・・・コーーン!


・・・ど、どうだっ!?

入ったように、見えたけど・・・


「・・・・・・レット!」


「ぐは!」


ネットに掠っていたのかあ・・・!


「ワンモアサービス!」


もう一度、打てるけど・・・う~む・・・

やっぱり、ファーストはファーストとして失敗を恐れず思い切り打てるから良いんであって

それをセカンドで打ち続けるのは・・・神経が、持たない・・・

ここは、2ゲーム目も考慮に入れた戦いをするべきなのかも・・・しれないな


・・・鈴音は、決して鈍足ではない

どちらかといえば足も速いし瞬発力はある方だ。

逆に彼、孝志はどっちかってーと鈍足で、フットワークはあまり期待できなかった。

パワーと反射神経はあったんだが、ちゃんとボールに追いつけないから

振り回されると無理な体勢でばかり打ち返していた。

だから、思った方になかなか球が飛ばなかった。

つまり、鈴音の利点である足を使えればもっと有利に事を運べるはずなんだ。

それと動体視力! これは完全に鈴音が勝っている。

ボールの見え方があきらかに以前と違う

追いつけさえすれば、ラケットコントロール次第で狙ったところに打ち返せる筈だ。


・・・よし!

とにかく見る! そして反応して走る!

集中集中ちゅうちゅうだ!


バシュ!


しゅるるるるっ


アンダーサーブは、入る!

よし、次!


羽曳野先輩はすでに回り込み、フォアでの体勢を作っていた。


来る方向は・・・? 彼女の目は、どっちを見てる・・・?


「・・・!」


こっち、だ!


だっ!


パコーン!


来た! 行ける! ボール見えてる! 打ち返せる!


「たあっ!」


パコーン!


「ち! こしゃくな!」


パコーン!


来た! 今度は、こっち! あそこ空いてる!


パコーン!


「誘いだよっわざと空けてんのさっ!」


先輩は迷いなく走ってあっという間に追いついてきた。


パンッ!


先輩は、走り込んでのボレー!


「くっ!」


ダイレクトに、返すっ!


パンッ!


「なにっ!? りゃ!」


パンッ!


そのまま即帰ってきた! ボールがワンバンする

追いつ・・・け~~!


タタタタタッ!


がりっ!


ラケットのフレームをこすりながら、ボールをすくい上げた。


「・・・! し、しまっ」


先輩は目を見開いてラケットを振り上げた状態で待ち構えていた。


パアーン!


どすっ!


「・・・あぐっ!」


・・・てーん・・・てーん・・・


僕の横をボールが転がっていく

渾身のボディへのスマッシュを食らってしまった。


「ゲーム! チェンジコート、チェンジサービス」


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