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10話  アレレー? これって、アリ地獄?


『ラフ&スムース』




その先輩の名は羽曳野はびきの もみじ


パッと見は一年生か、それ以下と思うほどの童顔で

髪も短めながらもツインテールに結び、外見は非常にかわいらしい雰囲気なのだが・・・

性格は凶暴そのもので、実はトラブルの種は、この先輩だったりするのだ。

先日、休部騒ぎの時に・・・僕は半泣きに追い込まれた。

よりにもよって来ている先輩がこの人だけだとは・・・

まあ、どのみち通らねばならない道ではある。 早いか遅いかの違いだ。


「おはようございますっ! 先輩!」


「・・・・・・」


ジトリと、こちらを睨みつけている

睨まれてるんだが、格好はブラパン姿だったので

僕はそっちの方に目がいってしまった。


「うほっ! いい女っ!」


・・・と言いそうになったが、そこはぐっとこらえる


「あなた、どのツラ下げてここに来たの?」


いきなりのきつい洗礼である


「い、いえあの、今日がその返事の・・・」


「もう辞めたかと思ってたのよあたしい・・・部外者が馴れ馴れしく入ってこないで欲しいわよねえ・・・ねえ?」


言葉を途中で遮断されてしまって言いたい放題だ。

しかも他の一年に同意を求めてるし・・・同級生たち、返事に困ってるだろうが!

このアマ、ブラとパンツも剥いてやろうか?


「鈴音は、今日から復帰して試合にも出るそうです。 羽曳野先輩!」


後ろから来た春菜は、ハッキリとそう彼女に伝えた。


先輩はあきらかに不機嫌そうな顔をしてぐぬぬとなっていたが、即座に


「そんなに簡単に認められるわけないでしょ?

一年坊主が我侭言って、他の皆に迷惑かけたくせにやっぱり試合に出たいから出させろ、だって?」


「そ、それは部長の許可を取って、ちゃんと期限は今日までってことで何も問題はな」


「甘えんなよっ!」


春菜のフォローが先輩を更に怒らせてしまったようだ。


「・・・部長はな、部内での喧嘩ざたが表面化しそうだったから、その場を収めただけなんだよ」


「・・・い、いえ、それなら、部長はこんな条件はつけたりしません

だって鈴音は最初、ちゃんと辞退したいって言って・・・」


食い下がる春菜、なんか僕より必死になってくれてる・・・申し訳ない


「当たり前だろ!? 紹介したみゆきの手前、部長は彼女の顔潰すわけにはいかんかったんだよ!」


「・・・うう」


春菜、沈黙・・・・・・こわいよこのねえちゃん。

折角の外見が・・・もったいない


「まあどのみちもう、みゆきの顔は潰れちゃったけどね! あんたがいない間

部長はパートナーいないから練習もロクにできないし調子崩してガタガタだよ!

あたしらも部長とみゆきがこれだからぜんぜん気合が入らないしさ!」


「けれど・・・その・・・鈴音は現時点で、

レギュラー以外じゃ一番上手いからみゆき先輩も推薦したわけで

きっと戦力になる思うて・・・」


「春菜、あんたそんなに試合出たくないんか?」


「・・・えっ?」


「次の試合、あんたが出れるよう推薦してやるって言ってんのに、なんでこいつを庇おうとするんだよ?」


「い、いやだってボク、鈴音のパートナーやし・・・し、親友やしっ!!」


・・・え? あ、そうか・・・そういやこの先輩は春菜推しだったんだっけ

確かに黙っていたらこのまま春菜が試合に出られるようになるんだから

そこまで無理をしなくても良いようにも思う

僕は、原隊復帰さえできたらとりあえずOKなんだし

どのみちこの先輩の機嫌を取るのは現時点では不可能だろう


「・・・もういいよ、春菜。・・・・・・羽曳野先輩!」


春菜の前を腕で制して僕自らが前に出た


「・・・なんだ?」


「彼女を、今度の試合、使ってやってください、お願いします。」


「す、鈴音っ! そんなん、あかんっ!」


「そのかわり、部活復帰だけは認めてくれませんか? 春菜とは、親友なんです。

どうか、一緒にいさせてください」


ぺこりと深めに頭を下げた。


「春菜・・・約束、守れなくて・・・ごめんな」


「す、すずね~え・・・」


春菜がなんか、情けない顔になっている


「ふ~ん・・・・・・ま、いっか・・・それで」


先輩はいまいち不服そうだが、どうやら矛を収めてくれそうだった。


「泣いて辞められて、あちこちにある事無い事言いふらされてもかなわないしね」


「・・・・・・」


まあ、この先輩もこの辺りが落としどころだと踏んだんだろう

僕をいびり出したりしたら、彼女自身も取り繕うのが面倒になってくるからな


「じゃあ、山桃、おまえちゃんとそのことを部長に言うん・・・」


「待ちなさいよ!」


「!!」


先輩の顔色が・・・変わった。


「・・・な、なんで? ・・・あんた、だって今、怪我で休部してるんじゃ・・・? なんでこんな、朝早く?」


「・・・だって私、鈴音の保護者だし」


・・・いや、保護者じゃねえよ! 何言ってんすか、みゆき先輩!


「みゆき先輩、話は、もう終わりました。」


また話を混ぜられてややこしくされても困るので、僕はそう言った。


とたん、みゆき先輩はぷうっっと頬を膨らませた。


「・・・また、みゆき先輩って言った・・・さっきはみゆきちゃんって・・・言ってくれたのに・・・(ボソ)」


「ああ、みゆき・・・そこの山桃の言うとおり、もう話は終わったんだ。

次の試合は春菜で行く。 部長にもあたしから話を通しておくから」

「ほら! 一年! ボケっとしてないでさっさと練習の用意しなっ!」


『は、はいー!』


そそくさと他の一年達は出て行った。春菜と僕を残して


「あんたも行くんだよ、山桃! 復帰は認めてやるから!」


どうも僕が目障りになってきたのか、早くここから追い出そうとしているようだ。

まあ、話し終わったしべつに構わないが


「はい、ありがとうございます。 ・・・じゃあ行こ、春菜」


複雑な表情をしている春菜の腕をひっつかんで、出ていこうとした。


「待って! まだ、話は終わってないから!」


「みゆきっ! あんた何でそんなにこいつをっ!」


ああ・・・また話が振り出しに戻りそうな気配が・・・


「・・・とりあえず、着替えようよ、鈴音・・・」


「・・・あっ!」


春菜が一番もっともなことを言った。

危ない危ない、制服のまま練習するとこだったよ・・・


先輩二人がこちらを見ている中

慌てて僕たちは体操服に着替えを始めた。


「・・・ちっ!」


ヤンキーねえちゃんが舌打ちしてるよ・・・もうやだこのねえちゃん


「・・・どうしてそんなに鈴音を嫌うの? 仲良くしてって、言ったのに」


「べ、べつに嫌ってるわけじゃないわよっ! ただ、部活に対する真剣味が足りないから

ちょっと先輩として教育的指導をしただけだよっ!」


「・・・嘘、あきらかに、おかしいよ。 いつもの椛はもっとやさしいのに・・・」


この女が優しい・・・? どこをどう見たら・・・?

冗談でしょ、みゆき先輩・・・


「・・・・・・と、とにかくっ! あたしは春菜を買ってるんだ!

こんな精神的に軟弱な総合病院のお嬢様よりも、

よっぽどハングリー精神も持ち合わせて根性だってあるし

技術はまだまだだが、センスも力もある

先を見越して伸ばすには、一年から実戦投入してやったらいいんだ!

そしたら来年、再来年にはこの部は優勝だって狙えるようになる!」


ほほう・・・なかなか見る目はあるじゃないか・・・この先輩は

確かに春菜は初めてから日は浅いが、日ごとにメキメキ上達していってるのがわかるほどだ。

こっちもついて行くのが本当に大変で、それこそ離されないように毎日必死こいて頑張っているんだけど・・・

この調子で強くなって行ったらたぶん一年もしない間に部のエースになれると思う。

パートナーとして組んでる自分が一番よくわかってると思ってたんだけど・・・

やっぱり・・・ちゃんと、見てる人は見てるんだな

てっきり羽曳野先輩なんかは自分のことしか考えてないと思ってたんだが

ちょっと見直したな・・・まあ、僕の評価はボロンチョだけど・・・


「そこまでちゃんと見てるんなら、椛・・・本当はわかってるんでしょう?

鈴音もまた、同じか・・・それ以上のものを持っているってことを」


「・・・・・・っ!」


・・・え? ぼ、僕が? ど、どの辺に・・・?

下を向き、自分の手と身体を見た。

眼下には薄いピンク色のブラジャーと、発展途上中の二つの白い丘が見えた。


・・・!!

し、しまった! 今、僕は・・・

今朝からのドタバタで考えてる暇も無かったが・・・

今はまたどうやらOSが切り替わっているっぽかった。


「うわっ!」


顔を赤らめてバッと上を向く僕


変な声を上げてしまったので、皆が一斉にこっちを見る


「なな、なんでもないですっ! 気にしないでっ、つ、続けてくださいっ!」


いそいそと半袖の体操服をひっ被る

この体操服は孝志の家から借りた物とはちょっと違い

白を基調としたところは同じだが首と袖周りは紺色の縁取りになっている。

まあ、最もオーソドックスなタイプではある。

ブルマも上着に合わせたように、紺色なのだが・・・


うう・・・なんかパンツの上からパンツ履いてるみたいで・・・変な気分だ。


今までもそうだったはずなんだが、これがズボンの代わりっていうのがどうにも信じられなかった。


しかも、股間には異物感が全く感じられないってのが、なんだか凄く心許ない・・・

いや、僕は女の子、女の子なんだからっ! これで、いいのだ! 

・・・・・・いいんだよううぅぅ・・・


「・・・ごほん! ・・・で? だから、どうだっていうの?

実際今の二人の実力はほぼ同等なんだから、どっちを出したって何も問題ないでしょう?

だったら真面目に部活をやってる春菜の方を推薦するのが当然の流れじゃないの!」


・・・うん、確かに・・・気に入らない先輩だが

その辺りの言い分は間違ってはいない


「ううん、それはちょっと違うわ・・・鈴音はね、確かに精神面で少し頼りないところはあるけども

ちゃんと引っ張ってくれる人さえいれば、真っ直ぐ伸びていける子なんだよ。

春菜は・・・・・・しっかりしてるから、鈴音さえ近くにいてくれれば、それで大丈夫。

だから、二人を理想的に育てるなら、今は鈴音を早く実戦に慣らせることの方が大事なの

あと、相性の問題もあるわ・・・今回、私に代わって部長のパートナーになるのなら

私と何度も練習経験のある鈴音の方が合わせやすいの」


う! みゆき先輩も、結構考えてくれているんだな・・・

なんかこういうの、本人達の前で議論されると非常にこそばゆいというか、照れくさくなってくる

まあ、嫌味や悪口を目の前で言われるよりはよっぽどマシなんだが・・・


「そんなもん、春菜なら数日も練習したら合わせられるわよ!

山桃の精神面は、これからあたしがみっちり鍛え上げるから問題無い!

むしろ、勝たなきゃいけない試合に不安要素を持ち込む方がどうかと思うけどね!」


・・・う~む、確かに正論だ。

精神に問題ある僕を試合に出すのは確かに不安要素だ・・・って! 

僕は病人かいっ! 

あと、ヤンキー先輩、僕を精神攻撃する気満々だなおい! ・・・お願い、勘弁してください。


「本当に・・・同等だと思う?」


・・・え?


「・・・えっ?」


「二人の、今の実力」


「・・・・・・なに? どういう意味?」


僕も知りたいよ、みゆき先輩・・・それって、どう言う意味?

僕は・・・春菜について行ってるのが今は精一杯なんだけど・・・

ひょっとして、春菜って、あれでも僕に合わせてダウングレードしてくれてるって・・・いうのか? まさか!


「意味もなにも、言葉通りだけど、言葉で言っても信じてはくれないんでしょ?

実際にその目で見ないことには納得してくれそうにないみたいだし」


みゆき先輩・・・何を言い出そうとしてるんだ?


「ふ~ん・・・つまり、だったら・・・二人を試合形式で競わせてみればいいってことかしら?」


えっ? 春菜と・・・僕が・・・つまり、試合を?


「それはたぶん、駄目ね・・・おそらく、どっちも本気を出さないから」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


春菜も僕も無言だった。

言ってることはたぶん正解だからだ。


「椛・・・あなたが、鈴音と試合しなさい」


・・・!!


「・・・! なん、だって?」


「春菜のことは大体分かっているんでしょう? 彼女の実力・・・

どんどん上達して、いずれは貴女も追い抜かれるかもしれない・・・

でも、今はまだ、貴女の地力の方が上・・・そうでしょう?」


「・・・・・・なにが、言いたい?」


「・・・・・・」


みゆき先輩は、言うのを少しためらった。

そして春菜の方をちらりと見て、その後、僕と目を合わせた。


「鈴音が、貴女と接戦、または打ち勝つことができれば、認めざるを得ないでしょう?」


・・・!


「・・・なっ! なんだって!?」


な、なにを言い出すんだこの人はっ!

羽曳野ヤンキー先輩が顔真っ赤にしてるよおい!


そりゃそうだ!

始めてまだ数ヶ月足らずの僕と自分が同等か、もしくは上だと言われたようなものだからな

プライドズタズタにされた先輩が怒り狂うのは目に見えている


「・・・ほほお? なかなか面白いジョークを言うようになったね、みゆきも」


「そ、そうですよっ! いくらなんでもそれはっ!」


な、なんとか取り繕って、試合を回避してもらわないとっ!


「貴女は黙ってなさい!」


うが! めっちゃ怒ってる!

とりつくしまもないやんか・・・


春菜は、既に混乱していた。

目がぐるぐる回ってオロオロしているよ・・・


「・・・いいじゃない、貴女がそれほどだって言うなら、受けて立ってあげようじゃないの!」


「・・・えっ? ・・・ええええええ~っ!!?」


なんでそうなるの? 僕は春菜でいいって言ってるのにいいっ!


「でもこれだけは覚えておいてよ、みゆき!

あたしが、危なげもなく山桃に勝てば!これからは私に意見しないで頂戴ね!

今は貴女が副部長だけど、次期部長は私がならせてもらうから!

今の部長がなんと言おうと、引退したらもう関係ないからね!」


「・・・ふむ、いいでしょう。 私も貴女のプライドに対し

そのくらいの対価を払う覚悟は持たなきゃいけないでしょうからね・・・」


うがああああああああっ!

こ、こ、この人達はあっ!

なんでこんなにハードルをぐんぐん上げてくれるのですかねっ!?


いつの間にかこれ、部の今後を左右するような試合になってないですかっ?


「ふん! 上等! 覚悟はいいか? 山桃!」


・・・ごくり


鼻息荒く、羽曳野先輩はノシノシと部室を後にした。


「うお!」


「うひょおおおっ!」


「こ、これはっ!?」


・・・ん? なんだか外が騒がしいな・・・


「せせ、先輩! 羽曳野先輩!」


「・・・なんだ? 騒々しいな一年! 何を男子部員と騒いでいる? まったく、たるんどるぞ!」


「せんぱい! ふ、服っ! 体操服があ~あああ・・・!」 


ん?・・・・・・体操服?

・・・・・・もしかして、これのことだろうか?

「2-A 羽曳野」と書いてあるが・・・


「あ・・・いやあああああああああああああああああああああああああああああ~~あっっっ!!!!」


グラウンドに、誰の声ともわからない、ものすごい黄色い高音が響き渡った。


空は、どんよりと曇っていた。

まるで今後の展開を暗示するかのように・・・





つづく






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