プロローグ
プロローグ
きききいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!
どかっ!
それは、特に何もない
いつもどおりの月曜日の朝に起こった。
空は青く
雲はまばらに点在していた。
遠くには入道雲のようなものが見えている。
まだ日差しは本格的な”それ”ではなく
朝の内はまだすごしやすい気候ではあったが
”それ”は確実に歩み寄ってきていた・・・。
そう、「夏」がもうすぐそこで始まろうとしていた。
ある晴れの日の朝。
一人の、通勤途中であろう男性が・・・
トラックに、撥ねられた。
まるでボールでも跳ねたかのように
軽々と男は宙を舞い
地面に着地したかと思えばそのまま氷の上を滑るかのように
背中で地面上を滑走し
最後は電柱にぶつかり、そして止まった。
彼は
私の方を見ていた。
ただ・・・呆然と見ていた・・・私を
そして、意識を失いかけてるのか
ゆっくりと瞼を閉じた。
その時
彼の心の声が、
私には全て「理解」できたんだ。
刹那
私は走り出した。
彼の元へ
何故か目からは涙があふれだし
泣きながら駆け寄った。
彼の状態を確認
・・・息、してない
脈も・・・無い
馬乗りになって、両手を押し付け
心臓マッサージ
手ごたえは無い
動かない
それでも必死に続けた
泣きながら
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・はあっ・・・」
ぐっ・・・
意を決して
彼の唇を塞ぐ
自分の唇で
人工呼吸
だけど、これが私のファースト・キス
後悔は、しない・・・筈だった。
ピーポーピーポーピーポーピーポーピーポー・・・・・・
救急車のサイレンが近づいて来た。
序章 sideA
その日もあいかわらずな日だった。
憂鬱な月曜日・・・
土曜日の深夜まで仕事をし
日曜日は疲労のため昼過ぎまで寝てすごし
起きるとボケた頭には軽く頭痛がのしかかる。
それからのろのろと動き出し
気がつけば夕方
何もしていない自分に気がつく
しかし、特に何かをしたいわけでもない
今週分の食料の買い物にだけ出かけ
後は溜まった録画のTV番組を少しだけ消化して
インターネットをする
それで貴重な休日は終了だ。
昼過ぎまで寝ていたせいで
あまり熟睡はできそうにないが
それでもなんとか無理に布団に潜り込み
うとうとしたり、起きたりを何度も繰り返し
朝まで時を待つ
結局、本当に眠くなったのは明け方だったが
仕方ないので身体に鞭を打ち、起床
行きたくは無いが
生活のためだ
仕事の準備をする
適当なものを見繕い
まだ十分に身体が目覚めていないせいか
あまり旨いとも感じはしないが
それでも無理して
口から胃の中に養分を流し込む
服を着替え
軽く髪を整えると準備完了だ。
月曜の朝は早い
いったい誰が決めたのか
なんだかんだと仕事に余計な用事を加算され
いつもより30分は早く行かなければならない
毎週必ずブルーになる
行けば地獄のような仕事が待っている
休憩もろくに取れず
トイレに行く暇もない
ご飯も食べながらの仕事
そこまで必死にやっても時間内にはまず片付かないが
この不景気で、もちろん残業代は出してもらえない
当然、はみ出した時間はサービスとなる
そんな今の日本では割と普通にありふれた
ちょっとブラック寄りの会社だが
それでも生活の為だ
行かなければならない
回復しきっていない身体を引きずり
道中飲む眠気覚ましの缶コーヒーを手にして
俺は家を出た。
そんな俺も、いつの間にか年齢は中年にさしかかろうとしていたが
特に何もしてこなかった俺には嫁も子供もいなかった。
毎日疲れて寝るだけの生活を繰り返している
まるで、どぶ川の隅っこに溜まって浮いている塵のように
一箇所で、ぐるぐる、ぐるぐると回っているだけ・・・
それだけで、段々と朽ちていく・・・
そんな生活
気力は仕事に根こそぎ持っていかれる
職場は基本、事務以外は男だけで構成されている
しかもコミュニケーションは皆無
話し込んだりしていたら仕事が終わらないからだ。
どのみち話をしたところで話題となるのは
人の陰口悪口か、パチンコの話くらいだ。
くだらない・・・
自然といつの間にか、こんな年になっていた。
母一人、子一人だけの家庭
最初は借家暮らしで
父が残した借金をただひたすら返す日々だったが
それにもなんとか目処が立ち、
小さいが、やっと自分の家も手に入れることができた。
ローンだが
そこでふと思ってしまう
俺は、将来もこのままなんだろうか? と・・・
母も歳をとった
いつまでも元気ではいられないかもしれない
そうなると、俺は、独りか・・・
自分自身はまあ気楽といえば気楽なのだが
ふと寂しくなる時もある
このままだと後悔は残る
それは、今まで育ててくれた母に
何も良い思いをさせてやれていない、ということもある
そう思うと、自分が情けなくなる
孫の顔でも見せてやれれば
少しは違うんだろうか・・・と
いつの間にか世間の荒波にもまれ
人間が嫌いになっていた。
もちろん表面上では皆に合わせているが
裏ではみんな何を考えてるかわからない
誰も信用できない
こんなんだから当然、他人と共生したいなんて思わない
世の中には悪意が満ちている
本当の善人なんて、果たしているのだろうか?
もしいたとしても、いつの間にか黒く染まってるんじゃないだろうか?
この世知辛い世の中のせいで
黒くなるのは簡単だから
白い絵の具に、一滴の黒を落とすだけで良いのだから
そしたらもう、元には戻らない
・・・鬱になりかけてるのだろうか?
マイナス思考から抜け出せない
前向きに生きようと、思ってはいるのだが・・・
自宅から駅までの距離は徒歩で15分ほど
たぶん俺は疲れきった間抜け面で歩いていた。
ふと、前を見ると
通学途中の、若者
中学生だろうか? 一人の女子生徒
クラブ活動の朝練でもあるのだろうか
テニスラケットのようなものを持っている
あの制服は近くの公立中学校じゃないな
小中高大一貫校の私立か・・・
きっとお金持ちのお嬢様なんだろう
俺と同じ列車で行くのだろうな
駅までの道のり
何度か曲がり角があるのだが
その度にちらちらと彼女の顔がうかがえる
その娘は曇りの無い表情で
まっすぐに前を見て歩いている
将来に希望を抱いて微塵も疑ってないんだろう
本当に神々しく感じられるほどの光を放っているかのように見える
ああ・・・あの頃は俺も・・・
もう少しは夢を持っていたかなあ・・・?
少なくとも中学一年の頃は
未来に希望を抱いていたような気がする
その後、父が大きい借金をして家から逃げ出したりさえしなければな・・・
母はもともとは、わりとお嬢様っぽい環境で育ったようだ。
俺の小さい頃はそこそこ大きい家に住んでいた記憶がある
しかし、遠い親戚からもらった婿養子であった父は
どうやら祖父祖母の持っていた資産をアテにしていたようで
何度もギャンブルや遊びにお金をつぎ込み
借金し、払えなくなると祖父に泣きつきなんとかしてもらっていた。
しかし、そんなものはいつまでもは続きはしない
すでに仕事を引退していた祖父の資産は有限だ。
ついには家を売り払うことになり
そして父は家からいなくなった・・・
その辺の詳しい事情は当時まだ中一だった俺には詳しくは教えてくれなかったが
後になって親戚のおじさんから教えてもらった。
祖父も祖母も、最後は狭くてボロい古い平屋の借家で亡くなった。
母に、父と結婚させたことを心底悔やんでいたようだった。
それから母は俺を女手ひとつで高校卒業まで育ててくれた。
朝から晩までパートをし、俺もアルバイト三昧だった。
生活保護ももらっていたから、まあそれでなんとかなった。
だから、当時の俺には選択肢があまりなかったのだ。
こんなことさえなければ
就職に適した学校などに進学せず
普通に中学の仲間たちと同じ普通科高校に進学して
自由な進路を選べたのかも知れない・・・
もう少し、青春を謳歌できたのかもしれない
・・・いや、こんなこと、言い訳に過ぎないことはわかっている
単純に、俺の努力が足りなかったのだ。
いまさら、過去を悔やんでも仕方が無い
わかっては、いるんだが
それでも、憧れてしまう
・・・いつの間にか
彼女達は二人になっていた。
どうやら友人と合流したらしい
その間に立ち止まったりして話し込みでもしたのか
ポジションも俺が追い抜いて前になっていたようだ
彼女達は駆け足でまた俺を追い抜いてゆく
その時、ちらりと彼女がこちらを見た。
彼女は口に僅かに笑みを浮かべ
軽くぺこりとお辞儀をしながら通り過ぎた。
たぶん、目が合った・・・ような、気がするのだが・・・
でも、目が合った瞬間、その濁りの無い澄んだ瞳にどきりとして
反射的に思わず目をそらしてしまって・・・殆どまともに顔も正視できなかったのだ。
なんとか辛うじてあわててこちらも会釈だけはした。
たぶん俺はひきつった気色の悪い笑顔を返していたのだろう・・・
普通ならなんの接点も持たない
違う世界の住人
これからも、俺の人生にかかわることはまず無いだろう
目が合おうが
会釈をされようが
ただ、それだけ
RPGのNPCとなんら変わりの無いキャラクター
下手に関わろうものなら、犯罪者にされかねん
そんな世の中
難易度高いなこのクソゲー
ぶおおおおおおおおおおおおん
トラック・・・か
少し、動きがおかしいな・・・蛇行・・・している?
運転席、女性が運転してる・・・のか?
・・・目、開いてない・・・な
居眠り・・・か?
・・・っ! やばいっ!
このままじゃ、どこに突っ込んでくるかもわからない
すぐ前を歩いてる彼女達も、危ない!
「くっそ!」
運転手は、当然気づいていない
なんとか・・・しないとっ!
「・・・あっ!」
俺はとっさに手に持っていた飲みかけのコーヒー缶を、車めがけて投げつけた。
これが上手く車体に当たって運転手が気づいてくれればいいのだが
かあんっ!
やった、ボディに上手く当たった。 しかし・・・これで運転手は、起きたのか?
確認する暇も無い
しかし、運転手になんらかの反応はあったのかその瞬間、車の軌道が変わった。
そのおかげかどうかは判らないが彼女達には接触せずに上手く通過してくれた。
よし!
あとは・・・俺!
今から逃げると言っても
もうトラックは目の前だ。
せいぜい、道端のブロック塀に張り付くように立つことくらいしかできなかった。
しかし、蛇行したトラックは無情にもそのブロック塀めがけて突っ込んでくる
「うっわ!」
あわてて俺は道の中央の方に走り出した。
それがいけなかった
完全に目を覚ました運転手はブロックに突っ込みかけていることに気づき
とっさにハンドルを切り、急ブレーキを踏んだ
きいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!
どんっ!
一瞬、目の前が暗くなった。
今、宙を飛んでる・・・のか?
どっ・・・しゃああああああああああああああ!
「ぐっはあ!」
背中から地面に着地したようだ
そしてそのまま地面を滑っている
息が・・・できない
がんっ!!
「・・・うっ」
頭に、何か硬いものが当たって、止まった。
・・・・・・だ・・・め・・・だ
息が、できない・・・
目が回っている・・・
死・・・ぬのか・・・? 俺・・・
何も・・・良いことなかったなあ・・・
あ・・・母さ・・・ん・・・ごめん
ぼんやりと目の前を見ると
さっきの女子中学生がこちらを凝視していた。
びっくりしたような顔で
まあ・・・そりゃ・・・びっくりもするか・・・
眼前で・・・こんなことが起こったら・・・
後ろから見ても思ってたが
やっぱりすごくやさしそうで、かわいい娘だったな・・・
最後に見たのがこんな天使みたいな娘で・・・
少しは救われた・・・かな
・・・だめだ、目の前が暗くなってきた。
ああ・・・もし・・・今度・・・生まれ変われるなら・・・
こんな・・・天使のような子に・・・・・・
神様・・・こんな時だけお願いして、申し訳ないと思うけど・・・どうか・・・もういちど・・・
序章 side B
「わわわわわわわっ」
起きたら、時間がやばかった。
目覚ましは確かにかけた筈だったんだけど
なんでか鳴らなかったようだ。
スイッチが、”勝手に切れていた”。
「もうっ、なんで起こしてくれないのよこの時計っ」
八つ当たりだった。
目覚ましも口があれば「冤罪だっ!」と主張したかっただろう
昨日は少し興奮してすぐ眠れなかった。
というのも
この夏の大会・・・
私は、末席ではあるが
クラブ活動の次の試合
レギュラーに抜擢されてしまったのだ。
人数の少ない我が「女子ソフトテニス部」ではあったが
それでも一年生が団体戦のレギュラーになるのは異例だ。
先輩が足の怪我をして出られなくなったのだが
その先輩が私を推薦してくれた。
先輩は小学校の頃からよく一緒に遊んでくれてた・・・
まあ簡単に言えば幼馴染の親友のような間柄で
部活でも自分の練習時間を裂いてまでも時々素人の私に付き合ってくれていた。
その先輩が、私なら代わりが務まるはずだと主張してくれたのだ。
無論、遠慮しようと思ったのだが
他の先輩方も信頼の厚い先輩の意見を無下にすることもできず
そこで簡単なテストとなり
サーブ・レシーブ・ボレー・スマッシュ・フットワークなど
一通りやって見せたら
まあ、今回だけだし、やらせてみよう、ということになってしまった。
そして、今日からその先輩と組んでた人とのダブルスを組んでの朝練の日なのだ。
のっけからピンチだった・・・
「だだ、大丈夫!」
遅れたと言っても準備の工程をすっとばせば十分なんとかなる
ごはん抜き! 歯磨きも一分で済ませてそっこー着替え
顔を洗って髪をパパッとブラシかけ
この間約10分
「いよしっしゃあ!」
いつもは半時間かけてる用意を三倍の速度で終わらせたら
語尾がなんかそれっぽくなってしまった・・・?
なんだかよくわかんないけど
花も恥じらう乙女がこんな雑な支度でいいのか甚だ疑問ではあるが
今回ばかりは仕方がないだろう
自分自身にそう言い聞かせ
「いってきまーす」
食パンを一枚くわえて家を飛び出す。
なんか漫画でよくあるシチュエーションだねえと思いつつ
時間確認
「・・・うん、早足で十分、間に合いますねっ」
小走りで口をもぐもぐさせながら
一人の、出勤途中であろう
サラリーマンぽい・・・おじさん? おにいさん・・・は、ちょっと無理あるかな?
よくわかんないけど・・・
その人を追い越した。
なんだか少し、気になった。
今までも何度か朝会ったことあるのだろうか
近所の人かな?
不思議と、知ってるような気がした。
「んん?・・・デジャビュ・・・かな?」
脳が疲れてると起こる現象だそうだ。
確かに今日は少し睡眠不足
既視感を感じるのは、きっとそのせいだろう
「鈴音~っ! オハヨー!」
後方から聞こえる、この、微妙に発音が変な声は・・・
「なんだ、私より後から来るとは、余裕だねあんたは・・・羨ましいよ」
挨拶をすっ飛ばして、つい憎まれ口を言ってしまった。
「ご、ご挨拶やなあ」
挨拶をすっ飛ばしたつもりだったが
ちゃんとご挨拶になっていたようだ、いや良かった良かった。
「今日から先輩と朝練やからね・・・ちょっと緊張してるんよ。 まあ、察してくださいゴメンナサイ」
私もつられて発音がおかしくなった。
「わかっとるって、鈴音とボクの仲やん、気にせんでもええよ」
ちなみにこの「ボク」と言ってる子は紛れもなく女の子だ
ちまたで言うところの「ボクっ娘」である。
若干変なエセ関西弁が混じることがあるが
本当に関西人なのかどうかは定かではない
実際本人もよくわかってないらしい
どうやら小さい頃に両親の転勤であちこちを転々としていたらしい・・・
そんなことを繰り返してるうちにこうなってしまったようなのだ。
名は春菜
あ、鈴音というのはもちろん私の名前ですよ
以後お見知りおきを
「んん? 鈴音どったの? 虚空を見つめて・・・もしかして、霊でも見えとんの?」
「いえ、べつに・・・ちょっとどくしゃ・・・いえ、おほほ」
「・・・? あんた大丈夫?」
「そ、それよりっ そろそろ急がないと”汽車”に遅れちゃうよ」
「そやね、鈴音さまは異例の大抜擢されたんやから、ここで遅れたりしたらそれこそ洒落になんないよね~」
ニンマリしながら言われる
「・・・もうっ、こ、今回だけだって! 次からは元通りだよっ」
そう、春菜は本来の私のダブルスパートナーだ
一人だけ試合に出ることになって
少し引け目を感じている
できることならこんな展開じゃなく
普通に二人一緒にレギュラーを勝ち取りたかった。
「そんな気にせんときって! ボクのことはいいから、目一杯がんばんなよ」
「・・・うん、ありがと」
彼女は社交的ですごくいいやつだ
知り合ったのは中学に上がってから
彼女は公立小学校から受験して入ってきた。
あんまりお金持ちじゃないらしいんだけど
頭が良いので将来に期待を込めて家の者がなんとか工面してくれたそうだ。
だからなのか
すごく頑張り屋さんだったりする。
クラブも学業もちゃんと両立して成績も良い
今回だって本来彼女が選ばれても、なんの不思議もなかったのだ。
私はどちらかといえば人見知りする方で
中学生になったばかりの頃、クラブに入るのも結構勇気が必要だった。
どうしようかと迷っておどおどしてるそれを見抜かれたのか
まだ入学しだちで親しくもなってなかった私に声をかけ
彼女は屈託のない笑顔でそのまま手を引っ張って
クラブ部室のドアを叩いて一緒に入部してくれたのだ。
後で聞いたのだが、彼女いわく
「入学時にこの顔にピーンときた!
鈴音と友達になろうって最初から心に決めてたんや」だそうだ。
私は指名手配犯じゃないやい!・・・と思いつつ
すごい行動力だなあと感心してしまった。
「あっ! もう~、また朝、手え抜いたなあ?」
ぎく!
「・・・えっ? な、なにが? なんで?(わかるの?)」
「ね・ぐ・せ! 髪の毛、ボサボサやないの」
「そ、そう? いちおーブラシ掛けたんだけど・・・」
「かかってないわよ、鏡で見えてる前だけでしょう?」
春菜はカバンからさっとブラシを出して、私の髪をとかしてくれた。
「いつもすまないねえ・・・」
おばあさん風に礼を言ってみる
「もう~、折角あんたの親があんたをかわいく産んでくれとんのに、
ちゃんと手入れしないともったいないわよ~」
・・・そうなのだろうか? 自分ではよくわかんないな・・・不細工・・・とも思ってないけども
でもまあそう言われて悪い気はしない
「でへへへ・・・ありがと」
「まったく・・・ささ、早く行かんと乗り遅れたら次は授業前の便しかないよ」
「そ、そうだねっ」
二人一緒に早足になる
この町は結構田舎だ
さっき春菜に「汽車」と言ったが、そう
この町には「電車」が無いのである・・・
町の交通機関は、時間がイマイチ当てにならない町営のバスと
このディーゼルの汽車だけなのだ。
しかも乗り過ごそうものなら次はかなりの時間待たなければならない
通勤通学時間帯でこれなもんだから
当然、昼間なんかは一時間に一本もないこともある。
まあ、殆どの世帯には車があるので
それほど困りはしないみたいだ。
そんな田舎
でも、嫌いじゃないけどね
小さい頃から慣れ親しんだ故郷
景色も悪くないし天然の遊ぶところも多い
都会に憧れる子も中にはいるけれど・・・
私はここで居ることが、居心地がいい
将来は家業を継ぐことを幼い頃から心に決めていたし
ふと前を見ると
さっきの男性サラリーマン? が歩いていた。
春菜にブラシをかけてもらってる間に
また追い抜かれてたんだなあ・・・
どうやら同じ道のりを歩いているようだから
きっと同じ列車に乗るんだろうな、と思ったら
そこまで急がなくても間に合うような気がして少し安心した。
やや駆け足のペースを落としつつも
知らない人だけど何度も抜きつ抜かれつの仲にちょっとだけ親近感が出て
目が合いそうだったので追い抜き際に軽く会釈をしてみた。
ぺこり
・・・あ。
向こうも笑顔で会釈を返してくれた。
うん・・・
なんだかこういうの
気分がいいな
引っ込みがちな自分だけど、ちょっとだけ勇気を出してやってみて、良かった。
今日も、がんばろうって気になってきた。
ぶおおおおおおおおおおん
前方から、トラックが走ってきた。
なんでもない、普通のトラックがただ走ってきただけだ。
なのに
・・・・・・っ!!
なんだろう・・・また・・・デジャヴ?
「あ・・・あれっ?」
急に足が・・・すくんで動かなくなった。
なにこの感覚? こんなの初めて
「・・・鈴音? ど、どうしたん?」
前を凝視する私を見て春菜が視線の先に振り向いた。
「う、うわっ! 車が、こっち・・・来る!?」
かあんっ!
甲高い音
何かが、車に当たった・・・ような・・・?
瞬間、車の軌道は変わった。
でも、いけない! このトラック
「だ、駄目っ! 逃げて・・・駄目ええええ!!」
刹那
トラックは目の前を通り過ぎた。
「す、鈴音!?」
そう、私が言葉をかけたのは春菜にではなかった。
私たちの後方から来ていた、あの男の人
きいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
どかっ!
「あ・・・ああああああああっ!」
男は宙を舞った。
背中から、着地をして
なおも勢いは止まらず
地面を滑走し
そして、電柱にぶつかって、止まった。
「き、きゃあああああああっ!」
春菜も動転して悲鳴を上げた。
どくんっ
「・・・はっあ・・・!」
どくんっ
「はあっ・・・はあっ・・・」
どくんっ
胸が、痛い・・・何で・・・こんなに・・・?
だって、私は、見慣れてるはずだもの・・・それが・・・なん・・・で?
私は、ふらふらと倒れている男性に近づいていく
「春菜ちゃん・・・きゅ、救急車、お願い!」
「ひうっ・・・・・・」
まだ彼女は気が動転していたようだ。
「・・・・・・あ!・・・う、うんっ、わかった!」
なんとか少しだけ落ち着いた春菜は携帯をカバンから取り出し、電話をかけてくれていた。
体調がおかしい・・・事故を見てしまったショックからだろうか?
でも、じっとしていられない
はやく・・・彼を助けないと・・・
よろよろと男性目指して歩く・・・
トラックの運転手はまだ出てきていない
もしかして、運転手も負傷してるのだろうか?
そして、彼の表情がはっきりとわかるくらいにまで近づいた・・・その時
一瞬彼は、私を見た。
どくんっ!
「・・・はっ・・・あ!」
直後、彼は意識を失ったのか、瞼を閉じた。
ひときわ、胸が苦しくなり
そして・・・
どくんっ!!
私は・・・「彼」を・・・「理解」した!
瞬間、私は走り出した。
目から涙が溢れてきて、堪えきれなかった。
そう、彼は・・・ここで死ぬ!
私にはわかる・・・その時彼が何を考えていたのかを
いまわのきわで思ったこと・・・それは
彼は・・・私に憧れたのだ・・・そうだ!
「今度もし・・・生まれ変われるなら・・・私のようになりたい」・・・と
そう・・・彼は、強く願ったのだ。
彼は・・・いや、「私」は・・・
彼、「だった」んだ!!
蘇る生前の記憶と目の前の惨事に、私はパニックになった。
なにより、「自分自身」の「死」を指をくわえて見ていることができなかった。
だって・・・私、自分自身の人生にぜんぜん満足していない・・・
今の私とはまたちがう
「彼」自身の「幸福の可能性」を
試すことなく終わる、その悲しさが哀れで・・・
どうしても、耐えられなかった。
駆け寄った私は、すぐさま呼吸と脈を確認・・・
脈は・・・無い!
呼吸も・・・してない!
すぐさま彼に馬乗りになり
両手を胸に当て、心臓マッサージ
「ふっ!・・・ふっ!・・・ふっ!・・・」
必死だった。
なんとかしたかった。
「はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・」
手応えを、感じない
やはり、駄目なのだろうか?
「はあっ!・・・はあっ!・・・はあっあ・・・」
がりっ!
悔しさで、唇を噛んだ。
ほのかに、口腔内に鉄の味が広がった。
「はあっ!・・・はあっ!・・・・・・く・・・う・・・~~~~~~・・・」
ぐっ
意を決して
私は彼に覆いかぶさり
そして、彼の唇を・・・私の唇で塞いだ。
私の、ファーストキス・・・でも、後悔はしない。
まさか、彼が相手とは思わなかったけれども
ピーポーピーポーピーポーピーポーピーポー・・・・・・
救急車が、到着した。
私は一緒に乗り込んだ。
ある目的の為に
序章sideA・sideB終了
今月で私が通っていた母校は少子化、老朽化のため廃校となります。
それに捧げる・・・というわけでもないのですが
ひとつの区切りと言いますか、そういうわけで初投稿してみました。
実は書いたのは3年以上前で、ずっとPCの肥やしとなっていましたが、
これが処女作となります。
ラノベの書き方も知らず、ただ思いつくままに書いたつたない作品ですが
できましたらどうぞよろしくお願いいたします。