008
その澄み切った青い空にはカモメが飛び
キラキラと輝く瑠璃色の海には風が舞う
緑豊かな大地には色とりどりの花が咲く
軌道エレベーターを使い、1日以上掛けて第五地球の大地についた。案外時間が掛かるもんだと思っていたら、鉄入くん(年下でした!)が、聞いてもいないのに説明を始めた!
《それは理解不能な魔法の呪文!!》
まああれだろ!それでもすごいってんでしょ!
やっと普通にタバコが吸える!
軌道エレベーター内も、もちろん禁煙でした。
『こんな事もあろうかと作って置いたニャ!』
ニャモが用意してくれていた携帯用小型小宇宙掃除機(仮)を使用しての喫煙を余儀なくされた。
見た目は気味の悪いガスマスク風!タバコを咥えて装着すれば、自動で着火し短くなれば勝手に消火し、吸いがらまで吸い込んじゃう!
(吸い込んだ灰や吸いがらは、どこにいくんだ?)
《それは魔法ニャ!》
しかし、ずっと咥えタバコはつらいのと、見た目の怖さをなんとかせねば!
「こっちに来るな!」
お父さん嫌われちゃう!
携帯用小型小宇宙掃除機(仮)を灰皿代わりにタバコを吸うと、タバコの煙は空に消え、海岸沿いに作られた地上ステーションには冷たい潮風が吹いていた。
「ぽち!ぽち!ぽち!ぽち!ぽち!」
「ああ、海だな。」
「水着もってくれば良かったぁ〜!」
(もう護衛役って事は忘れてるよね…)
早朝の静まり返った地上ステーションに4台のクルマが到着した。
その1台の中から2人、初老の男が降りてきた。
この世界の人間。2人とも政治家だそうだ。
2人は直接俺と話をする事はなく、お付きのアンドロイドに指示を出す。間違いなく鉄入くんの兄弟だ!
鉄入くんの兄弟は音もなく近づいてくる。
「……。」
「……?」
「以前どこかでお会いした事は?」
「いえ…無いと思いますが。」
「失礼しました。」
「いえいえ。」(同じ事を思っていました。)
出された名刺には27号と書かれていた。(兄か!)
双子だそうだ!(なんて呼べば…面倒な事になったぞ。)
他愛ない会話から始まり、移動する事になった。俺たちは2人の男とは別のクルマに案内され、鉄入くん(兄)は2人の男と、鉄入くん(弟)は俺たちと同乗した。
残り2台の護衛のクルマが前後につき、政府の要人とやらが待つホテルへ向け移動を開始する。
(もう帰りたい…俺…普通のサラリーマンだよ…)
◆
海岸沿いを走る4台のクルマを朝日が照らし出す。
「ーーー!!!」←MAX
「こいつに何かクスリを。」
「……Zzz」
(護衛の人は俺の事も守ってくれるん?)
いま我々のいる第五地球にはパンゲアと呼ばれる巨大大陸があり、それが47つに分けられている。そしていま向かっているのが、首都トウキョウにあるホテルだ!
《との事でした!》
地上ステーションを出てしばらく走ると、一面の田園風景へと変わる。そこに点在する昭和初期の田舎の民家といった感じの建物が見えた。
「ここはまだチバですから!」
《ここまで田舎じゃねぇわ!!》
第五地球では、こういった風景の方が多いのだそうだ。こういった生活を嫌う人はトウキョウか、コロニーで生活している。
いまこの星のほとんどの人間が、こうした暮らしを望み、自然と共に生きている。
そんなのどかな田園風景が一変した。
〈第五地球 首都 トウキョウ〉
コロニー内の未来感半端ない風景とは違い、高層ビルが立ち並び、現実世界の少し先程度の近未来都市といった印象だ。
到着したホテルの頂上は雲よりも高い。
案内されたその部屋は地下4階…窓もない。
《じゃあこのホテルじゃなくても…》
薄暗い部屋の中には3人の男が待っていた。
部屋の中央に置かれた椅子を勧められ、ここまで一緒に来た男たちも3人の両隣に座った。
(これじゃまるで尋問みたいだね。)
部屋の外では武装したアンドロイドが固めている。
それなのに…
「ホテルの朝食なんて初めてぇ〜」
「しかもタダ飯ニャ!」
「では!」
うん!いつも通りで、むしろ清々しい!
目の前に座っている5人の男。俺から見て右端の男が立ち上がり、それぞれの紹介をしていく。あまりこういうのに慣れていないのか、しきりに汗を拭いている。
どうもこの手のタイプは苦手だな。たどたどしくても紹介を続ける右端の男はともかく、ボソボソと何やら話し込んでいる残りの奴らはどうにも好きになれん。
いつの間にやら紹介も終わったようなので、簡単に自己紹介を済ませる。
でもその後が続かず、部屋は静まり返る。
(どうすんのこれ?)
「お待たせして申し訳ありません。」
鉄入くん(おそらく兄)が部屋に入ってくると、右端の男が鉄入くんに小声で指示を出す。
「この度はご足労いただき、ありがとうございます。」
5人の横に立った鉄入くんが話し始めた。進行役は鉄入くんなのかな?
「今回お越しいただいたのは、先日発生した冒険者の大量失踪についてお伺いする為です。」
話して良いのん?この世界の同じ人間だと思っている冒険者は、実はゲームをしていたプレイヤーで、全員ログアウトして、もう二度と戻って来ないって事を。
俺たちは別の世界の人間です!なんて言っても信じてもらえないよなぁ〜…
良し!モヤっと行こう!!
「アルフへイムで用件は伺っていますが、私にお話し出来る事はないと思います。むしろ私の方がお聞きしたいくらいです。」
「はい。我々も貴方がこの件に関与しているとは思いません。ただ我々が手にしている情報はあまりにも少ない。そこで冒険者である貴方のご意見をいただきたいのです。」
「お願いします!」
鉄入くんの合図でTVのワイドショーばりの巨大ボードを2人の鉄入くんの兄弟が運んで来た!
《こういうのなんか好き!!!》
鉄入くんの熱の入った解説が始まった!
それはまさにショータイム!
飛び散る汗!(オイル?)宙を舞うボードのシール!
ボードをバーン!→叩かれた所がクルッ!
鉄入くんの兄弟も忙しい!鉄入くんにフリップを渡すその姿勢は、決してボードの文字を隠さない!!
もう最初の鉄入くんがどれだか分からない!
◆
ソール恒星系の総人口は、彼らの言う亜人を含め、およそ100億人。その内、人間は1億人程度しかいない。
そして今回、冒険者として登録されている1200万以上の人間が突然失踪した。
正確には俺以外の冒険者の登録記録が突然消え、それに気がついた管理局が調査に乗り出し発覚したという事だ。
1割以上の人間が突然消えれば、大騒ぎにもなるよね。
ただ1200万人もゲームのプレイヤーがいたはずはない。それはアカウントの数だ。
そして俺はこの星で暮らした記憶はない。それは他のプレイヤーもそうだろう。
ゲームではログインしたら、すぐアルフへイムに転送されるという設定だったから。
元々この星に冒険者はいなかったんだ。
こいつらは登録記録があるからいるんだろう程度にしか冒険者を見ていなかった訳だ。
そんな冒険者が消えて困る事…
「8年前にも起きた大量失踪事件と似ているとは思いませんか?」
見事な暴れっぷりで煙を出してうずくまっていた鉄入くんが、ようやく再起動したようだ。お疲れ様でした!
「あの時は失踪と報道されましたが、彼らは秘密裏に移動可能なコロニーを小惑星帯に建造し、地球へ向けて旅立った。というのが真相です。今回の冒険者失踪は、あの時と何か関係があるのではないかと我々は考えています。」
あの白い空間で出会った少女〈ネフィリム〉から聞いた、あの事か。
しかし困った…その8年前の事件と今回は関係ないし。
あるとしたら俺と異人とかいう奴の関係だろうけど、そんな事話したら余計ややこしい事になる。
「ちょっと良いかね。」
俺の前に座っている真ん中の男がボソボソと小さな声で話しはじめた。
「我々が問題にしているのは、冒険者がどこへ行ったかではない。彼らは全てを残していったそうじゃないか。」
《なるほどね…》
「全てというと?」
「彼らの財産だよ。冒険者全員の財産ともなれば、相当なものになるんだろう?しかも相続人もいないそうじゃないか。」
「8年前に出ていった連中は、コロニー建造の為に、ほとんどの資産を売却していましたからな。」
「財産管理はまだ奴らが使役しておった亜人どもがしているのか?」
「すぐに別の相続財産管理人を準備させませんとな。おい!27号!裁判所への連絡はすんでおるのか?」
ひとりが話しはじめた途端にこれか。
《金か…》
たしかにプレイヤーが所有していた所持金だけでも、それだけ集まれば相当なもんだ。
すぐにゲームをやめてしまったプレイヤーも多いだろうが、数百万課金した廃人級のプレイヤーもいたんだ。
個人所有のアイテムやバトルドールまで入れたら、もういくらになるのかも分からない。
でも1200万の冒険者がいたのなら、同じ数のサポートキャラクターがいるという事だ。
《あの子たちはまだこの世界にいるのに!》
「まだ死んだと決まった訳ではありませんよね?」
苦し紛れです。こんなの専門にやってる奴しか分からないよ…
《視界に入った鉄入くんが笑ったように見えた》
「そうです。今はまだ死亡したとは言い切れません。ですが8年前の法改正により、ソール恒星系の外に出たと認定された失踪者に相続人がいなかった場合、認定から1年の間に生死が分からなければ、いろいろな手続きはありますが死亡が認定されます。そして、その後6ヶ月の間に相続人が名乗り出なければ失踪者が所有していた全財産は国庫に帰属する事になります。」
鉄入くんは俺の横に立ち、5人の男たちの方に向き直る。
「皆さんは《冒険者法》をご存知ですか?」
「なんだそれは?」
〈冒険者法〉
15年前に現れた戸籍のない人間に、その身分を保証する為に作られた。
冒険者となったものは、第五地球に住む人間と同等の権利が与えられるだけではなく、常に危険が伴う冒険者の為に、様々な特権も与えられた。
「第五火星や他の惑星に住む人間の中には戸籍のないものもおりますので、彼らの存在もあまり騒がれませんでした。その為この法律自体ご存知ない方もいらっしゃいます。冒険者の中にもご存知ではない方もいらっしゃるかも知れません。」
「だからなんだと言うんだ!」
「はい。冒険者の財産の相続人は存在します!」
「冒険者には配偶者も子どももいないと聞いたぞ!」
鉄入くんの発言により5人の男が騒ぎはじめた。
俺はどうすれば…
「相続人とは冒険者がサポートキャラクターと呼んだ亜人たちです。」
「ふざけるな!亜人どもにそんな権利はない!」
「いいえ。冒険者法によれば、冒険者の死亡認定後6ヶ月以内に相続人の申請をすれば、例え亜人でも全ての財産を相続出来ます。
それに、冒険者の財産はサポートキャラクターとの共有財産です。元々その半分は彼らが相続する権利があります。」
「ふざけるな!」
真ん中に座っていた男が立ち上がり、顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
「冒険者がいなくなったのに何が冒険者法だ!」
「ここにいらっしゃいます。」
《俺ですかーーー!!》
「たった一人ではないか!」
「ですが全ては《黄金の林檎》の御意志です!」
そういわれた男は怒りのあまりプルプル震え、携帯端末で誰かに怒鳴るように指示を出しながら部屋を出て行く。
残された男たちも慌てて部屋を後にした。
◆
「ずるいですよ。」
「すいません。」
男たちが出ていき、俺と鉄入くんが残された。
最初から決まってたんだね。上手く利用された。この為に連れて来られた訳だ。
でもこれじゃあ…
「申し訳ありません!」
鉄入くんが、その硬い身体をなんとか曲げて頭を下げる。
「今後貴方の身に危険が及ぶかも知れません。ですが…こうするしか…彼らを守る方法が思い浮かびませんでした。」
そうだよね。1200万のサポートキャラクターをどうにかするより、俺ひとり消した方が簡単だ。
それにいま鉄入くんが言わなくても、いずれは分かっていた事だしね。こちらもそうと分かっていれば対応もしやすい。
「そうだ!さっき言ってた黄金の林檎ってなんですか?」
「ああ。そうですね…これは一般には公表していませんから知らなくても当然ですね。」
そう言ってしばらく悩む。
「やっぱり良いです!」
「ええ。その方が良いと思います。」
気になるけど、なんか知らない方が良い気がする!これ以上の面倒事はたくさんだ!
「そんな事より、こんな事をして鉄入さんは大丈夫なんですか?その…立場的に。」
「どうとでもなりますよ!」
◆
「帰りますよ〜!」
まだ食べる!と駄々をこねる3人娘を連れて、ホテルのレストランを後にする。
ミルフィーユたちの事も気になるし、ここよりはアルフヘイムの方が安全だろう。
すでにクルマを手配してくれていた鉄入兄弟が待っていてくれた。
その上鉄入くん(弟)がアルフヘイムまで送ってくれるそうだ。
クルマの窓から見えるのどかな風景が先程までの嫌な気持ちを洗い流してくれるようだ。
ホテルを出る際、鉄入くん(兄)が持たせてくれたサンドイッチを食べながら、鉄入くん(兄)に言われた言葉を思い出す。
「私たちの兄弟をどうか守ってやって下さい!」
それは鉄入ブラザーズの事ではなく、アルフヘイムにいるサポートキャラクターたちの事。
サポートキャラクターたちと彼らとは、その記憶の面で違いがある。
でも彼は、種族の違うものたちも含めて兄弟と言ったんだ。
兄弟を守る為に、ここまでしたんだ。
まあ、出来るだけ頑張ります!
しかし、この世界の人間と亜人との関係はなんなんだ?偉そうに!
あとあれだ!黄金の林檎!いかにもじゃん!
ネフィリムに聞けば分かるかもしれないけど…
昨夜は行かなかったし、寝たら行ける夢の世界ではないようだ。
まだまだ謎ばかりですな。
「艦長!食べないニャら、貰って良いかニャ?」
そういうのは食べながら言うのはやめなさいね…
◆
中世の大聖堂を思わせる薄暗いその空間に、ホログラムで映し出された映像は、いまでは記録の中にしかない最初の地球。
その映像を白いローブを纏った男が見つめている。
そこに1人の若い男が歩み寄りひざまずく。
「彼はどうしました?」
「このままアルフヘイムへ向かうようです。現在配下のものに警戒をさせております。
それと公安局長より連絡があり、何やら内閣府で動きがあるようです。」
「あれにも困ったものですね。その件は早急に対応が必要ですね。」
「それは私にお任せ下さい。」
彼もまた、あの方ように我らを導く者となるでしょう。
ですが今はまだその時ではありません。
今は祈りましょう。
彼が迷わず歩けるように。
彼の進む先に光がありますように。
だんだん書くのが遅くなる…( ̄▽ ̄)
頑張ります!
適当だな…
よろしくお願いします!