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006

あの音は人間の声?

その音は人工的な電子音?

この音は楽器の音色?


透きとおったその音は初めて聞くのに何処か懐かしくて、でも冷たいその音は心を締め付けるようで何故か不安になる。


そんな音。それがこの少女の声。



〈ようこそ!白瀬さん〉

少女の口が動いた。でもその音は頭の中に直接流れ込む。

〈貴方はどうしてここにいるんです?〉

「いや…それは俺が聞きたいよ!ここは?なんで俺は、ここにいるんだ?…君は一体誰なんだ!」

〈ああっ…ごめんなさい。少し落ち着いて下さい。みんな驚いちゃいます〉

キョロキョロと周りを見渡した後、少女が近づき俺の目を見つめる。

〈もう少しだけ貴方の事を見させて下さい〉

少女の瞳は綺麗な硝子のようで、見つめられると照れてしまう。

《嗚呼…近い。》

すると少女は小首をかしげ、困った表情をする。

〈う〜ん。なんですかねこの違和感…それにゲームですか?…まあなんにせよ、貴方の置かれた状況はわかりました〉

少女はそのまま腕を組んで考え込む。

〈ただそうすると…〉


「ちょっと良いかな!」

〈なんです?〉

「いまので分かったの?それにさっき俺の名前…それに〈私たち〉って?」

〈ああ…そうですね。そこからですよね〉

そう言うと少女が突然消えた!

〈こっちですよ〜!〉

振り返ると少女はあの黒いものに座っていた。

〈これが私です。それで私たちでもあります。貴方がここに来てから、私たちはずっと貴方の事を見ていました〉

「私たち?」

〈はい。私がみんなで、みんなが私です。貴方には私が1人の女の子に見えると思いますけど〉

「…神様とか言わないですよね。」

〈まさか!そんな恥ずかしい、偉そうなものではないですよ〉

とても綺麗で優しい笑顔。

でも人間ではない。生物でも機械でもないもの。それはとても不思議な存在。


〈私たちが何なのか!う〜ん味方です!〉

「えっ?」

〈ごめんなさい…今はそれしか言えません〉


モヤモヤする!でもそう言われたら、もうこれ以上聞いても答えてくれない。

「分かりました…それについては、もう聞きません。」


〈ごめんなさい…でも私たちにも分からない事ばかりなんです〉

「じゃあ俺は何故ここに?俺を呼んだ理由を教えて下さい!」

〈…呼んでないんですよ。貴方が勝手に、突然ここに来たんです!びっくりしましたよ…だから観察して…とりあえず話しをしようって事になったんです〉


そこにぽっかり穴が空いているかと思う様な黒いもの。つやもなく、ただ真っ黒なもの。

この空間に浮かぶそれに座り、少女は俺をみつめている。

少女はそこから降りると、黙って立ち尽くす俺を中心に回るように歩き始めた。


〈貴方が何故ここに来れたのか、貴方が何故この世界に取り残されたのか、貴方も何も分からないという事は理解しました〉


少女の声が頭に響く。

〈貴方がいるこの空間は私の世界。そして貴方がいるこの世界は、貴方にとっては異なる世界でも、私たちには現実の世界です。この世界にも貴方と同じ人間たちがいますが、貴方もそれと同じ人間なのか!またゲームのプレイヤーが現実世界に戻ったのに、何故貴方はまだここにいるのか!貴方が何なのか、私たちにもまだ分かりません〉


少女は立ち止まり、俺をみつめる。

《ですが、私たちは貴方も帰って欲しい!この世界にいないで欲しいと思っています!貴方の存在は、あまりにも不安要素が多過ぎるから…》


「俺も帰りたいですよ!でもどうすればいいのか…」

〈…分かっています!だから私たちも協力します!〉

そういうと少女は俺の手を握る。小さいけど暖かい手。

〈貴方のいた世界とこの世界。同じようで異なる世界。だけどあるんです。この世界にも《地球》が!〉


「そこに行けば…帰れるんですか?!」

〈いや…分からないです…ただ何か分かるかも知れないじゃないですか!ねっ!〉

「…。」

〈…なんか…期待させちゃってごめんなさい…でも分かるなんて言わかったですよ私!〉

「……。」

〈いや!そんなに落ち込まないで下さい!〉

「………………。」



〈駄目ですね…〉

少女は体育座りをしている俺の周りをぐるぐる回り、先ほどから不思議な儀式?を繰り返している。

この異世界の中の異世界。この《白い空間》から出られない…

〈何をしたんですか?…どうするんです?〉

《こっちが聞きたいわ!》


この《白い空間》に来る前にしていた事…多分…寝たよね。それを少女に伝えると…

〈ええ〜じゃあ毎回寝る度にここに来るんですかぁ〜〉

《露骨にイヤな顔を!しかもハッキリと!…いいね!》

〈じゃあ目が覚めると戻るって事ですかね?〉

仮にそうだったとしても、まだ起きないだろう。

少女と二人、この異世界の事、俺のいた世界の事をいろいろ話した。

俺が地球の日本に住んでいて、日本はどんなところか。ゲームの話。友達の話。

少女はこの異世界の事。この世界の人間の事。サポートキャラクターが《亜人》と呼ばれこき使われている事。そしてこの世界の人間だと思っていたプレイヤーの事も。


〈おかしな人たちだなぁ〜と思っていたんです!他の人たちと交流もしないで、ただ黙々と働いていましたからねぇ〜〉

俺の横でやはり体育座りの少女が、何だか楽しそうに話す。

〈そしたら突然いなくなるじゃないですか!もうびっくりしましたよ!で、貴方ですよ!ひとり取り残されて!どんくさい奴だなぁ〜と思ったんですよ!あはははっ!〉

《嗚呼…この感じ…悪くない!》

笑い声が頭にキンキン響くけど、でもおしゃべりな普通の女の子たんだね。


少女はここで、この世界をずっと観察していたのだそうだ。

そこで少女に俺の中にある2つの記憶の事も聞いてみた。この奇妙な感覚、不思議な記憶を。そして他にも俺の様なプレイヤーがいたのかと。


少女は突然笑うのをやめた。

立ち上がると前に動き出す。歩くのではなく前に滑るように。

〈貴方は《異人》と同じ…〉

そこにあった黒いもの。

そこから伸びた影の様な鎖が俺を締め上げ、引きずり込んだ。



そこは闇の中、何もない。光も、音も、自分の身体があるのかも分からない。

闇の中から少女の声が響く。

〈貴方はいま2つの記憶と言った。貴方から感じた違和感。あれがそうでしたか。先ほど協力すると言いましたが、訂正します。ごめんなさい…貴方はここで死んで下さい!〉

『待ってーーーー!!!』

声が出て良かった。もしかしたら声も出ないかと思った…

「突然過ぎて意味が分からんわ!」

〈…。〉

「死んで下さい!はい!分かりました!ってならんわ!」

〈…大きな声出さないで下さい…怖いです〉

『こっちが怖いわ!』


〈…説明します…〉

すると目の前に天井からスポットライトが当たり、大きな木の箱が現れた。俺の横には小さな椅子が現れたので、とりあえず座る。

《イヤな予感がする。》


すると箱の後ろから2体のぬいぐるみ…いや、ハンドマペットっていったかなぁ〜ああいうの。操るのは…あの子だわな…

右手に黒いウサギ、左手に白いネコ…どっちが何?


〈はじめます〉

黒ウサ〈ああ!困った困った!〉

白ネコ〈どうしたのウサギさん!〉

《えっ!ウソだろ!》

黒ウサ〈ああ!ネコさん!実は家に帰れなくなったんだ…〉

白ネコ〈まあ!かわいそうなウサギさん!でも安心して!ウサギさんの家は後ろよ!〉

黒ウサ〈知ってる!でもこの家じゃないんだ!〉

白ネコ〈家がふたつもあるなんてお金持ち!〉



〈以上です!〉

どれだけ無駄な時間を過ごしただろう。

俺はまだ結婚してない。子供もいない。

もし俺に娘がいて、お父さんの為に一生懸命やっていると思ったら、泣いてしまうのかな?

〈じゃあ死んで下さい!〉

《前にダッシュ→箱をバーン!!》

『死ねるかーーー!!!』


泣かせてしまいました。泣きたいのはこちらですが…



それはひとりの冒険者。

それは不思議な冒険者。

いつもひとりの冒険者。


彼には多くの仲間がいた。そして大きな力と、富を持っていた。

だけどいつもひとり。


そんな彼が泣いていた。帰れなくなったと泣いていた。

彼の話を少女は聞いた。話を聞いてふたりで泣いた。


少女は探した、彼の家を。泣いてばかりの彼の為に。


でも見つからない。彼の家はここにはない。


絶望した彼は旅に出た。仲間の残した亜人を連れて。そして、たくさんの人間を引き連れて。

みんな彼を支える為に、彼の力となる為に。


少女は残った。この世界の混乱を収める為に。

少女は恨んだ。この世界に混乱を(もたら)した事に。


そして少女はここにいる。

もう二度と彼が現れないように祈りながら。

そして異人と呼んだ彼の無事を祈りながら。



これは少女の昔ばなし。


少女が異人と呼んだ冒険者。それはプレイヤーのひとりだろう。

彼はこの異世界にやって来てしまった。たった一人で。そこに少女は現れた。

〈私はそんなあの人に、ここにも地球はあると伝えてしまった…そしてあの人はこの世界の…地球への帰還を望む人間を連れて行ってしまった〉

それは当時の人口のほぼ半数、およそ1億人。

とても長い旅を続けて来たこの世界の人間たち…たくさんの命を奪われながら。

それでも必死に生きてきた人間たちを、彼は奪っていった。


それから時が経ち、ゲームのプレイヤーが消えたあの瞬間。俺だけが残ってしまった。

ただ取り残された異世界人ではなく、異人と同じ、2つの世界のどちらの記憶も持っている俺が。


それが突然少女の前に現れた。


怖かったんだね。また奪われるのが!

君の守りたい大切なものだから。


灯りのきえた暗いこの空間で、姿は見えなくなったけど隣で泣いている少女の頭を撫でてやる。

少女の気持ちも分かる!でも俺にも守りたいものがある。やらなきゃならない事がある!


そう思った瞬間、全ての灯りがついたようにまわりが明るくなった。そこは先ほどまでいたあの白い空間だった。


目を両手でごしごしして、真っ赤な目で睨まれる。

〈とりあえず様子を見ます!〉

《そんな瞳で睨まれたら…》

〈私たちがダメと判断したら、すぐ死んで貰います。ただそれまでは協力しますから!〉

泣いてしまって恥ずかしいのかしら?

〈貴方は何もせず、直ぐに帰って下さいね!〉


何処か遠くで音がする。聞いた事のある音!


〈あっ!帰れるんじゃないですか?〉

さっきまでの事が嘘のような明るい笑顔。

時間がない。今さら聞くのはどうかと思い、ずっと聞けずにいた事。

「君の名前は?」

にっこり笑った少女が答える。

〈私はネフィリム!〉



“電話で〜すぅ!”

“電話で〜すぅ!”

“電話で〜


「…はいはい!」

携帯端末にマティーニが映る。

「お休みのところ申し訳ありません艦長!千葉県民号からもたらされたデーターの解析が終了しました。」

「分かった。もう少ししたら、ブリッジに行くよ。」


夢というにはあまりにも出来過ぎだ。

それにあの少女〈ネフィリム〉の頭を撫でた感触がまだ手に残っている。

(これをみんなにどう伝えたら良いん?)

〈地球〉に〈異人〉帰還への手がかりになりそうだけど、何から手をつけたら良いのやら…


焦っても仕方がない!ゆっくりやるさ!



千葉県民号の記憶。その中にあった、あの瞬間の映像。ブリッジ内の映像がモニターに映る。


画像が乱れ、艦長席にいたプレイヤーが消えた。

その後のギルド艦の機能停止、艦内の混乱、現実の存在となったサポートキャラクターの死。

なぜ死んだ?ゲーム時代に無かったから?そうじゃない。艦内の事や、事務仕事…ゲームの時は無かった事でも、ゲームの中で生きていた自分の記憶の中にはある。


知らないのはゲーム時代と変わった、この世界オリジナルの事象。


この場にいるヘイムダルとマティーニも、やはり違和感があるようだった。

彼女たちにもある、これがゲームだった頃の記憶。ゲームのキャラクターだった頃の記憶。それとは変わってしまった、今の世界に。


携帯端末を開き、ゲームのストーリーを見る。そこに書かれた〈謎の黒い箱〉それはネフィリムの事なんだろう。


彼女の存在、そして異人。

ゲーム世界にもあったのか。この異世界のオリジナルか。


「艦長!そろそろですよ。」

操舵担当の琥珀がブリッジにひとりでやって来た。ダージリンはいない。

「あの子はもう少し時間が掛かるかもしれませんが、大丈夫です!」


「うん。」

そうみんな、それぞれゆっくりやれば良いさ。


モニターが切り替わり、移動装置〈ゲート〉が映し出される。

とりあえずはコロニー〈アルフヘイム〉に戻ってからだ。

世の中シルバーウィーク最終日!

私には関係ない⊂⌒~⊃。Д。)⊃


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