005
どうしょう…ミルフィーユが…
どうしょう…死んじゃう…
どうしょう…誓ったのに…
みんなを〈現実の世界〉に連れいくと誓ったのに…
要塞クラゲ戦、押し寄せる小型エネミーを、
たった1機で…アップル達を。
たった1機で…ヘイムダルを。
たった1機でみんなを守る盾となった。
痛かったよね…怖かったよね…
助けてやらなきゃいけなかった…
守ってやらなきゃいけなかった…
それなのに…
おまえがいなきゃ…仕事はどうする!
おまえがいなきゃ…仲間をどうする!
おまえがいなきゃ駄目なんだ!
『さっきからうるせぇーんだよ!!!』
顔面にグーを頂く!(ありがとうございます!)
『まだ死んでねぇー!!ふざけんな!!』
いつもの白衣に着替える事もせず、スペーススーツのまま、玉藻がミルフィーユの治療をつづける。
『私がついている限り誰ひとり死なせやしねーよ!』
『大体、うちらはこれくらいじゃ死なねーんだよ!!』
胸を張る→(((ぱっーーーん!!)))
スペーススーツのチャック?が壊れ、おしり…いやいや、そんなかわいいもんじゃねー!
《ケツ》みたいなおっぱいがいっぱい。
ありがとうございます!×10〜
「ハァハァ…ここは良いから、みんなを安心させてやんな!」
「……」
《顔がボコボコで声が出ません》
◆
UR級バトルドールだったから、助かったのだとニャモに言われた。
ニャモも両腕に酷い火傷を負い、身体中ボロボロだった。
でもそれは戦いで負った怪我じゃない。
再出撃したエクレア、KKと共にアップル達が小型エネミーを掃討し、ニャモが大破したジークフリートⅣを回収して来た。
ヘイムダルに戻るや否やスペーススーツを脱ぎ捨て、まだ高温の装甲を素手で引き剥がし、焼けただれた手でミルフィーユを引き上げてくれた。
「玉藻がついてれば大丈夫!」
「またニャが抜けてるよ。」
小さなこぶが出来ちゃった頭を撫でてやる。
「良かったね艦長!」
そう言うと嬉しそうに笑った。
「ありがとうね。」
◆
アップルが携帯端末で妹ズに指示を出し、妹ズはバトルドールで周辺宙域の警戒や調査、エネミーの残骸の回収など、やらなきゃならない事を黙って行っている。
「ご苦労様。」
アップル「お疲れ様です。」
「みんなも相当ダメージを受けているのに…」
アップル「こんな事しか出来ませんから。」
彼女たちのバトルドールも装甲にダメージを負い、本来なら直ぐにでも修復しなければならない。作業用のドローンでも応急的な修復は出来るのに。
彼女たちは戦いが終わってからまだ一度もヘイムダルに戻ってこない。
戻って来たのはアップルだけ。
彼女たちアンドロイドにも感情がある。
人間と同じものなのかは確認の仕様もない。
アップル「艦長」
直角!90度!深々と頭を下げる。
アップルの持つ携帯端末から声が、ばなな「代理を」カップケーキ「お守り」
『うるさい!』
「普通にやって!お願いだから!」
アップル「艦長・代理を・お守り・出来ず・申し訳・ありません・でした・次は・この身に・代えても・お守り・します」
妹ズ「まとめて貰いました!」×11
(バカにされてるん?)
アップル「それで…あの…艦長代理のご容態は…」
表情は分からない…笑う事も泣く事も出来ない彼女たち。
ずっと心配してくれていたんだね。
「ミルフィーユの意識が戻ったら、またお見舞いにいくから、みんなも一緒に付き合ってよ!」
全員「…はい!艦長!」
アップル「ところで艦長!その顔はご趣味で?」
「…紳士の嗜みです。」
◆
ブリッジも、てんやわんやです。
俺には何も…する事はありません!
艦長席に座らされ、ずっとほったらかしです。
先ほどまで、ヘイムダルがペタペタと顔をさわって来ましたが…『触るんじゃありません!』とマティーニに怒られたら…やめちゃいました…
顔…洗ってるよ!
ミルフィーユの容態を伝えると、それまで暗い顔をしていたみんなに安堵の顔が浮かぶ。
みんなも心配だったんだよね!
ちらりと横を見ると、目のあったヘイムダルが、そっぽを向いて鳴らない口笛を吹く。
分かっていたなら教えて上げれば良かったのに。
みんな良い子ばかりじゃん!
良い仲間を持って良かったねミルフィーユ!
『ダメ!』とマティーニに言われ、ほっぺたをツンツン突ついてきたヘイムダルが、しょんぼりしてます…
汚なくないよ…
妹ズ達の見事な働きっぷりにより、回収作業も順調との事。
「周辺宙域も問題無し。」
包帯ぐるぐる巻きの虎娘に纏わり付かれイラっとしてる〈ぽち〉からも報告があった。
琥珀とダージリンは…動かない?
《寝てる!!!》
ふたりもやる事ないもんね!バレんなよ〜。
指揮卓の上で寝っころがっていたヘイムダルが、突然起き上がりモニターを見る。
こっそり携帯端末をいじっていたUSAもウサ耳用ヘッドホンに手をあて、パネルを操作する。スピーカーに繋がれたその音は、酷いノイズの中、とても小さい声。
「……たすけて…」
◆
SSR級ギルド艦〈千葉県民号〉ブリッジ
壊れた機械とサポートキャラクターの死体が漂うそこに、ひとりの少女が立っている。
先ほどの通信は彼女からのものだった。
モニターに映し出された彼女は、このギルド艦のクラバウターマンが作り出した仮の姿。その姿は、向こう側が透けて見える程薄い。もう、こんな姿しか作り出せない。
「はじめまして。千葉県民号。」
「はじめまして。ヘイムダル。」
もう彼女を助ける事は出来ないとヘイムダルから教えられた。そしてそれは彼女も分かっている。
「まだ生きています。あの子達を。セシリアとカタリナをたすけて…」
千葉県民号から教えられた座標に、妹ズを急行させるとフローズンが大破したバトルドールからサポートキャラクターの〈セシリア〉と〈カタリナ〉を発見した。
フローズン「ひどい…はやく玉藻さんに!」
すぐヘイムダルに運ぶ様に指示を出した。
が、ヘイムダルがすぐ取り消す。
「まだ…出来ません…」
とても、とても悲しそうな顔をして座り込む。
「ありがとう…ヘイムダル。」
〈分からない〉
何故ふたりをここに運べないのか、ヘイムダルに代わり千葉県民号が説明してくれた。
ふたりはギルド〈千葉県民号〉所属メンバーのサポートキャラクター。そして現実となったこの世界では、彼女たちがその所属メンバーとなっている。
ギルドに所属している彼女たちは、別のギルドに〈入れない〉
それは彼女たちが回収出来る〈物〉では無く〈プレイヤー〉だから。
彼女たちがヘイムダルに〈入る〉には《ギルドの移籍》をするしかない。
彼女たちが自らの意思で〈千葉県民号〉を脱退し、〈ヘイムダル〉に加入申請を出す必要がある。
《ゲームの時と同じように》
《お別れをしなきゃならない!》
《千葉県民号には…》
フローズン「艦長!ふたりをコクピットに収容しました。応急処置をしていますが、私では…」
《時間がない!》
「艦長!聞こえます?」
スピーカーから聞こえる玉藻の声。
「アップルとそっちに向かっています!それからこれ、みんなにも聞こえるようにして!」
「どうぞ!」
すでに操作を終えていたUSAが答える!
「あー。私にも上手く言えないんだけど…あの子達の為に…自分が出来る事を、してやれる事を考えよう。私たちがあの子達を支えるんだ。」
艦長って…。
「USA!ヘイムダルと千葉県民号、それとバトルドールを映像回線で繋げられないかな?」
「………いま…やってます…」
…。
もし自分だったらどうする?
自分?それとも、仲間?どっち?
早く決めてよ!ほら!はやく!!!
もし自分だったら決められる?
みんな一人ひとり考えてるんだよね。
それで思うんだ。自分じゃなくて良かったって。
俺もそうだよ。
だけど決めなきゃね…その日の為に。
玉藻は持ち込んだ治療キットで処置を進める。
でもやはりヘイムダルでの治療が必要との事。
みんながその時を待っていた。
「みんなは…何これ?…」
「……」
ふたりの意識が戻るのを静かに待っていた千葉県民号が語りかける。
「カタリナ。セシリアを守ってくれてありがとう。あなただから守れたのよ。あなたは一人じゃない。これからもセシリアを守ってあげて。」
「セシリア。…」
「やめて!!!…何いってるの?…ねえ!なんで黙ってるのカタリナ!やだよ…なんでそんな、お別れみたいな事いうの…」
「…じゃあどうする。このまま死ぬのか?…」
ふたりの治療を続ける玉藻を残し、アップルはフローズンを連れ、妹ズの許に向かう。
きっと泣いているから。涙を流せない彼女たちだけど…玉藻もそれを止めなかった。それで良いと思ったから。答えを合わせる必要はない。一人ひとり、それぞれの答えを出さなきゃいけない。
セシリアとカタリナは、それからずっと言い争いを続けていた。千葉県民号は、そんな二人をただ黙って見守っている。
セシリアもカタリナも二人とも、分かっているんだよね。千葉県民号の想いを。
だから泣いているんだろ。
それでも捨てられないんだよね。
仲間との思い出を。大切な宝物だから。
「あの子達もきっと同じだと思う。寂しがると思う。私も、みんなも貴方たちの事が大好きだから。セシリアは艦長代理として。カタリナはバトルドールの隊長として。私たちを助け、守ってくれた…だから今度は私たちが二人を助けたいの!守りたいの!」
セシリアもカタリナも泣きながら聞いている。
『だから、ここでサヨナラするの!泣かないで!あの子たちも心配するから。』
涙でぐちゃぐちゃな、ふたりの悲しい笑顔。
こうしてセシリアとカタリナが〈脱退〉し、
ギルド千葉県民号は〈解散〉した。
◆
千葉県民号からヘイムダルへ。
一筋の光がのびる。
それは彼女の…千葉県民号の記憶。大切な想い。
ふたりの加入申請を了承し、ブリッジに迎い入れる。
アップルとフローズンに支えられながら、モニターに映る笑顔の千葉県民号を見つめている。
「私たちは現実の、あの世界に戻ります!まだ何も分からないけど…この子たちを連れて必ず戻ります!あなたの…貴方たちの想いも必ず届けます!」
ヘイムダルの頬を涙が伝い、こぼれた涙は床に落ち、光となって消えていった。
「ありがとうヘイムダル…これでやっとあの子達のところに逝けます。」
そう言って微笑む千葉県民号は、もうその姿を維持出来ない。
ギルド艦では無くなった彼女は、そこにある〈物〉に変わっていく。
「セシリア!カタリナ!私の最後のお願い。私を…私をわたしのまま、あの子達のもとに。」
火器管制担当のダージリンが隣に座っていた琥珀に付き添われ、席をあとにする。
セシリアとカタリナがゆっくりと近づき、震える手でパネルを操作する。
「セシリア!カタリナ!大好きだよ!」
手が伸びた。
ふたりの姿を見て、身体が動いていた。
こんなのは余計なお世話だ。
これは彼女たちのものだ。
俺に何が出来る?何も出来ないだろ!
分かってる!分かっているけど!
一緒に背負ってやりたかった。
ふたりの想いも、千葉県民号の想いも全部。
「…ありがとう。」
◆
静まり返ったブリッジで、ヘイムダルとふたり床に並んで座っている。
なんだか足に力が入らず動けなかった。
玉藻が最後に俺の頭を軽く叩いて出て行った。
「駄目な艦長だよね…」
「前からそうだったでしょ。」
そう言って俺の乱れた髪を直してくれた。
「そのままで良いです。みんなもそう思ってるよ。…あなたは、あなたのまま、そのままが良いです。」
ヘイムダルに頭を撫でられながら、ただただ涙と鼻水が止まりませんでした。
全く情けないやら、恥ずかしいやら…
◆
治療カプセルの中に浮かぶ6つのおっぱい!
その形!大きさ!みな様々…
それはまるで彫刻のように美しく…
ありがとうございます!
おっぱいと玉藻の御褒美で俺の愚息も大満足!
3人の治療が一段落し、玉藻は大きく伸びをする。視線に気づいたようだが、疲れているのでそのまま話す。
「カタリナは、コロニーに戻って治療しないと駄目ですね。あとどれくらいで…は、ヘイムダルに聞くとして…」
(嗚呼…)
玉藻の視線を追うとミルフィーユの隣の治療カプセル。ずっと怖くて聞けずにいたそれは、内側から破壊され大きな穴が空いている。
《可能なのか!厚さが5センチはあるぞ!》
意識の戻ったミルフィーユがセシリアとカタリナの事を知り、その拳で破壊したのだそうな…
(拳…えっ?)
「全くこの子は、自分は良いからふたりをって…自分もボロボロなのに…」
「気がついたら、ちゃんと褒めてやりなよ!」
「はい!了解しました。」
かける言葉、態度…選択を間違える訳にはいかない!
◆
“時間で〜すぅ!”
もう朝か…いつもなら起きる時間。
一晩の出来事なん?
艦長室の立派すぎる椅子に座り、大きな机に足を乗せ、アラームを止める。ミルフィーユが座っていたこの椅子は、まだ少し良い香りがした。
《勘違いしないでよね!椅子に顔を近づけて、くんくんした訳じゃないんだからね》
タバコを吸う…気力はない。
疲れたよ……
◆
…夢?…
何もない、ただ真っ白なその空間。
自分が立っているそこが固いから床と分かるが影もない。
何もない………ある!
黒い穴?箱?
大きいのか小さいのか、遠いのか近いのかも比べるものがないから分からない。
でもそこにある黒いもの。
後ろから音。小さな足音。
振り返ると一人の少女が立っている。
ヘイムダル…ではない。金色の綺麗な髪の少女!
〈ようこそ!白瀬さん〉
頭の中に響く小さいがハッキリとした音。
それは《はじめて聞く音》
⊂⌒~⊃。Д。)⊃
サボる事だけ上手くなるな…
ご感想など頂ければ幸いです!
よろしくお願い申し上げます。!