004
まずは食料品でしょう…
次に生活雑貨でしょう…
そしてタバコでしょう…
現在我がギルド艦にはゲーム時代には考えもしなかった、生きていくのに必要な、当たり前の物資が不足…というより、全く無い。
それ以外にも、大小さまざまな問題を抱え、移動装置〈ゲート〉を目指して船は行く。
数字数字数字数字……
艦長室。居住区域内にある上位船員用区画、その中でも一際大きな部屋。その執務スペースに置かれた大きな机。
そこには、出来る爆乳!ミル姉さんが数字と格闘しています!
一方的にタコ殴りにしている様ですが…
うちにあった、ショボイPCモニターとは全く違う、未来のモニター?を見つめたまま、透明なガラスの板のような操作パネルをブラインドタッチ!
《君がいて良かった!》
指を動かす。それだけでぷるぷるぷるん!
《君がいて本当に良かった!》
机の横に、ちょこんと置かれた背もたれの無い小さな椅子に腰掛けながら、タバコを吸う私。
上半身をすっぽり包む、ニャモ特製簡易型超強力空気清浄機〈小宇宙掃除機(仮)〉が唸りを上げる。
つい先ほどまでブリッジで行われていた女子会。
美味しい食事も酒もない寂しいものだったが、それなりに楽しんでいるようだ。女の中に男がひとり…夢にまで見た、これぞハーレム!…のはずが、話に夢中で放ったらかしです。
これもまた放置プレイと思えば、心地よい。
タバコに火を付け、ひと息つくと、何という事でしょう!ヘイムダルが、わたわたと走り回るではありませんか!
〈あらかわいい!〉
マティーニに、ものすごい御褒美をいただきました。
「よくわかんニャいけど、任せるニャ!」
が、これでした。
このモンスターマシーンに、上半身をまるまる喰われる様に包まれ、煙から灰まで吸い上げられながら考える。
透明な小宇宙掃除機(仮)の向こうでミルフィーユが雑務に追われている。
こうした事はゲーム時代には無かった事。
それはアイテムにしてもそうだ。
ゲーム時代に購入出来るアイテムと言えば、ミサイルや実弾兵器の弾薬、レーザー兵器やバトルドールに使用するエネルギーパック、そしてナノマテリアル。
それは〈遊ぶためもの〉であり、〈生活していくためのもの〉ではない。
携帯端末でアイテムを確認しても、それらの消費アイテムしかない。
試しに使ってみようと思えば、〈ここでは使えません〉だよね…
《出来た事と出来なかった事》を
《出来る事と出来ない事》に
まずは確認だわな!
「もう寝た方が良いんじゃないか?」
小さなあくびをひとつして、両手で目をごしごしこするミルフィーユに声を掛けた。
「もう終わりますので…」
耳まで赤くしてミルフィーユが答える。
「艦長はまだお休みにならないんですか?」
「うん…」
今日はいろいろあり過ぎた。おかげで全く眠くない。
「ちょっと散歩に行ってくる。」
「はい。いってらっしゃいませ!あっ…」
小宇宙掃除機(仮)…もう少し改良が必要だな!
ドアにハマる。
何事もなかったかの様に小宇宙掃除機(仮)をはずし外に出た…
◆
艦長室の他は無人の部屋がつづくギルドメンバー用の上位船員用区画を出ると、バトルドールパイロットの〈アンドロイド〉のみんなと出くわした。
アンドロイドは人類が〈第五地球〉に移住した頃に開発されたドローン型の高性能タイプだ。人型のサポートキャラクターと違い、艦内にいる限りエネルギーの補充を必要とせず、食事も休息も必要ない彼女たちは、戦闘のない時はこうして艦内巡回をしてくれている。
うちのギルドのアンドロイドは、ギルドメンバーのドンキーコソグさんの発案で12姉妹という設定だ。
アップル「こんばんは」
ばなな「艦長」
カップケーキ「良い夜」
ドーナツ「ですね」
エクレア「お散歩」
フローズン「ですか」
ジンジャー「おひとり」
ハニー「ですか」
アイス「寂しい」
ジェリービーンズ「ですね」
KK「慰め」
ロリポップ「ますか」
全員「ウソです」
《めんどくさいわーーーーー!》
アップル「それでは」
ばなな「艦内」
カップケーキ「巡回」
『もうええわ!!』
全員「では」
俺「ご苦労様です。」
設定の変更は出来ないものか…
◆
奴らのおかげで少し眠くなった…
いやいや!その為の散歩じゃない!
ぶらぶら歩いて周りを見る。不思議なもんだ。この通路も、そこの曲がり角も、あそこのドアも…ギルドメンバーと一緒に、ここで過ごした記憶はない。本名も住んでる場所も、年齢も職業も知らない。
でも知ってるよ。
俺の失敗を、掲示板では茶化しても、みんな〈気にすんな!〉ってコメントをくれたよね。彼女に振られた時は、朝まで一緒にバカ騒ぎしてくれたよね。あっ!一度だけ寝ぼけて艦名を変えちゃった時があったな!直ぐに戻したのに、みんな気づいてて驚いたよ。
みんな俺の大事な、大切な友達だよ。
ちゃんとあったよ!みんなの部屋。
あの子たちも自慢してたよ!みんなの事。
優しいみんなの事!ここにいるみんな知ってるよ。
「艦長!目がうるうるニャ!」
「いニャい!いニャい!いニャい!」
こんな真夜中にランニングとは恐れ入ったよ!ニャモくん!グリグリグリグリ
◆
ニャモのおかげですっかりシラけてしまった。気がつけばもうブリッジの近くまで来ていた。
ブリッジに上がると、小さな歌声が聞こえた。
何処かで聞いた歌。何処で聞いたか思い出せない歌。良い歌だね。ほっこりします。
「こんばんは。ヘイムダル。」
「こんばんは。艦長。」
透き通るような白い肌、キラキラ光る白い髪、ふわりと柔らかそうな白いワンピース。でも水色と白の縞のパンツ。
幼女は範囲外とはいえ、縞パンはいいよね!
それにこの子はクラバウターマンが作り出した仮の姿だ。
「となり良いかな?」
「ミルフィーユに怒られませんか?」
「たまには良いさ。」
「御褒美ですね!」
歌声が笑い声に変わりブリッジに響く。
「いろいろ大変でしたね。」
「えっ?」
「ここに来るまでです!」
「そうだね。困ったもんだ。」
ふたりで座る指揮卓は彼女には少し大きくて、浅く座っても足が床に届かない。
足をぶらぶらさせる彼女。知らない人が見たら親子に見えるかな?…変質者?
「親子だと良いですね!」
「…」
「あはははっ!」
「なんでみんな心が読めるの?」
「分かり易いから!」
「…」
「あはははっ!!」
「さっきはごめんね…」
「…?」
「タバコ。」
「大丈夫ですよ…ただ身体には良くないから辞めて欲しいですけど。」
「お母さんみたい。」
「心配してるんでしょ!」
小さなグーでグリグリ。
自動航行で進むギルド艦。戦闘以外なら彼女だけでも平気だけど、こんなに話してて大丈夫かしら?
「大丈夫です」×2
「あはははっ!」×2
彼女の笑い声が止まる。
彼女の身体が、ゆっくりと浮かんでいく。
《戦闘支援要請を受信しました。艦長。》
ヘイムダルが静かに、こちらを見つめる。
「総員に通達。第一種戦闘配置。」
現実となったこの世界での初めての戦い!
まだ分からない事だらけのこの世界!
なんとかなるっしょ!
◆
〈戦闘支援要請〉
ゲーム時代、大型エネミー戦で自分たちのギルドだけでは撃破出来ないような強敵と遭遇した際、近くを航行中の他のギルド艦に支援要請が出来た。報酬は大幅に減少するものの、最大3つのギルド艦が参戦出来る。
ただ今この世界では話が違う。
撃破はしやすくなるが、参加人数が増える為、連携が難しくなる。
「…まもなく戦闘中域。エネミー照合〈要塞クラゲ〉」
索敵担当の〈ぽち〉が振り返りもせず話す。
大根おろし丸さんのサポートキャラクターでビースト種のタイプは。はい犬です!
寝起きでご立腹なのか普段からそうなので良く分からんが無表情で、抑揚の無い男のような口調で話す。
「起きろよ!ぽち〜!怒られるニャ〜!」
「うるさい。黙れ。」
(仕事をしなさい!)
「支援要請のあったギルド艦との回線が繋がりません…」
潤んだ瞳でこちらを見つめる。
その顔は上気し、恍惚とした表情は…もう!
彼女は通信担当の〈USA〉。へっぽこ大王さんのサポートキャラクターです。
ビースト種の兎タイプです。
「USA〜!暑いのかニャ?汗かいてるニャ。」
『ニャモ!!!』
「ごめんニャさい…副長。」
兎はいつでも発情中!設定盛り過ぎですよ!へっぽこ大王さんー!!
〈要塞クラゲ〉
レイドボス級の中でも、難易度はとても低く、下級クラスのギルド艦でも、時間を掛ければ要請を出すまでもない。
「ヘイムダル。」
マティーニの指示を受けると、ヘイムダルが手をかざす。
戦闘中域の映像が映し出されたが、まだ距離もあり、画像は粗い。
まだ戦闘中。だが一方的にやられている?
情報の少ないこの状況でどう動く?
現実となったこの世界で初めて出会う他のギルド艦!プレイヤーから、何か情報が得られるかも知れない。何としても助けなきゃ!
「最大戦速で戦闘中域へ!射程に入り次第、砲撃開始!」
操舵担当の〈琥珀〉と火器管制担当の〈ダージリン〉に指示を出す。ふたりはどちらもアさんのサポートキャラクターだ。
ダージリンのマスターはアさんのサブ垢〈あ〉さんです。いつも2台のスマホで同時にやっていた。おかげでふたりの息はぴったりだ。
ふたりともウンディーネ。どちらも琥珀色の綺麗なHADAKA!
比べると琥珀の方が、やや胸が大きく!
ダージリンの方が、ややおしりが大きい!
じっくり見ないと気がつかないレベルですけど!
《むっふぅーーー!》
「ミルフィーユ!艦の指揮を頼む!」
「バトルドール全機出撃!玉藻とニャモも頼む!」
「あっ!俺のバトルドールは?」
「準備出来てるニャ!」
「艦長!…今回は私に出撃させて下さい!」
(そんな目で見つめるなよ…ちくしょー!)
世界の変化に思うところがあるのでしょう。
「…分かりましたよ…ただ機体は俺のジークフリートⅣを使ってね!」
最上級魔法《諭吉》を2枚投じて勝ち得たUR級バトルドール。ジークフリートシリーズ最後の機体。震えたよ…ガチャで引いたあの時は…メンバーみんなに妬まれた!良いんだよ!もっと汚い言葉を浴びせても!あははっ!
「艦長…」
そんな目で見るなよマティーニ!御褒美かい?
「ミルフィーユは指揮官としてこれにあたれ。アップルはミルフィーユの補佐と小隊編成を。」
「ありがとうございます!」
アップル「かしこまりました。艦長!みんないきますよ!」
妹ズ「はい!お姉ちゃん!」
まあ相手は要塞クラゲ出し、問題ないでしょ!
◆
艦長席に座り、鮮明になってゆくモニターを見つめ混乱する。
なぜ?
どうして?
ミルフィーユからも通信が入る。
『バトルドール隊が全機《完全に》撃破されています!』
混乱している。それはアップルたちも同じ。
失敗した…
ゲーム時代、バトルドールは撃破されてもギルド艦に転送され、アイテム使用か時間経過で再出撃出来た。
でも転送されていない!
ギルド艦の被害も大きい。もう撃破されていると言っても良いくらいに。
エネミー戦において、ギルド艦が撃破されるという事は敗退を意味する。
普通はそうなる前にアイテム使用で回復する。
アイテムが尽きた?
そんな事も判断出来ない初心者?
ギルド艦 VS ギルド艦の〈模擬戦〉なら分かる。あれは1時間の間に、どれだけポイントを得たかで勝敗が決まる。ギルド艦が撃破されても高ポイントを与えるだけ!アイテムが無ければ、時間経過を待てば良い!
それと勘違いしたのか?
《こんなの知らない!》
「エクレア機、KK機中破!!!」
USAの悲痛は声がブリッジに響く。
俺だけじゃない。みんな混乱している。
となりに立つマティーニも手を握りしめ、少しだけ足が震えている。
「2機は下がらせろ!」
そう告げる俺の声も震えていた。
「ふたりの代わりに私が前に出ます。」
後衛で前線支援を行っていた玉藻から通信が入る。
「いいか!!おまえらなー!怪我をしたって私が治す!壊れたってニャモが直す!ちったあ落ち着け!!!」
「あんまり壊されちゃうと直せませんニャ!」
「ニャモ!!!」
「ニャーい!」
後衛の玉藻とニャモがいつも通り?で良かった。
「艦長。いままでとは戦い方が変わっただけです。切り替えましょう。」
玉藻の声で少しだけ、手の震えが止まった。
〈でもどうしたら…〉
「まだ要塞クラゲの外殻が残っています!しっかりしなさい!!!」
《ありがとう玉藻!最高の御褒美だ!!》
2つの記憶。そのどちらにもない記憶。
初めてだらけのこの戦いで、すっかり忘れていた、基本中の基本!
〈部位破壊〉
要塞クラゲの大きな6本ある触手の1本がまだ残っていた。
「各機に通達!集中して触手を破壊しろ!!」
◆
バトルドールの集中攻撃により、触手は破壊され、要塞クラゲの本体が赤くなる。
全ての触手を失い、本体を覆っていた透明な外殻が破られた証拠だ。
ギルド艦ヘイムダルの主砲〈重力砲〉が要塞クラゲの本体に、いくつもの巨大な穴を開けていく。
バトルドールと砲撃の攻撃により、要塞クラゲの本体は見るみるその形を崩していく。
〈あと少し…頼む!何も起きないで!〉
要塞クラゲがギルド艦に向かい動き出す。
ちぎれた体は小型エネミーに変わり、バトルドールに襲いかかる。その数15体。バトルドールと同数。しかしこちらはまだ2機が修復中で、まだ時間が掛かる。
「ヘイムダル!捕獲器の予備は?!」
「星クジラに使用したものが最後です。」
支援要請を出して来たギルド艦が動き出す。
ゆっくりと…まるで這うように。
そして要塞クラゲに激突し船体が折れた。
それは要塞クラゲに致命傷を与え、砕け散る。
本体を失った小型エネミーは動きを止め、バトルドールに撃破されていく。
疲れた。
ブリッジはいまだ混乱中だ。ヘイムダルに話しかける。
「あのギルド艦内に生存者は…」
「いません。」
《戦闘中にどうして動けた?》
「あの子も守りたかったんです。大切な仲間を。」
ふたつに折れた船体は、撃破され砕かれたバトルドールに覆いかぶさる様に浮かんでいた。
「そうだね…」
『ミルフィーユ機大破!!!』
USAが立ち上がり、蒼白になった顔をこちらに向け叫ぶ。
願っていた!そうならない様に。
聞きたくなかった!一番いやな言葉。
静かなはずのこの宇宙にひとつ、悲痛な叫びが響き渡る。
時間が取れず、なかなか書き進められんかった…
⊂⌒~⊃。Д。)⊃
疲れた…
書いてて気づいた事がひとつ!
ニャモが好き!書いててノリノリ!
猫好きだからかニャ?