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019

「D地区の住民避難、確認共に完了。」

「G地区は現在、最終確認継続中。」

「J地区は住民避難に遅れが出ています。」


「搬送のすんだ輸送船をJ地区にまわしてちょうだい。」

あと少しで各地に散らばる第五火星の住民すべての収容が終わる。

一箇所に集中させるのは危険かも知れないが、複数を守れるだけの余裕はないし、幸いヴァルハラの地下シェルターはこの星全ての住民を収容出来るだけの設備を有している。


第五火星へ無差別攻撃してきた持国天も、零式が退けてからは姿を見せない。

襲撃時の録画を見るかぎり相手は持国天1機のようだが、追加の派兵もあるかも知れない。

面倒くさいけど、そちらにも注意しておかないと。


「調子はどうだ?司令!」

各ギルドやソロのサポートキャラクターのまとめ役を頼んでいるシーサーが、缶ビールをケースで持参し中央司令室へやって来た。

「ほれっ!」

「…ありがとう。」

みんな仕事中なのに…しかもこんな昼間から…最高じゃないか!

「…くっはぁぁ〜!」×2


「で?」

「こちらは順調かな。そっちは?」

「あらかたな。しかしありったけと言うから全ての機雷を第五火星宙域全体にも設置したが…良いのか?これでは退路も無いぞ。」

「元々退路なんかないさ。」

「…勝算はどうなんだ?」

「何をもって勝利とするかだけど、要は負けなければ良いんだよ。」

「…負けなければ、か…まあそれで彼らを救えるのなら良しとするか。我らの命はすきに使ってもらって構わん。だから…」

「何度も言うけどさ…命をどうこう簡単に言うなよ。ここにいるみんなも、ラグナロクの彼女たちも、誰ひとり死なせたりしないよ。」

「覚悟を言っているまでだ。それに…世界を変えるには犠牲も必要じゃないかね?」

「犠牲も死ぬ覚悟もいらん。どうせなら生き抜く覚悟をもってちょうだい。…この世界はそんなに優しい世界じゃない。でも君たちなら、きっとこんな世界も変えていけるさ。」

「随分我らを高く評価してくれるんだな。」

「そうじゃ無きゃ負けちゃうからね。」


「昼間からビールとは良い気なもんだな二人とも。」

床に置かれたケースからビールを取り出した八戒は、それをいっきに飲み干す。

「誰がやると言った?」

「取られるのが嫌なら、こんな所に置いておくな。」


ゲーム時代から彼らのギルド、オーディンとフレイは毎月行われていたGvGイベント〈ギルドバトル〉で上位を争うライバルギルドだった。

そのせいか顔を合わせる度いつもこうなる。

でも決して仲が悪い訳ではないようだ。


「そっちの準備はどう?」

「ペロの所が配置に手間取っているが、こちらと件の所は間も無く終わる。しかし、とりあえず動くようにはしたが、あんな物どうするつもりだ?あれではまともに戦えんぞ。」


彼らには小惑星帯を漂う宇宙軍の大破した戦艦や廃棄された輸送船の回収と修理を頼んでいる。

そんな船でも無いよりはマシ。

ただ真っ直ぐ進むだけでも使い道はいくらでもある。

ちなみにエインヘリアルが使用する船はみな同じように回収してきた物ばかり。

それでどれも三星重工製という訳ね。


「それから朗報がふたつ。ひとつは磁気嵐の影響が弱まってきているようだ。まだノイズが酷いが音声だけなら、なんとか通話も出来る。それともうひとつは、ラグナロクの艦隊が宇宙回廊を抜け、こちらに向かっているそうだ。」

「それのどこが朗報だ?」

「なんだ?ゲームの時には無かった艦隊同士の対戦だぞ?今から胸が踊るようだ!」

「なるほどな…それは確かに楽しみだ!」

二人は豪快にビールを飲みながら、これまた豪快に良く笑う。

「二人とも目的を忘れないでよ。」

確かに艦隊戦なんてゲームの時には無かった。

それもエネミーである星喰ではなく、人類同士の戦争は今のこの世界では前例がない。

俺にしたって現実世界じゃ普通のサラリーマンだ。戦争どころか人を殺した事もない。

でもそれはこの世界の人間も同じ事。


この世界はあまりにも無関心過ぎる。

だから、みんなに教えてやらなきゃいけない。

正義でも悪でもない。ただの意地と意地とのぶつかり合い。

ラグナロクには強い絆と団結力がある事を。

エインヘリアルにはその存在を掛け反抗できるだけの力がある事を。

因果応報の意味を知識ではなく、この世界に体感してもらう。

これはその為の戦争だ。


そして今、この戦争を記録する為に三星重工にも協力してもらい、戦場となるこの第五火星周辺宙域に監視衛星をいくつも配置してもらっている。

せめて記録だけでもと思っていたが、磁気嵐の影響が弱まればLIVE中継も出来るかも知れない。


あとはこれを知り、これを見たこの世界の人間が、何を思い 、どう行動するかだ。



地下に作られた巨大な人工湖。

その中央に浮かぶヴァルハラの港の空気は、とてもひんやりしていて酔いを冷ますのに丁度良い。

港に置かれた小さなベンチに腰を下ろしタバコに火を付ける。


「シロボン艦長!?」

突然の大声にむせ返りながら横を向くと、そこには一人の女性が立っていた。

透き通るような白い肌と腰まである白い髪。

白狐を思わせるその女性は狐タイプのビーストのサポートキャラクター。

飯綱(いづな)!?」

「司令官ならここに居るって聞いて来てみれば…白瀬さんって、シロボン艦長の事だったんだね!」

彼女はヘイムダルの元メンバー〈闇神威〉くんのサポートキャラクター。

闇神威くんはヘイムダルがまだ脳筋ブラザーズのギルド名だった頃からの初期メンバーの一人。

ソロプレイヤー向けのイベントに専念する為脱退したが、その後も度々助っ人として参加してくれていた。


「無事で良かった…」

「泣かないでよ艦長!あっ今は司令官だっけね。」

彼女もまた、あの日の混乱を生き延び第五火星へやって来た一人だった。

飯綱は煙たそうにタバコを取り上げると灰皿で揉み消し、俺の隣に腰掛ける。

「諭吉さんから司令の護衛と身の回りの世話を頼まれたんだけど、司令…ここまで一人で来たの?」

「ああ〜いや、マティーニと琥珀とダージリンも一緒だったんだけど…いまアルフヘイムにお使いにいってるの。」

「そっか。残念…みんな元気?」

「うん。相変わらずね。飯綱はいまどこかのギルドに入ってるの?」

「ううん。こっちも相変わらず、一人でのんびりやってるよ!」

「そっか…」


突然の再会で、何を話せば良いのか分からない。

闇神威くんが引退して数年。

久しぶりに見る懐かしいその横顔は、相変わらず綺麗でドキドキします。

「…あのさ、飯綱が良かったらなんだけど、この戦争が終わったらヘイムダルに戻って来ないか?また前みたいに、みんなで…」

「何その死亡フラグっぽいセリフは!どう答えても死にそうじゃん私!」

「ああっ…そうだね…ごめん。」

「シロボン艦長も相変わらずだね!まあ久しぶりにみんなにも会いたいし、考えとくよ!」

そう言って飯綱はにっこり笑う。

何気ない昔話と、俺たちメンバーのこれからをいろいろ話した。

飯綱はそれを黙って聞いていてくれた。


「お〜い!司令〜!」

まるで昔に戻ったような楽しい時間をぶち壊す、まったく気の利かない茜の声が港に響く。

息を弾ませながら駆け寄ると、飯綱に軽く挨拶をして俺の隣に無理やり座る。

三人で座るには小さ過ぎるこのベンチで、美しい妙齢の女性に挟まれると…エヘヘ。

「何にやけてるのよ気持ち悪い!」

「…。」

「司令の事、お父さんが呼んでるよ。」

「お父さん?」

「酒呑童子の零式さん。みんなそう呼んでるの。」


お父さんか…兵器であるバトルドールが第五火星の人々に受け入れられた理由。

それはずっと昔から、たった一人でこの星の人々を守ってきたから。


兵器として作られた零式たちの最初の任務は、この星の人々を殺すこと。

人間を守る為に作られたバトルドールが人間を殺す。

人間から与えられた任務を果たす為、第五火星へやって来た彼らは、人間を殺すことが出来なかった。

我が子を守る為に必死で戦う大人たちを見て。

より小さな子どもを震えながら守る子どもたちの姿を見て。

彼らを殺すことが出来なかった。


兵器として使いものにならない彼らは次々と解体されていったが、彼一人だけが仲間たちの協力を得て再びこの星へ帰って来た。

この星の人々からも攻撃を受けながら、それでもたった一人で。

一人では守り切れる筈もないこの星を、それでもたった一人で。

仲間との約束を守る為、次々と送り込まれるバトルドールと戦い続けた。


でもそれも今日までだ。

彼にはもう人々を守る力はない。

でもこれからは彼の守った子どもたちが彼を守る。

自分の力で立ち上がり、自分の足で前へ進んで行くんだ。


零式が待つ格納庫には諭吉も待っていてくれていた。

彼は今回俺が乗船するエインヘリアルの総旗艦〈千手観音(せんじゅかんのん)〉の艦長を務める事になっている。

LG級のギルド艦と比べても遜色のないこの船は、小惑星帯をたまたま漂流していた所を偶然発見した三星重工製の最新鋭艦なんだってさっ!


『両手に花とは羨ましい。』

零式の言葉に飯綱と茜は露骨にイヤな顔をするので、二人の肩をそっと抱き寄せる。

《グー→ありがとうございます。←グー》


『…ついに始まってしまうんですね…』

形ばかりの修復を終えた零式は、大きなコンテナに腰を下ろし、小さな声でそう言った。

「…勝手な事をして申し訳ありません。」

そう言って頭を下げる諭吉を責める者は、このヴァルハラにはいない。

俺の拉致は零式が指示したものでは無く、諭吉たちみんなで決めた事だから。

「君たちがやらなくても、このまま行けばいつか誰かがやってたさ。」


「…なんで、こんな差別はなくならないのかな…」

茜が寂しそうに、小さな声で囁いた。


人間はね、いじめや差別が大好きなんだ。

楽しくて、楽しくて仕方がないの。

だから絶対なくならない。


それをされたら相手はどんな気持ちか?

知ってるよ。

相手の気持ちも、それが悪い事だってことも。

でもやめられないんだ。面白いから。


いじめは分別のつかない子どものする事?

笑わせるなよ偉そうに。

分別がつくはずの大人だってするじゃないか。


それは生まれた環境や社会のせいでもない。

人が人だから起きる事。


俺のいた世界の人間にはまだ出来なくても、いまのこの世界なら…

人間が創り出した新しい人類がきっと助けてくれる。


それにこの世界の人間は、俺のいた世界の人間より何千年も未来の人間だ。


だったら、そろそろ次に進んで良いはずだ。


諭吉と茜、そして飯綱の三人は準備の為に格納庫をあとにした。

『これで変わるのでしょうか…』

山積みされていたコンテナも、そのほとんどが運び出され寂しくなった格納庫に零式の声が響く。

「すぐには変われませんよ。でも…何か気づくと思います。ただ…」

彼らにも、特に政府の連中には彼らなりのプライドも意地もある。

だから落としどころも必要だろうね。


「零式さん…」

『たぶん…私も同じ事を考えています。最後まで私があの子たちを守ります。ですから…』

「半分くらいは同じですかね。私にも貴方は必要なんです。だからその為の準備は進めています。」


間も無くラグナロクの艦隊がこの第五火星へやってくる。

でも時間が足りない。

みんなも懸命に動いているけど終わっていない事ばかり。


さて、どうなりますかね。



遅くなりました(ノ ̄▽ ̄)

今回が年内最後の投稿です…

中途半端だなぁ〜


来年一発目はたぶん中旬くらいかな…


ですので新年のご挨拶もかね、新作を1〜3日くらいに投稿します!

と言っても全然書けてませんが…


よろしければ、そちらもよろしくお願いします!


それでは皆様、良いお年を!


十は年末年始も仕事です。とほほ…

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