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018

第二艦隊 エネミー群撃破。

第四艦隊 交戦中なれど、こちらが優勢。

第五艦隊 後方よりエネミー群と接触。


暗い宇宙空間に各艦隊より打ち上げられた信号弾が、まるで星の輝きのようにモニターに映し出される。


「第二艦隊は補給と修復が終了次第、第四艦隊の支援を!第三艦隊はただちに第五艦隊の支援に向かわせて!」


第一艦隊旗艦〈不動明王〉より飛び立った複数のバトルドールが伝令の為に各艦隊へと向かう。

通信機器は未だ復旧せず、ラグナロク艦隊は伝達方法を模索しながら宇宙回廊を進んでいる。


船外ライトの点滅や、信号弾などいろいろ試みてはいるものの、やはり混乱も見られる。

そこで彼女たちは、もう諦める事にした。

連携ミスも情報不足から来るパニックも気にしない。

各ギルド艦の艦長の判断に任せ、最良と思える行動をする。

その結果、例え判断を誤ってもその時は周りが、ちゃんとフォローすれば良い。


みんなを信じて全てを任せる。

そう決めた事でみんなにも気持ちに余裕が出来たみたいだ。

こちらにしても大まかな指示さえ出せば良い。あとはみんなが何とかしてくれる。


エネミーとの戦闘も宇宙海賊との前哨戦と思えば丁度良いのだが、こう頻繁にエンカウントしていては先に進むに進めない。

宇宙軍の防衛線を突破してきたエネミーは、どれも相当なダメージを受けているので撃破は容易い。

本来であれば冒険者にとっては稼ぎ時なんだが、今はそれどころではない。

アルフヘイムと連絡が取れれば討伐部隊の要請が出来るのに…やはり伝令を出すべきか…


『姫!』

指揮卓の上に正座していた不動明王が立ち上がりモニターに向かって手をかざす。

警告音の鳴り響くブリッジは騒然となり、クルーも慌ただしく飛び回る。

『なっ何かがワープアウトしてきます!えっと質量は…超巨大!』

「…もっと落ち着いて報告しなさいね。」


最大望遠で映し出された空間の歪みは次第に大きくなり、小惑星ほどの巨大物体が姿を現す。

宇宙軍の巨大戦艦〈阿弥陀如来〉、それに続き宇宙軍第三艦隊の艦艇が次々とワープアウトしてきた。


攻撃してやろうか。本気でそう思う。

宇宙軍はこちらの存在を知らずにワープアウトしてきたのだろうが、もしその先がこちらの中心だったら、ああなっていたのだから。


阿弥陀如来の強力な防御フィールドに触れたエネミー群は次々と引き裂かれ消滅して行く。


「周辺宙域にエネミーの反応はありません。」

宇宙軍の登場で接触した全てのエネミーは、あっという間に撃破された。

しかし無茶をする。

正確な宇宙回廊の航路図を持つ宇宙軍ならではの事だが、ワープ航法を使ってくるとは。


〈ワープ航法〉

ルートの固定されたゲートを使用せず、入力した座標に任意移動できる長距離移動方法の一つ。


ゲーム時代はこれを使ったコラボイベントが沢山あった。

出されたヒントを元に座標を入力するのだが、ワープした先がエネミーの密集地帯だったり、惑星のど真ん中だったり…

ゲームの時はギルド艦が大破してもアルフヘイムに自動転送されたから何度でも挑戦できたけど、今は失敗したらそれで終わり。


これを使えばすぐにでもマスターの救出に向かえる。自分ひとりだけなら…

でも今はギルドのメンバーがいる。仲間がいる。

誰もが考えて迷い、そして選択肢から外した移動方法。


宇宙軍にも危険性のあるワープを使わなければならなかったその理由。

それは阿弥陀如来からもたらされた情報により判明した。


《間も無くここも戦場になる。》



恒星ソールで発生した恒星フレアは、観測から戻った兵士の報告によると終息に向かっているようだ。

しかし通信機器への磁気嵐の影響は未だに残っており、須弥山に残ったデミヒューマンなどの兵士はその対応に追われている。

最終防衛線である須弥山を逃げ出し、第五地球から指示を出していた最高司令官たち幹部と直接連絡を取る事が出来ず、わざわざ第五地球まで報告に出向かなければならない為だ。

軍用の軌道エレベーターを使用しても往復に数日かかる。

戦艦で直接降下すればもっと時間を短縮出来るはずだが、第五地球への降下は禁止されているのだそうだ。


こんな状況下でも大きな混乱もなく、機能し続けている宇宙軍という組織は彼ら一般兵士のおかげで成り立っている。

情報伝達の為ラグナロク艦隊へと向かった3隻のギルド艦の帰還を待つミルフィーユたちは彼らの邪魔にならない範囲で須弥山内での自由行動が許された。

アップルは妹たちを連れ、一足先にヘイムダルへと戻り出港の準備を進めてくれている。

ミルフィーユは玉藻と梓の待つ士官用ラウンジへと向かった。


こんな時に?

ではあるが、こんな時だからこそなんだよね。

何も出来ない事がこんなに辛いとは思わなかった。

今日くらいは良いでしょう。

普段なら断るところだが、ミルフィーユも二人に付き合う事にした。


士官用ラウンジは本来、人間の兵士の為にある。人間の冒険者は利用する事を許されていたが、サポートキャラクターのミルフィーユたちは亜人の兵士と同じように立ち入る事さえ許されない。

でも今は人間の兵士もいないし、梓の連れという事で利用が許された。


「あっ!こっちこっち!」

すっかり出来上がっている玉藻と梓がカウンターで手招きしている。

カウンター内のドローンに梅酒の水割りを注文し席に着くと、玉藻がいっきにグラスを空ける。


「ところでさ。マスターをさらった連中の目的はなんだろう?」

玉藻の質問に黙って考え込んでしまう。

確かに未だ犯行声明も何の要求もされていない。

今の状況では出したくても出せないのかも知れないが、全く方法がない訳ではないはずだ。

「ラグナロクのマスターだからねぇ〜身代金目当て?」

「金でマスターを解放してくれるなら、いくらでも払うさ。まあ死んだ後じゃ使い道なんかないだろうけどさ。」

「…。」

梓の答えに玉藻が素っ気なく返す。


空になったカクテルグラスを眺めながら梓が小さなため息をつく。

「何度も言ってるけど人間を殺しちゃダメなの!あくまで捕縛が最優先!」

「可能ならでしょう?投降するならいざ知らず、逆らう相手に手加減出来るほど私たちは器用じゃないの!それに私たちはもう、ただのサポートキャラクターじゃない。冒険者になったんだ。冒険者には罪人を裁く権利くらいあったはずでしょう?」

「確かに宇宙海賊は人間として認められていない。存在は知られていても正確な数を把握していない以上、例え殺害したとしても罪に問われる事はないかも知れない。」

「だったら…」

「でもそれは建前上で、必ず難癖を付けてくる。そしてその責任を取らされるのはマスターなの。だから…一人でも多く生かして捕らえなきゃいけないの。」

「でもそれじゃあ…連中のやりたい放題じゃない。」

「納得いかないのは分かるけど…それがこの世界の現実なのよ。」


「ミルフィーユはどう思う?」

来るんじゃなかった…とは冗談でも言えない雰囲気だ。

グラスの中の氷を指で転がし、まるで独り言でも話すかのようにミルフィーユが話し始める。


あの人はどんな状況でも、まず楽しもうとする。

私たちの身を案じていても、宇宙海賊の生い立ちに同情しながらも、どこかで今を楽しもうと考えている。

あの人にはこの世界と人類を救おうなんて考えはない。

ただ自分が楽しみたいだけ。

みんなにも自分と同じように楽しんで欲しいだけ。

あの人は、楽しんでいる私たちを見るのが好き。

そこに自分も混ぜて欲しくてたまらないの。

だからあの人が今の私たちを見たら、頭を掻きながら困っちゃうのかも知れないね。


「私はマスターがそう望むなら、宇宙海賊を生かしたまま更生施設に送るのでも構わない。でも…」

ミルフィーユはグラスの中の梅酒を見つめ、溶けかかった氷ごといっきに飲み干し噛み砕く。

「今後、マスターと私たちの楽しみを邪魔するものが現れないよう、この世界中に私たちをナメたらどうなるか教えてやる必要がある。」


「…。」×2


『大変です!!』

ラウンジの入り口に、これまで対応してくれていた女性兵士が息を切らして駆け込んできた。


『今すぐ中央司令室までお越し下さい!』



ラグナロク艦隊から3隻のギルド艦が戻って来たが、それと時を同じくして傷ついた宇宙軍の戦艦がワープアウトして来たのだ。


負傷した兵士の話ではエネミーの大群はその数を更に増し、現在第五土星まで進行を許していた。

宇宙軍の艦隊は防衛線を下げ、小惑星帯と第五木星の間で艦隊の再編成を行っている。


緊急事態だ。だがこれはいつもの事でもあった。

エネミーの大群のほとんどは宇宙軍が処理するが、撃ち漏らすエネミーも出てくる。

その対応の為に、冒険者にはエネミー迎撃のクエストが発行される。


問題はそのクエストが上位ランクである事。

そしてそれに対応出来る冒険者が今アルフヘイムにいない事。

ラグナロクに残る戦力はギルド艦およそ5,000隻、そしてバトルドールがおよそ1,270,000機。

だが皆経験の浅いものたちばかり…

宇宙軍に残る戦力は須弥山の数隻と第五地球防衛の為の2,000隻の戦艦、それとバトルドール が50,000機。

ただそれを動かす為には、現在第五地球にいる最高司令官の許可がいる。


しかしその全てを使える訳じゃない。

須弥山には持国天が不在だが残り3機のバトルドールが守護している。

でもそれだけで足りるはずがない。

当然アルフヘイムと第五地球にも防衛用の戦力は残さなければならない。


「艦隊をひとつ戻した方が良いんじゃない?」

「じゃあもう一度伝令に向かって貰おう。」

すっかり酔いのさめた玉藻と梓は戻ったばかりのギルド艦に連絡を取ろうとする。

「いや…おそらく間に合わない。艦隊もそろそろ第五火星周辺のはず。宇宙海賊と戦闘になれば、そんな余裕はない。ここは私たちだけで対応します。」


中央司令室では兵士たちが慌ただしく動き回る。

須弥山に残る僅かな戦艦は第五地球と、その周辺に展開している2,000隻の戦艦へ連絡を取る為に出港していく。

第五地球への降下が禁止されていても、事は緊急事態。

それでも問題にするようなら、もう構っていられない。


ミルフィーユは3隻のギルド艦をアルフヘイムへ戻し、準備を進めてもらう事にした。

ミルフィーユたち一行はというと、梓の提案によりアースガルズへと向かっている。

もしエネミーと戦闘になれば、アップルたちのバトルドールのみで対応しなければならないので危険だが致し方ない。


「大丈夫なのかな…」

「えっ?大丈夫だよ!」



おそらく…

宇宙海賊だってこんな事はしない…

『どうかっご勘弁をー!!』

土下座である。ユグドラシルの徳川社長自ら土下座である。

梓はそんな社長を完全に無視して使えそうな物を、いや、ユグドラシルの全てを強奪しようとしている。

「すいません…」

ミルフィーユとしては頭を下げる事しか出来ない。

「あっ!この船AIだけの無人艦だよね?」

「それは昨日ロールアウトしたばかりでございますー!」

「誰か自爆装置を確認しといて!」

「やめて〜!」


素直に頼めば協力してくれるのに。

マスターが拉致された時も、徳川社長は既に輸送船を用意してくれていた。

今回も第五地球政府に納品予定の新型無人戦艦を3,000隻と、追加の輸送船12,000隻。無人戦艦は運用テストの名目で貸して…強奪させてくれる。

その他にも梓は本当に持っていったらダメな試作艦まで奪うようだが…

それに三星重工から軍用バトルドールが75,000機提供させているそうだ。


ユグドラシルと三星重工の支援を受け、混成部隊ではあるものの、数の上では今回の上位クエストに対応出来る十分な戦力が揃った。


あとは…みんなの覚悟次第。


でも磁気嵐の影響が残る中、ここまで情報を集めるとはさすがソール恒星系最大企業。

その高度な情報収集能力は全て、鉄入ブラザーズが握っている。

この世界中に散らばる全ての兄弟は、それこそ世界中を飛び回り情報を共有しているのだそうだ。


「ミルフィーユさ〜ん!」

今もアースガルズを走り回る鉄入ブラザーズのひとりが小さなコンテナを抱え、ミルフィーユへと駆け寄る。

「どうされたんですか?」

「アルフヘイムの冒険者管理局宛にお荷物が届いています。お帰りの際、ご一緒にお持ち下さい。」


手渡されたコンテナに書かれた差出人は…


ミルフィーユは金属製のコンテナを軽々と素手でこじ開け確認する。

中には3つの謎の物体が…


「キュゥ〜…」×3



遅くなりました(≡人≡;)

きっと次回も…


年末年始が大嫌いな十でした。

疲れる…

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