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017

「マスター。」→「なぁ〜に?」

「マスター。」→「しょうがないでしょ〜!」

「マスター…」→『もう!ごちゃごちゃ言わないで!』


革命軍〈エインヘリアル〉の本拠地に向けて、輸送船を中心とした5隻の宇宙船は赤い大地の上空をゆっくりと進んでいる。

モニターに映し出された映像は現実世界の火星のイメージに近いのかも知れない。

ゲーム時代に見たものとはまるで違うその景色は、焼け残った僅かな樹々と荒れた大地が見えるばかり。

「何でこんな事…」

肩の上に乗ったぷちダージリンが寂しそうにそう呟く。


俺たち4人は拘束を解かれ、輸送船内であればある程度の行動が許された。

とはいえ輸送船の船内に見て回るほどの場所もなく、タバコを吸うか、ぷち娘たちをムニムニして遊ぶか、エインヘリアルのメンバーたちと話をするしかやる事がない。


輸送船の護衛についた4つのギルド艦には入れないが、代わりに向こうから俺たちの見物がてら挨拶に来てくれる。

屈強な男性型のサポートキャラクターたちにすっかり怯えたぷち娘3人は、ぷるぷる震えながらしがみついてくる。

『帰りましょうよぉ〜!』×3

「まぁ〜だ!」


第五火星に集まったサポートキャラクターたちは彼らのマスター、プレイヤーが使っていたバトルドールやアイテム、現金などを自分で管理出来る事に気がついていた。


総艦艇数 15,000隻

総バトルドール数 350,000機

総冒険者数 500,000人


これがエインヘリアルに参加しているサポートキャラクターたちのおおよその数。

これがエインヘリアルの主戦力だ。


エネミーの大群とも戦えるほどの戦力だが、世界を相手に戦えるほどの戦力ではない。

まともにやりあえば負けるに決まっている。

それを何とかしろと言うのだから、困ったものだ。


まあ…手がない訳じゃないけれど…

上手くいくかは、この世界次第かな。


「マスター!諭吉さんがブリッジまで来てくださいって…何やってるんですか…」

「ん?フルフル!」

「う〜わぁ〜や〜め〜れぇ〜」×2

ぷち琥珀とぷちダージリンを両手に乗せて、フルフル震わせているのを見たぷちマティーニが引いている。

「…そろそろ着くみたいですよ。」


巨大な大地の裂け目の中を降下していた船団の前に現れた、地下に作られた彼らエインヘリアルの本拠地。

巨大な人工湖に浮かぶ、いくつものドーム状の建物が並んだ巨大な地下要塞〈ヴァルハラ〉が姿を現した。


湖に着水した5隻の船は、いくつものギルド艦が並ぶ港に停泊した。

港には俺のやる気が消え失せるようなムキムキたちが出迎えてくれている。


「それでは行きましょう!あの方もお待ちです!」→《…やだなぁ〜》


○○○ 肉╭(;°ㅂ°)╮肉


第五火星には、いくつもの居住施設が点在しているが、ここヴァルハラはその中でも最大級の施設なんだそうだ。


第五火星の人口はサポートキャラクターたちを合わせておよそ1,300万人。

現在この施設だけで、その8割が生活しているんだそうだ。

施設内の設備はアルフヘイムと比べて、使い古された旧式タイプといった印象だ。

現実世界の感覚で言えば十分ハイテクな訳だが。


指導者とやらを待たせているようだが、施設内の案内をしてもらった。

ドーム状の天井からは、地下なのにまるで外にいるかの様に明るく日が差しており、穀物や野菜の栽培、家畜の飼育などを行っている。

外にある人工湖でも淡水魚などの飼育も行われているそうだ。

多くのデミヒューマンやアンドロイドと一緒にヴァルハラで暮らす人間たちも、みんなで同じ仕事をしている。

大人に子ども、男に女、みんな一緒に。

第五地球で見たものとはまるで違う。

もちろん全てを見てきた訳じゃないけれど。


ただこれだけ充実した生産施設でも、ここにいる全ての住人の分をまかなう事は出来ないだろう。

備蓄だってたかが知れてる。

それでアルフヘイムから物資を奪った訳か…


「マスター。そろそろ行かないと諭吉さんも待ってますよ。」

「…は〜い。」

聞きたい事はいっぱいあるけど、とりあえず指導者とやらに会わなきゃ話が進まんか。


諭吉さんの案内で施設内を進んで行くと大きな格納庫の扉の前で足を止める。

「こちらです。」

諭吉さんが扉横のパネルを操作すると重苦しい音をたて扉が開いていく。

するとぷち娘たちは何かに怯えるようにぷるぷると震え出す。

確かに魔王でも出てきそうだね。

そこはコンテナ等が普通に積まれた、なんてことない普通の格納庫。


『お呼びだてして申し訳ありません。』

「…いいえ。こちらこそお待たせして申し訳ありません。」


なるほど…そう来ますか…

薄明るいライトに照らされた普通ではないその姿は、直接見るのは初めてだけど知っている。


それは軍用バトルドール。

三星重工製LG級量産機〈酒呑童子(しゅてんどうじ)〉そのプロトタイプの零式。

まだ廃棄されていないものがあったのか…


零式は最初のバトルドール。

その機体はアンドロイドを元にして作られた感情を持つとても優しい、悲しい兵器。

兵器として問題の多い零式はテスト用に開発された10体のみでその後生産される事はなく、感情のみを排除した機体が開発されていった。

ゲーム時代、バトルドールの説明で見た零式が、エインヘリアルの指導者として目の前で横たわっている。


その機体は酷く傷つき破壊されている。

サポートキャラクターの中にもバトルドールの整備長がいる。ナノマテリアルだって十分ある…それなのに…時間がないとはそういう事か…


頭部の近くに置かれた椅子に腰掛けると、諭吉さんはぷち娘たちを連れて格納庫を後にした。

広い格納庫の中に二人きり…二人と言うのもなんだかおかしいね。


『気にしないで…と言っても気になりますよね。』

「…まあ、そうですね。」

『白瀬さんは、ミュータント狩りというのはご存知ですか?』

「…ここに来るまでの間、第五火星の歴史の事は船の中でいろいろ聞きました。…まあ、簡単にですが…」

『それは今でも続いています。貴方がた冒険者や第五地球に住む多くの人間が知らないだけで…いや、違いますね…無関心なだけ、なんでしょうね…』


無関心か…確かにそうだね。

ゲーム時代にプレイヤーはこの世界の人間に会った事がない。

第五地球に行った事もなかったし、ましてや他の惑星に人が住んでいたなんて知らなかった。

この世界の人間は設定上の存在で、ゲームに関係なかったから。


じゃあこの世界の人間は?

自分達と住む場所が違うから。

ただ生まれた場所が違うから。

戸籍がない。その存在が確認出来ない。

それだけで、本当は知っているくせに見て見ぬ振りか?

自分に関係ないならどうなっても良いのか?


サポートキャラクターたちは、これを見て、これを知って、彼らを守ろうとしたんだね。

でも、その結果がこれか…


『自ら法で禁じたミュータント狩りを繰り返し、こちらが刃向かった事で発覚する事を怖れた彼らは、地殻変動兵器を使用して全てを無かった事にしようとしたようです。』

「地殻変動兵器?」

『人工的に巨大地震を引き起こす兵器です。ここへの使用は阻止出来ましたが、おかげでこのざまです。』

難を逃れた人々を全て受け入れて来たんだろうね。

そりゃあ生活物資の供給も滞る訳だ。

「しかし刃向かうにしても略奪行為を繰り返していれば、彼らに海賊討伐の名目を与えるだけじゃないですか?」

『それは彼らがそう言っているだけです。我々は略奪など行っていません。』

「しかし現にアルフヘイムや三星重工から…ああ〜…」

『我々にも沢山の支援者がいます。多くの宇宙軍兵士や、彼女のように。まあ今回の支援物資の受け渡しは流石にやりすぎだと思いますがね。』

全部ウソかい…

『ちょうど今、彼女もここに来ています。文句は彼女に言って下さい。』

「…そうします。」


『白瀬さん。…私にはもう、みんなを守れない。…どうか、みんなを…』

「…協力はします。でもみんなを守るのは私の仕事じゃない。それは貴方が何とかして下さい!」

『…ありがとう。』



「待っていましたよ!白瀬さん!」

格納庫の外にはぷち娘たちを連れた諭吉さんと一緒に、例の彼女も待っていた。

胸元を大きく開けたボディスーツに身を包み、目元をおかしなマスクで隠している。

「諭吉さん。通信機をお借りしたいんですが。」

「えっ?…それは構いませんが…」

「さあ!忙しくなるからみんなも手伝ってね!」


『えっ?シカト!』


通信室でアルフヘイムに連絡を繰り返しているのだが、困った事に誰も出てくれない。


「ニャモの携帯端末の番号なら分かりますけど。」

「えっ?なんで?」

「ニャモのは覚えやすい番号なんで!」

俺の頭の上にいたぷちマティーニが、ぴょんと飛び降り操作を始める。

「でも良く覚えてるね!」

「副長の家の通信機、今でもダイヤル式の〈クロデンワ〉なんですよ!」

「うるせーよ!レトロだよ!オシャレなんだよ!」

ケンカを始めたぷち娘たちは置いといて、通信が繋がるのを待つ。

電波の状態が悪いのか音はするけど画面が映らない。


「はい!どちらさまかニャ?」

(⌐■_■)「あっ!もしもしオレオレ!」

「ん?マスターかニャ?」

(⌐■_■)「そう!マスターだよ!」

「マスター!大丈夫なのかニャ?ニャモには良く分かんニャいんだけど、何かみんな大騒ぎしてるニャよ!」

(⌐■_■)「ああ〜まあ大丈夫だよ。ところでニャモは今ヒマかな?」

「ニャモなら部屋で筋トレしてただけニャから大丈夫ニャよ!」

(⌐■_■)「じゃあさ。俺の携帯端末どうなったか分からないかな?」

「マスターの携帯端末ならニャモが直して、今ここにあるニャよ。」

(⌐■_■)「さすが!じゃあさ、ちょっとそれこっちに送ってもらいたいんだけど!」

「クロネコユグドラの宅急便で良いかニャ?あっ!副長とかのも一緒の方が良いかニャ?」

(⌐■_■)「もうどこまで出来る子なの君は!」

「ニャっはっはっはっ!」

(⌐■_■)「それとね。この事はみんなにナイショにして置いて欲しいんだ。」

「なんでかニャ?」

(⌐■_■)「サ・プ・ラ・イ・ズ!」

「くぅ〜分かったニャ〜!」

(⌐■_■)「じゃあ送り先は……」


チョロい。チョロすぎて心配だよニャモ…

「なんですか?今の…」

「母さん助けて詐欺風!」

「……ニャモ…」


「それじゃあみんな、お願いします!」

アルフヘイムの偵察を行っていたギルド艦からラグナロクの艦隊が動き出したとの連絡が入った。

それもかなりの大艦隊。

こちらもそれなりの準備をしないとね。


シーサーさんや、ぷちマティーニたちには第五火星の住人全てのリストアップとヴァルハラへの収容、それといざという時の為に輸送船の手配をお願いした。

諭吉さんには艦隊編成と、ギルド艦も航行可能な大型ルートと後方の小惑星帯に機雷の設置をお願いしている。

それだけの大艦隊。各個撃破の良い的となるようなルートや、わざわざ遠回りになるようなルートは選択しないだろうけど念のため。

あの子たちはきっと宇宙回廊を堂々とやってくる。

そうでないと困っちゃうし!


みんなそれぞれ動き出したが、ぷちマティーニだけがちょっぴり膨れてこっちを見てる。

「納得いかん?」

「納得は出来ません。でもマスターの事は信じています。でも…せめてみんなに連絡だけでも。」

「どこから情報が漏れるか分からないし、こちらの本気も見せなきゃいけない。だから向こうにも演技で来られたら困るのよ。」

「…。」

「大丈夫!誰も死なせたりしないよ。」

「…なんだかマスターじゃ無いみたいです。」


ぷちマティーニはにっこり笑って通信室をぴょこぴょこ出て行った。

いまさらだけど足が震える。

確かにこんなの俺らしくないよね。


「…あのぉ〜…」


放置プレイに耐えかねたのか、弱々しい声で彼女が話しかけてくる。

「で?」

「…いやぁ〜〈で?〉って言われても困りますが…」

別に苦しくて開けていた訳じゃないジッパーを閉めて、マスクも外した彼女が縮こまる。


三星重工社長 織田 茜 。

彼女こそ俺をこんな目に合わせた全ての元凶にして、エインヘリアルの支援者。

「なんであんなウソを?」

「本当の事を言ったら…協力してくれた?」

「…あの子たちを危険に巻き込むような事、する訳がない。」

「…ほら。」

「…なんで君がこんな事をするの?」

「これを見て!」


彼女は胸を突き出してこちらを見る。

ふたつの立派な丘は、しっかりと自己主張していて、張りのあるきっと素敵なDカップ!

「ありがとう!」

「ちげーよ。」

指さされたそれは、三つの輪を重ねて繋げた三星重工のマーク。

「これは第五火星と二つの衛星を表してるの!私も開拓者の子孫だから。」


コロニー育ちの彼女は第五火星で暮らした事はない。宇宙軍の者たちもそう。

だけど自分たちの故郷を忘れる事はない。

子から孫へその想いは受け継がれていった訳だ。


「ところで、なんで支援物資の受け渡し場所にアルフヘイムを選んだの?」

「監視の目も厳しくなってきたし、まあついでにですよ!その方が効率的でしょ?」

俺と物資、どちらがついでなんだか…

「君にもちゃんと協力して貰うからね。」

「もちろん!エッチな事以外ならなんでも言って!痛い!」

ぺちんっとおでこを叩いてやった。

彼女には、これから起きる事の意味を全世界に伝えて貰う。それと…


「…難しいかも知れないけど、絶対なんとかする!オッパイくらいなら触っても良いよ!すごく痛い!」

ごちんっと頭を殴ってやった。



「ちわっす!クロネコユグドラで〜す!」

「は〜い!」

ニャモからの荷物がやっと届いた。

ヴァルハラの位置はもうバレてるのかも知れないけど念のため、ここ採掘場施設に届け先を指定しておいた。

「随分遅かったじゃない!」

「すいません!こないだの恒星フレアで通信網がガタガタで!それになんか星喰の大群が近づいているみたいっすよ!規制がかかったルートもあって大変なんすよ。」

「ヘェ〜それはそれは。あっサインで良いかな?」

「はい!じゃあこちらに。」

「それと一つアルフヘイムに配達して欲しいのがあるんだけど、回収お願い出来るかな?」

「はい。もちろん!」

「じゃあ、ちょっと待ってて!」

はよせな!ほれっ!急げ急げ!

「じゃあこれ!着払いでお願いね。」

「まいど〜!」

荷物をのせた鉄入くんの小型船が採掘場を飛び立つ。


「行きました?」

護衛のつもりか、ただ暇なのか分からないが一緒について来た茜ちゃんが物陰から顔を出す。

「うん。」

「いよいよですね!」

そうだね。いよいよなんだけど、問題もいろいろ起きた。

突如起こった恒星フレアの影響で、あちこちに小規模の磁気嵐が発生している。

そのおかげで通信機器が機能していない。

その上、エネミーの大群か…

機雷設置に当たっているギルドからも同様の報告があったばかりだ。

今のところ対応は出来ているが、この先どうなる事か…


「今から心配しても仕方ないですよ。しっかりして下さい司令官殿!」

…へっ…『へぶしっ』→《ブッ!》


「…最悪。」

「ニャはは。」


施設周辺は攻撃された形跡はないものの、今は採掘場が閉鎖されているので静まり返っている。

廃棄された小さなコンテナに腰を下ろし、配達されてきた箱から俺の携帯端末と手紙を取り出す。


〈ぽちが心配してたニャ!早く帰ってくるんニャよ₍˄·͈༝·͈˄₎♡〉


迎えの船もそろそろやってくる。

ヴァルハラでは非戦闘員の地下シェルターへの避難が始まっている。

エインヘリアルの艦隊も準備が進んでいる。

みんな動き出している。

俺だけ止まっていられないね。


上着のポケットに手紙をしまい、タバコを取り出し火を付け立ち上がる。


「さて!行きますか!」

「ポイ捨てはダメですよ!」


「…はいはい。」



もう12月か…早いですね(ノω=`)

投稿を始めて4ヶ月…なかなか進まん。

12月は忙しいので…さらに進まんだろうな。


という訳で次回は少し投稿が遅くなるかも知れません。

来週投稿がなかったら…

頑張ります!


社会人にはいろいろあると言い訳ばかりの十でした。

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