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それは回収できたサポートキャラクターの遺体の一部が収められた棺。
宇宙葬の準備が進む中、棺の周りには彼女たちと縁のあった冒険者が最後のお別れをしている。
エンバーミングにより修復された顔の下には何もない彼女たち。
その身体の場所に置かれた白いワンピースに触れながら一人ひとり言葉を掛けていく。
2511人…その中には元メンバーのサポートキャラクターもいた…
あの日からずっと行方不明となっているサポートキャラクターの捜索を続けてきたが、彼女たちの回収を最後に捜索を打ち切る事にした。
捜索範囲を第五冥王星などの外縁天体周辺までひろげていたが生存の可能性は低く、遺体の損傷が酷く識別が難しくなった為…いや、そうじゃない。
《もう見たくなかったから…》
お帰りなさい。怖かったね。痛かったね。…すぐに見つけて上げられなくて…ごめんね…
一人ひとりに声を掛けた。
何日も…何日も…
だからもう終わりにしたかった。
だから体のいい言い訳をして、勝手に決めた。
みんなにそう告げた時、みんなはどんな顔をしていたんだろう。
怖くて、後ろめたくて、みんなの顔を見れなかった。
まだ350万人も行方不明のままなのに…
恒星ソールに向けて射出された3人を見送り、みんな自室へ戻っていった。
俺だけその場を動けない…いつもそう。
泣いたってしょうがないのにね…
それでいつもミルフィーユが迎えに来てくれる。
俺の方が年上なのに…情けないね。
サポートキャラクターの捜索は打ち切ったものの、人間の冒険者、つまりプレイヤーの捜索は建前上どうしても続けなければならない。
捜索はギルドにクエストを発行して行なっているのだが、困った事に最近エネミー〈星喰〉とのエンカウント率が上がってきているそうだ。
火力不足のギルドも多いので、極力戦闘は避けるように指示を出している。
それでもやっぱり心配なので、今後ギルドクエストを行う場合は1つのギルド単体ではなく、4つのギルドで艦隊を組み行う様にした。
戦闘を回避出来ない場合でも、エンカウントしたギルド艦が〈戦闘支援要請〉を出せば、残りのギルド艦が参戦出来る。
報酬の取り分は減るし、連携が難しくなるかも知れないけど、より安全に短時間でクリア出来るだろう。
みんなに何かあってからでは遅いんだ。
無理して戦う必要はない。
それに俺たち冒険者は星喰の脅威からこの世界を守る軍隊ではない。
クエストの中には討伐を主としたものもあるが、輸送船の護衛や鉱物の採掘などのクエストの方が多い。
この世界を星喰から守っているのは、その名も〈宇宙軍〉!まんまです!
〈宇宙軍〉
《大日如来》《阿閦如来》《阿弥陀如来》《宝生如来》《不空成就如来》の五智如来と呼ばれる5つのコロニー級巨大戦艦を有するこの世界で唯一の軍隊。
宇宙軍本部はスペースコロニー《須弥山》にあり、そこではソロプレイヤー用のクエストを受ける事が出来る。
宇宙軍から発行されるクエストは後方支援や偵察がほとんどだが、小型エネミーとの戦闘が発生する場合が多い。
エネミーの動きが活発になれば、クエストも増える。さらに今回は報酬もグレードアップしているという。それはつまり危険性が増したという事。
それなのにうちの子はやる気満々。
まったく人の気も知らないで…
みんなクエストの内容より報酬でクエストを選びがちだ。
まあ気持ちは分からんでもないけどね…
みんな早く一人前になりたいんだよね。
冒険者としての能力には差がないのに、機体のレアリティで比べられてしまう。
もちろん経験の差は当然ある。でも彼女たちには、そもそも経験を積む機会が与えられない。
焦る必要はないのに。人は人、自分は自分。
マイペースで良いのにね。でも…
楽しくないよね。せっかく冒険者になったのに。
そんな彼女たちの気持ちも分かるから、強く言えない。
『いってきます!』
クエストに出かける彼女たちは笑顔でそう言ってくる。
俺に出来るのは、彼女たちの頭を撫でながら「気を付けるんだよ!」「危なくなったらすぐに逃げるんだよ!」そんな事しか言えない。
あとはみんなの無事を祈る事だけ。
彼女たちはそんな俺の気持ちを知ってか知らでか、元気良く手を振っている。
小さく手を振る俺の隣で、ミルフィーユも笑顔で彼女たちを見送る。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。ソロの子たちも、ちゃんと考えてますから。」
ソロの子たちみんなで話し合い、ソロプレイ用のクエストは受けるのを止め、SSR以上の機体を持つ経験豊富な子を隊長として、小隊用のクエストのみを行う様にしているそうだ。
小隊用のクエストだと多少難易度が上がるし報酬も独占出来ないけど、一人ひとりの負担も減るし連携の練習にもなるから。
なら安心だね!とはならないけどね…
冒険者に危険は付きもの!みんなそれを分かってて冒険者をやってるんだ!
でもだからって死んで良いって訳じゃない!
みんなにもしもの事があったら俺は…
平気なんかじゃいられない。
◆
ラグナロクに舞い込んでくるクエスト依頼も急増している。
受け付けや依頼先の企業との報酬交渉など、いまでは多くの冒険者が対応してくれている。
だけどそんな依頼の中には彼女たちでは対応の難しい、ちょっと困った依頼もあるのです。
《宇宙海賊エインヘリアルの壊滅》
相手は星喰では無く、この世界の人間。
ゲームの時から設定上は存在していた宇宙海賊。でもこんなクエストは存在しなかった。
この世界の変化により、こいつらにも変化が起きた。それはもはや無視出来ない程の力になったという訳だ。
ただ気になるのが、いま俺の目の前に座る依頼主。
スペースコロニー〈ニダヴェリール〉に本社を置くソール恒星系最大の軍事企業《三星重工》の女性社長 織田 茜さん。
社長自らこんな所に出向くとは…余程の事なんでしょうね。
しかしなんともまあ…20代後半と思われるこの女性。品の良い身なりに香水の爽やかな香り。性格はちょいとキツそうですが、そこがまた良いですなぁ〜!
「今回の件について我が社も独自に調査をして来ましたが、どうやら海賊は我が社の兵器を使用しているようでして…ただ…我が社の輸送船から強奪されたものでは無いようなんです。」
「軍からの横流し…ですか。」
三星重工グループは宇宙軍が使用するコロニーや戦艦、バトルドールまで一手に製造している企業だ。
冒険者のギルド艦やバトルドールにも三星重工製の物もあり、その中でもバトルドールの性能は高く、冒険者の使用するLG級バトルドールのほとんどは三星重工製だ。
「宇宙軍の方は政府が調査に乗り出したようですが、揉み消すでしょうね。」
「お咎めなしですか?」
「人間を裁く法はありませんから。良くて更生施設行きでしょう。政府も宇宙軍を動かして、今回の件が公のもとに晒されるのは避けたいでしょうから、今回彼らは当てに出来ません。」
「そこで冒険者の出番という訳ですか。」
改めて依頼内容を確認したが、規模や兵力、そのアジトまで何から何まで全て不明。分かっているのは、そのメンバーが〈戸籍の無い人間〉だという事だけ。
「ところでこの戸籍の無い人間というのは?」
「各惑星の開拓者の子孫です。彼らは登録自体を拒否しているので、所在地や正確な人数も分かりません。実は先日、我が社の輸送船が襲撃を受け交戦した際、警備兵が負傷した男を数名捕縛しました。ですが残念ながら皆すぐに自害した為、情報は得られませんでした。」
「その遺体から彼らの正体が分かった訳ですか。」
「はい。正体不明の、その存在さえ知られていない人間たちです。それだけに最初から存在しなかったものとして処理されるかも知れません。…ですから貴方達にお願いしたいのです。」
そう言って微笑む彼女の内面はドキドキするほど腹黒い!
今回の依頼は闇に葬られるかも知れない彼らの救出という訳ね…
「海賊はそちらの輸送船を襲撃した。…その彼らを助ける理由は?」
「犯罪者とはいえ同じ人間ですから。それだけじゃいけませんか?」
それだけのはずは無いけどね…
宇宙海賊の使う兵器は、うちと同程度かそれ以上と思った方が良いだろう。しかもその数は未知数ときてる。
もしそんな相手と戦闘する事にでもなれば、対応出来るメンバーは限られる。
…どう考えてもリスクの方が高すぎるよね。
「それと本日は視察も兼ねて参りました。今回提示した報酬以外にも、クエスト成功の暁にはラグナロクへのご支援をお約束します。」
…また顔に出てました?美人に真っ直ぐ見つめられると…
「…クエストの成功条件は?」
「宇宙海賊という存在を壊滅していただければ結構!その為の手段は問いませんので、後は貴方にお任せします。」
「…それとあと一つ。なぜ貴女がここまでするんです?」
「我が社に責任を押し付けられても困りますから、その予防策ですよ。」
検討します。
即決は避けたが悪い話じゃないかも知れない。
リスクはある!でもラグナロクの上位メンバー総動員なら不可能じゃない。
それに殺しあう必要がないのなら、他にやりようはいくらでもあるだろう。
◆
多忙な織田社長を見送る為に宇宙港までやって来た。
絶対高い!なんとも立派な自家用シャトルに乗り込む間際、織田社長が俺の耳元に唇を寄せて囁いた。
「これはこの世界を変えるチャンスです。」
棒立ちの俺を残し、織田社長は去って行く。
ズルイ!こんなのズルイ!!
出たよ!これだから女は汚ないんだよ!
絶対何か知ってるじゃん!
これくらいで利用される程俺はバカじゃない!
《ちきしょーーーう!!》
さて、今回の依頼に対応可能な冒険者のリストアップや作戦の立案などミルフィーユに丸投げして来たので、やる事が無くなりました。
お昼にはまだ少し時間があるし、今日もぶらぶらアルフヘイムをお散歩です。
商業区と工業区の間には大きな公園があり、みんなの憩いの場となっている。
芝生の上でお昼寝してる子、ベンチに座り早めのランチを食べてる子、ここはいつもゆったりとした時間が流れている。
公園の中心には大きな慰霊碑が建てられており、そこには亡くなった2511人の冒険者と失われた全てのギルド艦、そして行方不明者の名前が刻みこまれている。
ここに来る事が最近の日課になった。
もうここに名前を増やしちゃいけない。
その為に俺は何でもしよう。
自分の想いを確認する為に俺はここに来ている。
みんなを死なせたくない。それなのに危険な依頼を受け付ける。
矛盾しているのは分かっている。
でもそれは俺がいなくなった後、彼女たちだけで生きていけるように。
この世界で生き残れる力を身に付けさせる為に必要な事。
「マスター!」
振り返るとセシリアとカタリナのふたり。
今日は献花の為に訪れたんだそうだ。
慰霊碑には彼女たちが所属していたギルドのメンバーやギルド艦の名前も刻まれている。
献花台に花をたむけ、ふたりと一緒に手を合わせる。
献花台にはたくさんの花束がたむけられている。そのひとつひとつに訪れたたくさんの冒険者のいろんな想いが込められているんだね。
ふたりと別れ、その場を後にする。
彼女たちの大切な時間を邪魔しちゃいけないからね。
さて!お昼ご飯でも食べましょう!
生きていればお腹も減ります。
だからちゃんと食べなきゃですよ!
とはいえもうお昼。いまから食べに行っても、どこも混んでるよね…
そこで今日はこの公園の屋台ですませる事にいたしました!
ホットドッグやケバブ、たこ焼きにお好み焼き、いろんな屋台が並んでいますな!
つい端から順に買ってしまった…
絶対ひとりじゃ食べきれない!ので!
芝生の上で〈第五穂高岳〉のガイドブックを読んでいたマティーニと、ひとつのドリンクを昭和の匂いがプンプンする懐かしい“あの”ストローでふたり仲良く飲んでいる琥珀とダージリンを捕まえて、空いてる四阿でお食事会といきましょう!
『いただきます!!』「…。」×3
ウンディーネの子たちもちゃんと食べます。
それくらい調査済みさ!
「分かりました。ちょっと準備してきます。」
ついに観念したマティーニが立ち上がり、屋台の鉄入くんから何かを借りて来た!
フード付きのポンチョ?しかも色が地味…
フードまでしっかり被った3人の姿は果てしなく残念で悲しくなる。
ウンディーネの子はみんな照れ屋さん!
これが無いと外食しないので、お店側でも用意しているのだそうです。
屋台の鉄入くんが、わざわざ説明に来てくれました。
そしてなんとも怪しい宴が始まった…
俺「…何か食べたいものあったら言ってね!これだけだと足りないかな?」
スペクター「…。」×3
3人とも無言で食べております…机の上の食べものはみるみる無くなっていく。
俺「…足りないね!ちょっと買ってくる!」
スペクター〈頭をこくん!〉×3
おでんに焼きそば、イカ焼きにとうもろこし、アメリカンドッグ、タコス…
買ってくるたび消えていく…
俺「…まだ食べる?」
スペクター〈頭をこくん!〉×3
屋台の鉄入ブラザーズに叫んだ。
助けを求める様に。
俺は…眠れる獅子を起こしてしまったのか…
スペクター〈机をダン!ダン!ダン!〉×3
スイッチの入った彼女たちは、もう誰にも止められない!
だが鉄入ブラザーズも負けていない!次々と食べものが運ばれていく!
しかし!スペクターは机に置くより早くたいらげる!
屋台の材料が無くなるのが先か、スペクターの胃袋が爆発するのが先か!!
俺はもう見ているだけで、お腹がいっぱい!
鉄入くん散る。
白い煙が目に染みる。良く頑張ってくれたね…
スペクター達もきっと満足してくれて…
スペクター「デザートを食べてきます。」×3
鉄入くん…領収書お願いね…
◆
フラフラしながらも屋台を片付け終えた鉄入くんが去り際に、ウンディーネの子たちの秘密を教えてくれた。
彼女たちは燃費が良い?ので月1しか食事をしない。それであの爆食いな訳だ。
辺りを見渡せば、たしかにあちこちでポンチョ姿の彼女たちが屋台を襲撃している。
やれやれ…
中身までスケスケの彼女たち。女の子だから恥ずかしいのは分かるけど…
でも服は来たがらないし…困ったもんだ。
そうと知っていれば、こうはならなかったのかね…
俺の周りをポンチョ姿の3人の男がライフルを手に取り囲む。
「我々とご同行いただきます。」
やれやれ…
仕事帰りにハロウィンコスプレの女の子たちを発見Σ(・ω・」)」
都会ならまだしも地元で見ると…
すれ違う際くんくんした十でした。
良い匂いでした。