011 Dead or Spring
マスター!コピーお願い!
マスター!ゴミ捨てて来て!
マスター!お茶!
『はい!よろこんでーーー!!!』
冒険者ギルド〈ラグナロク〉には、結成以来さまざまなクエスト依頼が舞い込んできます。
いままでとは違い、ラグナロクが一括受注したクエストを各ギルドやソロの冒険者が、それぞれのランクにあったものを選びながら、冒険をくり広げております。
クエストに出掛けていない子も鉄入ブラザーズの事務作業を手伝っているので、ギルドマスターであるこの俺が何もしない訳にはいかないのである。
そんな訳でみんな楽しい冒険者ライフを満喫しているのでありました。
ただこの世界はゲームとは大きく変わってしまった。
そのひとつが、冒険者のレベルが無くなってしまった事。
でも生身で戦うゲームではなかったし、レベルが上がっても筋力などが上がる訳では無く、命中率などが上がりバトルドールの性能に多少の補正が入るだけだった。
レベルによる補正が無くなった以上、死の危険性があるこの世界で冒険者を続けるには、どうしてもレアリティの高い高性能なバトルドールが必要なのだ。
プレイヤーが使っていたレアリティの高い機体に変更出来る様になったけど、ゲームをすぐにやめてしまった人も多い。
まあそんな人でも〈いまならSRが貰えるよ!〉キャンペーンで手に入れた〈なんちゃってSR〉は持ってるんだけどね…
トレードが出来れば良いのだけど、ゲームの時から出来なかったし…
そこでみんなは今、ガチャに精を出しています!
課金はもう出来ないけれど、クエスト報酬でガチャチケットが手に入るのです!
アースガルズにある巨大ガラポンで引くのですが、そこはズルはなしのガチ!
俺もこの間やりましたが、見事玉砕…
でも《高性能機ゲットも楽しみの一つ!》
がんばれ!みんな!
「マスターまだ〜?」→『はい!ただいま!』
変わった事はもう一つ。
それは新たにチームとしてのギルドを作ってもギルド艦が貰えなくなってしまった事。
ゲームの時はギルドを作れば、ギルド艦が無償で与えられたが、それは人間の冒険者に対しての支援策のひとつだったそうだ。
もし俺が新たにギルドを作ればどうなのか確認してもらったが、その場合でもギルド艦は貰えないようだ。
「これが嫌がらせのひとつですよ!」
鉄入くんはそういっていたが、こういうねちっこいのはジワジワくるから何かイヤ!
ゲーム終了の告知の後、それはもうたくさんのギルドが解散した。
解散後のギルド艦は残念ながら、すでに解体されてしまったそうだ。
いまアルフヘイムには、およそ45000隻のギルド艦がある。そのレアリティは様々で最低ランクのN級まである。
でもまあギルド艦のレアリティが低くても受けられるクエストが低ランクのものになるだけでギルド艦の性能には差がない。
クエストをこなしていけば、SSR級まではランクアップ出来るし、やる気まんまんの彼女たちならすぐにランクアップ出来るかも知れないね!
とにかく残されたギルド艦を大事に育てて行きましょう!
「お昼行くね〜!」→『ごゆっくりどうぞ!』
さて!変わってしまった事もあるけれど、俺たちみんなで変えている事もあるのです。
現在アルフヘイムではギルド艦やコロニー自体の大幅な改修作業が行われています。
ギルド艦は遠征も出来るように食堂やら、みんなで一緒に入れる大浴場などなど艦内でも生活出来るように準備がされているのであります!…俺は一緒に入れませんが…
アルフヘイムのドックでは一度に最大800隻のギルド艦を修理や改修が出来るけど、全てのギルド艦の改修が終わるには数ヶ月掛かるとの事だ。
ヘイムダルもいま改修中ですが、『またですか?!』とご立腹です。
徳川さんの所の梓ちゃんを中心に各ギルドの有志が集まり改修作業を行ってくれていますが、改修の終わったギルド艦はどの子も《今はそっとして置いてあげて》状態なんだそうです。
許せよヘイムダル!俺には止められんのだ!
そんな中コロニーの改修は難航中との事だ。
アルフヘイムには、まったく使われていない階層がいくつかあり、そこにカジノなどの娯楽施設や人工ビーチなどのリゾート施設を建設しようとしているのだが予算が足りないのだ。
現在ラグナロクには500兆円を超える現金資産がある。
これは全て冒険者の彼女たちがラグナロクに〈寄付〉したお金だ。
ゲームの時もギルド艦の修理費用などに使う資金の為にプレイヤーの所持金を寄付出来たが、ラグナロクでもそれが出来た。
しかしこのお金は失踪中とされている人間の冒険者のものなのです!
もう二度と戻る事のない彼らですが、この世界ではまだ死亡と認定されていないので、〈これは運用ですぜ!〉というモヤっとした感じでやってます。
ので!あまり派手には使えんのです。
そんな訳で言い出しっぺのメインスポンサーであるユグドラシルに改修費用のほとんどを出していただいています。
が!そちらもいろいろツッコミが入っているようで…
『面倒くさいからポケットマネーで行きます!』
と、イライラMAXの徳川社長がいってましたが、それはそれで問題がある気がするのでお断りしました。
ラグナロクの冒険者がこの世界で実績をつみ、その有用性と存在感を増せば他にもスポンサーになってくれる所も見つかるでしょう!
とまあそういう訳で何かと大変ではありますが、それもこれも全てはこの世界で生きていく彼女たちの為に、俺がしてやれるせめてもの恩返しなのですよ。
「マスター。お待たせしました。今日はお誘いいただいてありがとうございます。」
「いやいや!急に呼び出してごめんね!それでは行きますか!」
変えて行かなきゃいけない事はたくさんある。
これはその中で一番大切な事。
◆
今日はマティーニ、琥珀、ダージリンと4人でお買い物デートです。
とは言っても、プレゼントする訳ではなく、彼女たちに買い物をさせる為。
冒険者のみんなはクエスト報酬の現金を受け取らず、そのまま寄付してしまう。
クエストの報酬はギルドと冒険者でそれぞれ取り分を設けているので、それは彼女たちが受け取る当然の報酬なのに。
でも難易度の高いクエストほど報酬は増える訳で…
そこに《格差》が生まれる事に、高ランクの子たちが納得していない。
『私たちはもう家族です。』
彼女たちはそう言ってくれた。
受け取れと命じれば受け取るだろう。
でもそれでは意味がないし、何より家族と言ってくれた彼女たちの思いも尊重したかった。
そこで彼女たちに2つのお願いをした。
《生活費+お小遣いを必ず受け取る。》
《それを必ず自分の為に使う。》
その額は最低ランクの子が受け取る報酬額。
最低ランクの子たちには別の思いがあったから。
彼女たちの説得もあり、ようやく全員が受け取りを了承してくれた。
…してくれたのは良いのですが、そこでまた新たな問題が発生したのですよ…
《でも何に使えば良いのか分かりません…》
デミヒューマンやビーストの子はまだ良いのですよ!そりゃ女の子ですもん!
美味しいもの食べたり、可愛い服とかありますよ!
問題はウンディーネとアンドロイドの子ですよ!どちらも服着ないし!そこで聞いたですよ!
〈好きな食べ物とかないのん?〉
ア「食べ物じゃないですけど第五地球産の天然オイルが好きですね!でも高いんですよ…」←『それ良いじゃん!』
ウ「甘いお水が好きです!」←《やめて…泣いちゃうから…》
どう思う?
もし自分に子どもがいてさ!
『今日のお水は甘くて美味しいね!』
なんて言われてごらんよ…
親としてええんか?それでええのんか?
どこからか話を聞いて来た徳川社長も、
「この原始の水っていうのが美味しいんですよ〜!」
という、まさかのかぶり気味な珍回答!
そこで今この〈残念な子たち〉を何とかしようと奮闘しているのであります!
そして今まさに商業区にあるメイドカフェ〈べるせるく〉において熾烈な戦いが幕を開けようとしていた!
メイド「お帰りなさいませ♪ご主人さま♪お嬢さま♪」
俺「うむ!」
残念娘「ええ〜…」×3
メイド「ご注文は?」
俺「萌え萌えひよこさんライスと、あちゅあちゅコーヒー!」
残念娘「お水…ミルクティーを。」×3
メイド「かしこまりました♪」
琥珀「良く来るんですか?」
俺「たまにね!」
残念娘「…。」×3
メイド「お待たせいたしました♪」
俺「いつもの頼むよ!」
メイド「はい♪」
残念娘「…。」×3
メイド「もえもえきゅんきゅん♪まほうのちからでおいしくな〜れ♪ぽわぽわきゅんきゅん♪どっきゅ〜ん♪」
残念娘「…。」×3
ダージリン「…いつも来てるんですか?」
俺「たまにだよ!」
残念娘「…。」×3
《フッ!すっかり場に飲まれたようだな!この勝負…もらった!!》
マティーニ VS 俺 《Fight!!》
俺「マティーニは趣味とかないの?」
マティーニ「登山ですね!」
俺「へぇー!アウトドア系か!何か意外だな。」
マティーニ「ちゃんと計画を立てるんですよ!どんなルートを、どれくらいの時間でとか!」
俺「本格的なんだね!第五地球の山とかなの?第五火星にもあるのかな?」
マティーニ「第五地球がほとんどですね!部屋でひとりでやってると、時間も忘れて没頭しちゃいます!」
俺「部屋で?ああっ!計画をね!いや、そうじゃ無くて、どこの山を登るの?」
マティーニ「登りませんよ。机上登山だけですから!」
俺「机上登山?」
マティーニ「はい!部屋の中でガイドブック片手に妄想するんですよ!」
《K.O!!》闇が深すぎる…
メイド「萌え萌えじゃんけん♪じゃんけんぽんっ♪勝った〜♪」
徳川「負けたにゃん!」
メイド「それじゃあ行きますよ〜♪」
徳川「お願いしゃす!」
《ありがとうございますーん!》
琥珀 VS 俺 《Fight!!》
俺「…琥珀は欲しい物とかないの?」
琥珀「あります!赤ちゃんが欲しいです!」
ダージリン「ちょっと琥珀…」
琥珀「え〜!良いじゃん!」
《おーっと!ここでまさかのダージリンの乱入だー!!》
琥珀「私たち二人で赤ちゃんを作ろうと思うんです!」
俺「……二人とも女の子じゃん。」
琥珀「私たちウンディーネは単為生殖ができるんですが、別の個体から遺伝子を貰った方が丈夫な子どもに育つので…」
琥珀↔︎ダージリン「ねー!」
《K.O!!》百合…
…「お兄ちゃん!」
徳川「梓!どうしてここに!」
梓「私は一日体験入店で…お兄ちゃん…何されてんの…」
《K.O!!》
『いってらっしゃいませ♪ご主人さま♪』
◆
お昼を大分すぎた時間帯でも商業区はまだまだ賑わっています。
そこには冒険者だけじゃ無く、鉄入ブラザーズやこの世界のデミヒューマンなどの子たちもショッピングを楽しんでおります。
鉄入くんたちアルフヘイムのスタッフにも、ちゃんとお給料を支払っております。
冒険者のみんなより危険手当ての分を引いた、ちょっと少ない額だけど。
まあ手続きやらなんやらは全部鉄入くん任せではありますが…
『そんなのおかしいです!』
そう言ってスタッフのみんなも、最初は給料を受け取ってくれませんでした。
この世界ではそれが当たり前だから。
唯一例外としてユグドラシルグループのスタッフが受け取っていたそうですが、でもそれはお駄賃程度。
冒険者が受け取っているのに、みんなが受け取らないのは変じゃない?
労働の対価として受け取るのが当然じゃない?
なんとか言いくるめてやっと受け取って貰える様になり、いまではみんなも自分なりの使いみちを見つけてくれた様です!
「うちの子も受け取ってくれる様になりました!」
徳川社長もそう言って喜んでいました。
ユグドラシルでもスタッフの変化は良い方向に進んでいるようです。
日々の生産効率も向上し、ミスが減ったおかげで生産ロスも減ったそうだ。
それはまだ小さな変化かも知れないけど、この世界を変えるきっかけになったら嬉しいね。
マティーニたちは部屋に飾る花を買っていた。
女の子です!花を買うなんて発想は俺にはないもの。
隣を歩くマティーニが最近のみんなの変化を教えてくれた。
最近みんなは新しく出来た銀行に貯金を始めたんだそうな。
みんなにも夢がある。自分でお店を始めたいとか、女の子ならお嫁さんとか、そんな素敵な夢。
みんな残念どころか立派じゃん!俺の方がよっぽど残念…
みんな今日の事はもちろん、ちゃんと明日の事も考えてるんだね!
良い良い!若さです!
夢を語る若者たちです!
夢を語るほど若くないおじさんには眩しいかぎり!
『マスターの夢はなんですか?』
マティーニからの痛恨の一撃!
「ナイショ!」
「ずるいです!」
みんなの素敵な夢が叶うそんな世界を作りたい。ひとりでは無理でも、みんなとなら…
そんな事を考えてしまう、なんとも平和な一日でありました。
( 」゜Д゜)」新章スタート!
だんだん涼しくなってきましたが、私は毎日汗だくです…
スマホの熱さがこたえます!
手汗びっちょりな十でした!