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001 フィンブルの冬

いつもと同じ帰り道。

いつもと同じ駅。

いつもと同じコンビニ。


いつもと同じ発泡酒…では無く今日はプレミアムビールを買ってみた。


部屋に戻って電気を付ければ、慌ただしく出掛けた時のまま。


ベッドに腰掛け、ビールを一口。

タバコに火を付け、今日何度目かも覚えていない溜め息をつく。


〈フィンブルヴェトル〉


配信開始から15年つづく、広大な宇宙を舞台にしたスマホMMORPG。

今日はそのサービス終了日だ。


あと2時間後、夜12時には全て終わり。


15年ほぼ毎日ログインし、新車の軽自動車なら軽く買えるくらい課金した。

そして何より大切な仲間との思い出が、あと2時間で終わってしまう。


朝から何度もスマホをいじっていたが、ゲームが出来ないでいた。


(ちゃんとけじめを付けなきゃ…)


タバコを揉み消し、いつもと同じ大切な…大切だったゲームを始める。



そこはソール恒星系第3惑星《第五地球》



《お帰りなさいませ。シロボン艦長》


サポートキャラクターのミルフィーユが出迎えてくれる。


〈サポートキャラクター)

《デミヒューマン》《ビースト》《ウンディーネ》《アンドロイド》の4種類から選べる主にプレイヤーのバックアップを担当するキャラクターだ。プレイヤーがログインしていない時、プレイヤーの役職を代役してくれるキャラクター達。運営もかなり力を入れており、各種にそれぞれ数百種類のキャラクターが用意されており、性別から一人称、性格など細かく設定変更出来る為、うちの子自慢が盛んに行われていたものだ。


その中でも、《うちのミルフィーユ》は、どこかの出版社とのコラボキャンペーンの抽選で当てた特別製だ。

そして《うちのミルフィーユ》は、良く知らないが人気のイラストレーターの作品だ。

ビースト種の牛タイプ。本来、ビーストは戦闘用に動物と人間の遺伝子から作られた人造人間だが、性格はおっとりとした牛娘!

そしてなにより巨乳!いや爆乳なのであります!!


この手のキャラクターは名前などの設定変更が出来ないが、非常にレア度も高く人気があった。


それに引き替え、プレイヤーのアバターと来たら、種類は人間のみ、服や髪型、カラーリングが変更出来るだけの、がっかり仕様!


(さて。どうしたものか…)


サービス終了の告知から3ヶ月。ほとんどのプレイヤーは引退…卒業した。

多くは同じ運営の別のゲームに移動したようだ。

ただ今日は、まったく更新されていなかった掲示板も賑わっている。最盛期に比べたら、寂しい限りだが…

掲示板の書き込みも《ありがとう》《さようなら》ばかり。

(こんなんじゃ駄目だ!)


プレイヤーは《冒険者》

この世界を!この宇宙を冒険するのがお仕事だ!


〈フィンブルヴェトル〉


人類発祥の星《地球》そこで発見された謎の黒い箱。黒い箱は人類に多くの知識を与え、文明は更なる発展を遂げる。が、争いもまた絶えなかった。そこに宇宙より突如として現れた謎の生命体《星喰》により地球を追われた人類は、新たな星を求めて旅立った。

それから数千年後、《ソール恒星系》を舞台とした冒険が今始まる!


メニュー画面からストーリーを開くと、そう書いてあった。最後の最後にして、今、知りました。


(まずはギルドに行くか…)


このゲームでのギルドは《ギルド艦》と呼ばれる戦艦となっており、ギルド名は艦名として表示される。


15年の思い出の詰まった我らのギルド艦。6等級ある内の最上級ランク。LG級ギルド艦〈ヘイムダル〉白く輝く流線形の美しい自慢の戦艦だ。

年に一度行われるアニバーサリーイベントのひとつ、《最強ギルド決定戦》その第一回大会優勝報酬。優勝出来たのは、廃人揃いの初期メンバーと、参加ギルドがまだ少なかったからだが。

LG級ギルド艦は固有の艦名が付けられている。それまで使用していた艦名〈脳筋ブラザーズ〉への変更はメンバーの猛反対もあり、断念せざるを得なかった。


そんな初期メンバーも、別のギルドを作る為、リアルを優先する為と、理由はさまざまだけど、寂しいお別れをして来た。

そして何より辛いログインが止まった幽霊メンバーの追放を繰り返し、現在のメンバーに落ち着くも、終了の告知があってから、すっかりみんな幽霊メンバーになってしまった。


ギルド艦で待っていてくれているのは、彼らのサポートキャラクター達だけ…


ひとりぼっちのギルドも今となっては、珍しくもない。多くのギルドは解体され、ソロプレイヤーとして、のんびりやってる人も多い。

楽しみ方は人それぞれ。ソロプレイでも楽しめるクエストは、幾らでもあるのだから。


(駄目だ…どんどん暗くなる)

時間ばかりが過ぎていく。


(まずは宇宙に出てから考えよう)


メニュー画面からギルドを選びギルド艦に移動する。もし他のメンバーが出港させていたとしても、ギルド艦に転送される設定だ。

ただミルフィーユが、今ここにいるので出港していない事が分かる。


ブリッジに移動すると、ギルドの副長であるイボGさんのサポートキャラクター、マティーニが出迎えてくれた。


マティーニは女性体のみのサポートキャラクター《ウンディーネ》

ウンディーネは《第二地球》の細菌やウイルスへの抗体を作る為、その星のスライム状の生物と人間の遺伝子から作られた人造人間。

と、設定に書いてある。今、知りました。


今日は、特に目的もない。《第五火星》の先、小惑星帯を目的地に選び移動を開始する。


目的地を選べば、操舵手とコンピューターが移動させてくれる。プレイヤーが操作する場合は、フリック操作で細かく操船出来るが、操舵手のアさんがいない今、彼のサポートキャラクターに任せるしかない。



ソール恒星系に5つ存在するスペースコロニーの1つ、プレイヤー用コロニー《アルフヘイム》を静かに出港する。

今回の移動は〈ゲート〉と呼ばれる、ルートが固定された移動装置を利用する。

安定した移動が出来るので、サポートキャラクターでも問題ないはずだ。


ゲートを抜けると、そこはもう小惑星帯。

ゲーム!さすがゲーム!


タバコに火を付け、どうしたものかと考える。あと1時間ちょい。目的がないから、やる事がない。

と思っていたら、エネミーとエンカウント!

残り時間を考えると、撃破は難しいかも…


《NEW》


このゲームに存在するエネミーは倒せば〈星喰図鑑〉に登録される。

全3514種中ただ1種。未だ登録されていないエネミー。

出現場所は星系全体。出現確立は極めて稀。

撃破報告も2件くらいしか覚えていない。


ずっと探していた最後の1匹。

《星クジラ》

最後の最後で見つけ出した!


このゲームでの戦闘は2種類。プレイヤーやサポートキャラクターが操る〈バトルドール〉と呼ばれる人型戦闘兵器の単機、もしくは4機小隊のバトルドール戦。

もう一つは、バトルドール20機と単機で戦うエース級5機を合わせた最大25機のバトルドール隊とギルド艦でのギルド戦。


星クジラはギルド戦で戦う大型レイドボス級のエネミーだ。


だが問題が3つ。


1つ目は、時間。夜12時まで1時間を切っている。

2つ目は、火力不足。ギルドのメンバー上限数は20名。それに5名分メンバー枠を拡張出来る。うちのギルドは20名在籍しているが、今ログインしているのは自分だけ。サポートキャラクターを合わせても21名しかいない。

ギルド戦には、ある縛りがある。

バトルドール隊は前衛に4機、後衛に1機必ず配置しなければならない。

そしてギルド艦には艦長や操舵手などの特定の役職メンバーを6名配置しなければならない。

つまり、うちのギルドはバトルドールを15機しか出撃出来ない。


そして3つ目。これが最大の問題なんだが、星クジラは全エネミー中、唯一《逃げちゃうんです》

これが星クジラ撃破数の少なさの最大の要因だ。


時間もない。火力も足りない。そして運任せ。

〈頼む!誰か来い!〉…やるしかない!時間が無い!


こうして星クジラ戦がその幕を上げたのでありました!〈はよやらな!〉



ギルド戦は大型エネミーや他のギルドの戦艦との戦いに用いられるが、その最大の鍵はギルド艦の主砲による攻撃だ。

これを如何に当てるかが、問題となる。


当然相手は外殻や防御フィールドを使用し、その攻撃を防御してくる。

この外殻などは近接攻撃に弱い為、バトルドールで破壊する訳だ。


エネミー側も小型エネミーで、バトルドールやギルド艦を狙ってくる。

その攻防がギルド戦の醍醐味な訳だ。


ただ今回の星クジラは、小型エネミーを出して来ない。

それどころか攻撃すらして来ない。

一歩的に攻撃出来る訳だが…

だが…


火力が足りない…


ミルフィーユに艦長を任せ、バトルドールを全15機出撃させたが、量も足りなきゃ、質も足りない!


自分で使うバトルドールは、これもまた6等級ある内の上から2番目、諭吉2枚投入し課金ガチャで引き当てたUR級高コスト機だが、他はみな等級がさらに2つ下のSR級。

しかも低コストの量産機!


量産機のメリットはメンバー所有の消費アイテム使用にロックが掛けられる事。

その為、エネルギーなどの回復アイテムはギルドで所有している、無課金でも手に入る、しょっぱいアイテムばかり…


使用機体の変更は本人しか出来ないから、こればかりは仕方がない…


〈やるしかない!当たって砕けろじゃー!〉



(まあ…そうだよね…)

只今PM11:50

エネミーにはライフゲージが表示されないので分からないけど、多分ぴんぴんしています。

〈やっちゃうか!〉


撃破の方法には2つある。《討伐》と《捕獲》だ。捕獲器に入れて、破壊されなければ捕獲成功!

〈もうこれしかない!〉


本当は弱らせてからやるもんだが、確立は低いがやるしかない!

〈やっちゃってー!〉


ギルド艦に指示を出すと、気の抜けた発射音とともに捕獲器が打ち出される。

星クジラにぶつかると、青白い光のネットが星クジラを包み、みるみる捕獲器に吸い込まれていく。

(どういう仕組みなんだろう?)


捕獲器が揺れ、光始める!

〈お願いー!〉



捕獲器の揺れが止まり、音がなる。

何度も聞いたその音は成功の証!


《イエーーーーース!!!》


星喰図鑑コンプリート!全エネミー捕獲成功!


タバコに火を付け、また溜め息をつく。

《終わっちゃう》

抜け毛に悩んだあの時も。

《楽しかった》

彼女に振られたあの時も。

《みんなが居たから》

健康診断で尿酸値が高いと言われたあの時も!

《終わりたくない!》


“時間で〜すぅ!”

スマホのアラームが終わりを告げる。

“時間で〜すぅ!”

(終わっちゃった…)

“時間で〜すぅ!”

(明日、有休取っといて良かった。気持ちを切り替えなきゃ…)

“時間で〜すぅ!”

(みんな、ありがとう!)

“時間で〜

《はよ止めな!》


タバコの煙が目に染みる。

見上げると、そこには満天の星空。

都会でもこんなに綺麗な星が…


《はっ?》


くわえタバコのサラリーマンが、スマホ片手に宇宙空間に浮かんでいた。

(つなし) (えん)と申します。

稚拙な文章で申し訳ありません(≡人≡;)


よろしければ、ご感想など頂ければ幸いです。

よろしくお願いいたします(人'▽`)

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