七夕の夜の無駄話
「今夜雨だけど、ヒーローはどうやって怪獣が見えないのを子どもたちに説得するつもりだったのかしら?」
「先輩…普通そこは織姫と彦星の出会いを心配するんじゃありませんか?」
いつものことだけど先輩の疑問は唐突に始まる。そしてそれに対して僕が突っ込むのもいつものこと。
「だってそれよくある話でつまらないじゃない…それに雨が降っているのは地球で宇宙には関係のない話よ」
「先輩、もう少しロマンチックにいきましょうよ…」
「あのね、べつに女の子だからってロマンチックでいる必要がないと思うわ。あなた夢を見すぎだわ」
「べつに女の子だからというつもりじゃありませんよ…それに先輩のことを小さい頃からずっと観ていますからそういった幻想は打ち砕かれましたよ」
「それはいいことだわ」
「よくないですよ」
僕はため息をつくしかなかった。
僕と先輩は一学年歳が違うのだけれども家が隣同士ということと、親たちが仲がよかったことからお互いの家に預けられたりと小さい頃から交流があった。いわゆる幼なじみなのだけれどもライトノベルによくある状況だけれども間違ってもああいったうらやましいものではなかった。普通なら幼なじみを起こすのは女の子が定番だけれども、自分の場合は先輩を起こしに行くのである。いくら幼い頃からの付き合いがあるとはいえ高校生にもなって女の子の部屋に起こしに行くのをとがめない先輩の両親に関して苦笑いすると同時にそれだけ自分のことを信頼しているんだとうれしく思う気持ちはある。
それと同時にちょっぴり寂しさも感じるのだけれども…
今日は七月七日、いわゆる七夕の日である。僕の両親も先輩のおじさん、おばさんもそういったイベントが好きで今日のように七夕や節分といったイベントに力を入れて楽しむ人だった。それは先輩も同じで今回も笹を準備したり短冊を書いたりと前準備は万全だったのだけれども、予想外の雨だった。
といっても親たちは多少はテンションが下がったものの、それはそれで楽しんで今では階下(毎年交代で今年は先輩の家だった)でお酒を飲んで愉快に時を過ごしていた。
そして僕と先輩は酔っ払いに絡まれる前に先輩の部屋に逃げ込んでいた。
開けた窓からは涼しい風と同時に、雨音が響いていた。夜空には黒い雲が一面に敷き詰められていて星はその姿を隠しつづけていた。多少雨粒が窓を通して部屋に入ってはいたものの、ほんの少しだけで先輩は窓を閉めたら息苦しいということで窓を開けていた。
部屋の中は窓から流れる風と扇風機だけで充分に涼しく、それと同じように先輩の部屋は居心地がよかった。先輩はベッドに仰向けに寝転がって窓の外を眺め、僕はその近くの座布団に座り学校の宿題をしていた。まったくもってロマンチックな雰囲気はなく、そもそも先輩の部屋自体ごちゃごちゃと色々なものが並んでいていわゆる「女の子」という要素はあまりなかった。けれどもだからこそ僕は居心地よくいられたわけで、たまにある女の子要素を見つけるとドキッとなってしまうのである。
「そういえば短冊には何て願い事を書いたの?」
先輩の話題はあちらこちらに飛んでいって、それに着いていくのは大変なのだけれども僕はそれを楽しんでいた。
「いつもと同じように一年と平和と健康ですよ」
「代わり映えしないわね。こうもう少し何かないの?女の子とドキドキハプニングにぶつかりたいとか世界征服をしたいだとか」
「先輩最初のは自分の欲望ですよね?それに世界制服っていうのも」
「わたしがそんな子どもっぽい性格に見える?」
「充分に見えますよ…って、これ以上話をつづけても先が見えないから終わりますけれども、先輩は何て書いたんですか?」
「わたしもあなたと似たようなもので、今年一年を楽しく過ごせるようにって書いたわ。さすがに来年は受験に入るから今年は特に楽しみたいのよ」
「受験っていっても先輩はそのあたりべつに不安はないと思いますけれどもね」
普段の様子からは想像がつかないけれども先輩は学園でもトップを争う優秀さで、すでに今の段階であちらこちから色々な誘いを受けていると耳にしていた。本人の言葉通りに今を楽しみたいことと、これは本人の口から聞いたのだけれども今ピンとくるものがなくてどれも断わっているそうである。もしもその何か響くものがあればどうなるかわからないそうだけれども、その何かが早く見つかればいいなと思うと同時に、それが長引けばいいとも思ってしまう。
そんな自分のわがままと身勝手さに自己嫌悪してしまう。けれどもそんな様子を先輩に見せるわけにはいかなかった。
僕は今の先輩との距離感と付き合いに満足していたし、何よりも幸福だった。それこそこの時間が永遠につづけばいいとも思っていた。だけど、悲しいことに時間は過ぎていき状況はめまぐるしく変わっていく。現に僕が先輩に抱く気持ちは昔とは変わりつつある。その変化がいつからなのかはもうわからないし、気がつけばそうなっていた。とはいえそれは恋というのも違っていた。そのまま進んでいけば恋になるのだろうけれども、今はその途中だと僕は思う。そもそもそれが恋の種なのかどうかすらわからない。はっきりいって今の僕の気持ちは宙ぶらりんでよくわらかないものだった。
ずっとつづいていた雨音が少しずつ弱まりやがて雲はゆっくりと千切れていった。
「あ、星が見える」
先輩の指差す方向には雨でぼんやりしていたものの、たしかに星が見えていた。やがて雨のカーテンはだんだんと薄まりはっきりと星はその姿を現した。
僕の悩みもそういう風にはっきりとなくなればいいのにと思った。
そして僕は心の中で願った。この時間が少しでも長くつづきますようにと…
冒頭に触れているある特撮番組と今日の雨の日の雨が結びついて出来上がった物語です。
ちなみに今回登場する二人は以前個人的に書いたことのある物語のキャラクターが原型となり、気が向けばこの二人の物語を書きたいと考えています。




