7話
こ、これが朝ごはんなのか。
結局読めなくなっていた文字の解読や、それとはべつの小説を読んだりと、なんだかんだで暇することなく一夜を乗り切り、またやることがなくなってきたなと思い始めていると、いい匂いが階段を駆け上がってきたのだ。
「なんてこった」
「あの後、暇は潰せた?」
「おかげさまでな」
台所から味噌汁をお盆に乗せて出てきた、エプロン姿の蛍に言葉を返しつつ、意外と家庭的女子であったことに驚く。
純和風の食卓を見て真っ先にある疑問が浮かぶ。
「どこで食材を手に入れてるんだ? 自家栽培?」
「もちろん買ってるんだよ」
当たり前のように蛍は言った。
まあ確かにそれが当たり前ではあるのだが、どうやってお金を手に入れているのだろうか。も、もしや偽札を製造……。
「ちなみにお金はどうやって」
恐る恐る尋ねるが、朝からよくそんな笑顔を浮かべられるものだと感心したくなるような笑顔を浮かべ蛍は答えた。
「日本のサンタクロースを統括する人たちが毎月くれるんだよ」
「現金?」
「現金」
ということはこの家の中にはそれなりの額の現金が眠っている、ということか。
思わず目を凝らして怪しいところがないか調べるが、これといってめぼしい物は見当たらない。
「昨日奏さんが新しいサンタクロースを雇った、って報告しに行ってたから、来月からは雫君の分も貰えるね」
「今月はただ働き?」
「もちろん。でももう十二月二十日だしすぐだよ」
すぐとはいえまだ十一日も残っている。というか、正月休みも貰えないのか。年中無休一時間営業。一時間とはいえやってることがあれだけ危険なんだし、週に一回は休みが欲しかった。
「もうそんな時期か、早いのぉ」
「おはようございます、奏さん」
「おはよう」
大きなあくびをした後で、奏は悪戯を思いついた子供のような表情を作り、そして言った。
「そろそろあの時期じゃな」
「そうですね」
「なんだよ、なにかあるのか?」
「それは、当日までの秘密だよ」
「そうじゃな、まだ知るべきではないの」
二人は示し合わせたように同じタイミングでニタリと笑った。別に知らなくても何の問題もない、くだらないことだと決め付け高をくくった。
「午前中は何してれば良いんだ?」
「んー、そうだな。好きにしてていいよ。十二時にちゃんと来てくれれば。ただ、暇なら買い物に付き合ってくれると嬉しいな」
「買い物か、じゃあワシも付いてゆくぞ」
「じゃあ二人とも、荷物持ち、よろしくね」
「老婆であり幼女であるワシに荷物持ちとは、ちと酷いのではないか」
蛍から視線をはずし、明後日の方角を眺めながら荷物持ち回避のための言い訳を並べていく奏を見習い、同じく俺も言い訳を並べていく。
「俺はそもそも行くって言ってないしな。それに体中筋肉痛だし」
「二人とも、早くご飯食べちゃってね。二人が食べ終わったらすぐに行くから」
咄嗟に思いついた上手い言い訳は構ってもらうことさえ出来ずに、さらりと流されてしまう。
蛍は俺たちの言葉に聞く耳を持とうとせず、スキップと鼻歌交じりに台所へと消えてしまった。
「よいか、なるべく時間をかけて食べるんじゃ」
「ああ、分かってる。荷物持ちなんてごめんだ」
比較的ボリュームを抑えた会話ではあったはずだが、この会話を聞き取ったのか、もしくはなんとなく勘がそう囁いたのか、もしくはそういうことをする奴らだと思われていたのか。どれにしたって台所からこんな言葉が届いた以上変わりない。
「午前が嫌なら午後でもいいけど、どっちが良い?」
俺たちは顔を見合わせ、うな垂れながら言った。
「午前でお願いします」
「午前がよいな」
ここまで時計の針が早く進んで欲しいと願ったのは始めてかもしれない。ただ、サンタクロースとなった今本気でそう願っても、時計は正確に現在の時刻を表示し続けた。
というわけで、7話でした。
至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。