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4話

「ただいまー」

「遅かったのう」

 なぜか、サンタ衣装を着ているのを見たことがない奏による出迎えは、なぜかコーヒー牛乳片手に行なわれた。

「歩いてたからな」

「物好きじゃな」

「たまには歩くのもいいですよ。そうだ奏さん、寒くて仕方がないんですけど、明日から赤白のジャージに変更じゃだめですか?」

「若いうちは生足出しておくべきじゃよ、男も釣れるしぉ」

 チラチラとこちらを見ている老婆の幼女の視線に気付き、

「別に釣られたわけじゃないぞ」

 とだけ言っておいた。が、残念ながら老婆で幼女の奏の脳みそは腐っているということが、返ってきた言葉で知れ渡ることとなってしまった。

「そうか、おぬしは吊られるほうが好きか、なるほどの」

 何やら納得した表情でコクコクと頷いているが、何を言っているのだろうか。今の発言で周りの、主に蛍からの視線に、軽蔑の色が増していることを理解するべきではなかろうか。

「まあよい、しばらくは蛍と雫二人で行動せい」

「どうしてですか?」

「別にワシが連れまわしてもよいが?」

「蛍でお願いします。というか蛍が良いです」

 どうしてこんな、躊躇いもなく人の性癖が捻じ曲がっているという大嘘を吐けるようなやつ行動を共にしなきゃならんのだ。それこそ変なことを言われて俺の信用がガタ落ちするような危険なリスクを負う必要がある。

「そっかそっか、雫君は、ふーん。へへへ」

 ニタニタと気持ちの悪い表情で、耳をほんのりと色づけながら笑う蛍に奏が耳元でなにやら囁くと、今度は目じりを吊り上げ胸元を隠すようなしぐさを取りながら、顔を怒りの色に染め、謎の咆哮が放たれる。

「変態っ!」

 繰り出される回し蹴りが脇腹を捉える刹那、くすくすと笑う奏の顔が映りこむ。

 あのクソババァ! 余計なこと言いやがったな。

「何がクソババァじゃ!」

 続いて、背中から飛びついてきた奏によってどこにそんな力が、と叫びたくなるような万力で首を絞められる。

「んなこと、一言も」

 隙間風のような掠れた声を絞り出す。

「そんな表情じゃった」

 そんなに顔に出るほうじゃないのに、もとより口に出すつもりのない言葉を心の中でありったけの力を込めるが、そんな心の中とは違い、体はもう力が入らなくなってきた。死ぬ前兆か、もしくは単なる気絶の前兆か、川のせせらぎが痛めつけられている俺の心を癒す。

「おい、死ぬでない。死ぬでないぞ」

 心配そうな顔すら浮かべずに人様の頬を叩く奏の奥で、心配されているのかそれとも死ぬことを望まれているのか分からない、下手をすれば両方かもしれないような謎めいた表情の蛍がいる。

 ようやく開放された喉から鮮度抜群の空気を取り込み、そして同時にあの川のせせらぎは聞こえなくなった。

「ふぅ、危うく人殺しになるところじゃった」

「着替えてくる」

 やっぱり不貞腐れたままの蛍は頬を膨らませ、ぶつくさと言いながら二階へと消えていった。

 ここはまだ玄関のはずだ、それなのになぜこうも疲れなくてはならない。いや、もしここがリビングだろうが、誰かの部屋だろうが、どうしてここまでの疲労を感じなくてはならないのだ。

「まあよい、ワシの部屋に来るのじゃ」

「なんにもいいことなんてないだろ」

 愚痴をこぼしながら、一階のダイニングらしい部屋を通り過ぎ、襖を開け放ちそして和室へと案内された。

「で、どうじゃった」

「痛かった、死ぬかと思ったな」

「おぬしは馬鹿じゃの、見たんじゃろ? あれを」

「ああ、そっち」

 一昔前のかなり高い枕に左肘を付き、そして左手の上に顎を置くその姿は、結局のところ幼女だった。

 そんなくだらない物はどうだっていいな、うん。

「最初は恐怖と驚き。終盤は若干飽きて別のことを考えたり?」

 奏は目を丸くしそして口角を大きく持ち上げた。

「変わり者じゃの、飽きたじゃと? 初めてあれをみて飽きたと言ったものをワシは知らんぞ、もしやおぬしは心が持っていかれとるのかもしれんのぉ、まあどうでもよいか。ほれ」

 右手で自分の巫女装束の中を弄り、そして何かを抛ってきた。

 投げられたそれは、ついさっきまで現れては蛍の中へと消えていっていた幸運とやらだった。

「もし、人間に強い執着がないんじゃったら使うがよい」

 今右手に収まっている結晶体は、様々な色が混在していた。

「ただし、使ったらちゃんとワシの元に報告しに来るんじゃぞ。もうこれで自宅に帰るなり何なり好きにしてよい」

「よかったね」

 リビング側から顔だけを覗かせ、蛍はそう言った。

「そうじゃ、ついでによいことを教えてやろう」

「ん?」

「蛍の耳たぶの裏にはハート型のほくろがあるんじゃよ」

「どうして急に……?」

「随分と仲がよいように見えたからの、相手の秘密を知れたみたいでなんかよい気分じゃろ」

 ニヤニヤと笑う奏に反し、蛍は耳たぶを引っ張って必死に耳たぶの裏を確認しようとしている。

「もしかして……」

「どうしてそんなこと知ってるの!?」

「いや、寝込みを襲おうとしたときにのぉ」

 とんでもない変態幼女まがいの老婆だった。



 その後、送っていくよという蛍の言葉に甘え、あの跳躍力によって家のすぐ近くまで送ってもらった。超便利。

「雫君、これでもうさよならだけど、何かあったら遠慮せずに来てね」

「何かあったときに手遅れでないことを祈るよ」

「それもそうだね」

 苦笑を浮かべる蛍だったが、すぐに真面目な顔を作り、本当であるならば笑えそうにないことを言い出す。

「もし万が一記憶だったり感情だったりの一部でも欠けているようだったら、すぐに教えて何か策を考えるから」

「そんなことありえるのかよ」

「たぶん大丈夫だけど、というか昨日のことで何か、って事はないんだと思うけど一応ね」

 昨日のこと、ってことは一日近く家を離れていたわけか。まあ、どうせ心配されることはないんだろうけど。

「まあなんかあったら遠慮せず行かせて貰うよ」

「そうして。待ってるから」

 笑顔でそう言っていただけるのは嬉しいことだが、残念ながら、

「何かあることを待たれても困るな」

「あ、え? ……そ、そうだね。じゃあ何もなくても来てよ、暇つぶしがてらにさ」

 少しだけ首をかしげ、しばらく硬直の後、申し訳なさそうな表情三割増しの笑顔で言葉を続けた。

「そういう事なら行かせてもらうよ。毎日暇してるはずだからな」

「うん、待ってるよ」

「じゃあな」

「バイバイ」

 お互いに手を振り、俺たちは別れた。

 今日はまだ太陽が高い位置にある。キュルルルルル、五月蝿く泣き叫ぶ胃袋の虫たちが、まだ食事を取っていないことを思い出させた。

 虫、虫ねぇ。

 嫌なものを思い出しちゃったな。

というわけで、4話でした。

至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。

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