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3話

 それから一時間、ぴったり一時間蛍はそこから永遠と出てくる化け物共、ヘラルーケという化け物を駆り続けた。そして一時間が経つとそれ以上出てくることは無く、更にそれ以前に出てきていたやつらは自然消滅してしまう。

 昆虫型、獣型、人型、その他諸々。

「なんであんなのと戦ってるんだ」

「んー、まあ色々」

 帰り道は歩いて帰ろうという蛍の提案により、恐らく歩けばそれなりに掛かるであろう道のりを、時間を掛けて帰っている道中、一時間も色々なことをただただ見せ付けられたことへの僅かばかりの仕返しも込め、次々に疑問を投げかけていた。

「怖くないのか?」

「怖いに決まってるよ」

 その横顔はなんら変化はない。

「じゃあどうして」

「だから色々あるんだって」

「色々って?」

「女の子の色々を遠慮なく聞くなんてまったく雫君はエッチだなー」

 くすくすと笑いながらはぐらかされてしまう。

「でも、もう嘘だとは言えなくなっちゃったね」

「まあ最初から、というかあんなに高く跳ばれちゃった時点で中二病じゃ片付けられないよな」

 中二病になっただけで空を飛べるならみんな中二病だ。

「なあ、『あれ』なんだったんだ?」

「あれ?」

「あの結晶体」

 あのこの世のものとは思えぬ輝きを思い起こしながら言った。

「あれが『幸運』だよ。普通の人には何にも見えないんだけどね、ヘラルーケ含めて」

「でも、俺は見えたぞ。死ぬ前にあの化け物」

「それは……なんでだろうね」

 というか、蛍や奏は俺がヘラルーケを見えている前提で話を進めていたような気がするけど、いや気のせいか。

「なああの石を壊せばあいつらもう来れないんじゃないか?」

「壊せないんだよ、何をしても。たぶん核兵器だろうと、未来の凄い兵器だろうと」

「やってみなきゃわかんないだろ?」

「ずーっと昔からいろんな人が試してるんだけど無理なんだって。それこそ長崎にもこれと同じものがあって、核が落とされた場所のすぐ近くだったのに無傷だったらしいしね」

「全国に、あるのか……?」

「全国というか世界中だよ。それと同じで世界中にサンタクロースもいるけどね」

 世界中にある、何食わぬ顔でさもそれが当然であるかのように蛍は言ってのけた。いや、もう彼女にとって見れば当然のことで、すでにその事実を受け入れてしまっているのかもしれない。

「後は何かある?」

 顔を覗き込むようにして尋ねてきた蛍に、

「危ないぞ」

 恐らく間に合わないであろう警告をする。

「いたっ」

 まあ当然のごとく目の前に迫っていた電信柱に頭をぶつけてしまう。

「どうして言ってくれないの!」

 たんこぶでも出来てしまったのか、頭を撫でながらむくれ顔で回し蹴り(まったく痛くないが)を腰に綺麗に決めてきた。

「警告はしただろ」

「手を引いて止めるとかあったでしょ」

「まあまあ、あんまり怒るなって」

「怒ってないよ!」

 明らかに怒っている声の強さと、頬の赤さとを隠そうともせずに怒っていないと言い切れるとは……。

「そうかい」

「そうだい。で、まだ聞きたいことあるんじゃない?」

 機嫌が悪そうなまま蛍は歩く速度を少しだけ上げて、やっぱり機嫌がいいとは言えない声の強さで言った。

「そうだなぁ、どうしてサンタクロースってだけで刀が急に出てきたり、空を跳んだり出来たんだ?」

 これも驚いたとしかいえない現象だ。特に後者は人間業とは思えない。

「わたしがこんな格好でいて誰も気に留めないのと一緒だよ」

 こんな格好?

 赤地に白の誰が見たってあれ以外には見えないその格好。まあ確かに、ミニスカサンタが街中を歩いていたら誰だってチラ見位はするものか。しかしながら誰一人気に留める様子はない。

「ね? サンタクロースは、人の意識に止まらないんだよ」

「じゃあ俺は独り言をべらべら喋る変人みたく映るってことか?」

「雫君は中途半端に人間だからね、ずっと独り言を言ってるけど、あんまり気にされてないよ」

「俺はサンタじゃないのか」

 と言うと同時に、ずっと独り言を喋ってるって結構やばいやつじゃん。と思わず辺りをきょろきょろと見回すがどうやら本当に気にされていないようだ。それはそれで無視されているような気になって少し寂しい。

「そうだよ、サンタになりたかったら、これを食べないと」

 そう言って差し出されたのは蛍が幸運と呼んだ結晶体だ。そしてそれは俺のものではなく、あのヘラルーケの中から出てきたものだろう。もとい、どこかで生きていた人のものだろう。

「持ち主に返してやれよ」

「それは出来ないんだよね。出来るならしたいけど」

「どうして?」

「そもそも誰のものかわからないし、奪われてからすぐじゃないと、別の人のものと融合しちゃって個人のものを取り出せないから。だから雫君は運がよかったんだよ?」

「運がよかった、ね」

「うん。それと、刀のことだけど、あれはわたしの持ってる幸運の力を使ったんだよ。空高く跳べたのも力を使ったから。イメージするとなんか出来ちゃうんだ、サンタはみんなそうだよ」

 サンタクロースはその幸運を自在に操って戦える、ということか。そしてヘラルーケから回収した光輝く結晶体、幸運を取り込むことで戦う最中で消費した幸運を回復する。

 要するに行き場のない幸運をMPの回復薬として使っているわけか。

 ふむふむ。

「そうだ、たぶん家に帰ったら奏さんの激しい勧誘があると思うけど、嫌だったらはっきりと断ったほうがいいよ」

 断っても中途半端な人間として生き続けるだけだけど、蛍はそう続けた。

 きっと、いや絶対にサンタになるべきなのだろう。毎日一時間だけとはいえ恐怖に晒され戦い続ける二人に命を救われた恩を返すためにも。ただ、俺にあんな化け物と戦えるのか? たとえ力を得たとしても、怖気づかずにいられるのか?

「そうだ、もう一つ聞きたいんだ」

「何?」

「いつ、お前はサンタになったんだ?」

「よく覚えてないんだよね。たぶん七歳とかそのくらいに死んじゃったんだろうけど、全然思い出せなくて……」

 七年前、それってあの女の子といた俺と同じくらいの年か。

 いや、断定はよくない。記憶がはっきりとしていないんだから。

「すまん、もう一ついいか?」

「どうぞどうぞ」

「なんでサンタが戦うんだ?」

「そういうものだからじゃない? でも、なんでだろうね」

 蛍には分からないのだろう、なんでサンタが戦っているのかなど。むしろ、今始めてそんなことを疑問に思った――みたいな風だったから、恐らくそういうものだと奏に言われてきたのだろう。それでも疑問に思わなかったというのは、いささかあいつを信用しすぎじゃなかろうか。

というわけで、3話でした。

至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。

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