24話
「どういうことだ」
俺が見たもの、蛍が見たもの、それらを手短に話し終え俺は言った。
なるべく感情を抑えつつ隠しつつけれど、完全に感情は殺し切れないようで、わずかばかり口調は強くなっていた。
「なんであの場にいた」
落ち着いて、語りかけるようなそんな声を必死に出してのにもかかわらず、奏は反応しようとしない。あくまで俯いたままの姿勢を貫いている。
「おい!」
声を張り上げても、ピクリともしない。
「どうしよ……」
蛍は散々なだめてようやく泣き止んだのだが、泣き止んだらなき止んだで頭を抱えて唸ってばかり。俺が大声を張り上げたにもかかわらず、一切反応を見せない。周りのことなど目に、耳に入っていないのだろう。全部脳を経由せずにどこかから漏れ出してしまっているに違いない。
「蛍――おい蛍!」
やっぱりだ。絶対に脳みそまで声が届いてない。
ずるい。
ずる過ぎる。
俺だって……。
泣き叫んでみたかった。
黙りこくってみたかった。
けれどそんなことをしている場合でないことは重々承知していた。というよりか、俺のやりたいことは既に二人によってやられている。人が焦っているのを見ると、自分はむしろ落ち着いたりするらしいが、まさにそれだろう。二人とも普通じゃない。普通の精神状態じゃない。何をするにしたって、何をしようとしたって、この二人は自ら動くことをしないだろう。確信と言っても良いほどに、そんな予感がしていた。
「おい、何か方法はないのか?」
「……」
「……」
「なあ」
先輩二人は答えてくれない。
なるほどつまりは二人とも方法など思いつかないと、そういうことらしい。もっとも、聞こえているか怪しいが。
涙が地に染み渡る音が、頑として声を出さない静かな呼吸音だけが、脳内に響いてくる。そしてそれらは焦りも、怒りも、沈めてそして落ち着きと、平静だけを俺にもたらした。
目を閉じる。世界から光が奪われた。
「ふぅー」
肺の中の息を全て吐き出していく。ゆっくり、ゆっくりと。
「すぅー」
肺の中いっぱいに酸素を取りむ。しっかり、確実に。
「ふぅー」
もう一度肺の中から空気を吐き出す。平常運行の妨げになるものと共に。
「よし」
瞼を持ち上げると、眩しい光と共に世界が視界いっぱいに広がっていった。
今なら世界の全てを見渡せるような気がしてならない。
んー、すばらしく気分がいい。いや、決していいことがあったわけではないが、何もかも思い通りに出来るんではないかと思えるくらいだ。
「二人とも、いい加減にしてくれ。奏、家に帰ってから話は聞かせてもらう。ただ、泣いても全部話し終えるまで許さないから覚悟しとけよ」
「う、うむ」
急に声が軽くなったことにでも驚いたのだろう。思わず顔を上げて、声を上げていた。しかし、しまった――みたいな顔は今晒したところで何にもならない。
「蛍、ボケッとしてないでしっかりしろ」
どうせ聞こえないだろうことを考慮して、両手で蛍の顔を挟み込み、顔を俺のほうを向けて固定させた上で言った。
「わあぁぁ!」
何をビックリしたのかよく分からないが、まあ蛍も覚醒した。
よし、次は方法を考えよう。
サンタクロースとして、願われた物(この場合は行為だが)をプレゼントする方法を。
「雫君、きゅ、急に積極的――だね?」
「何言ってんだ?」
変な勘違いをしている蛍は置いておこう。真っ青だった顔が真っ赤になるくらいには覚醒したということで深くは考えずにいよう。きっと深く考えたら俺までダメージを被ることになる。
「さぁ、考えるぞ。俺たちがサンタとしての、最大の、最初の、本来の役割を果たす方法を」
サンタクロースは、子供たちにプレゼントを配っているものだ。
だから俺はプレゼントをしようと思う。余計なおせっかいかもしれないが、サンタとしての仕事を遅ればせながら遂行するだけの話だ。
助けてという願いならば助けるし、来年もクリスマスを迎えたいというのならば迎えさせてやろう。
本来、死んだ人間に手を施すなどするべきではないだろうが(もちろんヘラルーケという例外はあるが、今回は例外ではない。単純にここが寿命だったのだろう。ということはおそらく、必要以上に俺に幸運を譲渡したわけだ)幼馴染のよしみとして、命を救われた恩返しとして、少し遅れたプレゼントを贈ろう。
「二人とも、いいか?」
というわけで、24話でした。
至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。




