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2話

 管理人、として紹介された幼女は人の顔を見るなりきまりの悪そうな表情を一瞬見せたが、即座に偉そうな態度をとり始めた説明によると、サンタの起源とされた聖ニコラオスも蛍や管理人と同じ存在であり、投げ込んだコインが~という話は『幸運』を人の体に投げこんだ、を歴史の中で改ざんしたものだ、とかあれこれと長い話が続き、結論としては、

「この天才美少女奏ちゃんの超大先輩がサンタって言われておるから、奏ちゃんとか蛍とか他の人もまあ雫ちゃ、雫もこれからサンタになるのじゃ」

 腰に手を当て偉そうにあれこれ語っているまではよかったが、さらっと人の名前で遊んだ件を見逃したわけではないと言うことを思い知らせてから、話の続きをしよう。

「蛍、この幼女はなんだ?」

「こ、こら、ワシは幼女ではない。天才美少女奏ちゃんじゃ!」

 ぴょんぴょん飛び跳ねながら必死に蛍と俺の視線の高さに割り込んでこようとしているが、まったく映る気配の無い幼女に勝ち誇った気分になりながら、蛍の言葉を聞く。

「ここの管理人さんで、もうそろそろ七七七歳なんだって、昨日自慢してたよ」

「蛍、裏切りおって。許さんぞ」

 拳を構えて武力制裁を加えてやると、威圧しているが身長や幼すぎる容姿も合わさり、子供がヒーローの真似事でもしているような可愛さが滲み出る。

「おばあちゃんか」

「違うわ! わしは天才美少女奏ちゃんじゃ!」

 そんな見た目幼女のご老人は驚くべき反応速度でつっこんできた。

「おばあちゃん、見た目は小学生みたいに若いのにな」

「何じゃ? 惚れたか? この姿に惚れたんじゃな?」

「えっ、ロリコン……」

 蛍の演技力が妙に高いことに驚きつつ、というか本気かもしれないという可能性を見てみぬ振りをして、

「もう少し見た目年齢を重ねてください、お願いします」

 即効でロリコン疑惑を叩き潰し、深々と頭を下げる。

「それは無理じゃのぉ、どうやって見た目年齢をいじるのか忘れてしまったわい」

 もしや、と蛍にも視線を送るが、両手を激しく横に振って否定した。

「違う違う、わたしは本当に中学二年生、十四歳だから」

 これで実はおばあちゃんでした、なんてことがあったら俺は無言で首を吊っていたことでしょう。

「で、雫よ、どうするんじゃ」

「中二病に付き合うのも飽きたし、そろそろまじめな話をしてくれ」

「だから! 中二病なんかじゃなくて、全部本当の話」

「はぁ」

 ため息がこぼれてしまうのも仕方が無いと言うものだ。何だって俺はこんな中二病連中に付き合わなきゃいけないんだよ、そろそろ家に帰って――も何もすることないな。そういえば数学の課題が……。

 いや、そんな物はなかったんだ。窓から入ってくる日の明るさから見ても絶対にもうお昼だしね。うん、きっとあの課題は今日提出だったね。

「好きにするがよい。しばらくすれば本当のことかどうかも区別が付くじゃろう」

「奏さん、そんなことでいいんですか」

「よいよい、蛍じゃって最初は泣いて喚いとったしの」

 蛍は耳を赤く染め一言も発しようとはしない。つまりは事実ということか。

「じゃあ、俺は帰らせてもらうということで」

「何を言っとる。帰ってもいいとは一言も言っとらんぞ」

 早足に立ち去ろうと四畳半の部屋の、俺のいる位置の対角線上にある扉に向けて歩みだしたが、奏という自称天才美少女の七七七歳、幼女の手によってしっかりと手首が捕獲され、一歩進んだ程度で足を止める破目となってしまう。

「雫君、そんな中途半端な状態でわたしたちから逃げようなんて、そんなことはさせないよ」

 気付けば奏によって捕獲されていた手首とは反対の手首までもが蛍によって捕獲され、完璧に逃走劇は失敗に終わってしまてっている。

「まあまあ、そう焦るでない」

「そうだよ。ただの空想か、それとも真実か、確かめてからでも良いんじゃない?」

 二人の少女(一名幼女で老婆)は不敵な笑みを浮かべた。そして二人はまったく同じタイミング、トーンで同じ言葉を発する。

「「そのままじゃ、自ら食べられにいくようなものだよ(じゃよ)」」

『ジリリリリ、ジリリリリ』

 十二時五分前、この家のどこかから目覚ましの音がなった。

 まったく、こんな時間に目覚ましってことはそこそこの夜型人間がいるのだろうか。

「ん、早いの」

「さ、仕事仕事」

 さっきまでの、俺の動きを止めるほどに凄みを持った視線や空気はどこかへと消え去り、そしてまた別の緊張感が部屋に漂いだす。

「今日はわたしが南側ですね」

「安心せい、ワシがいる以上北は完全死守確定じゃ」

「分かってますよ」

 二人は、俺の存在を忘れてしまったかのように話を進めている。仕事? 南? 北? 完全死守? わけが分からない。これも中二病の一貫なのだろうか? それとも本当に……?

 いや、ありえない。現実にあんなものがいるわけがない。あれは真冬に現れた幻覚だ。きっと寒さで変なものを見ただけだ、そうに決まってる。そうじゃなきゃおかしい。この世界は神も仏も悪魔も妖怪も魔法も超能力も存在しない。

 正真正銘俺の知っている同じことを繰り返すだけのつまらない世界だ。

「雫君、君はわたしと来てね。良いですよね? 奏さん」

「よいぞ」

「ありがとうございます」

 蛍は俺の手を引き、この部屋の窓から体を乗り出し、窓枠をけり飛ばす。どうやらこの部屋は二階にあったらしく、下にはそれなりの高さがある。どうしたって怪我を回避できないだろう。そんな俺の考えを、蛍は、いや奏も含め世界は裏切った。

 次の瞬間いた場所は僅かばかり孤を描く世界の輪郭を捉えられるほどの上空だった。

 手を伸ばせば雲に触れられそうで、地上を見れば何もかもがミニチュアサイズで、そんな場所で体いっぱいに風を浴びている。流石に真冬なだけあってとても寒いが、しかしそれでも言いえぬ喜びが寒さを緩和させる。

「向こうに着いたら、絶対にわたしから離れないでね」

「あ、ああ」

 この会話によって今いる場所は改めて把握する。そう、上空。それも雲に手が届きそうなほどの、しかも一人の少女によって手を引かれているだけ、そう考えただけで世界がひっくり返るほどの驚きと恐怖とそして少しばかりの感動を得た。蛍が手を離しただけでおそらく俺は地上へと落下していき、そして死亡する。

 そんな姿を想像すると(この高さから下を見下げるだけで十分だが)、男の大事なものが引っ込むような独特な感覚を味わうのだが、蛍には絶対に理解できない感覚だろう。

「絶対に手、離すなよ」

「どーしようかなー」

 悪戯な笑みを浮かべ、俺を掴む手の力を僅かに緩める。

「おい、冗談じゃねぇからな! 絶対に離すなよ!」

「フリ?」

「ここで離したら化けて出るぞ!」

「こわーい、こわい」

 笑顔のままでそんなことを言われると、本当に落とされてしまうんじゃないだろうか、と嫌な考えが頭を過ぎるが、そんなことは考えないでいよう。もし落とされたら何が何でも道ずれにしてやればいい。

 いや、世界の道理を捻じ曲げてでも化けて出てやる。

「でも、眺めはいいよね」

「眺めだけはな」

「この世界に化け物がいるとは思えないよね、本当に」

「俺は嘘だと思っているけどな」

 そろそろ、中二病説は厳しくなってきたと感じる。なにせ今空を飛んでいるんだから、長らく人間が望んできたこと、それを何も使わずに現実に叶えてしまっている。それだけではない。あの時確かに見た、物語に出てくるような化け物を。

「でも、もう信じなきゃだめだよ。ほら」

 徐々に降下を始めながら、蛍が視線を送る先には人二人分ほどの大きさの石が置いてあった。しかも人気のなさそうな、夜になったら肝試しなんかにはもってこいの雰囲気を放つ場所においてあった。

 一応道路がすぐ横にあることにはあるが、絶対に人が通ることはないだろう。

「いつ置かれたのかも、どうして置かれたのかも、誰が置いたのかもわからない石。でもね、なんであるのか、それだけは分かってるんだよ」

 石がこちらに向けている面は何かで研磨されたかのように艶やかで、思わず手を伸ばしたくなるほどだ。しかしながら、そんな気はすぐに失せることになる。

 石の表面に、突如として波紋のようなものが広がっていったのだ。次第にそれは石の艶やかな面全てにいきわたり、そして七色に輝きだす。しかし、七色の光は心奪われるような美しいものではなく、心を容赦なく襲う恐怖そのものと言っても良いだろう。『何』とは表現できないが、ただただ背筋を這うような恐怖。体中を縛りつけ、じわりじわりと喉もとに手が掛けられていくようなねっとりとした恐怖。

 冬だというのに嫌な汗が頬を伝い、地面に小さな染みを作り出したとき、

『キーンコーンカーンコーン』

 あまりに場違いな十二時の鐘が鳴り響いたのとそれは同時だった。七色に光り輝く石の表面が浮き上がり、体を半分ほど出したかという頃居合いになって、動かぬ体を突き刺すような鳴き声が響いた。

『ビェェェェ』

 俺が見たあれとはまた違う姿の、どちらかといえば昆虫てきなフォルムのそれは、次の瞬間、空中に飛び上がっていた。

 昆虫、もっとも近いものでいえばカブトムシ、それを人間サイズまで大きくして、凶暴性を引き上げ、体色を赤黒い、それも様々なものを飲み込んでしまいそうな深い黒さを孕ませたもの、といえばいいのだろうか。

 ただ唖然と飛び上がったそれを見ていたのだが、カブトムシのようなそれ、確か名前をヘラルーケというバケモノは俺を見た。

「ひっ」

 思わず情けない声を出し、腰から思いっきり地面に崩れた。

 目、目がこっちを見たのだ。青く、鋭く、仰々しいその視線に俺は倒された。圧倒された。

 次に起こったことは言うまでもなかろう。俺に向かって、鋭い角を向けて空気を切り裂いて向かってきたのだ。


 死んだな、こりゃ。


「は、はは――」

 力なく、恐らくは引きつった笑い声を零した。

 しかし、真上から襲い掛かるヘラルーケが、気が付けば真っ二つになっていたあまりの勢いに、何が起こったのかまったく分からなかったが、蛍の手に日本刀が握られていて、それが抜刀されていればもうそれだけで説明は十分だった。

 そして切り裂かれたカブトムシ型のヘラルーケは、淡く発光しコンマ数秒でその体を四散させた。

 四散した体の中からは、温かそうなそして冷たそうなけれど愛おしい光を放つ結晶体がゆっくりと降下してくる。

というわけで、2話でした。

至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。

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