第4章 序
【第四章 0】
四年ほど前、父の書いた手記を読んだ。
遺品の中にあったそれは、日記と呼ぶにはあまりにも日付がとびがちで、やはり手記とするのが妥当だろう。
実に父らしい、ズボラでいい加減な日々の記録だった。
最後の頁にあった日付は、父が事故死する数日前。
なにやら罪を悔いたり一人息子を気遣ったりと忙しい内容だったが、結局、彼はそれらを果たすことなく逝ってしまった。
無念だったろうか? ……などと無益なことを考える余地もないほど、呆気ない最後だったと聞いている。当時は新聞やラジオが騒ぎたてたその事件も、発電所の閉鎖と共に風化して、今は記憶に留めている者などほとんどいない。
事故に巻き込まれただけの個人の死など、たとえ英雄だろうとそんなものだ。
母は僕が三歳の頃に亡くなっていた。よって顔もうろ覚えだ。写真の中で微笑む女性が母親だという実感は、どうしても薄くなる。
父も仕事でよく家を空けていたので、親という存在の認識が希薄なのかもしれない。
親に代わり、幼少期から奇人の研究者の元で異能や生きるために必要最低限の知識を学び、武術も紹介された三人の師に教えを乞うた。血を流し、骨を折ることが常な生活だったが、それなりに充実していたと思う。異形の細胞ごときに屈するのは死ぬほど嫌だったので、重傷ていどで済むなら是非もない。
そうして十一の時に父が死に、己の実績を示して爵位を継いだ。
性格もその頃には完全に固定されていたから、周囲の反応などまるで気にならなかった。
やがて、『偽石』の実害が明らかになり、特務機関の仕事を請け負うようになる。
可も不可もなく。ただ生きるために盗み、元人間の化生を殺す。
――そんな生活が、ある日、一人の少女を気まぐれに助けたことでガラリと色を変えた。
必要以上の面倒事を抱える時間は、今まで感じたことのない温度を有していた。
煩わしく、騒がしい。苛立ちと奇妙な感情を内包する日々。
けれど、それもいよいよ終わりだ。
別れを前に思うことも特にはない。
――『傲慢』を持つ人間の最期なんて、とっくの昔に決まっていたから。




