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第1章 序
【第一章 0】
この雨は、いつになれば止むのだろう。
天から地に、空から土に。タテに、ナナメに。絶えず、降り注ぐ。
ここには屋根があるはずなのに、雨粒が途絶える気配はまるでない。
何時までも、いつまでも、私の前だけを通り過ぎていく。
最初は目に見えるだけだった。でも、気がつくとソレを触れるようになっていた。
温かくも冷たくもない。ただ、触れることができるだけ。
赤い、紅い、上から下に降り続く光の線。
お母さんなら、この雨の止め方を知っていただろうか?
……きっと、知っていたのだろう。
お母さんは何でも知っていたから。
美味しいアップルパイの作り方も、可愛いフェルト人形の作り方も、空の飛び方も、全て。
たぶん、知らなかったのは――「墜ちた」ときの対処だけ。
帰りたい。懐かしい、あの家に。
このお屋敷には、私の居場所なんてひとつもないから。
会いたい。
大好きなお母さんに。
大好きだった、お母さんに。
今すぐ。
――あいたい。




