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第3章 3話

【第三章 3】


 帝国の冬は灰色だ。

 大陸の北西部に位置する国家。この季節になれば、湖の水が凍り、野生の動物たちは栄養を蓄えて長い眠りにつく。

 例年通りなら大地を覆うはずの大量の雪は、しかし、今年が暖冬のせいかまだ降っていなかった。

 街角に設置されたラジオが異常気象と騒ぎたてるのを、リヒトは興味もなく聞き流していた。

 どうでもいい。心情を表すなら、その一言に尽きる。

 元々、感情の起伏は乏しい方だ。何かを切実に望んだことも特にない。まるで機械みたいだ、と弟にもよく笑われた。

 よく似た容姿の双子の片割れ。同じ赤髪とエメラルドの瞳を持って生まれた半身のことを、さっきからよく思い出す。

 丁度、ターゲットの使用人である少女を廃工場に連れてきた時からだ。彼女たちの間に共通するところはあまりない。性格なんて正反対といってもいいくらいだ。

 なのに、どこか似ている。

 強いて挙げるなら、その眼差しか。

 あまり気が強いタイプとも思えないのに、やけにはっきりと意思を主張する緑の瞳。

 そこに浮かぶ鮮やかな光が、感情表現の豊かだった少年の面差しと重なる。

 ずっと一緒にいようと約束して、先にいなくなってしまった最愛の弟。この世にたった一人だけの血を分けた家族。

 彼の行動原理はいつでも「怒り」だった。その本質にふさわしい火焔を、弟は身の内に秘めていた。

 なぜ、いなくなってしまったのだろう。

 死を選んだ彼が何に腹をたてたのか、リヒトには分らない。

 ただ、同じ様に弟の激情をなぞっていれば、いつかその答えに辿り着くのではないかと。

 ……今は、そう思う。


 廃工場の鉄扉を僅かに開けると、中には奇妙な空気が流れていた。

 まるで葬儀のあとのような。湿っぽくて、じっとりとした気配。

 見れば、拉致した使用人の少女の目元には泣き腫らしたような痕がある。

 仲間たちがなにかしでかしたのかと思ったが、そういうわけでもないようだ。

 弟が拾い集めてきた彼らは、善悪という物差しを抜きにすれば情の篤い人間だった。一般論的な悪人ではあるが、弱者をいたぶって愉悦に浸るタイプの下衆ではない。

 だからこそ、弟は彼らと共にいることを選んだのだと思う。

 ……しかし、それなら何が起きたというのだろう?

 状況を理解できないまま、リヒトは扉を開け放った。鉄の錆ついた大きな音が鳴る。全員がビクッと肩を震わせて入り口の方を向いた。

「どうした?」

 帰還の挨拶もなく、集まった仲間たちに尋ねる。

 その問いに応えたのは、少女の正面に立つフォーゲルだった。

「いや、なんつーかさ……コイツのこれまでの話を聞いてたら、それなりに苛酷な人生おくってやがんなーと思ったっつーか、なんというか……」

 珍しくフォーゲルの歯切れが悪い。

 やけに遠回しの説明だったが、リヒトはそれだけで事情の大部分を把握した。

 つまり、彼らはそこの使用人の少女に同情したのだ。

 彼女が普通の良家の子女ではないことなら、リヒトも早くに気付いていた。荒れた爪や指先など、屋敷の下働きだけでそうなったわけではないだろう。あれは、農耕や漁業などの仕事に長く携わっていた人間の手だ。

 近しい境遇の者と出会って、自身の過去と重ねたか。

 実際、リヒトも彼女に弟の面影を見たので何ともいえない。

 息を吐きつつ、躊躇うこともなく言った。

「……やめるか?」

 静かな声が、やけに大きく響いた。きっと乾いた空気のせいだろう。

 誰も口を開かず、薄汚れた工場に漂う気配が強張る。

「嫌なら言ってくれ。私も、無茶を言ってる自覚はあるんだ。弟の仲間だったお前たちに無理強いはしたくない」

「ナニ言ってんだ! リヒ姉だって仲間だよ! アンタやアーベントがやるっつーなら、おれはどこへでもついていくんだ! ……でもさ、コイツが慕ってる貴族って、そんな悪いヤツじゃないかもしれない。なあ、今からでも標的は変えらんねェのか?」

「それは不可能だ。もうナッターはこちらに向かっているだろう。今さらシュタインベルガーだけを帰すわけにはいかない」

 きっぱり否定の意思を示すと、フォーゲルは悔しそうに歯をかみ締めた。

 彼は良くも悪くも真っ直ぐな人間だ。生まれ育つ環境さえ間違えなければ、きっとこんな場所にはいなかった。

 故に、よく回る頭と豊富な知識で悪行を正当化するナッターと折り合いが悪い。

 彼に言わせれば、それは責任逃れになるのだそうだ。

 伯爵を最初の標的と定めたのもナッターだ。そのことも含めて気に喰わないのだろう。

「私の目標は貴族を全滅させることだ。伯爵を殺すのも、遅いか早いかの違いでしかない。フォーゲル、意に沿わないなら退いてくれ。馬鹿な女の我が儘につきあって、お前まで危険をおかす必要はないんだ」

「ふざっけんな! おれがリヒ姉を見捨てるわけねェだろ!」

「フォーゲル……」

「いいか! たとえテメェが出てけっつっても、おれは意地でもここを動かねェからな!」

 吐き捨てるように言い放ったフォーゲルは、そのまま振り向きもせずに隅の方へと歩き去る。乱暴な物言いだが、それが彼なりの気遣いであることを知っていた。

 どうやら他の者も意見は同じらしい。誰も何も言わないまま、各自の持ち場へと散っていく。

 後には、沈黙した使用人の少女とリヒトだけが取り残される。

 小さく溜め息を吐いたリヒトは、ふと、自分を見つめる翡翠の瞳に気がついた。

「……なんだ」

「あ、い、いえ……その、ひょっとして、悩んでいらっしゃるのですか?」

 おずおずと使用人の少女が尋ねる。

 犯罪者が相手でも、彼女の丁寧な口調は変わらない。なんとも奇妙な性格だ。自分の置かれた状況を理解できているのだろうか。

「悩んでなんかいないよ」

 他愛もない問いかけを、一言の元に切って捨てる。

 視線を工場内の一点へと向けたリヒトは、自分にとって譲れない思いを口にした。

 ……そう。これだけは、何があっても手放さない。

「私は『怒り』を引き継いだ。あの子が憎んだものは――私が全て焼き尽くしてやる」


                 ◇


 市街地に吹く冬枯れの風は、日が傾くごとにその冷たさを増していく。

 突き刺さるような寒気が漂う中、フロックコートを纏ったレオンは、先を行く軍用の外套を見据えて裏路地を歩いていた。

 ポケットに入れた手にはカサカサとした感触。出がけに、侍女から渡された小さな紙片だ。

 無表情のままメモの切れ端を玩んでいた少年は、ふと、思い出したように軍人の背中へと声をかけた。

「ヘルマン准尉、爆破グループの中に異能者がいると言いましたね」

「はい」

「能力の詳細は把握しているんですか?」

 ヘルマンは歩みを止めず、視線だけを後ろに向けた。

「詳しいことは分かっていません。ですが、グループの主犯格である双子の片割れが、火薬や装置の類をいっさい使わずに対象を爆破できるようだと調査員から報告がありました」

自然発火能力(パイロキネシス)ですか」

「おそらくは」

 軍人が首肯する。

 異能に関してはレオンもそれなりの知識がある。発火現象を起こさせる能力は、帝国内外ですでにいくつかの症例が発見されていた。

 奇人の元医師いわく、『人間は誰しも破壊衝動を秘めている』。

 生と死が表裏一体であるように、生ける者は死を臨まずに未来へ進むことはできない。

 正と負。動と静。いくつもの相反する要素を、人間は内側に飼っている。

 どちらか一方が大きくなれば、対する欲求も比例して肥大する。それらの多くに自覚症状はなく、潜在的に無意識化で大きくなり続けるのだそうだ。

 故に、極端な感情を持つ人間は異能に目覚めやすい。代表格とされるのが自然発火能力のような「破壊を目的とする力」だ。それは、どうしようもない憎しみや怒りから生まれた願望が起因となる。

 犯罪集団の彼、あるいは彼女も、そういった激情を飼う人間だったのだろう。

「旧第一発電所の爆破にも、発火能力が用いられたというわけですか」

「それが、何故かヤツらは今回の事件だけは爆薬を使用したのです」

「……異能があるのに、爆薬を?」

「はい」

 頷くヘルマンに、レオンは当然の疑問を口にした。

「別人の犯行である可能性は?」

「それはありません。ヤツらは西部地方で貴族の別荘や公的施設を焼き払った疑いがあるのです。帝都に拠点を移してきたということで、こちらの警察も情報を集めていました。爆破事件が起こる数ヶ月前、旧第一発電所を含むいくつかの施設の周りで、双子を見たという目撃証言もあがっています。他に不審者がいないことから、ヤツらの事件への関与は確実かと」

「なぜ逮捕しないんです? 異能者がいても、数を投入して制圧すれば済む話でしょう」

「犯行の決定的な証拠がありません。加えて、どの程度の火薬を保管しているのかも把握できていないのです。……皇帝陛下は、国家及び帝都に類が及ばぬよう解決せよと厳命されました。慎重策は警察、軍部両組織の総意でもあります」

 現状を説くヘルマンの表情には、僅かな苦渋が滲んでいるようにも見える。上層部の決定に不満があるようだ。……いや、どちらかといえば皇帝に、か。

 今代皇帝はことなかれ主義を体現するような人間だ。時代が時代なら、帝国はとうの昔に侵略されていただろうと言われていた。

 強硬派である実弟の派閥との確執が深まっているとも聞く。

 しかし、王族のお家事情などレオンにとってはどうでもいい話である。目の前の男がどちらの派閥であっても興味はない。

 場合によっては不敬ともとられかねない軍人の態度を無視して、少年は事件の情報収集に意識を傾ける。

「ヘルマン准尉は、彼らが爆薬を使うようになった理由について、どうお考えです?」

「異能者が不在か、能力に不調をきたしたからではないかと。実際、件の双子の片割れが、二ヶ月前に新帝国歌劇場の辺りで目撃されたのを最後に姿を消しています。陽動の可能性も考えられるので、断言はできませんが」

 ヘルマンは慎重策に沿った意見を述べる。

 その説明の中で、レオンは気になる単語を耳にした。

 偶然かもしれない。けれど、劇場でオペラを観た者たちが、自ら命を絶ったことも事実。真相は国家によって伏せられているが、レオンは事件の首謀者と一時的な関わりがあった。

 彼女の異能は強力だった。もし双子が暗示に弱いタイプの人間なら、ひとたまりもなかっただろう。そして、犯罪組織の異能者が自ら命を絶つ。だから犯行には爆薬を使わざるを得なかった――。

 安易に結びつけるのは早計だ。けれど、一考の余地はある。

 前方を見据えたレオンは、ふと、自分を観察するような視線に気づいた。

「……どうしました?」

「何か気になることがお有りかと」

 明るい色合いの瞳が、怜悧な光を宿して尋ねる。

 その問いには、「いえ、別に」と素っ気ない返事をするだけに留めた。

 長身の軍人が隙の少ない動きで前を向く。無表情を顔に貼りつけた少年は、口を閉ざしたまま、その後ろに黙々と続いた。

 犯人グループの根城はすでに絞り込んであるらしい。先にヘルマンの部下が何名か向かっているそうだ。

 人通りのない路地に、二つの乾いた足音が響く。

 間もなく冬至を迎える空は、ゆっくりと夕暮れに向けて、その闇を深めていった。


                  ◇


「あの、質問してもよろしいでしょうか」

 お仕着せのスカートをギュッと掴んで、マーガレットは隣のリヒトに話しかけた。

 声は微かに震えている。それでも、静かな工場の中で聞こえないことはなかっただろう。

 だというのに、帽子を目深に被った女性は少女を一瞥するだけでなにも答えなかった。

「あの」

「……分かっているのか」

 意を決して再び話しかけると、短い言葉が返ってきた。低い囁き。ハスキーなその声には、まるで温度がない。

 質問の意味が分からず首を傾げる。すると、リヒトの眼差しが僅かに険しくなった。

「こちらの事情を知りすぎれば、お前は消えることになる。――その覚悟はあるのか?」

 無機質な響きを伴う言葉が、マーガレットの口を閉ざした。

 それはあまりにも当たり前の忠告だった。そもそも、顔を見られた誘拐犯が人質を生かしておく方が少しおかしい。

 ……しかし、不思議と怖くはなかった。

 彼女の口調があまりにも淡々としているからだろうか。そこに怨嗟が感じられない。

 マーガレットは、ずっと自分がすべきことを考えていた。

 伯爵が来れば否応なしに戦闘が始まるだろう。そして、必ず誰かが傷つく。

 ――それは、なんとしても避けたい。

「あります」

 頷いた少女の瞳には、強い意思の色が滲んでいた。

 鮮やかな翡翠の光に、リヒトが小さく息を呑む。

 その表情の理由は分からない。けれど、マーガレットは目を逸らさなかった。

 沈黙が流れる中、先に折れたのはリヒトの方だった。

「……何が聞きたい」

「アーベントさんのことを教えていただけませんか? いったい、どんな人だったのか」

 フォーゲルが何度か口にしていた名前。おそらく、このグループの中心にいた人物。

 その名を聞いたリヒトは、ほんの僅かに視線をずらした。

「私の双子の弟だよ。少し前に死んだ。……異能とやらの力で、自分の身を焼き尽くしてな」

 ……握りしめた手に、思わず力が入る。

 誰かの終わりに触れるのは、覚悟していても、やっぱり痛い。

 対して、簡潔に事実を告げる声はあくまで事務的だった。表情だって変わらない。しかし、マーガレットはそこに、静かな感情の揺れを見た気がした。

「頭のいい子だった。難しい言葉や詩をたくさん知っていたな。私たちにこの呼び名をつけたのも弟だ」

「そういえば、聞き慣れない名前ですわ。どういう意味があるのですか?」

「知らない。ただ、個人の性格や外見を表していると言っていた」

 そう言って、リヒトは過去を探るように視線を上へ向けた。

「生まれた時からずっと一緒で、分からないことなんてなかったはずなのにな。……思い返せば、私は弟について知らないことばかりだ。この『リヒト』という言葉も、あの子が絶対に届かないものを表しているらしいが、私が弟より優れていたことなんて一つもない。遠くに離れた気もなかった。……私だけが、ずっと傍にいたつもりでいたんだ。滑稽な話だろう?」

 薄い唇に自嘲ぎみの笑みが浮かぶ。それは、マーガレットが初めて目にした感情的な表情だった。

 リヒトは弟のことを知りたくて、こんな事件を計画したのだろうか。

 ふと、そんな考えが浮かんだ。

「あの、もう一つだけよろしいですか」

「なんだ」

「アーベントさんも、ここにいる皆さんと同じように貴族を憎んでいたのでしょうか?」

 尋ねると、すぐに「いや」と否定の言葉が返ってくる。

「あの子と私は領主の子供だ。憎いって感情の根っこが違う」

「え……で、では、どうしてフォーゲルさんたちと仲間になれたのですか? その、なんというか、貴族の子供だと、すごく嫌われそうな気がするのですが……」

「私たちは妾の子だったからな。同じ敷地に住んではいたが、正式に認められたガキじゃない。屋敷での扱いは奴隷みたいなもんだったよ。許される発言は『かしこまりました』だけ。口ごたえすれば殴られて、牢に閉じ込められる。本妻とは目が合っただけで鞭を打たれた。学校には、その本妻の子供の下僕として通ってたな。教師やクラスの連中も一緒になって『イヌ』とか呼んでたっけ」

 まるで昨日の夕飯のメニューでも語るような口調で、リヒトが異常な過去を明かす。

 マーガレットは口を開くこともできず、悲惨な子供の話を聞いていた。

「実際の母親は早くに屋敷を逃げ出したから顔も知らない。でもさ、私はどうでもよかったんだ。弟がいたから。別にどんな暮らしでも問題なかった。けど、あの子はそうじゃなかったんだろうな。だから――ぜんぶ殺した」

 ぽつり、と。水面に落ちた雫が、波紋を広げるように。

 その言葉は、静かに空気の中へと染み込んだ。

「真っ赤な炎が屋敷を飲み込んでいく時は、すごく綺麗だったな。それからはフォーゲルたちと一緒になって、色んなトコを燃やして回ってたらしい。学校も、貴族の別荘も、あの子が憤りを感じたモノは、すべて焼き尽くしたんだと思う」

 ひどく簡単な犯罪の告白。

 きっと彼女は少しも弟が悪いと思っていない。だから、こんなに淡々と話せるのだろう。

 ――それは歪な愛情のカタチ。

 家族愛と呼ぶには、彼女の想いはあまりにも捻じ曲がりすぎている。

「親にも教師にも、弟は怒っていた。だから殺したことを理解できる。けど、なぜ最後に自分を殺したのかが分からない。……私は、それが知りたいんだ」

 まるで独白のように、リヒトは言葉を締めくくった。

 顔を伏せたマーガレットは、なにも言わない。――なにも、言うことができなかった。

 誰が彼らを責められるだろう。していいことといけないことを、誰にも教えられなかった。姉弟から普通の幸せを奪った人々が、その報いを受けた。ただ、それだけの出来事。

 人を殺すのはいけない。傷つけるのは罪になるのだと、彼らに教える人がいなかった。

 ふと、見たこともないアーベントの姿が、思い出の中の両親と重なった。

 ――ああ、きっと。……きっと、そうなのだ。

「……フォーゲルが言っていたが、お前、変なヤツだな」

 呟く声に、顔を上げる。おそらく、ひどいことになっているのだろう。

 けれど、伝えなくては。誰も気付けなかったアーベントの想いを。これ以上の罪を犯してはいけないのだと。彼女に、伝えなくては。

 マーガレットが口を開きかけた――その時。響き渡る大きな声に、言葉を遮られた。

「おい、リヒ姉! なんか変だ! 外に兵士が集まってきてる!」

 ずいぶんと焦った様子で、窓際に陣取ったフォーゲルが叫ぶ。呼ばれたリヒトはすぐに立ち上がって、鉄扉の方へと駆けだした。

 この場所がバレたのだろうか? ただ、それだけにしては焦り方が尋常ではない。

「『見透す瞳』、解放!」

 右眼の奥に熱が生じる。翡翠の瞳が片側だけを黄金に変色させ、少女の脳裏に分厚い壁の向こうの景色を映し出させた。そこに視えたのは、軍服に身を包んだ兵士たちだった。

 数は二十。灰緑の戦闘服、手には――素人目にも分かる、粗雑な爆薬を持っていた。

「リヒトさんっ! そちらに行ってはいけません!」

 あらん限りの声で叫んだ。金色の瞳で周囲を見渡して、全ての方位を視認する。薄汚れた外壁には、細長い円筒がいくつも貼りつけられていた。その導火線に火を点けようと、男たちが手を伸ばしている。

「外壁に爆弾が仕掛けられています! こちらに避難してください! 早くっ!」

 彼らの目的は何なのか。それが理解できなくても、今が危険な状況だということは分かる。

 出来る限り、廃工場の中央へ。鬼気迫る声に圧され、ヴァールたちがマーガレットの指示した場所へと集まってくる。その中に、ひとり出遅れたリヒトの姿を見つけた。

「リヒトさん! 早――――」


 悲鳴に酷似した少女の叫びは――突如として吹き荒ぶ爆風に、呆気なく掻き消された。




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