第3章 序
【第三章 0】
――不要なモノはすべて壊してしまえばいい。
私の半身。双子として共に生をうけた弟は、ことあるごとにそう言っていた。
彼はいつも怒っていたような記憶がある。
怒って、憎んで、笑って、色んなモノを破壊した。
弟の感情には色がある。それは、夕焼けのように真っ赤で鮮烈な色。
これほど激情を的確に表現する色もあるまいと、在りし日の私は熱風を頬に受けながら、思わず感心してしまったものだ。
それは初めて彼の「怒り」を見た時のこと。
燃え盛る紅蓮の炎を前に、まだ幼かった私は、この世にたった一人だけの肉親の心に触れた。
私たちはずっと二人で生きてきた。
まるで感情なんてものの乏しい姉の代りに、弟はよく怒り、よく笑った。
そんな飾らない性格の彼だから、友達は多かった。
なにやら集まって悪いことをしていたけれど、弟が楽しいなら別にどうでもよかった。生まれてからずっと不幸の身だ。少々の悪戯ぐらい、神様だって見逃してくれるだろう。
いつまでもずっと一緒。どうしようもない両親を殺した日に、私たちはそう約束した。
痣だらけの幼い身体で二人、焼け落ちる生家を前に、互いの手を固く結んで。
――なのに、弟は突然いなくなった。
彼はあらゆるモノを許さなかったけれど、どうやら自分まで許せなくなってしまったらしい。
その原因を、ついに私が知ることはなかった。
だから、弟の代りに私が怒ることにした。笑うのは難しい。けれど、せめてやりどころのない激情ぐらいは引き受けよう。
彼が憎んだモノ。両親、隣のおじさん、学校の先生、国、世界、そのすべて。
――私が、かわりに破壊し尽くそうと思う。




