見えたイマ
いつもよりも長い夜を超えて、朝になった。いつかお泊りもした事がある恵美の家は、眠れそうになかった私を簡単に寝かしつけてしまっていた。やっぱり恵美は1番友達だから安心したのかも。
「……あ、今日って何曜日…だっけ、」
恵美はまだ隣のベッドに寝ている。そのすぐしたに敷いてくれた布団から起き上がる。
…龍ちゃんが昨日一週間前から言ってた久しぶりの休みだったから……今日は、日曜日だ。
「…日曜日。かぁ、」
考え事だって、曜日感覚だって、休日の予定も龍ちゃん基準な日々。試してる今、私には龍ちゃんを気に留める必要なんてない。龍ちゃんが私を気にしてくれなきゃ困るからだ。…ねぇ、龍ちゃん。早く、迎に来ないかな。
「……ぁれ、夏紀起きたんだ。」
「あ、恵美おはよう」
あぁー、可愛い人ってやっぱり寝起きまで可愛い。寝癖もついてるし。でも性格は顔とちょっと違うよね。
「んーと、…ありゃ8時前。日曜なのに仕事人間は嫌だわ」
「あはは、恵美はOLさんだもんねぇ」
寿退社が夢とか言ってたけど、1年前から彼氏の情報なしだ。可愛いのに。龍ちゃんと恵美と私といつもつるんでた大学からの友達の向坂大君がいるんだけどなぁ。恵美はガン無視だ。
「まぁねー、定時には帰れるけどテストとかの採点とか色々仕事抱える先生の夏紀よりはいいかな」
「それ言っちゃダメだから」
実は高校生相手に国語を教えている。あぁ、私みたいな先生を手本にしちゃいけないよね、人を試すなんて真似。先生としてはあるまじき行為かも…。
「ふふ、ねぇ、朝ごはん食べよ。お腹すいた」
「私なんか作るよ」
「ほんとに!!あたし夏紀の手料理好きなんだーっ」
「あはっ、待ってて」
いつも手料理が恋しいだなんて言ってくれてる恵美に、とびきりのを作ってあげよう。まぁ朝だからそんなには作れないけど。
***
「…で、今日はなにする予定だったの?」
食後にインスタントコーヒーを一口飲み、恵美がそういった。
「…龍ちゃんが寝てる間に、あ、龍ちゃんも私も休日はいつも早い平日よりも睡眠時間を優先してるのね、…でそれで、私が9時ぐらいかな、起きて、朝ご飯作って置いてその後、スーパーに行って少しだけ食べるやつ買っておくの」
そうそう、そしてその後は、
「…なんだか主婦ね…」
「そう?…その後は、起きてきた龍ちゃんと一緒に朝ご飯食べるでしょ?で、ゆっくりして、2時頃になんか食べたくなるでしょ?で、なんかちょこっと食べて…それから夜は外で食べ」
「っちょっと待て…夏紀、あんたそれ食べるだけじゃん!!恋人同士の休日じゃないじゃん!!!!」
「…っう」
私も改めて口に出して気づいてしまったんだ。…これなんか違う!って………。付き合ってる意味!!!
「もう根本から駄目なのかも。…」
「…だ、だよね……」
「夏紀、あんたもよ」
……恵美は容赦ない。
と、その時携帯がバイブで音を出し震えた。
「…あ、大からだ。」
恵美は大君からの電話に出た。
「もしもし…」
その間、コーヒーを飲み終えようと頑張る。猫舌だからあんまりうまく飲めない。でも熱いのが美味しいって知ってる。…だけどそれでこの前火傷して龍ちゃんにちょっと怒られたっけ……。
「っいい気味だけど…っえ、ちょ、」
慌て出した恵美の方を向くと、恵美がこちらを見て眉間にしわを寄せていた。
「…大、今時間あるならあたしん家来て。今すぐ。…うん、じゃ。」
通話を切ると、恵美はため息をついてもういちど私を見た。
「あんたなんて言って啖呵切ったの」
…もしかして、不味かったのだろうか。
「……龍、…昨日の朝からご飯食べてないらしいわ…」
「…………ぇ、…」
掠れた声しか出せなかった。
それでも、恵美が言った一言に、
「……」
ちょっぴり、納得した。
「…ま、試した価値はあるわね」
……うん。
龍ちゃん…ごめんなさい。