戦いの幕は開けた
仕事が忙しくてなかなか構ってもらえず、同棲していても意味が無いことに気づいたので。
「…ねぇ、龍ちゃん。私ね、あんたと一緒に過ごしててね、色々思うことがあってさ、」
もともとうちらは幼馴染みで、すごい長い時間を過ごしているわけだけれど。忙しいばっかりは、やっぱり寂しい。
「…もう、終わりにしようか…」
…あ、なんだか言葉にしただけでスッキリ…?でも龍ちゃんは、いつもの無表情。何ら変わりない。…どうして?
「…別に、そうすればいい。…お前いてもいなくても同じだし」
「!!」
ああ、そっか。
そっか、そっか、そっか。どうりで表情が変わらないわけよ。私と同じ気持ちだったわけだね。…うーん、困ったな…。
私はあらかじめまとめておいた荷物を手に取り、龍ちゃんと目を合わせているように見えるよう、そちらに顔を向けて笑った。
「それじゃあね、龍ちゃん」
「………あぁ」
バタンと扉がしまる時。ちょっとだけ期待し想像した行動は敢え無く散っていった。
「………」
どうしよう。…泣きそう。
***
高校からの友達、恵美の住むマンションに着いたのは午後九時だった。龍ちゃんと別れたのは朝の十時。なんでこんな事になったのかというと。
「…それで…夏紀遅かったけど、なにやってたのよ」
「…公園で…」
栗毛の傷んでなさそうな艶のある髪の毛を視界に捉える。何と言うか…言いにくい。
すると恵美が息を呑んだ。
「…まさかなんだけど…公園で色々考えてたらこの時間だった…みたいな!?」
うわあ!!お、大当たり!!
「…ちょ、がち?」
頷くと、長いため息が。
「夏紀…あんた覚悟決めたんじゃなかったの?だからあたしに言って、あいつにも頼んだんじゃん」
「…そうなんだけど、…なんだろう…」
“違う方に龍ちゃんが転がってしまったら、どうしたらいい?”…こんな馬鹿なこと言えない。
「…ねぇ夏紀、」
恵美はこちらに寄ってきて、いつの間にか俯いていた私の顔をあげた。
「…?」
「あんたが弱くなってどうすんのよ、戦うのはこれからでしょ?」
そして、恵美の目がスッと細くなった。
「男が逃げるようだったら、それまでの奴だったって事でしょう?そんなだったらあんたに釣り合わないわ、…そうなったらそうなったで、他を探すのよ」
「……うん…」
涙が、ポロっとこぼれた。
そう、私は龍ちゃんを試したの。
構ってもらえなくて、別れを切り出したとか本当はそんな阿呆な女じゃないよ。幼馴染みだったから、わかるかな…。
って、いうか……恵美…
「フハハハハハハハ」
「…こ、怖いよ…」
こうして、私の戦いは幕を開けた。
ねぇ、龍ちゃん。…今、どうしてる?